238話:逃走からデートが始まりそうです
ラナンキュラスと屋上で遭遇した日の部活終わり、翔矢はペネムエと一緒に下校途中だった。
この辺りまで来れば、六香穂高校の生徒との遭遇率は、グッと下がるので、ペネムエは姿を隠すブレスレットを外していた。
「ふぅ……やっと家だ」
「今日……と言いますか2学期に入ってから慌ただしいですからね」
「まぁここまで来れば、夕飯の準備まではゆっくり休……」
翔矢の視界にある人物が入り、目を背ける。
「あの方は、ルーシィ・ザ・ワールド迷子担当大臣のサクラ様!!」
「ペネちゃん!! 見ちゃいけません!!」
「しっしかし……」
「崩壊した学校を“壊れた事実が迷子”とかいう謎理論で直した奴だぞ!?
どう考えてもルーシィ・ザ・ワールドとかいう奴らの中で一番ヤバいよ!!」
「そうですね……悪さをする様子もありませんし」
幸いな事に、サクラは背を向けていたので、その後ろをソロリソロリと通り過ぎようとする2人。
しかし翔矢が木の枝を踏み、バキッと大きな音を立てて気が付かれてしまった。
「翔矢様……なんと古典的なミスを……」
「ごめん」
「君たち……って事は、ウチは六香穂に戻って来たのかな?」
「えっと俺達、さっきまでラナンキュラスって爺さんとシトラスって子に会ってたけど、君は一緒じゃなかったの?」
「逆にウチが誰かと一緒にいられるとでも?」
「あぁ……」
「なるほど」
サクラとは、出会って間もないが、2人は妙に納得し同時に頷く。
「でも居場所が聞けて良かった、君たちラナンキュラスのとこに案内してくれる?」
「えっと、学校にまた戻るの嫌だし、君も学校には来たことあるだろ?
ここ真っ直ぐ!! 建物の屋上!! じゃあ気をつけてね!!」
【コネクト・アクセル】
翔矢は、人生で一番でないかと思うほどの早口で話すと、ペネムエをお姫様抱っこで抱え、走り去って行った。
アクセルの力を時間いっぱい使い、とにかく逃げ、ここまで来れば大丈夫と思う所でペネムエを下ろした……つもりだった。
「ゴメン……ビックリしたよね? 逃げるのに夢中になってたらつい……」
「いいのよ、君結構強引でビックリしたけど」
「ん? うぁぁぁぁぁぁ!!」
「人の顔を見て腰抜かさないで欲しい」
翔矢が今まで抱えて歩いたのは、ペネムエでなくサクラだった。
それだけでは無い、六香穂市の住宅街を走っていたつもりだったのだが、ここは見渡す限り木々が生い茂る森林地帯、六香穂は田舎ではあるが、ここまで茂った場所は翔矢の記憶にはない。
「これってもしかしなくても……」
「君は恐らく私から逃げだそうとした、その事象が迷子になり、今の状況を生み出している」
「占いとか厄災は分かるけど、君だけ権能の方向性的なのがおかしくない!?」
「うん、私のことはサクラって呼んで良いよ」
「え? 会話も迷子に!?」
戸惑いながらも、こうなってしまっては彼女から逃げる意味は無いと感じ、翔矢はサクラと行動を共にすることにした。
「ねぇ手」
「ん?」
「ウチの権能は分かったでしょ? でも流石に手を繋げばはぐれない。
君とはぐれたら……一人ぼっちになっちゃう」
サクラは俯きながら悲しそうな表情を見せた。
その姿に翔矢はハッとした、彼女の権能は迷子という言葉で済ませられるモノでは無い。
正直絶対に関わりたくないし、現に自分も逃げようとしていた。
もしかしたらサクラは、この権能のせいで、仲間からも避けられ、1人でいる事が多いのではと想像したのだ。
彼女から逃げようとしたことに、翔矢は罪悪感を覚えた。
「分かったよ、でも俺が知っているとこに戻るまでだからな!!」
「うん!!」
サクラの元気の良い返事に翔矢の罪悪感も晴れ、手を繋ぎ歩き始めた。
(どうしよう、出会って間もない子と、このまま歩くのは気まずい……)
何か会話をしなければと、頭を働かせる翔矢。
聞きたいことなら沢山あるはずだが、口から言葉が出てこない。
その沈黙を破ったのはサクラの方だった。
「こうやって歩いてると恋人同士みたいね」
「そういう概念は君たちにもあるんだね」
翔矢の心に、何かが突き刺さったような感覚に襲われる。
一瞬何か分からなかった、ふと沸いた疑問がその答えだった。
(俺、一応リールと付き合ってるんだよな?
これ浮気か? いや付き合ってるフリだし気にしなくていいか?)
「女の子と手を繋いでる時に、他の女の子のこと考えないで!!」
「え? なんで分かったの? エスパー?」
「普通分かるでしょ?」
「普通は……分からないと思う。
あーでもペネちゃんとか天使は、ある程度、人の心が読めるんだっけなぁ」
「だから、他の女の子の事、考えちゃ嫌!!」
サクラは握る手にギュッっと力を込めた。
「ゴメンゴメン!! お詫びに、お腹空かない?
あそこに喫茶店あるから、何か奢るよ!!」
「ありがとう、それなら許す、カフェモカとチーズケーキがいい」
「分かった分かった、って喫茶店!? 森の中だったのに!?」
「しばらく前から、ビルビルしてる場所に来てたよ?」
サクラの権能を少しは理解したつもりでいたが、翔矢は頭を抱える。
「ウチの事……嫌いになった?」
「いや、困惑してるだけで嫌いとかじゃないよ?
むしろ最初にあったとき敵っぽいって思ってたけど、今はそんな気しないし」
「そう……良かった!!」
サクラはパアッと晴れた笑顔を見せた。
その表情に翔矢は安心し、カフェへ向かう。
権能により変な場所に飛ばされないか不安だったが、何事も無く席に着くことが出来た。
店内を見渡すと六香穂、いや県内でも、お目にかかれないほどオシャレでパソコンを広げて仕事をしてる人の姿も見られる。
「勢いで入っちゃったけどオラ緊張してきた」
「すいません!! カフェモカとチーズケーキ」
翔矢が緊張でガチガチなのをよそに、サクラは既に注文をおえてしまった。
「ええっと俺は、オリジナルブレンドコーヒーとアプフェルシュ……これで!!」
メニューから目に入った、お菓子らしいのを勢いで注文したが、店員のお姉さんには伝わったらしくコクリと頷き、カウンターへ戻っていった。
「ふぅ……」
「大丈夫? 凄い戦いの後くらい疲れた顔してるよ?」
「オラァこんなシャレた店、慣れてねぇもんでぇ」
「それで何で訛るの? ほら落ち着いて、周りは君みたいな服を着てる人も多いわ」
「俺みたいな? あぁ学生服の事か」
一応メニュー表でリーズナブルな値段である事は確認していたが、自分と同じ学生も来る店だと分かると安心した。
だが、その制服は六香穂高校のモノでもなければ、見覚えの無いモノだった。
「やっぱ他県っぽよなぁ……俺たち帰れるのか?」
「ウチは迷子の権能を持っているけど、だいたい毎日、仲間に会う事はできる。
だから、たぶん、恐らく、きっと大丈夫」
「そっそうか」
不安は強くなってしまったタイミングだったが、店員さんが注文したモノを運んできてくれた。
「こちらカフェモカとチーズケーキでございます」
「わぁお、おいしそう!! ウチ楽しみ!!」
サクラのキラキラと目を輝かせる姿に、翔矢の不安は何故か和らぐ。
「こちら当店オリジナルブレンドコーヒーとアプフェルシュトゥルーデルでございます」
「なにそれ!? 呪文!?」
聞き慣れない名前に、翔矢の声は少し大きくなり、場の空気が固まってしまった。
「君が頼んだのよ?」
「そっそうだっけ?」
少し妙な空気になりつつも2人は、おやつタイムを取るのだった。
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