223話:魔法から知らぬ力が始まりそうです
アーベルの放った魔法により、ペネムエ・ゼウ・グミは一撃で地面に倒れ込んでしまった。
唖然と固まっていた翔矢だったが、ハッと我に返り、3人の元へ順に駆け寄る。
「ペネちゃん!! ゼウ!! グミ!!」
3人の肩を順に叩くと、わずかだが反応が見られ、ひとまずは安心したが意識は薄れており自力で立ち上がる事は難しそうに見える。
「悪い、この世界で魔法を使うのに慣れてないんだ。
加減はしたつもりだが、これでも強かったか……?」
「お前……何者なんだ!?」
先ほどまでと違い、翔矢の目からは警戒と怒りが溢れていた。
「俺は……いや、ここまで来たら戦ってみるのもありか?」
アーベルが前に手をかざすような動作をすると、直感的だが攻撃が飛んでくると翔矢には分かった。
「ペネちゃん達を一瞬で倒すような奴だ……最初からこれしかない!!」
【コネクトリニティ】
3つの魔方陣が翔矢の身を包み、3色のマントがその背中に纏われる。
そのまま右手から高速の拳を振るったが、アーベルの右手で軽々と止めてしまった。
「いや、マジかよ……」
「借りている体なんだ、傷は付けられない、手加減してやれんぞ?」
「なっ……」
とにかく避けなければと思った時には既に遅く、翔矢の体は校舎の窓を突き破り、そのまま壁にめり込んでしまった。
「くっそ、学校壊しちまったじゃねぇか、どうすんだこれ!!」
かなりの距離を飛ばされてしまったが、体にダメージは負っておらす、すぐに立ち上がり体制を立て直した。
「校舎の壁やガラスを何枚も突き破ってその程度とは中々の耐久だな」
アーベルも余裕の表情を崩しておらず、今は破壊された壁を次々と修復している。
「魔法ってのは何でもありかよ!?」
「エネルギー源である魔力さえあれば基本的にはな」
「学校をダンジョンに変えやがって!!」
「それは、俺じゃない」
「はっ?」
「この状況では、信じられないだろうな、だが事実。
しかし今のお前と手合わせしたい気持ちもある」
【ホーリー・バレッド】
困惑して動きが止まってしまっている翔矢に無数の光の弾丸が降り注ぐように直撃する。
その衝撃で、周囲には土煙が舞い、視界を塞いでしまった。
「修復魔法を使うなら戦闘後だったな。
また修理するのは余計な魔力を使ってしまう」
「じゃあ、直せる魔力が残っている内に降参してもらわないとな!!」
「俺も……魔力は使い切らないように善処しよう」
土煙で身を隠しながら、翔矢は再び高速で拳をお見舞いしようとしたが、今度は薄黄色のバリアに阻まれた。
「くっそ!! バリアは反則だろ!!」
「この程度も破れんとは、信じられんな」
「信じられんって何目線だよ!!」
拳を普通の人間の肉眼では捉えられないであろう速度で連打すると、ようやくバリアにヒビが入り始めた。
「ヨシッ!! いける!!」
「バカか? 壊れるのが目に見えているバリアにいつまでも身を隠しているハズが無い」
アーベルはバリアを解除し、攻撃魔法に切り替えようとした。
しかし直前に背中に強烈な一撃を受け、攻撃はキャンセルされてしまった。
【奥義:獅子王一閃】
「さすが悪魔族……まだ動けたのか」
「ナイス!! グミ!! 動いたのが見えたから任せて正解だったぜ!!」
グミの強烈な一撃を受けて尚、アーベルは少しフラついた程度だ。
しかし、そんな様子は気にも留めず、グミは翔矢の方にまっすぐと向かってくる。
「翔矢、それが東京で転生教との戦いで手に入れた力かニャ?」
「あぁ……それでも、あのライオン野郎には通用しないんだ」
「いやいや、十分強力な力だニャ」
グミは心は笑っていないであろう事が伝わるニコニコとした表情で、翔矢の前で立ち止まった。
「グミさん? どうしました?」
「そんな危ない力を、悠ニャを抱えてる相手に使うニャ!!」
グミは殺意の籠もった表情に変わり、大ジャンプからの翔矢の頭上に鉄拳を食らわせた!!
「いてぇぇぇぇぇ!! だってお前達3人を一瞬で倒すような相手だぞ!?
いきなり全力で行くしかなかったし慌ててたんだよ!!」
「だからって悠ニャは普通の人間ニャ!! ケガでもしたら大変ニャ!!」
「悪かってよ……俺も普通の人間だけどな」
翔矢は、今グミに殴られできた巨大なタンコブを指さし何かを訴えている。
「普通の人間は、その程度じゃ済まないけどニャ」
「まぁコネクトリニティ使ってるけど、あくまで道具の力だからな」
2人の身の無い話を、アーベルは目を瞑り腕組みをしながら静観していた。
しかし待ちきれなくなったのか、ドンと壁を蹴飛ばした後、口を挟んで来た。
「悪かった!! 俺が悪かった!! このままでも十分避けれる攻撃だったんでな」
「あっ? 舐めプで十分だったってか?」
「事実、俺は悪魔族が動くまで一撃も食らっていないからな。
その悪魔族の言うとおり、万が一にも悠奈さんにケガをさせる訳にはいかない」
【アイテムボックス】
アーベルの前に、長さ1メートル程のチャックが出現し、その中に悠奈を優しく入れてしまった。
「おい、あいつ今アイテムボックスって言ったか?
卓夫から見せられたアニメだとチート扱いされてる作品もあったけど実際はどうなんだ?」
「そこまで難しい魔法じゃニャイ……けど生きてる人間をそのまま入れるなんて聞いたこと無いニャ」
「なんかそんな気がした……」
自分たちは、今とんでもない相手と戦っている。
2人は、それを自覚し、ようやく緊張感のある表情になった。
「コネクトリニティと言ったか? “今の”お前の最強の力は。
この場に鉄は少ないし、100パーセントの力ではないんだろうが、まだ脅威ではないな」
「おい、お前翔矢しか見えてないニャ?
この世界で魔法が使える奴がいるなんて思わなくて一本取られたけど、使える相手って分かれば、それなりに戦い方はあるニャ!!
お前を倒しちゃってアイテムボックスに入れられた悠ニャを出せるかの方が心配ニャ!!」
グミは今にもアーベルに飛びかかりに行きそうな剣幕だったが、翔矢は右手を横に伸ばし、彼女を制止した。
「待て!! あいつは何か俺の事を知ってるっぽいけど、コネクトリニティが最強の力って言った、だったらコレは知らないんじゃないか?
学校がこんなんでも呼べるか分からないけど……ザ・ホールとかいう謎空間でも行けたし大丈夫だろ!!
来い!! ベルゼブラスター!!」
「なに!?」
まだ切り札があった事に驚いたのか、それともベルゼブラスターという言葉に反応したのかは本人にしか分からない。
だが学校の窓を突き破り現れたベルゼブラスターは翔矢の手に握られた。
「バカな……なぜ“既に”それを持っている!?
そいつを何処で手に入れた!?」
「東京でポメ左衛門とかいう、オッサンみたいな声の、見た目可愛いポメラニアンにもらったんだよ」
「ポメ左衛門だと!? なぜ大魔王ベルゼブ軍の幹部が動いている?」
「それは俺に聞かれてもなぁ……
こっちからも一応聞くけど、お前何をどこまで知ってるんだよ?」
「この世界で起こること全て……と思っていたんだが、大分狂ってしまったようだ。
そして俺が知っている事は、お前に……いや誰にも話す訳にはいかん!!」
「だったら今は全力で戦わせてもらう!!」
翔矢は赤メリをベルゼブラスターの窪みにセットした。
【トリプルワールドセット】
「今回は剣のモードでやってみるか? 大砲は学校じゃ撃てないしな」
赤・青・銀の三色のオーラを纏ったベルゼブラスターを翔矢は力一杯振り下ろした。
【トリニティー・エンド・スラッシュ】
「あっ……思ったより強そう……」
放たれた3色の斬撃は、翔矢の焦りなど諸共せずアーベルへと向かっていく。
それは確実に何かに直撃し、今日一番の土煙をあげるのだった。
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