207話:力から球体が始まりそうです
ドクターとの電話を終え、翔矢、ペネムエ、健吾、シフィンは再びザ・ホールの内部に入っていた。
「……まさか、またすぐに、ここに戻る事になろうとは」
「嫌なら今から新幹線で六香穂に帰るか?」
「遠慮しときます……」
4人はザ・ホールの森林地帯を慎重に進む。
「ワルパ様は、東京に置いてきて大丈夫だったでしょうか?」
「ウチの診察的に、怪我は問題なかったけどね。
体力の消耗が激しかったし、何が起こるか分からない、このエリアを進むのはオススメしないかなぁ、まぁ戦えないウチも、あまり入りたくはなかったけど」
「このギャル本当に医者なのかよ」
「まぁ天使ですからね、こっちの世界の常識で考えたらダメっすよ」
「翔矢、俺が知らん間に随分と異世界に染まったな」
「逆に異世界で医師免許とか想像できないですからねぇ」
翔矢と健吾は、先ほどの出来事を感じさせず、仲の良い先輩後輩という感じで談笑している。
ペネムエは、何故か3人から距離を取り、10歩分ほど後ろを歩いている。
「ペネムエちゃんどうした?」
「健吾先輩がセクハラばっかするんで警戒してるんじゃないっすか?」
「いや、俺も相手は選ぶぞ?」
「ウチにも、してきたの最初の1回だけだもんね」
「いくら土でも、室外で背負い投げ食らったらシャレにならんからな」
「室内ならセクハラするってことじゃん!!」
シフィンは翔矢の後ろに隠れた。
「言葉のあやだろ……」
全面的に健吾の責任だが、それでも信用が無いのがショックなのか肩を落とした。
「あれ? ここ最初にゴブリンの群れと戦ったところだ」
「もう、ここまで戻って来たのですね、行きよりも早く感じます」
「今回は魔物と出くわさなかったからね。
まぁウチは、魔法を使えないと戦力外だけどね」
「へぇ、天使っていうと、魔法なくても人間より強そうだけどなぁ」
「それは間違いじゃないけどね、スポーツやれば野球もサッカーもプロ並み。
でも球速200キロとか、端から端までボール蹴ってゴールとかは無理」
「なるほど、野球とサッカーの二刀流選手はいないって意味じゃ人間より凄いけど、人間の到達できる記録しか出ないって感じか」
「そーゆーことー」
翔矢とペネムエは、シフィンが楽しそうの話している様子に少し安堵していた。
彼女も、ワルパに負けないくらい重症と思っていたが、今は体も心も問題無さそうだ。
「ところで、これって、翔矢がやったのか?」
健吾が指刺したのは、翔矢がベルゼブラスターの光線を放ち木々を焼き払ったあとだった。
「あぁ……俺っすね」
「ゴブリン相手に、こりゃオーバーキルだろ?」
「相手は大群で、俺が使える範囲攻撃って、この規模のしか無くて……」
「なるほど、コネクトリニティって奴の力は、それ程なのか?」
「いえっ、転生教との戦いで、うんぬんかんぬんポメラニアンで、他の力も手に入れたんすよ。
来い!! 魔王剣ベルゼブラスター!!」
翔矢の声に答え、天を切り裂くようにベルゼブラスターが現れ、翔矢の目の前の地面に突き刺さる。
「これです」
「おい、これ扱いしていいのか? 魔王剣とか言ってなかったか?」
「力そのものに善悪は無いらしいので」
翔矢の目はペネムエと合い「その通り」と言うように首を縦に振っていた。
「当然と言えば当然ですが、この剣はコネクトの力を使ってなくても呼べるのですね」
「赤メリは大魔王マモンの力で、こっちは大魔王ベルゼブのだからね」
「おい、翔矢は大魔王フルコンプでも目指す気か?」
「いや、大魔王って6人いるらしいっすけど、まだ2つなんで」
「“まだ”の使い方合ってるのか!?」
手に入れた力の大きさを全く気にしていない翔矢に健吾はあきれ果てた。
ここでペネムエとシフィンは何かの気配を感じピクリと同じ方を向いた。
「じゃあ皆!! 何度も言うけどウチは戦えないんで後はよろしく!!
でも怪我したら治療は任せて!!」
「シフィン様……わたくしはともかく、人間の翔矢様と健吾様は、魔力を感じ取れないのですよ?」
ペネムエは呆れた様子でブリューナクを構えた。
しかし、すでに翔矢は、その気配の方へ視線を向けて居た。
「いや、俺にも分かる!!」
「え?」
ペネムエが動くより早く、翔矢はベルゼブラスターを振るい、黒い斬撃を飛ばす。
それは、何らかの飛翔物体に衝突し飛翔物体は、飛んで来た方へグルグルと戻って行った。
「やっぱり、コネクトの力なしで武器を持っても、威力は出ないか……」
「いや、たぶん人間が放って良い威力じゃないぞ?
ってそんな事より、今飛んで来たのなんだ?」
「ブーメランのように見えましたが」
「ブーメランみたいな武器は魔物は使わないよね?
ゴブリンもせいぜい棍棒みたいな武器だし……
ってか、ここもう六香穂に近いんだよね? 早く逃げよ?」
「シフィン様、先に戻っていて下さい。
ザ・ホールに住む人間がいるなら、この空間の謎を解く手掛かりになるかもしれません」
「俺もドクターから新兵器のテストを頼まれてたし、試運転くらいしとくか」
「健吾先輩とぺネちゃんを2人には出来ないかな?」
ペネムエ、健吾、翔矢は既に臨戦態勢に入っている。
「もう!! 1人じゃ寂しいから、隠れてる!!」
シフィンは不機嫌そうに頬を膨らませながら、遺跡の扉の裏側に隠れた。
「やっと、見つけた!! 外の世界の奴……敵!!」
現れたのは原始人のような風貌の12歳くらいに見える少女。
背中には自分の背丈程もある大きなブーメランを背負っている。
今攻撃して来たのは彼女で間違いないだろう、そして言動からして、こちらに敵意があるようだ。
「魔力……敵!!」
ペネムエの方へ向かった少女は、ブーメランを大剣のようにして大きく振るってきた。
ブリューナクで受け止めたが、力比べで負けてしまっている。
それだけでなく、機敏に動き、大きな武器とは思えない速度で連撃を浴びせてくる。
「ぺネちゃん!!」
翔矢は少女に狙いを定め、銃形態へと変化させたベルゼブラスターで黒い銃弾を放つ。
死角からの攻撃のハズだったが、これもブーメランを盾のように使い防がれてしまう。
「動きも反応も、桁違いだな……」
「ウィザリアンなのか?」
「いいえ、彼女から魔力は感じられません」
「ウィザリアン何かと一緒にするな!! 私は人間だ!!」
少女の大振りのブーメランが、3人に順に直撃した。
「翔矢っち!! ペネっち!! セクハラっち!!」
倒れ込んでしまった3人に、シフィンは駆け寄ろうとしたが、全員すぐに立ち上がり、彼女に来なくていいと手でサインを送った。
「生身で受けてこれなら何とかなるかな?」
「いや……俺はかすっただけで立ってるのがギリギリなんだが……
なんで直撃した翔矢はピンピンしてるんだ?」
「健吾先輩様も、そんな話をする余裕があるなら大丈夫そうですね?
それより、気が付きましたか?」
「ああ!!」
「え? なに?」
ペネムエの言いたい事は、健吾には伝わっているようだが、翔矢はポカンと首を横に傾げている。
「あの少女は“ウィザリアン”という単語を理解していました」
「ウィザリアンは、北風エネルギーの造語だ。
知らなきゃ意味なんて分かるはずない」
「という事は……調査隊の人から聞いたとか?」
「言葉は通じてますし、可能性は否定しません」
「まぁ調査隊なら、兄貴か鈴ちゃんに報告するだろうけどな」
3人が話しをしている間に、少女の視線はシフィンの隠れている方に向いていた。
「隠れてる奴……なかなかの魔力……不意打ちされると厄介」
狙いを定めた巨大なブーメランが、一直線にシフィンに向かう。
だが、それにすでに気が付いていたシフィンは攻撃の当たらない高さまで姿勢を低くした。
「さすがの反応……でも無意味」
「あっ……」
だが折り返してくるブーメランへの反応が遅れ、回避が間に合わない距離まで迫っている。
【コネクト・アクセル】
「ふぅ……間一髪」
「翔矢っち、ありがと」
アクセルの力で、高速移動した翔矢はシフィンを、お姫様抱っこで抱え、ブーメランの直撃は避けられた。
ブーメランは、木々をたやすく切り裂きながら、少女の手元に戻った。
「すげぇ切れ味……だったらこれだ!!」
翔矢は、奥まったブーメランの範囲外の場所に、シフィンを下ろし、アクセルの速度を保ったまま、少女の前へ戻る。
「お前の、その力……マモン様の……」
「知ってるの? まぁ話合ってくれる空気じゃないし、次はこれだ!!」
【コネクト・メタル】
「別の力? でも動かないなら、さっきのより楽」
少女はブーメランを、翔矢の顔面目掛けて投げ飛ばして、そのまま直撃してしまう。
「いてぇぇぇぇぇ!!」
「翔矢様、大丈夫ですか!?」
「翔矢……何したかったんだ?」
痛みのあまり悶絶しながら、その場に転がる翔矢。
ペネムエは心配しているが、健吾はただただ呆れている様子だ。
「木がズバッと切れたから、あのブーメラン鉄だと思ったんだけどな」
「メタルの力では操れなかったのですね」
「この辺に鉄はないし、使う力が悪かったなぁ」
翔矢は、無傷で立ち上がったが、健吾の言う通り、メタルでは相性が悪いと判断し、すぐに能力を解除する。
「貴様の力……大魔王マモン様の力……なら何故ウィザリアンの味方する?」
「それ、どういう意味か分からないんだけど?」
「私の力も大魔王マモン様から頂いた力。
そしてこれは……人間がウィザリアンに対抗する為の力のはず!!
なんで、お前みたいなウィザリアンに味方する奴が持っている!!」
「そんな興奮されてもな……銀色の鎧の男? から貰ったんだよ」
「会ったのか……大魔王マモン様に!?」
「え? あの人が大魔王マモンなの?」
「なんで? なんで? お前みたいな奴がぁぁぁぁ!!」
少女は興奮した様子で翔矢に狙いを定め襲い掛かって来る。
翔矢はファイターの力とベルゼブラスターで一発ずつ防ぐが、少女の気迫に圧倒されてしまう。
「おい!! 翔矢!! 上見ろ!!」
「そんな余裕ありませんよ!!」
「……また始まったか、戦いはここまで」
少女は、健吾の言葉を聞くなり後ろ飛びで翔矢から距離を取った。
「急にどうした?」
「翔矢様……上を!!」
「健吾先輩も、そんなこと言ってたな……え?」
全員が空を見上げると、青く星の様に巨大な球体が、出現していたのだった。
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