220話:脱げないから脱げないが始まりそうです
ライオン王子の被り物が脱げなくなってしまった悠奈。
泣き止まない彼女を瑠々は空き教室に誘い、何とか被り物を脱がせようとしていた。
「くっそう!! この被り物、一体何で出来ているのだ!!」
瑠々は、力一杯引っ張るが、頭から抜けないどころか、ライオン王子のたてがみの毛の一本すら抜ける気配がない。
「瑠々ちゃん、痛いよぉぉぉ!!」
「すっスマヌ、強く引っ張り過ぎたのだ……」
「うわぁぁぁぁぁん!! 私はこのまま一生ライオン王子として生きて行く運命なんだぁ!!」
「悠奈先輩、さすがに悲観しすぎなのだ」
瑠々が、どんな言葉をかけても、悠奈は泣き止む気配は無かった。
「あの悠奈先輩が、ここまでネガティブになるとは……
頭は後回しにして、服から脱がせるのだ!!」
「……うん」
瑠々は悠奈の背中のチャックを引っ張るが、これもピクリとも動かない。
「スーツのサイズは余裕があり、咬んでいる訳でもないのに、なんでチャックが動かないのだ? こんな厄介なスーツを作るなど、ロクな奴ではないのだ!!」
「うわぁぁぁぁん、ゴメンナサイ!! 作ったの私ですぅぅぅぅぅ」
「悠奈先輩かい!! 助っ人が主役のスーツを作っていたとは」
「設計図見て、作れるかなって思って」
「まぁ作れてはいるな……しかしこんな危険な代物、他の者に着せる訳にもいかぬ。
ここまで来れば破壊する他なかろう」
瑠々は、悠奈の視界がマスクで相当狭くなっているのを利用し、隙を見て魔法を放つ準備をしていた。
「せっかく上手に出来たのにぃ」
「上手なのは見た目だけで、実用性は皆無だからのぉ」
「瑠々ちゃんって意外と手厳しい……」
先ほどとは別の理由で泣いている悠奈を瑠々は無視して、自らの右手人差し指からメスのような形の光を出現させ実体化させた。
その光のメスで、悠奈の背中をなぞり、スーツを切り裂いた。
「おぉ!! 体が軽くなったぁ!!」
スーツが脱げるなり悠奈は元気を取り戻し、自由を味わうように、腕をブンブン回しながら教室を走り回っている。
「こら、悠奈先輩、そのマスクはまだ外しておらんぞ!! 視界が悪いのでは無かったか?」
「あっ……」
瑠々の立てたフラグを悠奈は、数秒の内に回収する事になる。
乱雑に置かれていたイスの1脚に足を取られ転倒し、そのまま机の角に頭をぶつけてしまったのだ。
「ほら、悠奈先輩、言わんこっちゃない!!
……悠奈先輩!?」
瑠々は慌てて悠奈の元に駆け寄り声を掛けたが、彼女はピクリとも動かなかった。
「し……死んでる!?」
『縁起でも無いことを言うな、気を失っているだけだ』
「そ、そうなのか?」
『全く、信じられんくらい自由な女だ』
「アーベル、悠奈先輩のスカートの中とか見てはダメだからな!?」
『わわわ分かっている!! というか俺の姿は瑠々にしか見えんのだから、見るなら気絶の隙を突くなど卑劣な真似をする必要はない』
「スカートの中を見ようとした地点で卑劣も何もないがな!!」
『だ・か・ら!! 見ようとしてない!!』
「とはいえ、アーベルは悠奈先輩が好きではなかったか?」
『だからこそ、そういう事はせんのだ。
それより……悠奈さんを、このままにしておく気か?』
「あっ……」
気絶したまま放置していた悠奈に視線を落とし、瑠々は固まってしまった。
『その無駄にクオリティの高いマスクは、呼吸の確保に邪魔だろう。
下のスーツと同じように、後ろに切り込みを入れて外すぞ』
「りょ!!」
瑠々はビシッと敬礼を決めると、アーベルの力を借り、再び右手の人差し指からメスを模った光を放ち、ライオン王子のマスクを後頭部の中心から一直線に切り裂いた。
『これならば、後ろを縫い直すなりするだけで使えるはずだ』
「SDGsという奴だな!!」
無事に悠菜のマスクは外れ、教室の隅に置かれていた大量の布切れを布団代わりにして優しく寝かせた。
「文化祭の準備を始めているクラスが多くて助かったのだ」
『色々な偶然が重なり悠奈さんは、この世界で起こりえない現象に気がついていないようだしな』
「物事とは、上手い方に進むようになっておるのぉ」
『人事みたいに言うなよ……』
アーベルは瑠々にゲンコツをお見舞いしようとしたが、実体のない彼の攻撃はスリ抜けてしまうだけであった。
「しかし、このマスクもスーツも、良く出来ておる。
悠奈先輩は料理は壊滅的だが裁縫は上手いのだなぁ」
『マスクもスーツも切らなきゃ脱げないモノを作る地点で、上手いと言って良いか分からんが、見た目のクオリティは相当高いな』
「特撮の怪人のスーツなども作れそうだのぉ」
アーベルと和やかに話をしながら、瑠々はマスクとスーツを手に取りマジマジと観察していた。
「サイズ感は、ゆったりして見えるがのぉ」
何を思ったのか、瑠々はそのままスーツを着て、マスクを被ってしまった。
『おい瑠々!! 何をやっている!!』
「そう大きな声を出すでない、ちゃんと切り込みを入れておるのだから大丈夫だ。
ぐぬぬ、確かに視界は悪いのぉ、これで歩いていては迷子になるのも仕方ないわい」
瑠々はライオン王子の姿で、教室を覚束ない足取りで一周し立ち止まった。
彼女なりに満足したのか、すぐにマスクから脱ごうとしたが、何やら様子がおかしい。
『おい……まさかとは思うが……』
「脱げない♡」
『そんな可愛く言うな!! あれだけ切って何故脱げんのだ?』
「ようやく我の可愛さに気がついたか?
勇者と言ってもやはり男の子なのだな!!」
『そういうの今はいい!! ネタとかじゃ無く本当に脱げないのか?』
「うぬ、我も勇者の端切れ、ウソは付かぬ」
『立派だが、そこはウソであって欲しかった……』
アーベルは肩を落とし、膝から崩れ落ちてしまった。
「悠奈先輩の許可も無く、これ以上スーツを破壊する訳にもいかぬ。
仕方ない、このまま脱出の手がかりを探すのだ!!」
瑠々は、悠奈のように気を落とすことも無く、いつものテンションで今にも教室を出ていこうとしている。
それに気がついたアーベルは、慌てて彼女の後を追った。
『おい!! そのマスクは、相当視界が悪いと言ってなかったか?』
「うぬ、点のような穴しか開いていないの……ぎゃっ!!」
瑠々は、悠奈が転んだのと同じイスに足を取られ転倒してしまった。
『ほら言わんこっちゃ無い……瑠々? 瑠々?』
転んだまま動かなくなった瑠々にアーベルは何度も声を掛けるが反応がない。
悠奈と同じく頭を打ち気絶したのだとアーベルは判断した。
『おい、この学校の床はオリハルコン製なのか?
こうなっては仕方ない、瑠々、体を借りるぞ?』
アーベルの魂は瑠々の中に入り込み、瑠々の肉体は立ち上がった。
「この状態でも瑠々の声が聞こえない……完全に意識が飛んでしまっているな、確かにこれは普通の女性の体では……」
アーベルは頭に激しい痛みを感じ、手を当てると、それだけで分かるほど大きなタンコブが出来ていた。
ズキンと激しい痛みを感じるが、何とか堪え、今一度状況を確認する。
「悠奈さん……」
そう簡単には目を覚まさないであろう悠奈にソッと近づき頬に手を触れた。
「いかんいかん、俺は何を考えてるんだ!!」
我に返り、自分の頬を両手でパンと叩き、気合いを入れ直す。
「とにかく!! 悠奈さんを1人にしておくのは危険だ……
って俺が言うのも難だが……」
アーベルは悠奈に手をかざし、魔方陣を展開した。
「半端な結界では、破られる可能性もある。
かといって人間を収納して持ち歩くには今の魔力では10分も持たないからな。
誰かが近づいたら俺の元に転送される魔法にしておくか」
悠奈に魔法を掛けたアーベルは、今度こそ教室を後にするのだった。
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