235話:浄化から付き合いが始まりそうです
北風エネルギーにルーシィ・ザ・ワールドの3人が現れてから数日が過ぎた。
翔矢やペネムエは、そんな事など知らされないまま平穏な日々を送ってた。
今は昼休みの後半、大半のクラスメイトは食事を終え、友人と話す者、スマホに没頭する者、勉強や読書をする者など、おのおの気ままに残りの時間を満喫していた。
これは、どこの高校でも見られる光景だろう。
だが六香穂高校では、ここ数日“普通の光景”とは離れた状況が日常となっていた。
「リールさん!! 放課後体育館裏に来てください!!」
クラスメイトのほとんど全員が教室に揃う中、1人の生徒がリールに大声で声をかけた。
間違いなく告白をするだろうと分かる状況、翔矢は気にしない素振りを見せながらも、リールの反応をチラリと伺った。
(そういえば、天使に、こういう告白の定番みたいな流れは伝わるのか?
あいつも、この世界に来て長いはずだけど、普段何してるのか、あんまし知らないんだよなぁ)
こんな事を考えているのは翔矢だけであり、クラスの男子達からはブーイングの嵐、女子は告白した方にもブーイングを送る方にも呆れている様子だ。
翔矢の疑問に対する回答はというと、リールは顔を少し赤く染め照れているように見えたので、このシュチュエーションを理解しているようだ。
(まんざらでも無いんだな、なんか意外だ)
翔矢がチラチラとリールを観察している様子を、ペネムエは教室の隅でさらにチラチラと観察していた。
(翔矢様がリールを気にしておられます……やっぱり翔矢様が好きなのは……)
涙をボロボロと溢しているが、この様子は翔矢を含め、誰も気がついていない。
***
その日の放課後、今日は学校全体で部活が休みであり、生徒達は一斉に帰宅し始める。
いつもであれば、校門前が少し混み合ったりもするのだが、今日はヤケに人が少ない。
翔矢は、そんな変化に気がつかずに歩いていたのだが、体育館の方に出来ている人だかりは自然と目に入って来る程だった。
「体育館……あっそういえばリールが呼び出し食らってたっけ?」
「翔矢様……やはり気になりますか?」
「ん? まぁ勝手に断るだろうなって気はしてるんだけどね。
こういうとき野次馬したくなるのって何なんだろうなぁ」
翔矢の足も自然と人混みの方へと向かっていく。
とはいっても田舎の市立高校、リールも顔がハッキリ見える所まで前に出るのは、そこまで難易ではなかった。
「リールさん!! 一目見たときに、心を射貫かれました!! 僕と付き合ってください!!」
ちょうどリールを呼び出したクラスメイトが思いを伝えている場面。
野次馬の反応は「ヒューヒュー」という冷やかしのような声や、ブーイング、「おぉ」という喚声など多種多様だった。
「翔矢様、なんだかデジャブを感じます」
「1年生も3年生も、クラスメイトの奴と同じ反応なんだな」
「転校して間もないでしょうに、ここまで人気者とは流石リールです!!」
「高校で転校生ってだけで珍しいのに、普通に美人だからな、見た目だけは」
「そう……ですよね」
ペネムエの最後の呟きは、翔矢には聞こえていない。
そんな事を話している内に、リールの方に進展があったからだ。
「ちょっと待った!!」
「ゲッ……」
野次馬の中にいた1人の男子が名乗りを上げた。
その声の主に、リールは思わず引きつった表情を浮かべる。
(健吾先輩……なにやってんだ……)
健吾の性格を考えれば、なんら不思議でない、むしろ自然な行動。
なのだが、翔矢は悩むように頭を抱えてしまう。
「ドラマなどでは聞き覚えのある台詞ですが、実際に聞く機会があるとは思いませんでした」
「俺もだよ……でもあの人、楽しんでやってるだけだと思う」
だが冷ややかな目で見ているのは、翔矢とペネムエの2人だけ。
他の野次馬は、お祭り状態で「ひゅーひゅー」や「よく言った!!」などの声も、ブーイングに混じりながら目立ってきた。
「なんか2学期始まってから、学校全体のテンションが妙なんだよなぁ」
「わたくしは参加出来ませんでしたが、初日から生徒会長様が、持ち物検査をなさったとか」
「後は、先生達が牡蠣に当たって大半が休んでたな、なんだかアニメとかの世界にでも迷い込んだ気分だよ」
「わたくしのような天使と暮らしている地点で今更では?」
「それ自分で言っちゃうんだ」
ペネムエの真顔での一言に思わず苦笑いしてしまう翔矢。
健吾が名乗りを挙げた事など、2人はどうでも良いかのように流していた。
だがリールの近くには、だんだんと人が増えているように見え、2人もようやくそちらに興味が沸き始めた。
「リールさん、そんなチャラ男よりオレと付き合ってください!!」
「わっ私と付き合ってください!!」
健吾に引き続き、リールに告白をする生徒が後を絶たない。
そのせいで、どんどんと人が貯まっているようだ。
「ラーメン屋かよ!? アニメでも、ここまでの行列できねぇよ……ってか女子もまざってね?」
「翔矢様、そういう世の中でございます」
「そうでした、そうでした」
等の本人、リールの表情はというと、困惑を通り越し、何をどうすれば良いか分からない無という感じだ。
「好意自体は誰からのでも嬉しいって意見もあるけど」
「アイドルの握手会みたいな状態……あれでは誰でも困りますよ。
さすがに見ていられません!! 翔矢様、なんとかしてあげれませんか?」
「いやぁ……俺に言われてもなぁ、ペネちゃんが氷でも落として、この状況を流すくらいしか思いつかん……」
翔矢は半分冗談のつもりだったのだが、ペネムエは既にブリューナクを握りしめている。 これに「ギョッ」と驚き、反応出来ないでいた。
そんな翔矢の元に、リールが人混みを掻き分けながら足早にやってきた。
「なんでこっちに……」
訳も分からない内に、リールに右手を捕まれ、そのまま上にグイッと掲げられる。
「おい、オレは満員電車でヤらかした人じゃないぞ?」
なぜリールが腕を掴んで来たのか見当も付かない。
この後に、リールが放った一言は、この場に居る者を絶望や放心など、味わった事の無い感情に叩き付けた。
「わっ私!! 翔矢君みたいな人が好みだからぁぁぁぁぁ!! ゴメンナサイ!!」
一瞬だけ起こった静寂、その後に響いたのは、工事現場や飛行場にも匹敵する悲鳴と歓声の嵐だった。
そしてペネムエは、魂が抜け落ちた表情で青空を見上げている。
ここで、野次馬に紛れていた悠奈がトドメとなる一言を放った。
「わあぁ!! 翔矢君に彼女が出来たぁ!! おめでとう!!」
全く悪気の無い笑顔で、心からの祝福が籠もった拍手。
この姿に野次馬達の心の中に、負の感情が浄化されるように光が差し込んだ。
「そうだ……オレ、自分の事しか考えてなかった」
「オレだって同じだよ、恥ずかしいぜ!!」
「なぁ皆!! リールさんの気持ちが一番だと思わないか?」
この流れに何か嫌な予感がしたリール。
言い出しっぺではあるが、口を押さえて「しまった」という表情をしている。
「お前らぁ!! 六香穂高校ビックカップルの誕生を祝福しようぜぇ」
「「「「「うおぉぉぉぉぉ!!」」」」」
何かに取り憑かれたか、アイドルのコンサートのように巻き起こる大喝采。
もはや誰にも止める事はできないだろう。
「おい……俺、まだ返事どころか反応もしていないんだが?」
この翔矢の訴えは誰の耳にも届かないのだった。
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