237話:屋上から占いが始まりそうです
翔矢とリールが付き合い始めた……という事になった翌日。
あらゆる人物から視線を感じて昼食が食べに行くいという弊害以外は、特に何事も無く放課後を迎えた。
「何も無くて良かったわね……それでも疲れたけど」
「何事も無くて安心する学校生活ってなんだろな」
「ごっごめんさい……下校も一緒にした方が良いのかしら?」
「あっ俺、今日は部活だわ」
「そっか……私も何か部活に入った方が良いのかな?」
「リールなら、どこでも引っ張りダコだろうなぁ、まぁそこは好きにしろよ」
「ちらっと見学くらいは、してみようかしら」
「ちなみに剣道部は?」
「……ヤベェセクハラ先輩がいるから除外で」
「だよな、じゃあまた明日な」
「うん、また明日」
リールと別れた翔矢は、教室を出たところでスマホを確認しようとポケットに手を突っ込んだ。
すると普段ポケットに入っていない何かを掴んだ。
「なんだこれ……あっ忘れてた」
ポケットに入って居たのは今朝の矢文だった。
「翔矢様、いかがなさいます?」
「気は進まないけど、後々面倒な事になっても嫌だし朝言った通り行くよ。
ウチの部活は緩いし、予定あって遅れる分には平気平気」
こうして予定を変更し、屋上に向かう翔矢の後ろをペネムエも付いて歩いた。
***
六香穂高校屋上は一応解放はされているが、昼休み以外は施錠されている。
そのことをドアノブを握った瞬間に思い出した翔矢だったが、カギは開けられていた。
「屋上のカギって職員室の何処かにあって、先生が管理してるんだよな」
「にも関わらず、この時間帯に開いているという事は?」
「リールの事での逆恨みじゃなくて、別の奴が動いてたりしてな」
「考えすぎ……と言いたい所ですが、夏休みから毎日のように事件が起こっていますからね」
「まぁいきなり殴りかかられるかも、くらいの覚悟はしておくかな」
ゆっくりとドアノブを開くと、そこには六香穂高校の生徒ではない……いや関係者ですら無い老人が立っていた。
「お前は!!」
「ルーシィ・ザ・ワールド厄災担当大臣、名前は確か……」
「ラナンキュラスだ」
ラナンキュラスは名乗り終えると、屋上に備え付けられているベンチに、ゆっくりと腰を下ろした。
「学校に何の用だ!?」
「また、捜し物でしょうか?」
2人は既に武器を構え、いつでも戦闘に入れる状態だ。
「そうカリカリするでない、ワシと戦うと……厄災が降りかかるぞ」
ラナンキュラスは、鋭い目つきでコチラを睨み2人は息を呑む。
その時、彼の座っているベンチがミシミシと音を立て、真っ2つに割れてしまった。
腰を強く打ってしまったようで、悶絶しながら床を転がっており、先ほどまでの威厳は微塵も感じられない。
「えぇ……」
「お爺さん、大丈夫ですか?」
翔矢は驚きと呆れで、その場を動けなかったが、ペネムエはラナンキュラスの手を引き、彼を起こした。
「お嬢さん、すまない……だが言ったはずだよ? ワシは厄災担当大臣だと」
「厄災……まさか!!」
ペネムエは慌ててラナンキュラスの手を離し、彼から距離を取った。
次の瞬間、晴れているにも関わらず、空がピカッと光り、目の前に雷が落ちる。
「うわっ!! ペネちゃん大丈夫!?」
「はい、わたくしは無事……と言いますか少し離れた場所に落ちたような」
眩しさで瞑っていた目をゆっくりと開けると、ラナンキュラスが黒焦げになり仁王立ちしていた。
「ふふふ、驚かせてしまったかな? だがワシは厄災担当大臣!!」
「いや、あんたに厄災が降りかかるんかい!!」
「先日の戦闘で、まさかとは思いましたが……」
「言葉を選ばずに言うと、よく、その歳まで生きて来れたな」
「はっはっはっ少年よ、ワシが老人に見えるかな?」
「まぁ少なくとも俺の爺ちゃんより、もっと爺ちゃんに見える」
「こう見えて、生後6ヶ月じゃ」
「はっ?」「えっ?」
この言葉に翔矢とペネムエは何を言っているか理解が追いつかなかった。
「生後ってあの生後?」
「待ってください翔矢様、確かサクラという者も自称生後6ヶ月だった記憶が」
「つまり……どういう事?」
「ルーシィ・ザ・ワールドは建国6ヶ月、ワシら民もそれと同時に生まれたのだ」
「最近出来た世界から来た奴って事か?」
ラナンキュラスは、ゆっくりと頷いた。
「待ってください!! 天使や悪魔族でもないのに他の世界を移動するなどあり得ません!!」
「あり得んと言われても、それはワシの知らん常識、答えられんのぉ
だが1つ言えるなら、その常識が壊れる何かが起こったやもしれん」
その言葉を聞いて、ペネムエは先日のザ・ホールと呼ばれる空間を思い出した。
明らかに自分たちの知っている地球とは違う何処か、あれは他の世界と表現する他ない。
「その顔、お嬢さんには何か心当たりがあるようじゃあのぉ」
「ちなみに、ルーシィ・ザ・ワールドとは、どのような世界なのでしょうか?」
「出来て間もない世界、文明……いや地上の形成すら未完成な世界に、ワシらは生まれた、この地球のように長い年月をかけ順を追って人類が進化し支配してきた世界とは勝手が違うのじゃ」
「何か色々教えてくれてるけど、何1つ解決した感がないな」
「わたくしも同じ意見です」
「って!! 今聞かなきゃけないのそこじゃないよ!!」
ハッとここに来た理由を思い出した翔矢は、ポケットに手を突っ込み矢文を取り出した。
「一体何しに、また学校に来たんだよ!!
それと、これ俺に投げつけてきたの、あんたかっ……あっ!!」
勢いよく取り出された矢文は、翔矢の手をすっぽ抜け、ラナンキュラスの額へと一直線に飛んでいく。
ラナンキュラスも予想外だったのか反応出来ず、直撃は免れないと思われた。
しかし矢文は、何処からか勢いよく飛んできた水晶玉に刺さり、水晶玉は投げた持ち主の元へブーメランのような動きで帰っていった。
「お爺さん、権能的に1人で行動するの危ないんだから、ウロチョロしないで。
そういうの徘徊老人って言うらしいよ」
「シトラスか助かったぞ」
「爺さん……ごめん、大丈夫だったか?」
「気にするな少年」
「そう、お爺さんは厄災担当大臣だし、何が起こっても誰のせいでも無いの」
シトラスは水晶玉に刺さった矢文を力を入れて引っこ抜いた。
「水晶玉に刺さるって、この矢文、何で出来てるの?」
「朝、俺も似たような感想を言ったな」
シトラスは矢文の先端を指でツンツンと突いた後、手紙の結びをほどいて、黙読した。
「ふむふむ……“放課後に屋上で待つ”って来た後に渡されてもねぇ」
「いや、俺があんたらに送った訳じゃ無いよ」
「占い担当大臣のシトラス様でしたか? 実はウンヌンカンヌンでして」
「なるほどね試しに占ってあげるわ、チチンプイプイ~アタルモハッケェ~アラナヌモハッケェ」
シトラスが両手を広げ呪文を唱えると水晶玉と手紙が宙に浮き始めた。
「これは……かなり上位の占いです!!」
「え? ふざけた呪文にしか聞こえないんだけど!?」
2人の感想にもシトラスは集中しているのか反応を示さず、ただ水晶玉を見つめている。 やがて占いが終わったのか、水晶玉と手紙はゆっくりとシトラスの手へと戻った。
「うんなるほど、この矢文は……この世界の物質じゃないわね、通りでカチコチに固いと思った」
「この世界の物質じゃ無い!?」
「と言うことは、送り主は、あなた方のような異世界人でしょうか?」
シトラスは首を横に振り、それを否定した。
「この学校の生徒が、偶然、この矢を拾ったみたい。
それで吹き矢にして、君に矢文を送ろうって思いついたって感じ」
「へぇ、で送り主は、なんで屋上に来てないんだ?」
「“え? 宮本翔矢って紅の鉄拳じゃん勝てねぇよ”だって」
「あぁ逃げたのか、あんたらと遭遇しなかったから良かった……かな?」
「質問には全部答えたわ、じゃあ私たちはこの辺で、お騒がせしたわね、主にお爺さんが」
「おう」
「何か忘れてる気がしますが……引き留める理由もないですからね」
ラナンキュラスとシトラスは漆黒の雲へと姿を変え空へと飛び立っていった。
「何だったんだ? あいつら?」
「それで思い出しました、お爺さんが何をしに、ここにいたのか聞けませんでしたね」
しかし2人は、それを大事とは考えず、そのまま部活に向かうのだった。
***
その頃、飛び立っていた2人は雲の状態で会話を続けていた。
「ふぅ……何とか逃げ切れたわ」
「シトラス、ずいぶんと急いだな、あの占いで誤魔化したようにも見えたが」
「これよ!!」
シトラスは雲の中から、矢文の矢を取り出した。
「それは、少年に送られたという……持ってきたのか?」
「これ“何処かにある何か”を手に入れるためのカギよ!!」
「なんと!! 元々は行方不明のサクラを探していたのだが」
「まぁ、あの子の権能的に探しても見つからないし、無事を祈りましょう」
「目的の第一段階は達成、我らの悲願達成も近いのぉ」
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