216話:ゲンコツからループが始まりそうです
翔矢からのゲンコツを食らってしまった瑠々は、痛みの余りしゃがみながら頭を押さえ悶絶していた。
10秒近くが経過しても、瑠々は言葉にならない唸り声を上げているだけだ。
「おい翔矢、相手は小さい女の子じゃないか……」
ゼウは少し引いた目で、翔矢を見ているが、本人は気にした様子はない。
「いいんだよ、危ない事をした場合は、小さい内から教えておかないと」
「なるほど、一理あるな」
「我は高校生だ!! 翔矢先輩と歳は1つしか変わらん!!」
瑠々は立ち上がるなり、大きな声で翔矢を怒鳴りつけた。
「悪い、何から何までJKらしさを感じないんでつい」
「まぁよい……だがその金髪ツンツンは、この学校の生徒ではないだろう!?
今しがた感じた強大な魔力と関係があるのではないか!?」
瑠々は拾い上げた竹刀をビシッとゼウの方に向けた。
その自信満々の姿にゼウは、たじろいでいる。
思わず翔矢の後ろに隠れ、そのまま小声で耳打ちをした。
「おい翔矢、この娘も異世界の存在を知っているのか?」
「いやただの中二病だ」
「にしては指摘が適格すぎるぞ?
それに今の俺は、普通の人間には姿は見えないはずだ」
「まぁ、このレベルの厨二病は普通とは言わないよなぁ」
ペネムエの姿を消すブレスレットの影響を受けた事の無い翔矢は、全く気にする様子を見せない。
そうしている間に、瑠々は涙と痛みを堪えながら口を開いた。
「感じたもん!! 強い魔力感じたもん!!」
「はいはい」
「信じてないな!! しかし、その金髪ツンツンが学校に入ってはいけない不審人物な事に違いないであろう!!」
「「あっ……」」
根本的な事を指摘され、ゼウと翔矢は目を見合わせながら固まってしまう。
「なのに、我を悪者の様にゲンコツまで食らわせよって!!
もうよい!! 生徒会長に言いつけてやる!!」
「あっ!! おい待ってくれ!!」
瑠々は普段の運動音痴とは別人のような猛スピードで走り去って行く。
「翔矢、今生徒会長の所に行かれたらマズいんじゃないか?」
「その原因もゼウが半分以上だけどな」
「……すまない」
「ゼウ……あの雷になってバリバリって奴で追ってくれ!!」
「あの子、一般人なんだろ? さすがにアレを見られるのは……
翔矢こそ、アクセルの力があるだろ?」
「流石にアレを学校で使うのは……」
「「はぁ……」」
お互いに似たような理由で力を使うのを躊躇ったので、仕方なく走りながら瑠々を追った。
しばらく無言で走っていたが、ゼウが違和感に気が付いたように立ち止まる。
「どうした?」
「生徒会室とは、さっきまでいた場所だよな? こんなに遠かったか?」
「……そういや全然進んでないような」
「今更だが、俺は日本の学校の知識は無に等しい。
それでも分かるくらい今日の一連の出来事は妙じゃないか?」
「え?」
「竹刀を持つ堅物な生徒会長に高校で転校生。
こういうのはアニメでの定番だが現実では、ほぼ起こらないと聞く。」
「確かに……先生のほとんどがが牡蠣に当たって学校休んでるってのも変な話だ」
「何より、俺に指摘されるまで、翔矢は何の疑問も持たなかった」
「おいおい……また能力者か?
それともルーシィって奴の仕業か?」
「さぁな、いずれにせよ、このまま歩いていても恐らく生徒会室にはたどり付けん。
瑠々という後輩にも追いつけないだろう」
「学校の廊下に閉じ込められたってことかよ……」
翔矢とゼウは、自分たちの置かれた事態の一部を、ようやく理解し始めたのだった。
***
その頃、同じく生徒会室へ向かっていた瑠々も違和感を感じ立ち止まっていた。
「おいアーベル、我は同じ場所を走り続けておらぬか?」
『やっと気が付いたか?』
「分かっていたなら、はよ教えんかい!!」
瑠々はアーベルに向かって思わず拳を振るうが、彼女の目に映るアーベルは実体のない魂。
攻撃は当たる事なく、すり抜け、そのまま転んでしまった。
「うぅ……痛い」
『ずっと教えてたが“うぉぉぉぉ”って叫びながら走ってて無視された』
「それはスマヌ、して脱出はできそうか?」
『この世界で基本魔法は使えない、となると、この現象を引き起こしている道具か何かがあるはず。
それを見つけ出し破壊するなり無効化しないと出れないだろうな』
「何処にあるかは?」
『邪魔されていて分からない、この無限ループする廊下の範囲にあるとも限らん』
「では、誰かが壊すまでこのままなのか?」
『いや壁を破壊すれば、無理矢理外に出れるぞ?』
「それは流石に……翔矢先輩なら自力で何とかしそうだが、一般の生徒も閉じ込められているかもしれん、我だけ脱出するのは得策でないだろう」
『分かった、とりあえず動ける範囲で探してみるか。
さっき感じた強大な魔力の正体も分かってないしな』
「御意!!」
***
学校屋上では、翔矢とゼウ、瑠々とアーベル、この2人の陣営の動きを水晶で観察する女の姿があった。
「宮本翔矢、あの程度の術を自力で破れないって大したことないじゃない。
協力してもらおうと思ったけど、このレベルじゃ足手まといになりそうねぇ。
もう一人の引っ掛かった女……1人でペラペラ話してるけど、本当にこの世界で流行ってる中二病なの?
でも本気で私の存在に気が付く人間がいるなら天界が把握しているか……
まぁ楽しそうにしているし、このテストが終わるまで我慢してもらおうかな」
女は屋上のフェンスに腰を掛け、水晶で観察を続けるのだった。
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