236話:手つなぎから登校が始まりそうです
「本当に!! 申し訳ございませぇん!!」
六香穂高校の生徒にとって大きな事件が起こった日の夕方。
リールは翔矢の部屋で、深々と頭を下げていた。
「もういいって……むしろ、あの状況を切り抜けれたのは関心しているっていうか……」
「翔矢様!! いくら友達でも甘やかしてはいけません!!
嘘の告白など、人として最低の行いです!!」
「天使だけどね」
翔矢の一言に、ペネムエはギロリと威圧的な視線を送った。
「はい、そういう言い回しの問題じゃないですね。
誠にゴメンナサイ」
リールの隣で正座をし、翔矢もシュンとして小さくなってしまった。
「リール!! 何であのような行動に出たのか説明責任を!!」
何故ペネムエが自分以上に怒っているのか翔矢には理解出来なかった。
だが転生教などの大きな事件の時とは、また違う怒りの表情に臆してしまい、掘り下げるどころか口を挟む事すら出来ない。
「だだって!! 告白ってスゴイ勇気のいる行動よ!!
それも、あんな大勢の前で!! 断ってトラウマとかになったら……
私、責任とれないもぉん!! 初めてされる告白が、あのシチュエーションはハードル高いって!!」
リールは床をドンドンと叩きながら泣き崩れてしまった。
「だったら、この人とならって方を選んで、申し出を受け入れれば良かったじゃないですか!?」
「学校の子のこと、まだ全然知らないし……」
「もう!! 翔矢様にご迷惑でしょうが!!」
ペネムエは、同意を求めるような視線を送りながら翔矢を指さした。
「それは……悪かったわよぉ」
「別に俺はいいけど?」
「えっ?」
「今なんと!?」
「あの騒ぎが毎日続く……とまでは思わないけど、2、3日で終わるようなものでもないだろうし大変だろ? これで少しは落ち着くだろ」
翔矢の言葉で、ペネムエは膝から崩れ落ち放心状態となってしまった。
「あ゛あ゛あ゛あ゛」
「ペネムエ!! ちょっと翔矢!! なんて事言うのよ!?」
「え? 俺なんかした? ってかリールが言った事だろうが!!
まぁ学校で少し仲良くするくらい、何の問題もないだろ?
俺、好きな人がいる訳でもないからな」
翔矢の言葉にペネムエの耳がピクピクと動きながら反応し、急に息を吹き返した。
「まっまぁ、今日のような騒ぎは学業の支障になりかねません!!
学校で!! フリだけ!! 少し仲良く!! なら問題ないでしょう!!」
「ペネちゃん変に強調してどうしたの?」
「えっえっと……嘘で付き合うのは褒められた事ではないと思ったので」
「まぁブームみたいなとこもあるだろうし、落ち着くまでな」
「ブームって言い方は引っかかるけど、まぁヨロシクたのむわ」
「イチャイチャとかは、絶対しないでくださいね!!」
ペネムエの殺意のとドスの利いた声に2人は無言で頷くしかなかった。
「なぁリール、ペネちゃん怖くね?」
「あんたねぇ……いずれ分かるわ、というか分かってあげて欲しい」
リールの呟きに、ペネムエはうんうんと首を縦に振ったが、翔矢は横に傾げるばかりだった。
***
翌日、翔矢はいつもの通学路を通り登校していた。
魔法のブレスレッドで姿を隠しているペネムエが隣りを歩いているが、周りからみると1人で登校しているように見える。
それでも学校に近づくにつれ、生徒の姿は目立つようになってくる。
「覚悟……というか予想はしてたがスゲェ見られてんなぁ」
「本当にぃ!! リールが嘘おぉ言ったせいでご迷惑をおかけします」
「ペネちゃん、妙に嘘を強調するよね、まぁその内収まるだろうし収まらなくても、そこまで実害がある訳じゃないか……」
「翔矢様、危ない!!」
翔矢が言葉を言い終える前に、何かに気がついたペネムエが、頭を掴みながら無理やり体制を低くさせようとした。
「うわっビックリした!! 急にどうしたの?」
ペネムエが起き上がったのを確認し、翔矢も起き上がるった頃には、彼女は電柱を目がけて歩いていた。
「翔矢様、ご覧ください、恐らく吹き矢です」
「吹き矢? え? 電柱ってコンクリートで出来てるよね!?」
吹き矢は、翔矢が力を入れなければ抜けない程に深く刺さっていた。
そこには、紙が結ばれていた。
「矢文でしたか」
「そんなの本当にやる奴いるんだな、射程圏内なら直接話せや!!」
矢文を開くとそこには「放課後屋上で待つ」と書かれていた。
「いや、二度手間!! 要件を書け!!」
「人目を避けたいのは理解できますが……」
「こんなん使う地点で、人目もヒトデもないけどな!!」
「そう言われると……狙撃した方が見当たりませんね、そう遠くからは狙えないと思うのですが」
「まぁ放課後になれば分かるだろ」
「え? 行くんですか!?」
「また狙われたらたまらないしな」
「なるほどです」
矢文をポケットに入れ、改めて学校に向かおうとした瞬間、誰かが翔矢の肩をポンポンと叩いた。
「どわっひゃーーーー!!」
「いや翔矢殿、驚きすぎでゴザル」
「なんだ卓夫か、色々あってな」
「まぁ昨日の今日でゴザルからな、それにしても1人でブツブツ喋るのは、如何な者かと思うが」
「1人で!? ……あっ!!」
翔矢はペネムエとの会話が、周りには独り言にしか聞こえていない事に気がついた。
「ヤバい奴と思わせれば、変な絡みされない作戦だ」
「まぁ翔矢殿の問題は、ご自分の好きにすれば良いと思うでゴザルが……あっ拙者は急ぐのでこの辺でドロン!!」
「卓夫の奴、急にどうしたんだ? 学校行くんだから、まだ急ぐような時間じゃないだろ?」
念のためスマホで時間を確認し、首を傾げる。
そこに近寄って来た人物に2人は卓夫の行動の真意をすぐに理解し無意識に頷いた。
「翔矢……とペネムエおはよ」
「おう、おはよ」
「リール、おはようございます」
挨拶を済ませた後、翔矢とリールは目を数秒合わせる。
「昨日の今日だし一緒に登校した方がいい……よな?」
「まぁ……みんなガッツリ見てくるし別行動は不自然よね」
「で? なんでペネちゃんの方に向かってペコペコ頭を下げてるんだ?」
「こっちにも、事情があるのよ!! あんたも頭下げときなさい!!」
「いや……ペネちゃんの姿は俺らにしか見えないから、スッゲェ変な奴に見えるぞ?」
「あっ!?」
リールは恥ずかしがった様子で背筋を伸ばし、翔矢の手を強く握った。
「いいから!! 早く学校行くわよ!!」
「うぉっとっと」
早足で学校へと向かう2人を、ペネムエは複雑な表情で見つめた。
その姿は注目を集めており、他の生徒も様々な表情を見せている。
「リールさんって積極的なんだなぁ」
「ほら、外国の人だし」
「なるほど……シンプルに羨ましいぜ」
「私、リールさん狙ってたのに……」
「えっ女子が!?」
「そういう時代です!!」
「「失礼しましたぁ!!」」
***
翔矢とリールの一連の流れを、六香穂高校の生徒以外で、物陰から見つめている者がいた。 ルーシィ・ザ・ワールドのサクラだ。
「投獄されてただけなのに……迷ってまた、この町に来てしまったわ。
あいつらには、見つからないようにしないと……蓮とかいう男よりはマシそうだけど」
サクラは、翔矢達の進行方向とは逆方向に足早に向かった。
自信の迷子になる権能の事など、すっかりと忘れて……
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