226話:修復から迷子が始まりそうです
心の奥底から湧き上がる使命感のような、不気味な感情に身を任せ戦っていた翔矢とアーベル。
ペネムエの介入と、校舎を迷宮化させた者の尻尾すら掴めていない現状に気がつき、今は2人とも正気に戻っている。
「本当に、校舎を迷宮にしたのは、お前じゃないんだな?」
「あぁ……」
「ライオン仮面の方の実力や行動を考えれば、学校を迷宮化させる理由がありませんからね」
「仕方ねぇ、もう一回校舎を……」
3人同時に、校舎の方を振り向くと、これが現実ですと言わんばかりに崩れ去った校舎が目に入った。
「ペネちゃん……天界に頼めば修復魔法とかで直して貰えるんだよね?」
「えぇ……1週間もあれば」
「夏休み中だったらなぁ……」
「宮本翔矢、夏休み中でも部活の練習はあるし、そうじゃなくても先生は誰かしらいるぞ、まぁ弱小剣道部は休み中に練習などなかったがな」
「そっか!! お前学校詳しいな!! え? 剣道部の部活の日程まで知ってるの?」
「ゴホン……この世界の起こること全てを知っていると言っただろう?
それより!! 天界で1週間もかかるなら、校舎崩壊問題はどうする!?」
「お前が、あんな暴れるからだろ!!」
「翔矢様もです!!」
「おまえもだ!!」
「えっ!? ……ゴメン」
2人の息の合った指摘に、翔矢は後ずさりしながら、人質のように両手を挙げてしまった。
「校舎が全部鉄で出来てたらメタルで何とかなったんだけどなぁ」
「ライオン仮面の方は、この世界でも魔法が使えるのですよね?」
「一部の修復ならともかく校舎全部はな……
それに今の戦いで魔力を使い過ぎた、もう少し多く残っていれば、誤魔化しが効く程度の修復は出来たかもしれんが」
アーベルはライオン仮面のマスクを被ったままだったが、翔矢の方に視線が向いたのは、彼にもハッキリと伝わった。
「何で俺が悪いみたいな流れになってるんだよ……」
自分が100%悪い訳ではないと思いつつも、ペネムエまで視線を送ってきたので、もしかしたら自分が悪いのではという錯覚に襲われてしまう。
「ライオン仮面の方、今の残り魔力でも、少しなら修復可能でしょうか?」
「あぁ建物の外観くらいわな、だが学校は細かい備品が多い、そういう物までは直しきれない」
「では外観をお願いします、備品だけであれば……天界に頼めば今週いっぱい誤魔化せる程度まで修復できるでしょう」
ペネムエとアーベルが話を進める中、1人蚊帳の外になってしまった翔矢は、ふと校舎の方に目を向ける。
「……なぁ、ライオンの奴ってもう校舎を直してくれたのか?」
「はぁ?」
「翔矢様、まだ話し合っている最中です。
ほぼ決定事項ではありますが、敵とはいえ頼む立場で急かすのはいかがなものかと」
威圧的な返事のアーベルに加え、珍しく翔矢に対し不機嫌そうな返答をするペネムエ。
しかし翔矢は、それでも話に割り込まなければいけない理由があったのだ。
「とりあえず2人とも、アレ見てくれ!!」
翔矢の指さした方を仕方なくという感じを出しながら見た2人は、そのまま驚きで声を失ってしまった。
今まで瓦礫の山だった校舎が、綺麗に元の形に戻っているのだ。
遠目ではあるが、ガラスの中から少しだけ見える教室は内部まで修復されているようだ。
「なにっ!?」
「どういう事でしょうか!?」
予想外の事態に、ペネムエもアーベルも混乱した様子だ。
「天界からの修復魔法か?」
「いくら何でも早すぎます、ノーマジカルと天界では時間の流れが違いますし」
「でも学校を直してくれたなら、やったのは良い奴だよな?」
「どうでしょう……」
どう行動するべきかも分からず3人は固まってしまう。
すると黒い雲がモクモクと校舎の上空を覆い始めた。
「アレは?」
「校舎の修復に比べれば、驚く程の事ではない」
「校舎を迷宮化させた黒幕、あるいは修復させたモノ、もしくはその両方のお出まし……と言った所でしょうか?」
黒い雲が晴れると、そこから現れたのは、漆黒の肌にピンク色の髪、小学校低学年程の年齢に見える少女だった。
「建物が壊れるなんて……どうすれば良いか迷っちゃった」
おとなしい印象を受ける口調の少女は、ゆっくりと地上へと降り立った。
「何者だ?」
「少なくとも、この世界の人間ではないようです」
相手の目的や正体が何1つ判明してない中だが、ペネムエとアーベルは、今にも権勢に技を放つような体制を取っていた。
「私はルーシィ・ザ・ワールド、迷子担当大臣のサクラ。
名乗っていいのか迷っちゃった」
「ルーシィ・ザ・ワールド? それは世界か? それともこの世界の何処かの国か?」
アーベルは瑠々のスマホで、検索をしてみるが、該当するような国は見当たらない。
だがペネムエと翔矢には、その名前の一部に心当たりがあった。
「先日天界から脱獄した罪人、ルーシィの仲間とみて間違いなさそうですね」
「このド田舎に、何しに来たんだかな」
翔矢の問いは、返答を期待したモノでは無かったが、サクラは考えるように右上を見ながら口を開いた。
「私は、何処かにある何かを探していたの。
これ言って良いのか迷っちゃった」
「よく分からんが、ふざけた奴だ。
校舎が修復された以上、俺の魔力残量を気にする必要は無いだろう」
【テラス・ブレード】
アーベルは魔方陣から大木のようなサイズの光の剣を生み出し、サクラへと向かって振り下ろすように放った。
「なっ……」
「容赦ないな……」
相手と話が通じている状態でのアーベルの行動に、ペネムエと翔矢は呆気に取られた。
グチャッと何かが潰れた音と共に、グラウンドの土がモクモクと舞い上る。
「……やり過ぎたか」
「おいっ!!」
「何も分かってない相手を殺す事ないじゃないですか!!」
あまりに軽率と言うべきアーベルの行動に、翔矢とペネムエは厳しく問い詰めたが、そうしている間に土煙は晴れ視界が開けてくる。
「ビックリした……あんなの迷い無く撃つ?
普通は迷っちゃわない?」
「無事で良かった……って言うべきなのかな?」
「嫌な音が聞こえたはずなのですが」
「あぁ……確かに手応えはあった」
「これ言って良いのか迷っちゃうけど、迷子担当大臣の私に対する行動、私自身の行動も全て迷子になる。
つまり今、私がダメージを受けたという事象は迷子になったの」
今までのおとなしい口調と変わり、ドや顔で自信の能力のようなモノを説明するサクラ。
だがコレを聞かされた3人は、同時にポカンと首を右に傾げた。
「なぁペネちゃん? 俺の理解力が足りないのか?」
「いいえ……少なくとも、わたくしにも、あの者が何を言っているのか分かりかねます」
「ちなみに、校舎が迷宮みたいになったのは私のせい。
何処かにある何かを探して回っていたら、校舎が迷子になってしまったの。
それはゴメンナサイ」
今し方、自分に殺意を向けた相手達に、サクラはペコリと頭を下げた。
その姿に、全員が「コイツは悪者ではない」と思い始めていた。
だが、それを後回しにする程、大きな疑問が生まれていた。
「校舎が迷子って!?」
「どういった」
「意味だ!?」
咄嗟の3人の言葉が上手い具合に重なり、文章として成立する。
「そのままの意味よ、校舎がいつの間にか壊れちゃって……
瓦礫の中から何処かにある何かを探してたら、壊れた事実が迷子になってしまったの」
サクラの口から出た事実に3人は思考が追いつかず、ポカンと固まってしまうのだった。
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