211話:持ち物検査から雷が始まりそうです
今日は六香穂高校の2学期2日目。
始業式だけで終わった初日とは違い、本格的に授業が始まる事となる。
そのせいなのか定かでないが、翔矢は憂鬱そうに自宅の玄関で靴を履いていた。
「今日もペネちゃんは、学校休むの?」
「勝手に授業に紛れ込んでいる、わたくしが休むと言って良いのか分かりませんが、天界から色々と書類が届きまして目を通さなければならず……」
「そっか、お互い頑張らないとだね!! 行ってきます!!」
「いってらっしゃいませ!!」
まるで夫婦のような会話だとペネムエの心が躍ったのも束の間。
翔矢が玄関を開けるよりも早く、外から誰かがドアを開けたのだ。
最近は事件が重なった事もあり、2人は思わず身構えてしまう。
「翔矢、久しぶりだな」
「おぉ!! ゼウ!! ケガはもういいのか?」
「お蔭様でな、激しい戦闘をしなければ問題ないとシフィンからお墨付きだ」
「良かった良かった!! まぁ家でゆっくりしていけよ!!」
翔矢は今しがた履いたばかりの靴を脱ぎ、ゼウと共に部屋に向かおうとした。
「翔矢様……いけません!!」
「……はい」
ペネムエは、そんな翔矢の耳を引っ張り、玄関の方へと引き戻した。
「何か用事なのか?」
「翔矢様は今日から本格的に学校なのです」
「……おい!! 俺夏休みとやらに、俺は翔矢と全然遊んでないぞ!!」
「わたくしは、海で一緒に遊びました!!
事件に巻き込まれましたが、東京でお買い物もしましたよ!!」
「じゃあ俺学校行くけど、ゼウゆっくりしてっていいからな」
「ありがとう、気を付けてな」
「翔矢様、行ってらっしゃいませ!!」
バチバチと火花を散らす2人を気にすることなく、翔矢は学校へと向かった。
玄関のドアがバタンと閉じた瞬間、翔矢の家がピカッと輝いた。
「……ゼウ様、どういうつもりでしょうか?」
「お前だけ翔矢と遊んでズルいと思っていた」
「いや……子供ですか!?
それで、こんな攻撃しますか? 普通!?」
ゼウの雷鬼右手が何度も向かって来るので、ペネムエはたまらずブリューナクを取り出し受け止める。
「ペネムエは最初、翔矢の護衛で、一緒に生活していたはず!!
今となっては同じ家に住む必要性は薄いだろ!? 1週間!! いや3日だけ住処を交換してくれ!!」
「これが人にモノを頼む態度ですか!?」
「恐らく治療で飲んだ薬の副作用で理性が効かなくなっている!!
男同士だし、ペネムエにとっても問題ないというか健全だろう?」
「いえ、なんだか女性との方がマシな気配がしました……
ちなみに、ゼウ様は今、何処にお住まいに?」
「野宿だ!! 治療中はワルパさんの部屋を借りていたが、もう東京から帰って来ているしな」
「よく3日だけでも住処を交換なんて言えましたね!!
……場所を変えて決闘で決着を付けますか?」
「いいだろう!!」
***
ペネムエとゼウが、自分の事で争っているとは夢にも思わない翔矢は学校の校門前に到着した。
時刻は、いつも通り朝礼の10分少し前なのだが、校門前は何故だか行列が出来ていた。
「何かあったのか?」
「翔矢君、おっはよー!!」
「悠奈か、おはよ、何か混んでて校舎に入れないんだが」
「あぁ1時間目って、全学年、総合学習ってなってたじゃん?
その時間で、生徒会が抜き打ちで持ち物検査するんだって」
「そりゃ時間かかりそうだな……ゼウと少し遊んでから来ても遅刻にならなかったじゃん」
「何か言った?」
「いや、こっちの話しだ」
悠奈と話し込んでいる間に、校門前に置かれた朝礼台に、竹刀を持ち赤い鉢巻をした男が上がり挨拶を始めた。
「諸君!! 夏休み明けは何かと気が緩む奴が多い!!
見た所、髪を派手に染め上げて来た輩もいるようだ。
我が校の校則では許されているが、持ち物に関する記載は『高校生らしい』という曖昧な記載のみ!!
よって生徒会が独断と偏見で、持ち物検査を行う事にした!!」
生徒会長の言葉に、全校生徒がザワザワと騒ぎはじめた。
「おいおい、独断は仕方ないけど偏見はダメだろ……
こんなの先生が許したのか?」
「先生方は夏休み中に校長先生が取って来た牡蠣でパーティして、ほとんどが食あたりなんだよ!!
ちょうどパパと東京から帰って来た後に、先生方がウチに運ばれて来てビックリしたよぉ」
「家が病院だと、そういう事が起こるのか……
悠菜の父さん、東京でも流星雨のワクチン打って対応っしてたらしいのに大変だな。
ってか、こういう場合って休校になったりしないのか?」
「私に言われましても」
そうしている間も、生徒会による持ち物検査は、進んでいるようだ。
「学校にタブレットを持ってくるな!! 没収だ!!」
「スマホと大して変わらないだろ!!」
「生徒会に歯向かうのか?」
「……ちっそんな睨むなよ!!」
タブレットを持ち込んだ生徒は、見るからにヤンキーという感じだったが、渋々とタブレットを手渡したようだ。
「なんか思ったより厳しそうだな」
「翔矢君、なんか如何わしいモノでも持ってきたの?」
「持って来てねぇよ……」
さらに進んでいくと、翔矢と悠菜の幼馴染である大久保卓夫が、持ち物検査を受けているのが見えた。
「お前!! これは何だ!!」
「生徒会長ともあろうお方が、全校生徒の名前を、憶えてないでゴザルか?」
「覚えてる訳ないだろ!! 何のアニメの生徒会長だ!!
それより学校にオモチャを持ってくるな!!」
「オモチャでは無いでゴザル!! 嫁のレーンフリちゃんでゴザル!!」
卓夫が嫁と主張しているのは、ペットボトル程の大きさのフィギュアだった。
翔矢も悠菜も見たことは無いキャラだった。
そして、明らかに学校に持ってきてはいけないモノであるので、助けようとも思わない。
「はいはい、学校に部外者を連れて来るな!!」
「くっ……レーンフリちゃん、すまぬ!!
必ず助けるでゴザル!!」
卓夫は涙を浮かべながら、フィギュアを手放し、校舎へと入って行った。
「女子の持ち物検査は、こちらになりまーす!!」
「あっ別々なんだね!! じゃあ翔矢君頑張って!!」
「おう、頑張りようがないけどな」
女子のグループへと流れて行った悠菜と分かれ、すぐに翔矢の番となった。
「はい、早くカバンを開けて!!」
少し高圧的だと思いながらも、翔矢は大人しく指示に従った。
その瞬間、生徒会長の目の色が変わった。
「あっ……」
そこにあったのは、ペネムエ、ゼウ、グミと話せる3つの通信用魔法石。
それだけならカラフルな石で、誤魔化せたかもしれないが、赤いメリケンサックこと赤メリは誤魔化しようが無かった。
今までのタブレットやフィギュアと違い、周りの空気が凍り付いてしまう。
「貴様!! 確か中学時代は紅の鉄拳と呼ばれ暴れまわってたらしいな!!
大人しくなったと聞いていたが、こんなモノを所持していたとは!!」
「うっ……」
生徒会長の竹刀が翔矢の顔の前へ向けられる。
***
その頃、ゼウは六香穂市の上空を飛び回っていた。
「神器を持つペネムエに、ノーマジカルで戦うのは無理があったか……
だが翔矢の学校に見学に行くことは許された!!」
ゼウは嬉しそうに、ペネムエから預かった“姿を隠せるブレスレット”を装着した。
これで天使など上位の存在と装着者が命を救った事がある者以外には、ゼウの姿は見えなくなっている。
「待てよ? ペネムエは翔矢の命を救ってるらしいが、俺は救った事ないぞ?
翔矢に気が付いてもらえないのか……まぁ見学だけで我慢するか」
寂しそうな表情をしたゼウだったが、高校が視界に入るなり速度をさらに上げ、数秒で到着した。
「なんだ? 生徒はまだ校舎に入っていないのか?
翔矢もいる……ん?」
竹刀を向けられ、赤メリを取り上げられる翔矢の姿にゼウは絶句した。
「あの翔矢が……まさか転生教の生き残りと対峙し武器を奪われたのか!?
それほどの強敵……不意打ちからの全力の攻撃しかない!!」
ゼウは何の迷いもなく、六香穂高校に、最大出力の雷を落としてしまった。
***
同時刻、ゼウと決闘を終えたペネムエは、すでに翔矢の部屋に戻っていた。
天界からの書類に目を通していると、ピカッと雷が落ちているのが見えた。
「8月で天気も良いのに雷とは珍しいですね」
しかし気にすることなく、天界の書類に目を通し続けるのだった。
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