エピローグ:翔矢のいない日
ザ・ホールでの冒険が終わり、今日から翔矢は2学期が始まる。
ペネムエは、姿を消すブレスレットで、教室の隅で授業を受ける事が多いのだが、今日は初日で授業が無いというので部屋で1人で留守番をしていた。
「夏休みは、翔矢様と、ずっと一緒にいられましたからね。
……大きな事件に巻き込まれたりで、ゆっくり出来たかと言われると微妙ですが……
わたくし、1人の時って何をしていましたっけ?
そうです!! 天界への報告書を書かなければ……ってシフィン様が全て引き受けて下さってました」
他に、やる事が思いつかないペネムエは、無意識に、翔矢のベッドにダイブしていた。
目を瞑り、掛け布団に包まると、翔矢に抱きしめられているような感覚に陥る。
「ここここれで寝られる訳がありません!! たまにはゲームで遊んで見ましょう!!」
テレビに繋がれているゲーム機を、そのまま立ち上げると『大乱戦シュマッシュブラザー』が起動した。
「これならば遊んだ事があります!! 思い切ってオンライン対戦に挑戦してみましょう。
使うキャラは……青いハリネズミのショニック様。
翔矢様のアクセルと同色で素早さが武器、これは上がりますね!!」
キャラクターを選ぶと、すぐに対戦相手が見つかり画面が切り替わった。
「お相手はモンキーコング様ですか、一撃は重いですが隙が大きいハズ。
この体の大きさでは、恐らく復帰性能は低いでしょう!!」
ショニックの速さを生かし、高速で相手に突進する。
だが相手に絶妙なタイミングでジャンプされ攻撃は当たらない。
「中々の上級者ですかね? ですが、すぐに高速でUターンして攻撃を……あっ!!」
ショニックの移動速度をコントロール仕切れず、場外に飛び出し、そのままゲームセット。
ペネムエは、ガクッと肩を落としてしまう。
「あはは……超高速の腕輪の速度ならコントロール出来るのですけどね。
やはり他の方の戦闘スタイルに惹かれてキャラを選んだのがダメなのでしょう。
今度は自分の戦闘スタイルに近い方で挑みます!!」
続いて選んだのは、アイスの登山家、2人で1人という変則的なキャラだ。
「パッと氷属性の方が見当たりませんでした……
ですが、この前も氷原を冒険したので、アイスな上に登山家様なら大丈夫でしょう」
自分でも、良く分からない理屈を並べている内に、次の対戦相手が見つかる。
「次はピッカーマウス様ですか、アニメでのご活躍は翔矢様と拝見しております」
シュマッシュブラザーの中で、数少ない見覚えのあるキャラにペネムエは思わず頭を下げる。
「分かっておりましたがゼウ様と同じ雷使い……
A級昇格試験では、勝ちを譲って頂いた形になりましたが、ゲームでくらいなら実力で勝って見せます!!」
今回は慎重に遠距離攻撃から入るペネムエ。
だがピッカーマウスの空中での素早い動きで、後ろに回り込まれてしまった。
「ぐぬぬ……」
接近戦に切り替え、吹き飛ばし攻撃を仕掛けるが、相手の弱い電撃でスタンからのコンボで、何もできずに倒されてしまった。
「もう!! ゼウ様は男性とはいえ、わたくしの知らぬ間に翔矢様と仲良くなって……
雷使いなんて大嫌いです!!」
この場では無関係のゼウへの怒りも湧き上がり、ペネムエは感情に身を任せ、思わずコントローラーを投げ捨ててしまった。
「あっ……」
気が付いた時には既に手遅れで、辺り所が悪かったのか、コントローラーは真っ二つに割れてしまった。
「こっこんな壊れ方あります?」
咄嗟に翔矢の机の引き出しから、木工用ボンドを手に取り接着してみるがコントローラーは反応しない。
「うっ……接着部分もすぐに取れてしまいます……
こうなったら……最後の手段です!!」
***
「で、ニャーの所に来たと?」
「はい!! 悠奈様も学校ならばグミ様も自由に動けるかと思いまして」
悪魔族であり普段は黒猫として悠奈に飼われているグミは、ペネムエから緊急事態と報告を受け、今は他に誰もいない悠奈の部屋に通していた。
「通信用の魔法石で話してた時に、只ならぬ権幕だったから何があったかと思ったら下らない事で悪魔族を……
いや別にいいけどニャ!! 納得はいかニャイ!!」
「下らなくなどありません!! こんなことが翔矢様に知られたら……」
***
ペネムエは自分の想像を事細かにグミに話した。
「ぺネちゃん!! こういうコントローラーって結構高いんだよ!!」
「誠に申し訳ございません」
「謝って済むならポリスメーン!! は必要ないんだYO」
「では、どうすれば……」
「体で払ってもらおうかぁ!!」
「そっそれだけは、よろしくお願いいたします!!」
***
「なんて事に……やっぱりコントローラー83個くらい壊して来ます!!」
「天使が私利私欲で器物破損するニャ!!
ってか翔矢はガチギレしても、そんな要求しないと思うニャ」
「コホン、少し取り乱しました」
「前から思ってたけど、よく翔矢と何事もなく生活出来てるニャ」
「ですが、お陰様で打開策が思い付きました!!
新品を買って謝ればいいのです!!」
「うん、それが一番最初に思い付く事だニャ!!」
「では、わたくしはこの辺で!!」
ペネムエは空を飛ぶ魔法の雲マジックラウドに乗り、窓から飛び出して行った。
「いや……家のドアから普通に出ろニャ!!」
グミは何しに来たんだと思いながら、小さくなっていくペネムエを眺めるのだった。
***
2学期初日という事もあり、翔矢は昼過ぎには帰宅した。
いつも帰宅すると玄関で出迎えてくれるペネムエがいなく不思議に思ったが、そういう日もあるだろうと深くは考えなかった。
そのまま、部屋に入るとペネムエが、深々と土下座をして待ち構えていた。
「ペネちゃん……どうしたの?」
「田舎にまで、転売ヤーの魔の手が!!」
「は?」
ペネムエを何とか落ち着かせ、ようやく話しを聞く事が出来た。
「なるほど……コントローラーを買いに行ったら、目の前の転売ヤーに買い占められたと」
「あの転売ヤー!! 後で天界の権限で最上級の神罰を与えます!!
ではなく……壊してしまい、申し訳ありません」
再び頭を下げるペネムエに、どういう訳か翔矢の方が申し訳なさそうにしている。
「ゴメン……コントローラー壊したの俺なんだよね」
「はい?」
「メタルの能力の練習してた時に、壊しちゃって……
無理矢理元に戻したけど調子悪かったんだよね。
対戦の動きとか悪かったでしょ?」
「そうだったのですね!! 投げて真っ二つになるなんて妙だと思いましたよぉ」
安堵からペネムエは笑いが止まらなくなってしまった。
しかし翔矢の表情は硬いままだ。
「え? 壊したって割れたの?」
「はい!! ぶつけて真っ二つって物理的に可笑しいと思っていたのです!!」
「……俺が壊したのは金属入ってる中の基盤なんだけど?」
「え!? え!?」
「まぁ最初から壊れてたし、別にいいんだけどね……」
2人は綺麗に割れたコントローラーを眺めながら正座し固まるのだった。
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