222話:遭遇から魔法が始まりそうです
放送室に突入したペネムエからの説教は続き、翔矢とゼウの足は限界を迎えていた。
しかし2人から、それを言い出せる雰囲気ではなかった。
「ゼウ様は分かりますよ? 初めて見たゲームに気持ちが高ぶってしまう。
わたくしも経験はあります、ですが翔矢様が着いていながら、何でこんな事になっているのですか!?」
「面目ありません」
「謝罪ではなく、理由を聞いております!!」
「えっと……放送室で待つべきか、出てペネちゃんを探すべきか迷いまして。
そこにトランプが出て来たので、負けた方が探しに行こうってなりました」
「そこは、到着が遅くなった私にも非があったようです。
しかし、何故トランプ対決でアクセルの力を?」
「それは……」
翔矢は黙り込んでしまったが、これは何故そのような状況になったのか思い出せないからだ。
「ペネムエ!! それは俺が悪いんだ!! 初めてのトランプでスピードという競技。
当然俺が不利で、なかなかカードを出せないでいた……それで悔しくなってしまいつい……」
「事情は分かりました、ゼウ様は雷鬼の力を使ってしまい、それに対抗するため翔矢様はアクセルの力を使ってしまったと」
「「はい!!」」
「それなら仕方ありませんね!!」
「「あはははは」」
「って言う訳が無いでしょうが!! 特に翔矢様!!
仮にも大魔王の力を遊びに使わないでくださいませ!!」
「はい……」
ペネムエに強く叱られた翔矢は、頭をガクッと下げ落ち込んでしまっている。
ゼウは翔矢ほど怒られていないせいか、そこまで反省した様子は無く、それどころか笑いを堪えているようだ。
「ゼウ様、まさかとは思いますが、この状況で翔矢様の事を笑っておられますか?」
「そんな訳な……ぷっ」
「おい、今ぷって言ったぞ!!」
「はぁ……」
翔矢はゼウへの感情が反省を上回り、ペネムエは呆れ果て怒りが引っ込んでしまったようだ。
「おいペネムエ、長々と説教するより、早くここを出るニャ」
「そうでした、わたくしとした事が……
悠奈様も心配です」
「え? 悠奈まだ学校にいるのか?」
「分からないけど、まだ家には帰ってないのニャ!!」
「おぉ!! グミも来てたのか!!」
「いや今更、最初からここに居たニャ」
「あはは、なんかゴメン」
「おい、まだ学校は脱出ゲームとやらのままだ。
他に人間がいるなら、早く元に戻すか探し出すかするぞ!!」
そう言いゼウは、既にドアノブに手をかけ、今にも放送室から出ようとしていた。
「お前なぁ……」
「なんでしょう、この正しい事を言われているのに納得行かない感情は……」
「というか、油断しすぎたニャ!! そろそろ本気で悠ニャを探すニャ!!」
3人もハッと事態の深刻さに気がつき、ゼウの後に続き放送室を出るのだった。
***
放送室を出た翔矢達が例の階段を登り終えた頃、リールは既にそこから離れ、校舎内をさ迷っていた。
「べっ……別に私は方向音痴じゃないし!!
今日初めて入る学校で、同じような間取りの教室が並んでるから混乱してるだけだし!!」
他に誰もいないにも関わらず、言い訳をブツブツとしながら歩いていたが、急に立ち止まり悲しげな表情を浮かべた。
「これは……きっと罰が当たったんだわ……
翔矢は、心配した目で私の事を見てくれたのに、私は声もかけれないで……
クラスの子達の質問攻めで完全にタイミングを見失っただけなんだけど心配が増しちゃったわよね。
天界とノーマジカルだと時間の流れが違うのが救いだけど……
できるだけ早く、というか本当は今日にでも家に行って説明した方が良いんだろうけど……」
そう言いながら、リールは左手の腕時計に目をやった。
「うん、翔矢は夕飯の支度をしている時間で忙しいはず!!
明日にしよう!! メッセージアプリとか通信用の魔法石とか手段は色々あるけど、こういう話は直接会った方がいいわよね!! あっでもペネムエとも直接会って話さないと。
学校には、ペネムエは来るか来ないか分からないし……来たらその日に!! 来なかったら土日に家に行って説明しましょう!!
タイミングや諸々を考えると、それがベストよ!!」
尋常ではない早口で、自分を納得させるように、両手をポンと叩くと、その場で時間が止まったように固まってしまった。
「あれ? 私って、もしかして隠れコミュ障って奴では?
まぁ……なるべく早く話すけどね!!
それより、今は早く学校を出ないと!!
ほら、あの教室には倒れてる子も居るし!!
ってあれ?」
たまたま目をやった教室の窓から、誰かが倒れているのが見えたので、慌てて駆け寄ると、そこに居たのは悠奈だった。
「えっ? 悠奈ちゃんまだ帰ってなかったの?
って、それどころじゃないわね!!」
悠奈の様子を確認しようと、彼女の手首に触れようとすると、床から魔方陣が出現し、その目映い光から目を覆い隠している間に、悠奈の肉体は目の前から消えてしまった。
「今の設置式の魔法!? このノーマジカルで?
超天才の私ですら、絶対に使えないのに……
って言ってる場合じゃないわ!! 早く探さないと!!
もぉ!! せめて人手があればなぁ!!」
事態を重く受け止めたリールは、ようやく真剣な顔になり、教室を飛び出すように後にするのだった。
***
リールの目の前から消えた悠奈の肉体は、その魔方陣の設置主であるアーベルの元へと転送された。
「おっと」
こうなる事が分かっていたかのように、アーベルはその肉体を、お姫様抱っこで優しく抱えた。
「誰かが悠奈さんの所まで接近したのか?
宮本翔矢……いや奴の気配は、地球の何処に居ても分かる。
放送室の辺りから、今し方動いたばかりで、悠奈さんを置いてきた教室には接近すらしていない……いや、むしろこっちに向かってないか?」
改めて気配を感じ取ったアーベルが振り向くと、そこには既に、翔矢・ペネムエ・ゼウ・グミの姿が見えていた。
「何やら人数が増えているな、先ほどは宮本翔矢と金髪の天使だけだったが……」
「おい、お前何者だ!? 悠奈をどうするつもりだ?」
「……は?」
目の前の4人が自分に敵意を向けている理由がアーベルには分からなかった。
混乱するアーベルに、最初に攻撃を仕掛けたのは、翔矢ではなくグミだった。
「このライオン野郎!! 悠ニャを離すニャ!!」
顔面に迫った跳び蹴りを何とか回避し、アーベルはようやく自分の状態を思い出した。
4人が探しているであろう悠奈を自分は抱きかかえ、さらにライオン王子のマスクとスーツが脱げずに、そのままの格好。
肉体は瑠々のモノだが、これでは今回の事件の黒幕と思われても仕方ない。
「おい、グミ!! 俺も睨んじゃったけど、話して見てからでも……」
「翔矢様、その余裕は無いかもしれません、あの者の魔力……とてつもない量です」
「しかも奴は、悠奈という子を抱きかかえながら、悪魔族のグミの攻撃を全て回避している」
「まぁ確かに格好も怪しすぎるけど、なんか見覚えあるって言うか悪い奴な気は……」
翔矢が考えている間に、ペネムエは超高速を、ゼウは雷の力でアーベルへと接近しグミに加戦した。
「さすがに3人以上の相手は手加減できんか」
【ファイア・ウォール】
アーベルが呪文を唱えると、その周囲に大きな火柱が上がった。
「……え?」
数秒で火柱は消え、翔矢が目を開けると、そこにはペネムエ・ゼウ・グミが倒れていたのだった。
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