227話:質問から名乗りが始まりそうです
黒い雲と共に現れたサクラという少女の話に着いていけず固まってしまった一同。
ペネムエは、何とか気を取り直し話を進めようとした。
「コホン、サクラ様と仰いましたか?
天界の罪人ルーシィは、何処にいますか?」
いきなり本題へと入る質問、だがサクラは答えない。
「ペネちゃん、さっきの何処かにある何かを探すって目的といい、この子、肝心な所は答える気無さそうだよ?」
「そのようですね」
「あの……私、確かに迷っちゃう所はあるけど……聞かれたことには本当の事を言っているわ」
その返答を聞き、アーベルは再び攻撃魔法を放とうと右手を掲げた。
「ストップ!! ストップ!!」
「なんで、あなたは、すぐに魔法をブッぱしようとするのですか!!」
だが動作に気がついた2人は、アーベルの両手を押さえ、その発動を阻止する。
「あっ……ありがとう。
今のは、迷わずにお礼が言える」
サクラは両手を、銃を突きつけられた人質のように上げ冷や汗をかいていた。
「お前に、あらゆる攻撃は効かないんじゃないのか?」
「効かない訳じゃないわ、ダメージが迷ってるだけだもん」
「訳の分からん奴だ」
アーベルは、納得はしてないようだが、攻撃をする意思のようなモノは薄れていた。
「なかなか話の進まない方ですが……わたくしの質問に真面目に答えていると仮定するなら、何処かにある何か……などという曖昧なモノ、何のためにどうやって探しているのですか?」
「そう、普通なら探しようが無い、だからこそ迷子担当大臣である私が探索に選ばれた。
探せないモノならば、迷わせて、おびき寄せれば良い」
ここでドヤ顔を決めるサクラ。
彼女の言いたい事は、誰にも伝わっていないのだが、本人は気が付いていない。
「何か、この子と話すの疲れて来た」
「翔矢様……わたくしもでございます」
頭を抱える2人に対してアーベルのライオン王子のお面に隠れた表情は毅然としていた。
「おいサクラ、その何処かにある何かとやらを使って何をするつもりだ?」
「何をするつもりって?」
「それは何に使うモノなのかと聞いている。
何か目的があって、それに必要だから探しているんじゃないのか?」
この質問に、サクラは再び考えるように右上を見上げた。
「そういえば……私、聞かされてないかも……
本当に真面目に探していいのか、今迷っちゃったもん」
「本当にふざけた奴だ、大臣とか名乗っていたが、それなりの役職ではないのか?」
「私は生まれながらの、迷子担当大臣、役職で偉いとか気にした事はないわ」
「生まれながらで大臣とは、どこまでもふざけた奴だ」
ここでペネムエが何かを思い立ったように口を開く。
「ちなみにサクラ様の年齢は?」
「6ヶ月」
「「「はいーーーっ!?!?」」」
思いも寄らない回答に、一同は声をそろえ驚く。
「だから……6ヶ月よ、生後6ヶ月。
驚くほどのことかしら?」
「生後とか強調した地点で、絶対に俺らが驚いてる理由分かってるだろ!!」
この翔矢の指摘にも、サクラはキョトンとするばかりで、理解は出来ていないようだ。
サクラという少女は話が通じる相手ではあるが、これ以上話しても何も理解出来る情報は得られないだろうと3人は薄々感じ始めていた。
最大の問題だった校舎が元通りになった今、この場を、どう納め得るべきか、もう家に帰るべきなのかと思案していると、再び黒い雲が校舎の上へ出現した。
「またあの雲……ルーシィの仲間……又は本人が出てくるやもしれません」
「また変なのが出てくるのか……」
「ライオン王子の仮面被ってるお前も、十分変だけどな」
今度は何が出てくるかと警戒する一同。
サクラも、誰が来るのかは聞いていないような表情だ。
やがて黒い雲が晴れると、長い髭の老人と、水晶玉を持った14歳前後の青い髪の少女が現れた。
2人とも特徴的な漆黒の肌をしており、当然と言うべきか、サクラと同じ種族だと想像出来る。
「こうなるの知ってた!! だから私の占いの通りじゃん!!
サクラちゃんの迷子でも、何処かにある何かは探せないって!!」
「仮説は実証して初めて立証される、日本の有名な科学者の言葉じゃ」
「うわぁ……それ私の占い全否定じゃん!!」
青髪の少女は、見た目では目上であろう老人に臆すること無く、強気に言い返している。
「先手必勝!!」
【ライト・ガトリング】
アーベルは2人の視線が、こちらに向いていないタイミングを見計らい、無数の弾丸を放った。
青髪の少女は、最初からこうなるのが分かっていたかのように攻撃を回避した。
「こうなるの知ってた!! でも勇者って戦闘民族みたいな奴のことだっけ?」
「意味分からん理屈で攻撃が通用しないサクラと違って、普通に回避してきたか……むしろ今は安心してしまう……」
複雑な感情を胸に抱きながら、老人の方はどうなったかと目を向ける。
「もう1人は、今の攻撃をどうやって……なっ!!」
老人の姿にアーベルは絶句する。
この漆黒の肌を持つ者は、恐らく全員が何らかの手段で攻撃を無効に出来るのだと想定していた、その前提でアーベルは魔法を放ったのだ。
しかし老人は大ダメージを受け倒れていた。
「どどどどーいう事だ!?」
「どういう事だは、お前の行動だよ!!」
「初対面の老人にいきなり魔法を放つなど、善悪以前の問題かと」
「だって流れ的にサクラ以上の強敵だと思うじゃん!!」
「攻撃効かない奴が相手なら何やってもいいのかよ!!」
翔矢はアーベルの後頭部にゲンコツをお見舞いし、ペネムエはジト目でその様子を見ていた。
「ふふふ……まさかこの世界で、ここまでの魔法を見る事となるとは。
威力を体験するため、わざと全弾を受けたのじゃ」
「あっこれは嘘、私は知ってる、おじいちゃんは普通に惨めに攻撃を受けた」
老人は、杖に全体重を掛け、やっとの思いという感じで立ち上がった。
青髪の少女は、いつもの事と慣れているのか、仲間であろう老人の心配は一切していない。
その代わりと言うべきか、サクラは老人の元に駆けより、心配そうに見つめている。
「おい……さっき全弾って言ったか!? あの乱射技は、当たろうと思っても全部当たれるモノではないぞ!?」
アーベルの疑問を遮るように老人は咳払いをした。
「ワシは、ルーシィ・ザ・ワールド、厄災担当大臣ラナンキュラス」
「私は分かってる、ここは一緒に名乗る流れ。
同じくルーシィ・ザ・ワールド、占い担当大臣シトラス」
「あっ……ずるい!! 一緒に名乗るのかっこいい!!
私もう先に名乗っちゃったよ!!
迷うくらいなら、名乗らなきゃ良かった!!」
おとなしい口調が特徴だったサクラは、何かスイッチが入ったように不満をぶつけている。
シトラスは宥めるように、サクラに頭をヨシヨシと撫で始めた。
「とにかく、何処かにある何かはここには無いようだ。
他を当たるとしよう」
「私の占いでも、ヒントすら出ないけどねぇ」
「何処を探せばいいか迷っちゃう」
3人は黒い雲へと姿を変え、この場から一瞬で姿を消すのだった。
「ペネちゃん……あいつらって?」
「分かりません……あまりのも珍妙な能力と行動。
わたくしのも心当たりすら……
ライオン仮面の方は、何かご存じないのですか?」
ペネムエが振り向くと、アーベルもまた、姿を消していたのだった。
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