22話:決着から何かが始まりそうです
リールにサーベルを突き付けられた翔矢は、恐怖で後ずさりしたがここに来る途中に気が付いたことがあった。
「やっやめろって、まだ寒くて手が震えてるじゃん。マジで斬れたらどうすんだよ……」
「はっ?私は君を異世界転生させるためにここにいるのよ?
マジでもなにもないでしょう!!」
「目的はそうなんだろうけど、剣とか氷漬けとかできるなら普通は交通事故とか落石そういう回りくどい方法使わないだろ?
ただ殺せばいいなら後ろから剣でグサッとかで十分だし確実だろ?
そうしないって事は、ファンタジーな転生のさせ方はさせられない……と思う」
翔矢が自分の推理を話すとリールはサーベルを鞘に納めた。
「元DQNって聞いてたからもっと馬鹿だと思ってたけど、転生者に選ばれるだけあって少しは頭が切れるみたいね。
でも、どうして私を先に助けたのかしら?……まさか……ペネムエが嫌い?」
ペネムエはリールの言葉に少し表情が暗くなっていた。
「そんな訳はないだろ。
ぺネちゃんは、凍ってても寒そうにはしてなかったし、大丈夫って言ったのは強がりでも何でもないと思ったけど、君は肌が青白くなって震えてたから先に助けた方がいいかなって思っただけだ」
「(……よかった)べっ別にこれくらいの寒さ超天才の私なら平気だったわよ!! って待ちなさい!!」
リールが話し始める前に翔矢はペネムエの元に駆け寄っていた。
「ごめん……遅くなった」
「いえ……本来わたくしが翔矢様を、御守りしなければいけないのに、逆に助けて頂くことになってしまい申し訳ないです……」
少し気まずい空気が流れたが、今は氷を解かすことにした。
さっきと同じように、あったかーい杖を振ると氷はどんどん溶けていくいく。
すると足元の氷が厚く、体が浮く形になっていたペネムエは、バランスを崩し翔矢に抱きついてしまった。
「かっ重ね重ね申し訳ございません」
ペネムエは顔を赤く染めながら慌てて翔矢から離れる。
「いや俺の方こそ勝手に来てごめん……すっごい凍ってるの見えたからぺネちゃんが……心配になってさ……
邪魔になるかもっても思ったんだけどそれでも来ちゃった」
「本当に心配してくださったんですね……」
「そりゃあ当たり前だろ?」
「当たり前……ですか」
ペネムエの目が涙をこらえているのが分かった。
「ごっごめん。なんか気に触ること言った?」
ぺネムエは翔矢を護るために、この世界に来た。なので心配をされるのはプライドを傷つけてしまうことだったろうかと翔矢は不安になった。
「ちっ違うんです……誰かから心配されるの慣れてなくて申し訳なくて……でもすごく嬉しくて……不思議な気持ちです」
ぺネムエには、何か事情があるんだろうと思いあまり触れない事にした。
「じゃあゲートはもうすぐ閉じそうだし、手も尽きたし今日の所は降参ってことで……」
リールの方を向くと、一瞬嬉しそうな顔をしていた気がした。
「あっとその前にこれどうぞ」
リールが俺の方に向かって赤い石とガラスの小瓶を投げてきた。
翔矢は落としそうになったが何とかキャッチできた。
「私に通信できる魔法石よ。転生したくなったりしたら連絡ちょうだい」
「一応もらっとくけど絶対機会ねぇよ……この瓶は?」
「『ガマガマ油』よ。分かりやすく言うと傷薬。
その……ペネムエの傷、ポーションで回復してるけど、それだけだと傷跡は残っちゃうから」
「ガマガマガエルは最近どこの世界でも数が減って貴重ですのに……ありがとうございます」
ペネムエはペコリとお辞儀した。
「かっ勘違いしないでよね!! 勝ったのに傷残りましたとか格好悪いでしょ!!」
勘違いしないでよねって実際にいうやついるんだなと翔矢は呆れ気味になった。
それでも命狙ってくるやつにいうのも変だが、悪い奴ではないんだろうと思った。
「うっさいバーカ!!」
(あっ心の声聞かれた)
「翔矢様……あの……せっかく作っていただいたお弁当ですが、わたくしには少々多いと思うので半分リールに上げてもいいでしょうか?」
「ん?あぁかなり作ったからなぁ。
別にいいよ。俺も結局班のみんなに分けて食べきったし」
ぺネムエは、かなり言いにくそうに話しかけてきたが、正直作りすぎを自分でも反省していたので提案を了承した。
「はぁ? 私はあなたたちの敵よ? 何考えてるの!?」
会話を聞いていたリールはかなり不機嫌そうに反応したが、ペネムエは重箱の半分をリールに笑顔で差し出した。
「まっまぁ食べ物を粗末にする趣味はないわ」
リールは重箱を受け取ると魔法の絨毯に乗り飛んで行った。
「ふぅ、とりあえずお互い無事でよかった……」
「改めて御心配をおかけして申し訳ございません……
結局わたくしの力だけでは翔矢様をお護りすることはできませんでした……」
「終わりよければすべてよしって言うし本当に気にしなくていいよ。
さすがに地雷の話聞いたり剣突きつけられたりしたのはビックリしたけどなー。」
翔矢は少し冗談っぽく話した。いやビックリしたのは冗談じゃないし推理が外れてたら大変だったが、これ以上ぺネムエに気を使わせるのは申し訳ないと思った。
結局、翔矢がここに来なければ、ほとんどの危機は回避できたのだ。
リールという天使のも悪い子じゃなさそうだったし、ぺネムエに必要以上の攻撃はしなかっただろう。
まぁリールの性格は今知ったのでそこは結果論なのだが。
(リールが仕掛けたという地雷……不発ということでしたがそんなことあるんでしょうか…)
「あっヤバい……出発時間ちょっとすぎてる」
時計を確認すると、下山を始める時間を少し過ぎてしまっていた。
「では近くまでマジックラウドでお送りします!!」
翔矢の声にハッとし考え事をやめたペネムエは、空を飛ぶ雲マジックラウドを呼び出した。
「おぉ!! それはたのしそゲフンゲフン。助かるよ!! ありがとう」
「では、しっかりつかまってください」
(しっかり……つかまる……どこにつかまる?)
ぺネムエがすでにマジックラウドの上に乗って待機しているがどこにつかまればいいんだろうか……
「普通にわたくしの腰にぎゅっと掴まって大丈夫ですよ」
(こういう場合は心の声が伝わるの便利だな……
考えてる時間はないし仕方ないか……)
「仕方ない? わたくしに掴まるの嫌でしょうか……」
ぺネムエが悲しそうな顔になっていた。
心の声が伝わっても解釈は別からしく説明もしにくいので何か納得のいく理由を翔矢は考えた。
「申し訳ございません……」
「ごめん。考えてるの聞こえちゃったか……
えっと服の血なんとかならないの?」
傷は治ったと言っていたが、服は血が染みついている。それで掴まりにくいという事にした。
翔矢のために怪我をした訳だし、言いにくい理由としても通用するし、実際少し言いにくい。
「あっそういうことですか。気が付きませんで」
ペネムエはハッとした顔をして、ポーチから小瓶を取り出した。
小瓶に入った液体を頭から被ると全身モコモコの泡に包まれ、服の血は完全に落ちた。
というか全身きれいさっぱりしたように見える。
「冒険者用の全身洗浄みたいなもので服も体もきれいに洗えるのです。
これでよろしいでしょうか?」
風呂と洗濯を同時に行うようなイメージだろう。
しかし洗濯では、あの血は落ちないと思うので便利だなぁと感心した。
ぺネムエの体を包んでいた泡が消えたのを見計らって、翔矢もマジックラウドに乗った。
ふわふわと浮かび上ると、あっという間に雲の上まで来た。
一応マジックラウドで寝た事はあるが、この高さまで来ると恐怖を感じた。
高いところは苦手ではないが、足元がフワフワとなれない感触な上に2人で乗るとかなり狭い。
もちろん手すりなどもない。アニメで見るようなシーンも、いざ体験すると印象が違う。
「少し急ぎますのでしっかりつかまっててくださいね」
「おっおう」
マジックラウドのスピードは時速40キロほどと思われるが、十分恐怖体験だった。
おかげで、下山開始時刻には10分程度の遅刻ですんだし、落ちそうになったりもしなかったので、まぁいいかと翔矢はグッタリしながら思った。
*****
一方、リールは地雷の魔法石を仕掛けた崖に来ていた。
魔法の絨毯から降りて地面に顔を近づけ確認する。
「んーーーここで間違いないんだけどなぁ……」
地雷を仕掛けた場所はしっかり覚えていたのだが、見つける事ができない。
「珍しい色の石だと思って誰かが持って行った……とか?
別にもう使い物にならないし危険もないから回収してもしなくてもいいんだけど、なんか引っかかるわね……」
地雷魔法石は一回設置するとその場所でしか効果を発揮しない。その上再設置もできないのだ。
人物認証の術式を、あらかじめかけていたので翔矢以外が近づいても爆発はしない。
つまり持ち出すのは、翔矢以外なら誰でも可能だ。
「ペネムエも地雷のネタばらししたとき本当にあせってたし違う。
あーーー!! それこそペネムエなら頭いいから相談したら何か分かるかもだけど、ひどい事しちゃったからなぁ……」
リールは、しばらくその場をウロウロしたが、特に何も見つからなかったので引き上げることにした。
「おっと、私としたことが姿を消すの忘れてた。こんなとこノーマジカルの人間に見られたら大変大変」
リールはローブのフードを被り姿を消して、魔法の絨毯に乗って去って行った。
*****
だがリールの様子を草の茂みに隠れ見ていた男がいた。
翔矢の剣道部の先輩である渡辺健吾だ。
彼の手にはリールの仕掛けた地雷魔法石の他に小型の羅針盤のようなものが握られていた。
「羅針盤が強い魔力を検知したが、まさか体内に魔力を持つ知的生命体に出くわすとはなぁ……
しかも超かわいい上にエロエロ衣装……時間ギリギリまで待っててよかったぜ」
健吾は魔法石と羅針盤をリュックにしまい、自分の登山の班の集合場所へ戻った。
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