218話:フラグから脱出ゲームが始まりそうです
鎧の騎士の軍勢による妨害は、あったものの、そこまで大きな遅れは無く、ペネムエは六香穂高校の校門前へたどり着いた。
「マジックラウド、回復したばかりなのに、最速を出させてしまい、申し訳ありません。
上空で休んでいて下さい、上空の水分を吸えば、消耗した分の回復は早いと思いますので」
マジックラウドは、頷くように体全体を3回曲げると、指示通り上空へ飛んで行った。
「さて、鬼が出ても蛇が出ても不思議はありません。
気を引き締めて参りましょう」
「ちょっと待つニャーーー!!」
聞き覚えのある声と、特徴的な語尾が聞こえ振り向くと、そこには予想通り悪魔族のグミが猛スピードで走って来ていた。
「グミ様!? 何故学校に?」
「ペネムエが、いるって事は、やっぱりヤバい事が起こってるニャ?
いや、このエグイ魔力見れば分かるけどニャ……」
「まだ、何が起こっているのか、把握仕切れておりませんが……」
それでもペネムエは自分が知っている限りの情報をグミに伝えた。
「ヤバいニャ……実は悠ニャが、まだ帰ってないのニャ!!」
「悠奈様が?」
「来る途中も見なかったし、寄り道は必ずパパさんママさんに連絡する良い子ニャ!!」
「翔矢様と同じく校舎から出れなくなってる可能性が高いですね……
心配なのは、もちろんですが異世界の存在を知らない悠奈様が巻き込まれているのは天界的にもマズいです」
「他に手がかりもないし、突入するニャ!!」
「もちろんです!!」
ペネムエとグミが足早に校舎内に入った。
警戒しながら校舎内を観察するが、嫌な魔力を少し感じるのみで、大きな異変は確認できなかった。
「どういう事ニャ?」
「外は、校舎の形すら違って見えましたのに」
「え? 校舎は普通だったと思うニャ」
「わたくしは、魔力を肉眼で捉える修行をしましたので」
「それは状況次第で便利そうニャ!!
ニャーにも教えるニャ!!」
「えっと人に教えるのは、少し困難なので」
「それは残念ニャー」
奇妙な状況ではあるものの、危険が迫っている気配もない。
2人の警戒心は少し緩み、校舎内を進み始める。
「この時間だと、本当に誰もいませんね」
「先生とかは、いないのニャ?」
「電話で翔矢様から聞いた話では、食あたりで大勢の先生方が休んでいるそうです」
「なるほどニャー……あっあれは!!」
「グミ様!! 離れるのは危険ですよ!」
何かを見つけて一目散に走り出すグミ。
その後をペネムエは慌てて追いかける。
「はぁ……はぁ…グミ様一体何があったんですか?」
「ゴロゴロニャー!! ゴロゴロニャー!!」
ようやく追いついたペネムエの前には、人型のまま、ボールに抱き着き遊ぶグミの姿があった。
「グミ様!! 悠菜様が心配だったのではないのですか!?」
「うわっ!! そんな大声で怒鳴らないで欲しいニャ!!
ちょっとした習性が出ただけニャ!!」
グミはすぐに立ち上がり申し訳なさそうにしながらも、チラチラと未練がましくボールに視線を送っている。
地面に放置されたボールを、ペネムエはしゃがみながら、マジマジと観察している。
「ペネムエも遊びたいニャ?」
「いえ……これは恐らくバレーボールですね。
体育館でもないのに何故ここに?」
「廊下に置いとくのも危ないよニャー」
グミはボールを持ち上げると、ドアの開いていた近くの教室の中に放り投げてしまった。
「ちょっとグミ様!!」
「あれは魔力も感じないし事件と無関係ニャ。
さっさと悠ニャを探すニャ」
「気紛れ……本当に猫の生態なのですね……」
すっかりボールへの興味を失ってしまったグミの背中をペネムエは再び追いかけるのだった。
***
その頃、翔矢とゼウは、脱出の手がかりを探すのを諦め、教室の椅子に座り休憩していた。
「ペネちゃん、そろそろ学校に着いた頃かな?」
「マジックラウドが直っているなら、とっくに到着しているはずだ。
だが俺たちと同じようにループ空間に巻き込まれているなら苦戦しているかもな」
「俺たちは苦戦どころか諦めてるしな」
「最悪の場合は校舎を破壊し脱出する」
「それ本当に最悪の場合だからな」
「分かっている……しかしペネムエの状況も分からないのは退屈だな」
「先に走って行った瑠々が見つからないのも変だしな。
あー脱出ゲームとかなら、どっかにアイテムとか暗号隠れてるんだけどなぁ」
退屈を持て余した翔矢は教室の掲示物を眺め始める。
「教室は一通り見ただろ?」
「他に出来る事ないし、他のクラスとかマジマジと見る機会ないしなぁ」
今翔矢が見ているのは、このクラスの所属している委員会の一覧だ。
「俺、委員会の仕事とか全然参加してないなぁ……」
「何の委員会に入っているんだ?」
「植物委員」
「それは世話しなきゃマズいんじゃないか?」
「好きな奴が率先してやってくれてるんだよ」
「だとしてもなぁ……」
ゼウの冷ややかな視線に、翔矢は耐えられなくなり、何か誤魔化せる話題を探す。
「あっ!! 放送委員!! 俺のクラスに居ないんだよな!!
そいつの机は……あっ!! ちょうど俺の座ってた席の奴だ!!」
何を思ったか翔矢は机の中に腕を突っ込み漁り始めた。
「おい、人の物を勝手に……」
「ちょっと待って!! 本当に何かあったぞ?」
翔矢が取り出したのは、放送室と書かれたタグの付いた鍵だった。
「机の中もチラ見だけはしたはずだが、さっきは見つからなかったよな?」
「単純に見落とした……って可能性もあるけど、俺が放送室の奴の席だって分かったから出てきたのかも?」
「どういう意味だ?」
「フラグを回収しないとアイテムは出てこないってことだ!!」
翔矢は鍵を握り締めたまま教室を飛び出して行った。
その後にゼウも事情が分からないまま続く。
「翔矢!! 急にどうした?」
「たぶんだけど、この鍵を持っていれば放送室まで行けるはず!!」
「どういう原理だ? その鍵には何の魔力も感じないぞ?」
「脱出ゲームってそういうゲームなんだよ、周りを良く見ろ!!」
言われるまま、辺りをみると、確かにループしている間は見られなかった教室が並んでいる。
「ループから脱出したのか?」
「いや、たぶん放送室まで行けるようになっただけだ」
話している間に放送室に到着し、翔矢はすぐに鍵を使いドアを開けた。
「ビンゴ!!」
「ここから外に出れるのか?」
「んな訳ないだろ? 次の手がかりを探すんだ。
これを繰り返せば、そのうち脱出できる」
「なるほどな、だいたい分かった」
まだ日の落ちていない時間だが窓の無い放送室は薄暗い。
翔矢は明かりを付けようとスイッチを押したが反応が無い。
「故障か?」
「これもヒントだと思う」
今回は、この狭い放送室にヒントがあると確信し、翔矢はスマホのライトを着け隈なく捜索する。
勝手の分からないゼウも、とりあえず放送室内のモノを物色し始める。
「翔矢これはなんだ?」
「ん? コンセントだな、どっかのが抜けたのか?
でもコンセント刺すとこなんて見つからないな……」
考え込みながら、翔矢はゼウの右腕に視線を送る。
「ゼウって電気出せるよな?」
「あぁ、得意技だが?」
「コンセント持って電気流してみてくれ」
「……壊れないか?」
「5V0.5Aくらいなら平気だと思う」
「そんな単位、俺は知らんぞ?」
「まぁ弱めから徐々に強くしてもらえれば大丈夫大丈夫」
「いい加減だな……」
とはいえ他に手段も無いので、ゼウは言われるままにコンセントを雷鬼の右腕で掴み少しずつ電気を流す。
「おっ付いた!! ゼウ、サンキュー!!」
「いや、コンセントは蛍光灯に繋がってないだろ?」
コンセントから手を離しても、蛍光灯は光続け、さらに放送の設備までランプが付き起動し始めた。
「ちょい、念のためコンセントから手は離すなよ」
「お前は少しは不思議がれよ……」
平然と放送設備に触れる翔矢に、ゼウは呆れかえるのだった。
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