206話:再会から鑑定が始まりそうです
北風エネルギー東京本社地下3階。
牢屋がズラリと並ぶ、日本国内の会社とは思えない光景。
その一室には、転生教教祖のゼロも収監されていた。
「あっ!! ゼロさん、元気でしたか?」
「えぇ、快適……といったら嘘だけど、劣悪ではない環境を提供してもらっているわ」
殺し合い寸前までしたとは思えない翔矢とゼロの会話。
事件を、おおまかな流れでしか聞かされていないシフィンはキョトンとしている。
「ペネっち、あのおばさん転生教教祖なんだよね?」
「えぇ、でも改心したと言いますか……元々悪い方ではないようなので」
「自分の目で事件を見た翔矢っちとペネっちが言うなら、ウチは何も言えないけどさ……」
ゼロが起こした事件は一歩間違えば多くの人間が命を落としていた。
実際に流星雨に当たった50人以上は“自ら”命を落しているし、スカイタワーは修復の目途は経っていない。
最終的にファーストという男が彼女を裏切った事で、事件の流れは変わったが、彼が裏切らなければ犠牲者と言う意味では、さらに増えていただろう。
さまざまな偶然や要因が重なったからこそ、これくらいの規模の被害で済んだのだと思うと、ゼロは許されるべきでないとシフィンは思っていた。
「あれ? 収容されてるのにパソコンなんてあるんですね」
「えぇ、私達は法にのっとって裁かれた訳じゃないから。
形は違えど、全員、北風エネルギーに協力しているわ。
まぁ普通に収監されて子もいるけど」
ゼロの指さす方向を向くとファーストが、やさぐれた様子で体育座りしていた。
「あいつ……よく大人しくしてますね」
「彼の能力は『能力を強化する能力』
戦いで、あなた達を苦しめたのは、ドクターのパソコンから設計図をハッキングして制作したチートリガーという武器のだし抵抗したくてもできないでしょうね。
まぁ能力は、私も含めて、どの道封印されてるんだけど」
「ゼロさん、そのチートリガーなんですけど、ドクターが強化版を開発して、この鷹野……さんに渡したらしいんすよ」
すでに面識があるのか、健吾はゼロに、チートリガーを牢屋の隙間から手渡した。
自分に見て欲しいと解釈したゼロは素直に受け取り観察する。
「これは……なるほど、銃弾と変身は別のエネルギーが消費される仕組みね。
銃弾は、ドクターお得意の人工魔力、すごいわね10トントラックのガソリンくらいはエネルギーが充填できる。
変身機能は人工魔力とは違うエネルギーね」
一目見ただけで、フュージョントリガーの性能を言い当てたゼロに、ペネムエは驚きを隠せなかった。
魔法には精通し、化学に関しても、この世界の一般人以上の知識を得ていたが、フュージョントリガーの仕組みは全く分からなかったのだ。
「その別のエネルギーとは何でしょうか?」
「感情」
「え?」
ペネムエの疑問に答えたのは翔矢だった。
何故そんな事が分かったのかという皆からの視線に気が付いたのか翔矢は、そのまま話を続けた。
「鷹野が俺やペネちゃんを恨んだり、友達を助ける為に戦ってるって言ってたから、そうかなって」
「やはり、実際に戦った人の話を聞くと違うわね。
何かを魔力に変換する装置があるのは分かったけど、それが何かは分からなかったわ」
ゼロは翔矢の話に納得したようだが、ペネムエは違った。
翔矢は、最初からこの事を知っていたのではないかという感覚に陥ったのだ。
もちろん翔矢が何かを隠していると疑っている訳では無いだろう。
ただ彼は潜在的に何かを知っている、そういうイメージだ。
「ゼロさん、俺の新しい武器も見てもらえますか?
ドクターの新作何ですけど、鷹野さんの様子見たら不安になっちゃって」
「もちろんよ、確かに形状は似ているけど別物ね」
ゼロは、今度は健吾の武器を手に取った。
「この武器は何という名前なのかしら?」
「あぁ、決めてないですね。
性能テストしようと思った途中で翔矢達に会ったんで」
「そう……これは至って普通の光線銃みたいね」
「至って普通の」
「光線銃とは?」
その見立てに翔矢とペネムエは反応を示す。
「ふふふ、確かに光線銃なんて現代に存在しないものね。
まぁSF映画に出てくるのが、そのまま実現したイメージね。
ただ、これは要領に空きがあるわね……
恐らくだけど、スマホにアプリを入れるように、何らかの改造が可能ね」
「ありがとうございます、後はドクターの謹慎解除を待つしかないか」
ゼロに返却された光線銃を健吾は腰のホルダーにしまった。
そのタイミングでテクテクと足音を立てながら鈴が戻って来た。
「お待たせ、鷹野は投獄したわ」
「鈴ちゃんセンキュー、鷹野さんの様子はどうだい?」
「不気味なくらい大人しくしているわね」
この話を聞き、翔矢、ペネムエ、健吾、ゼロは納得したような表情を見せたが、今の会話に参加していなかった鈴は何のことだかピンと来ていないようだ。
「翔矢っち!! ペネっち!! 助けて!! 出た!!」
今度は気が付けば姿を消していたシフィンが全速力で、こっちに向かってくる。
「シフィン様、騒がしいですよ」
「出たってオバケでもいましたか?」
翔矢の言葉は半分以上冗談だったが、シフィンはブンブンと首を縦に振って頷いた。
「はっ!?」
ただならぬ様子に、何がいたのか見た方が早いと、一行はシフィンの案内でオバケが出たという場所へ向かう。
「あれ!! あれ!!」
ここ地下3階は見渡す限り牢屋で、北風エネルギーはどんな事態を想定しているのかと問い詰めたくなる。
その一室をシフィンは震えながら指さしている、確かに中には2人の人影が見えるが、この階はうす暗く顔は確認できない。
「誰か捕まってるだけじゃないですか?
転生教の事件があったばかりですし」
「いいえ、宮本翔矢、この辺の牢屋は使用していないはずよ」
一行はシフィンが怯えている事もあり、慎重に一歩一歩牢屋へと近づいていく。
中に誰がいるのか分からないまま、とうとう鉄格子に顔が付きそうな所まで来てしまった。
「あれ?」
「ワルパ様にシックス様!?」
「2人とも、鷹野にやられたんじゃなかったの?」
翔矢、ペネムエ、鈴の声が聞こえたのか、牢屋の奥に引っ込んでいた2人も、ようやく前へ寄って来た。
「おぉ!! 翔矢殿達であったか!!」
「みんな……無事で良かった!!」
「シックスさん『無事でよかった』はこっちのセリフですよ!!
なんで、こんなところに?」
お互いの状況が分かり、一行の肩の力が抜けたようだ。
「恥ずかしながら、ワシはあの後、怪しげなボロボロの男に遭遇してな。
命を落としてしまった……と思ったら何やら薄暗い部屋ににてな。
何がなんだか分からない間に、今度は何者かに、ここに閉じ込められてしまったでゴワス」
話を聞いた、翔矢、ペネムエ、鈴の視線はシフィンに向かう。
「シフィンさん、まさか……」
「ワルパ様とシックス様が何かの事情で生き残った可能性を考えず……」
「命を落としていると思い込み、オバケが出たと騒いだのですか……?」
3人の冷ややかな眼差しに、シフィンは目を誰とも合わないようにそらし、滝のような汗を掻く。
「だって!! だって!! ウチオバケとか無理だし!!」
この空気に耐えきれなくなったのかシフィンは大泣きしてしまった。
だが1分もしない間に落ち着きは取り戻した。
「でも……2人とも無事で良かったよぉ……」
泣き止んだシフィンの、姿が何だか清らかに見え、それ以上は誰も責められなかった。
ここで、何故だか遅れて健吾が到着する。
「ここ暗くて、良く見えなかったが、怪しい2人組がいたんで、俺がココの牢屋にぶち込んでおいたんだ。
翔矢たちの知り合いだったか!?」
「ぺネちゃんと同じ、天使のワルパさんです」
「セクハラ野郎、大きいオジサンはともかく、シックスさんは知ってるでしょ?」
「悪い……暗かったのと先入観でな」
鈴は呆れた様子で牢屋の鍵を取出し2人を解放した。
「やっと出られたでゴワス」
「私は……元々囚人なんだけど出て良いの?」
「……今日の用事は、とりあえず済んだ……かな?」
半歩だけ牢屋から足を出していたシックスだったが、鈴の言葉で引き返した。
ここで、鈴のスマホから着信音が鳴る。
「……謹慎中のドクターからね、聞きたい事が山ほどあるし、ちょうどよかったわ」
この場にいる全員に会話が聞こえるよう、スピーカーモードで電話を取った。
「ドクター、謹慎中なのに何の用?」
『いやいやー私の計算が正しければ、用事があるのは“君たち”の方かと思ってね。
1人で家にいるのも寂しいので、連絡させてもらったまでだよ』
会話こそ全員に聞こえるようにしているが、テレビ電話で話している訳ではない。
ここは牢屋のあるエリアという事もあり、天井には監視カメラが何台も設置されている。
スカイタワーや病院の監視カメラをハッキングしたドクターなら、自分の会社の監視カメラを確認できても、なんの不思議もない。
「なんでザ・ホールに鷹野を送り込んだの?
フュージョン・トリガーとかいう新しい武器まで渡して……」
『そりゃあフュージョン・トリガーの性能テストの為さ。
蓮のソルも健吾に渡したレーザーサーベルも転生教幹部にはほとんど通用しなかった。
蓮は意味不明な戦闘能力を持っているから食らい付いたが、兵器の性能は全く足りていなかった。
謹慎中だからって、その間に残党や、他の能力者が暴れないとも限らない!!
鷹野に渡したのは、彼が友達を助けたいと言っていたのでね、力になりたかったのだよ』
この言葉に、今回がドクターと初対面で声を聴いているだけのシフィンとワルパも胡散臭さを感じた。
面識のある翔矢達も、彼の言葉を全く信用していない。
「疑われてるねぇ……だが現状魔力を回収するのは、ザ・ホールが一番の金策、いや魔力策? ポイントなのに違いはない!!」
「というか、あの空間は何なんだ? 地球のどこか……なのか?」
「それは調査中……」
鈴が翔矢の質問に小声で答えた所に、ドクターが否定するように「ちっちっち」とワザとらしく舌を鳴らした。
『君たちの様子を見て、大方の予想は付いたよ?
いや前々からそんな気はしていたのだが、仮説が立証できたって所かな?』
「もったいぶらずに早く言え」
『Ohその声は宮本翔矢、怖いねぇ。
君たちが今までいたであろう、遺跡の中の世界。
我々は、ザ・ホールと名づけているが、あの世界は仮想現実。
つまり現実ではないねぇ』
「ドクター……それは流石に無理があるわ。
私たちは、ザ・ホール内での戦闘で怪我を負っている。
服も破けたりしているし、何より調査隊は、中から魔法石なんかを持ち帰っているわ」
『あはは!! 流石は鈴君だ!! どうやら私は謹慎中で頭が訛ってしまったらしい!!』
電話越しにドクターのハイテンションな笑い声が聞こえてくる。
一行は呆れて言葉を失ってしまったが、ペネムエだけは、ドクターの言動に違和感を覚えたのだった。
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