21話:到着から解凍が始まりそうです
翔矢が、ペネムエの元を目指している間も、ペネムエとリールはお互い凍結して動けないまま硬直が続いていた。
「私の勘では、そろそろ地雷を踏んでくれる頃なんだけど……
まだ生きてるみたいね。結界で通信遮断しているから宮本翔矢の同行が探れないのが歯がゆいわねぇ。
式神ちゃんは結界の外には出せないし」
天使が何らかの形で人間を殺めてしまった場合、天使の肉体が強制的に天界へのゲートとなり人間の魂が女神の元に送られ転生の儀式が始まる。
なので、リールに異変がないということは翔矢はまだ無事ということだ。
(せめて翔矢様に状況を報告したいですが……もし近くまで来ているなら大声で叫んだりしたら聞こえるでしょうか……)
「ぺネちゃーーーーーーーーーーーーーーん」
(そうです……あんな風に大声で叫べばきっと……)
「ぺネちゃーーーん」
「はーーーい!! ってあれれ???」
ペネムエは、自分を呼ぶ声に大きな声に反応し返事をしたが、状況がおかしいことに気が付いた。
翔矢の姿が、結界の外にハッキリ見える。
結界は視界には影響しないので翔矢からもこちらが見えているはずだ。
だが問題はそこではない。翔矢が目に見える所までたどり着いている。
ノーマジカルの人間が魔法石に気が付けるとは思えないし、見つけたところで対処できる訳がない。
「馬鹿な……いったいどうやって……」
リールも驚いていいる。
2人が呆気にとられている内に翔矢が結界の手前までやってきた。
「どうやってって……はぁはぁ……走って?」
リールの声が聞こえていたようで、翔矢は『どうやって』ここに来たのか答えた。
よほど急いだのかかなり息が荒い。
「ぺネちゃん、凍ってる!! てか血!! 血!!」
質問には流れで普通に答えてしまったが、状況を確認するとペネムエの服は血に染まっていて体も半分以上が凍っている。
異様な光景に動揺してしまい声が震えた。
「ご心配ありがとうございます。
服は汚れてしまっていますが、傷はポーションで回復しております。
氷も耐性がありますので問題ありません」
「やっぱりポーションとかあるんだな。
よく分からないけど一応無事ならよかった……」
「ところで翔矢様」
「なに?」
「すでに効果は弱まっていますが、この氷は新たに触れた物を凍らせる性質があるので、触れるのは危険ですよ」
「ちょっと、そういうの早めに言って!!」
氷に直接は触れてなかったが、足元を見ると靴が凍っている。
慌てて、氷のない場所に移動して、地面を足で蹴り靴に付着した氷を砕いた。
「ちょっと!!私を無視するんじゃないわよ!!」
今度は、こちらも凍ったまま身動きが取れないリールが口を開いた。
「あの子は?」
「彼女はリール……女神アテナ様から派遣された天使です」
「そう私こそが君をマキシムへ異世界転生させるために、アテナ様より派遣された超天才天使のリールよ!!」
「いや、その状態でドヤ顔されてもなぁ」
リールはドヤ顔で自己紹介したが、ペネムエと同じく体のほとんどが凍っている。
超天才などと言われても、説得力の欠片もない。
翔矢はリールの事を見て、ある事に気が付いた。
「あれ……君確か、天道ユリアのサイン会に来てなかったっけ?」
「ふふふ、あの一瞬の出来事を覚えているなんて、さすが転生者に選ばれるだけの事はあるわね!!」
「……いやその服装は一度見たら忘れませんわー」
リールの服装は、かなり露出が多い。
アニメとかなら、ありそうな感じだが実際見てみると目のやり場に困る。
「こっちの世界じゃあ見慣れないかもしれないけど、他の世界じゃ普通よ普通!!」
「そういうもんなのかー」
「いえ、普通じゃないです。
リールも他の世界の服装が誤解されるような言い方しないでください!!」
「えっ? いやでもホーリージュラフの生地は加工が難しいし、これくらいの布地が限界よ!?」
今までで一番強い口調で注意したペネムエに対して、リールは驚いた様子で反論する。
「そいいう生地を使用する服の場合は、上から何か普通の服を羽織るのが普通でございます」
「さささ流石、成績トップで天界学校を卒業しただけの事はあるわね。
できれば早く教えて欲しかったわ」
「誰でも気が付きますよ……
人のファッションに口を出すのはどうかと思いましたので言った事ありませんでしたが」
また驚いた様子のリールにペネムエは呆れた様子で答える。
「私は性能重視なだけよーーー
どこの世界にこんな肌出す服を好む女がいるのよーーー」
とリールは嘆いたが、翔矢と目があったので咳ばらいをした後話を切り替えた。
「宮本翔矢君。ここに来る途中の崖の所に地雷を仕掛けて崖崩れで君をマキシムに送るつもりだったんだけど、何故君は無事なのかしら?」
「地雷? こわっ!!……いやでも崖は確かに通ったけど、何事もなくここに来たぞ」
(……不発?いやありえない。
人物認証の術式がかかってるから、ほっといても他人を巻き込む事はないけど、早く状況を確認したいわね……)
「宮本翔矢君。今日はもう私に作戦はないわ。降参よ降参。
だから氷を溶かしてくれないかしら?」
「うーーーん。まぁいいかな。
こんな危ない氷ほっとけないし、ぺネちゃんもこのままにしとけないし」
「翔矢様、実はわたくしとリールは友達なのです。
そこを何とか助けて……ってよろしいのですか?
一応は命を狙われているんですよ?」
翔矢が断ると思っていたぺネムエは、リールを助けてもらえるよう自分からも頼んだが、リールを助けると言っていることに気が付き驚き思わず再確認してしまった。
「この子を助けるっていうか、まぁ氷ほっとけないし……
身動き取れないうえに、あんな服装の子を山に放置しておくのは気が引ける……」
「そうそう人払いの結界も絶対じゃないし、天使は人間受けのいい見た目だから、変質者にでも見つかったら……」
リールの顔が一気に青ざめた。
「お願いします。助けてください」
身動きは取れないので土下座はしてないが、動けたら土下座している勢いでリールは頼み込んだ。
「だから助けるって……どうすればいいんだ?」
「まずブリューナクを抜かなければなりませんね。わたくしの道具はポーチが凍って使えないのでリール何か持っていませんか?」
「超天才の私に抜かりはないわ。式神ちゃんよろしく!!」
リールの指示で魔法の絨毯に乗った式神が翔矢の前に現れ、手袋とスライム状のジェルさらに本をを取り出し翔矢に渡した。
「氷耐性のジェルと手袋ですね。ジュエルは靴に塗って手袋はそのままはめて下さいまし」
(リールって子の道具なのにぺネちゃんが説明するのか……)
翔矢は言われた通り準備を進めた。
「ブリューナクってあの刺さってる槍のこと?」
「そうです。氷対策をしても相当な冷たさなので触れるのは、こちらの世界で言う『3秒ルール』を心掛けてくださいまし」
「こわ……まぁ引っこ抜くだけなら3秒で十分か」
翔矢はブリューナクのある方にゆっくりと近づいていく。
ジェルを塗った靴は最初は凍っていなかったが、近づくにつれ少しづつ凍ってきた。
急がないとやばいと思い急いでブリューナクとやらを引っこ抜いた。
見た目より軽かったのでより、すぐに抜くことができた。
しかし、あまりもの冷たさに触れていられず地面に落としてしまった。
3秒ルールとか注意されなくてもこんなの3秒も持っていられない冷たさだった。
(氷に強い手袋を付けてこれか……)
「ありがと。これで氷は普通の氷になったから、あとはその本を開いて魔法を使うのよ!!」
「おぉ!! 本使うの魔法っぽい!!」
今までも魔法はいくつか見てきたが、自分で魔法を発動させるというのは興奮する。
「ちょっと待ってください。その魔本には何の魔法が入っているんですか?」
本を開こうとした翔矢をペネムエが静止してリールに訊ねる。
「超天才の私のとっておきの魔法『ワールド・エンド・インフェルノ』を保存してあるわ!!」
とリールが得意げに話した。
「何考えてるんですか!! 氷どころかわたくしたちまで溶けてしまいますよ!!
山にいる全員を転生させる気ですか?」
ペネムエは魔法の名前を聞くと血相を変えて怒鳴った。
これを使ったらヤバそうなのは魔法の名前を聞いただけで翔矢にも分かった。
「ブリューナクを抜いてしまえばただの氷ですので、そこまでしなくても溶かせますよ!!
他に何かないんですか!?」
「うーーーーん……『あったかーい杖』ならあるわ」
「それ最適じゃないですか!! そういうのでいいんですよ!!」
式神が今度は20センチほどの杖を取出し翔矢に手渡した。
「それ振るとあったかーい空気を生み出せるのよ!!」
(あったかーいって自販機の飲み物みたいだな……何度くらいか分からないがとりあえずやってみよう)
何かあるといけないのでリールの方に向かって勢いよく振ってみた。
するとリールの体の氷は溶けず頭上に大量の氷柱が降ってきた。
「ちょっと……殺す気かしら?」
氷柱は奇跡的にリールには当たらず、体の外側を囲むように地面に突き刺さっている、
どうやらあったかーい空気は、狙いを外れて氷の塊に当たりそれが溶けて氷柱として振ってきたようだ。
「わっ悪い悪い。空気とか目に見えないし狙いが分からん」
自分の命を狙ってる相手から殺す気かと怒られるのは、おかしい気がしないでもなかったが決して狙ったわけではないので申し訳ないと思った。
「初めての魔法なので仕方がないですよ。
翔矢様もっと近くで使ってみてください」
ぺネムエに言われたのでリールの方に近寄りもう一度振ってみることにした。
あったかーい空気は、あくまで空気なので目には見えないが、恐らく杖の先端から出ているのは間違いないだろう。
魔法の杖は、何となくそんなイメージがあった。
さっきは勢いで振ってしまったが今度は考えてから慎重に降る事にしよう。
「チチンプイプイ!!」
「慎重に考えた結果なんでそんなクソダサい呪文が出てくるのよ!!」
リールには翔矢があったかーい杖を振るまでの思考が聞こえて来ていた。
ぺネムエがいるときは多少のコントロールはできていると思うが他の相手だと意識が薄れてしまった。
「こっこっちの世界で魔法と言えばこれなんだよ!!
助かったんだからいいだろ!!」
今までの心の声を聴かれていた恥ずかしさと勢いで呪文を言った恥ずかしさで、翔矢は少し大きな声を出してしまった。
何はともあれリールの氷は、そんなことを話しているうちに溶けていた。
氷が解けた後の水を蒸発させるほどの熱ではなかったので、リールの体はびしょ濡れで色っぽいことになってたりもするが、あまり考えすぎると心の声を聞かれてしまうので意識しないよう目を背ける。
「はっくしゅん……まだ寒いけどまぁ助かったわ……礼を言うわ。
ところで天使って任務中は人間の世話になって生活することになってるんだけど、ペネムエはあなたの家に住んでるのよね?」
「……そうだけど?」
急に話題を変えてきた質問に正直に答えた。
隠す事でも無さそうだが唐突だったので、なぜ今聞いて来たのかと少し首を傾げた。
「まぁそうよね……一緒に住んでて自分を護ってくれてる相手より私を先に助けるなんて馬鹿じゃない?
こういうことになるって想像もしないわけ? それともやっぱり異世界転生したいのかしら?」
リールはサーベルを取出し翔矢の喉元数ミリの所に突きつけてきた。
「リールやめてください!!」
ペネムエの叫びが空海山に響く。
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