225話:決着から目的が始まりそうです
崩壊した校舎、この規模の戦闘でも翔矢とアーベルは膝すら付くことなく、お互い睨み合っていた。
最初こそ、通い慣れた校舎の崩壊に動揺していた翔矢だったが、その気持ちはすぐに薄れ、目の前の、ライオン仮面の人物を倒さなければという使命感のようなものが心を支配していた。
「何でだろうな……お前は悪い奴では無い気がするのに……倒さなきゃって気持ちが抑えられない……」
「奇遇だな、俺もだ、約束もあるし手合わせだけするつもりだが、確実に勝てる内に倒しておきたい……そんな気持ちだ」
崩壊した校舎をバックに、翔矢のベルゼブラスタ-とアーベルの光の剣がぶつかり合う。
地を揺らすほどのエネルギーが発生するが、2人は微動だにせず鍔迫り合いを続けている。
今までの戦いを見れば、アーベルが優勢となるのが自然に思えたが翔矢も一歩も引かない。
それどころか、時間が経つのと比例するように翔矢の方が押し始めていた。
「なにっ!?」
「校舎は……グミの言うとおり天界に何とかしてもらう!!
悠奈が本当に帰ってるなら……もう手加減する理由はない!!」
翔矢が、渾身の力を 込めて振るった一撃はアーベルの光の剣を消滅させた。
この一撃でアーベルは、初めて尻をつき倒れてしまう。
「バカな……」
アーベルに慢心も油断も手心もない。
少なくとも本人は、そのつもりだ。
だが敵わない、目の前の翔矢から殺意のようなものが、どんどん強くなってるのが感じられる。
「この体の持ち主の話では……いや、俺が見た宮本翔矢は、穏やかで正義感の強い男だったはずだが……最後は、こうなる定めなのか!?」
立ち上がる事が出来ないままのアーベルの首元に、ベルゼブラスターの刃が刻一刻と迫ってくる。
その動作は、不気味な程ゆっくりだが、一切の迷いが感じられない。
「お前が何者なのか分からない、悪い奴でもない気がする。
だけど……今ここで倒さずにはいられない!!」
「あれ……?」
自らの死を覚悟しながらも、アーベルは、この状況に違和感を覚えた。
目の前に居る宮本翔矢の主張は、立場こそ違えど、今まで自分の言っていた事と同じなのだ。
だが、そんな疑問に対し考える余裕すら無いまま、ベルゼブラスターは、首に当たる寸前の所まで来ていた。
「やめてーーーーー!!」
あと数瞬で決着が付こうかというタイミングでペネムエの悲痛な叫びが響き渡った。
瓦礫の中から飛び出してきたペネムエは、一目散に翔矢の元へと掛けより、彼の背中に抱きついた。
その感触に、翔矢は我に返り、その表情は憑きものが取れたかのように穏やかに戻った。
「ペネ……ちゃん? あれ? 俺今まで何であんなに必死に……」
我に返った翔矢は、力強く握っていたベルゼブラスターを、そのまま地へと落としてしまう。
(コネクト・メタル・ロストの時のように、何者かに意思を乗っ取られた?
いえ……あれは、間違いなく翔矢様の意思でした、わたくしが間違えるはずありません)
愛している者の意思が、自分の知っている意思に戻った事を喜ぶべきか、あの豹変した意思が愛している者と同一という事に悲しむべきか、ペネムエは戸惑いながらも、今は状況が好転したと信じて安堵するしかなかった。
「はぁ……はぁ……恐るべき力だ、すぐに俺の手に負える範疇を超えてしまう」
ここで何とか立ち上がったアーベルは、最後の力を振り絞るように両腕を上げ、レーザー攻撃が飛んで来るであろう魔方陣を展開した。
「あいつ……まだ戦う気か!!」
翔矢は、再び ベルゼブラスターを握る手に力を込めようとする。
しかしペネムエは、右手を翔矢の肩に置き、無言でこれ以上の手出し無用と伝えた。
「あなたの名前を聞いていませんでしたね、ライオンの方。
2対1ですし、こうなっては、あなたに勝ち目はありません。
聞きたいことは山ほどありますが、この場は、お互いいったん手を引きませんが?」
アーベルの魔方陣から感じられる魔方陣は、ペネムエが今まで感じた事のある魔力を遙かに超えていた。
だが彼女からは不思議と恐怖を感じる事はなかった。
「俺が名乗れば、君も引き返せなくなる……
そして、その男の力は、いずれ誰の手にも負えなくなる……
天使である君にも心当たりがあるのでは?」
その言葉にペネムエは、返す言葉が無く黙り込んでしまった。
ザ・ホールという謎の世界で発生した、世界破壊兵器アウス、あれを止めたのはのは、翔矢とみて間違いない。
あれは生物が対応できるような現象ではないのだ。
「お前が、この世界に来たのは、恐らくだが数ヶ月前のはず。
天使の一生で換算すれば、束の間の出来事だろう?
この世界……いやその男の事は忘れて、天界に帰るんだ!!」
ペネムエが翔矢を庇うように前に立っていたので、アーベルは魔法を放てないでいた。
だが、すでに膨大な魔力が貯まっており、アーベルがその気になりさえすれば決着は一瞬だろう。
「それは……絶対に嫌です!!」
目の前の相手は、自分がが敵う相手ではない。
ペネムエには最初から分かっていた事だが、彼女の覚悟はとっくに決まっていた。
「まぁ口で言っても聞かないよな……せっかくだし試してみるか」
【ファイナル・ブレイズ】
赤く巨大なレーザーが、翔矢とペネムエに向かい放たれる。
ベルゼブラスターを手にした翔矢が前に出ようとしたが、ペネムエは彼の服を掴み、瓦礫の山を目掛けて背負い投げを決めてしまった。
「ペネ……ちゃん?」
なにが起こったか分からず、戸惑う翔矢だったが、すでにペネムエの目の前にはレーザーが迫っており考える間は無かった。
「ライオン仮面の方……何でも知っているとような口ぶりでしたね?
わたくしの“この技”を知っていて、それだけの魔力を放ったのでしょうか?」
アーベルは否定も肯定もせず、ただペネムエの動きを見つめている。
「相手の魔力放つ魔力を倍にして、跳ね返す、神器ブリューナクの究極の技!!」
【奥義・銀世界のオロチ】
アーベルのレーザーがブリューナクとぶつかり合った瞬間、白銀のヤマタノオロチが生まれアーベルへと襲いかかる。
「防がれるとは思っていたが、まさか“実力で”対応してくるとわな」
【業火の結界】
ブリューナクの奥義にも臆する事なく、アーベルは山すら焼き尽くすような業火で、自らの身を包んだ。
冷気の集合体である銀世界のオロチは、ゆっくりと溶け出しているものの、その威力は衰えないまま、業火の結界との衝突を続ける。
「ぐっ……宮本翔矢に気を取られすぎたか。
神器の奥義が、これほどとは……」
業火の結界は徐々に小さくなっていき、消えるのは時間の問題に思える。
一方で銀世界のオロチは、ドロドロと溶けながらも、その原型をたもったままだ。
「安心してください、これだけの力の衝突。
終わればお互い限界でしょう……
そこでお仕舞い、命までは奪いません」
「天使ならそうだろうな……」
ここでいよいよ、業火の結界は消滅してしまった。
ペネムエは、ダメ押しと権勢の意味を込め、銀世界のオロチを、アーベルに当たらないギリギリの地面に当て、威力を逃がそうとした。
「これで、フィニッシュです!!」
「くっ……」
ペネムエは勝利を確信し、アーベルは大ダメージは免れないと覚悟した。
だが銀世界のオロチは、アーベルにも地面にも直撃する事なく、上空へ向かいそのまま消え去ってしいった。
「え?」
「何が起こった!?」
予想外の出来事に、2人はただただ上空を見上げる。
戦いを見守っていた翔矢も、どうすれば良いのか分からないまま、とにかくペネムエの元に駆け寄っていく。
「ペネちゃん!?」
「わたくしにも何ななんだか……」
見つめ合う2人の話に、足を引きずりながらアーベルも寄ってきた。
「俺たちは感情任せで戦ってしまったが、こうなった元を考えてみろ。
校舎の異変を感じ、その原因は、まだ誰も分かっていない」
「あっ……」
「失念しておりました……」
このアーベルの一言で、全員が本来の目的を思い出し我に帰るのだった。
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