229話:号泣から再開が始まりそうです
朝のホームルーム前に流れた放送を聞き、翔矢・ペネムエ・健吾の3人は、あてもなく校舎の廊下を走っていた。
他の生徒は、放送に従い教室に戻り始めているので、注目を浴びないように、人並みに逆らわないように進んでいる。
「ペネちゃん、俺たちって何処に向かっているの?」
「今の放送では、何が起こっているのか分かりません。
しかし先生方は、それの対応に当たっているはずなので、場所の特定は難しくないかと」
「なるほど!!」
翔矢とペネムエは、お互い普通に会話を続けている。
だが、この様子は健吾の目には、全く違ったように写っていた。
「前にチラッと聞いてたけど、ペネムエちゃん、翔矢には普通に見えてるんだな。
俺には、声はすれども姿は見えずって感じだわ」
「そういえばペネちゃんの事情知ってて姿見えないを経験してるの健吾先輩くらいっすかね?」
「そうなのか? 転生教の戦いの時とか姿消して攻撃!! とか使えば誰が相手でも勝てそうだだと思ったけどな!?」
健吾の言葉に翔矢は『そういえば!!』という表情を見せた。
「そこに気がつかれましたか、しかし戦闘での使用は難しいのです。
このブレスレットの効果は、装着者が命を救った者に効果が無くなってしまうので……
戦いというのは、その気が無くとも命のやり取り、戦った相手の命を奪わなかった事が命を救ったと解釈されてしまう可能性があります。
相手に姿が見えないと油断していた所で、急に姿が見られる、という事が起こりえるのです」
「なるほど、最初から姿が見られてると分かった方が戦いやすい訳ね」
翔矢と健吾は、フムフムと同じリズムで頷いた。
「でも、その理屈だとさ、今まで戦った敵と再会とかしたら、姿見られるかもって事?」
「命を救った、というのは中々に判断が難しいですからね。
たとえば悠奈様は、東京で転生教の事件に巻き込まれましたが、わたくしの姿は見えないようでした。
これは、わたくしや翔矢様が事件に関わらなくとも、悠奈様は命までは落とさなかったことを意味します」
「転生教の使った流星雨は、特効薬で簡単に解毒できたしな」
つい最近の事件だが、遠い昔のように思い出しながら、校舎の下の階へと向かう。
ここの階段の踊り場でペネムエは急に足を止めた。
翔矢はそれに気がつくのが遅れ、彼女の背中にぶつかってしまった。
「おいおい、ペネムエちゃん、階段で急に止まると危ないぜ!!」
数歩遅れて追いついた健吾は、少しヒヤリとした表情を見せたが、ペネムエは危なげなく踏ん張り大事には至らなかった。
「翔矢様、申し訳ありません」
「俺も、前見て無くってゴメン、落ちたりしなくて良かったぁ~。
でも、どうしてこんな所で立ち止まったの?」
「昨日、翔矢様を探していたさい、ここにワープパネルがあったのを思い出しまして……」
「ワープパネル……ってあのゲームとかによくある?」
「はい、その解釈で間違いないです」
「えっ? ペネムエちゃんゲームとかするの?」
掘り下げる所がおかしいと、健吾に思いつつも、先輩である彼を無視して話しを続ける。
「昨日の、サクラとかいう子が仕掛けたのかな?」
「あの方々の目的は、捜し物のようでしたあからね。
ワープパネルなどは使わないかと」
昨日の出来事を知らない健吾は、口を挟もうとしたが、翔矢は手のひらを彼に向けて、無言で黙って欲しいと意思表示をした。
「あの……俺、先輩なんだけど?」
「健吾先輩様、後できちんと説明いたしますので」
「おう……」
「んで、昨日ペネちゃんは、ワープパネル見つけてどうしたの?」
「どこに繋がってるか分かりませんが、ワープ先に魔力を感じて、状況を考えれば敵とみて間違いないと思い、ブリューナクの冷気で攻撃だけはしておきました」
「ペネちゃん……結構ムチャクチャしたんだね」
翔矢だけでなく、詳細までは知らない健吾さえも、この話しを聞き、少し引いた目になってしまった。
ペネムエは、2人の表情に気がつき、少し反省はしたが、顔には出さずに話しを進めた。
「ゴホン……今はワープパネルは撤去されているようなので気にする必要はなさそうですね」
「とは言っても、奴らの可能性が少ないなら、あの事件の時、他の勢力みたいな奴とかいたのかな?」
翔矢は健吾の方に視線を送った。
「おい、俺が北風エネルギーの協力者なの黙ってた事、根に持ってるのか? 今回、俺たちは無関係だぞ?」
「翔矢様、魔力や異世界を研究する北風エネルギーが、一般の高校に、そんなモノを設置する理由がありませんよ」
「いや、分からないぞ、ドクターのおっさんとか、何かの実験で作ったのかもしれん」
翔矢の言葉に、ペネムエも健吾も否定出来ずに固まってしまう。
「ドクターは謹慎中で、兄貴と部下に見張られてるし違う……はずだ」
「え? あのおっさんまだ謹慎中なの?」
「転生教の事件から、結構な日が経ちましたよね?」
「兄貴は怒ると、しばらく根に持つからな」
健吾自信も、兄に怒られた事はあるのだろう。
何かを思い出した表情を浮かべ、顔が俯き気味になってしまった。
そんな話しをしていると、ペネムエは背後から魔力が近づいているのを感じ取った。
「誰ですか!?」
ペネムエの声に反応し、翔矢と健吾も、警戒しながら勢いよく振り向き姿を確認する。
その気配の主に、健吾だけはピンと来ていないようだ。
しかし翔矢とペネムエの反応は違い、その姿に大きく動揺していた。
特にペネムエの動揺は、常軌を逸っしており、全身をブルブルと震わせながら涙を浮かべている。
「うわぁ……めっちゃ美人!! どっかで見たことあるな」
「うっ……嘘だろ?」
「ななな……どうして……あなたがここに?」
2人の動揺ぶりに、気配の主は、なぜここまで驚かれているのか理解が出来ていない様子でキョトンとしている。
「あれ? 翔矢、ペネムエに話してなかったの?
いや……あんたにも細かい事情話す余裕はなかったけどさ……」
「リ……」
「リ……」
「「リーーーールゥゥゥゥ!!!!」」
翔矢とペネムエは、滝のように涙を流しながらリールに向かって走り出し、彼女にそろって抱きついた。
「ちょっ……ちょっと2人とも……心配掛けたわね……」
リールは顔を赤く染めながらも、優しい笑みを浮かべた。
「リール……転生教との戦いから、ずっと行方不明で……
今まで、何処で何をしていたのですか?」
「その制服……本当にウチの学校に転校してきてたんだなぁ!?
こっちも色々あってよぉ……てっきり何かの罠か間違いだと思って、ペネちゃんには言えなかったんだぁ!!
だって、おめぇ俺の隣の席だってのに、話してくれねぇしよぉ~」
ペネムエの反応にリールは、ある程度の覚悟が出来ていた。
だが翔矢のらしくない号泣と訛りに、戸惑いと申し訳なさがみるみる湧き上がり、彼女は堪えきれなくなってしまう。
「本当に心配かけてゴメンなさっっっぷっっっ」
泣きながら抱きついていた2人を突き飛ばし、リールはお腹を押さえながら笑い出してしまった。
「そんなに笑うこと無いだろ!!」
「リール!! それが謝る者の態度ですか!?」
「いや本当に悪かったと思ってるけど、ぷっ!!
こんなの耐えられないわよぉぉぉ!!」
翔矢とペネムエは恥ずかしさのあまり涙が一瞬で引っ込んでまった。
それでも笑いが止まらないリールに釣られ、2人もお腹を抱え今度は笑いが止まらなくなる。
「リール……本当に無事で良かったです!!」
「ペネムエ、ありがとう……色々ありすぎて連絡が出来なかったのよ、本当に心配かけたわね」
「俺の方こそ、転校してきたの見てたのに、色々あった後で本物か疑っちまったからな」
「クラスの子から、想像以上に話しかけられて動揺しちゃって話しかけそびれたのよ、でもノーマジカルに到着したときに家に寄ったんだけどずっと留守でさぁ」
「「あっ……!!」」
恐らく北風エネルギー六香穂支部からザ・ホールという空間に行っていた時だろうと2人は想像した。
「俺はピンと来ないが、行方不明の親友と再会って感じかい?
事情を把握してなくても、仲の良さが伝わってくるぜぇ~」
今までの様子を見守っていた健吾は、少しわざとらしく、目元をハンカチで拭き始める。
「健吾先輩、茶化さないでください!!」
「いやいや、羨ましくて茶化したくもなるだろ?
こんな美人に再会するなり抱きついてさ!!」
その言葉でハッとした翔矢とリールは目を見合わせて顔を赤く染めた。
「リール……悪い、テンションがおかしかったというかなんというか」
「いやいや、きっ気にしないわ!! そういう文化のある国も多いからね!!」
「にっ日本にはないんだよなぁ」
「あなた達も、放送気になって、何が起こったか確認に行く所でしょ!?
ほら!! 誰かに見つかる前に急ぐわよ!!」
慌てて走り出すリールの後を、翔矢と健吾は、すぐに追い3人から数秒遅れてペネムエが続いた。
彼女は翔矢の背中を見て、転生教事件でペネムエの事を忘れてしまっていた時の彼の言葉を、ふと思い出した。
『俺、リールのことが好きなんだと思う』
記憶を失った影響なのか、彼の本音なのか、ペネムエは胸に曇るような何かを感じたのだった。
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