表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
217/285

203話:恨みから反撃が始まりそうです

 睨み会う翔矢とボロボロの男、最初に動いたのはボロボロの男だった。

 フュージョントリガーからテニスボール程の大きさの光弾が次々に放たれる。

 しかし翔矢は一歩も動かず、背中の赤・青・銀の3色からなるマントを大きく広げ、全て防いでみせる。


 

 「何かで防いでるのか? 効いてないみたいだな。

 魔力の匂いが、とんでもなく臭いだけの事はある」



 目の見えない鷹野は、状況を半分も理解できていないようだ。

 それでも、翔矢の実力が桁違いであり、今の攻撃では掠り傷1つ与えられないと察した。



 「マジで目が見えないのに、俺の方を正確に狙ってるのかよ……こわっ」


 「俺に言わせれば、全弾喰らって、無傷のお前の方がよっぽどこえぇよ。

 恐竜は追い払うのが限界だったが、能力者の女やらデカい天使なら、1発で殺せる威力だぞ!?」



 その言葉と、浴びて間もないであろう返り血で、翔矢は全てを察した。



 「おい……まさか……」


 「あぁ? 今来たばっかだもんな、状況聞く暇も無かったか?」



 そこから先は、ペネムエにポーションを飲まされ横になっている鈴が答えた。


 

 「そいつに……鷹野に、シックスさんもワルパさんもやられたんだ!!」



 まだ立てる程の体力も戻っていないはずの鈴は、大きく声を張り必死に伝えるべき事を伝える。


 

 「やっぱり、そういう事かよ……」


 「ちょっと待って下さい、鷹野という名前……

 以前わたくしが、北風エネルギーにさらわれた時の実行犯の名前」


 「え?」



 ペネムエの言葉に気を取られ、翔矢の怒りは、ほんの少しだけ表から消えた。



 「あ? どっかで聞いた声だと思ったが、お前あの時の銀髪かよ?

 って事は、今俺が戦ってるのは……宮本翔矢か?」


 「あぁ」


 

 翔矢の返事を聞くなり、鷹野は、腹を抱え高笑いをする。



 「何が可笑しいんだ?」


 「いやいや……嬉しくてついなぁ!!

 俺が一番恨んでる奴らがホイホイ現れるとはなぁ!!」


 

 鷹野は、巨大な光弾を躊躇する事無く連射する。

 翔矢はマントで体を覆い防いでいるが、体は1発受けるごとに後ろに下がっていく。

 少し振り向き後方を確認すると、まだ動けない鈴とシフィンを治療しているペネムエとの距離が見る見る近くなっていく。

 翔矢がダメージを受ける事は無くても、このままではいずれ、3人が攻撃に巻き込まれてしまうのは明らかだ。


 

 「ははは!! どんなに強くても、周りが足引っ張りばっかりじゃ意味ねぇな!!」


 「ぺネちゃん達は……足手まといなんかじゃねぇよ!!」


 

 これ以上、下がってはいよいよマズイというタイミングで、翔矢は光弾を拳で破壊しながら前進するという戦術に切り替えた。

 コネクトリニティの速度は、人間が銃の引き金を引く速度を、超えて移動できる。

 鷹野が、光弾を2発も放たない間に、翔矢は彼の目の前に来ていた。



 「なに!?」


 「悪いな、コネクトリニティは、手に入れたばかりの力で、使い慣れてないんだ。

 防御も速度も十分だと、どう動いていいか迷ってただけだよ!!」



 翔矢の右手から放たれた鉄拳は、鷹野の頬を捕えた。

 鷹野は地面を勢いよく転がり、岩盤に直撃する。


 

 「俺やぺネちゃんの事を恨むのはかってだけど……ワルパのおっさんもシックスさんも無関係だろ!?」



 そう言い放ったものの鷹野の体は生身のはず、今の一撃で気絶しただろうと翔矢は確信していた。

 しかし鷹野は、岩盤に掴まりながらではあるが立ち上がって来たのだ。


 

 「無関係だと!? お前らと戦ったせいで俺の親友は……

 虎谷と八田は昏睡状態だ!!」


 「あの2人が?」


 「あぁ、人工魔力の過剰な投与のせいでな

 俺は運よく目を覚ましたがな」



 翔矢は北風エネルギー六香穂支部での戦いを思い出した。

 3人はドクターにより無理やり人工魔力を投与され、特に八田は人の姿とは思えない変化をしていた。



 「それなら恨むならドクターのオッサンだろ?

 そもそもワルパのオッサンとシックスさんは完全に無関係だ」


 「ドクターは言った、2人は大量の魔力を集められれば意識を取り戻すと。

 フュージョントリガーは倒した奴の魔力を、別の場所に転送できるのさ」


 「そこまで分かってるなら……ここにはゴブリンとかもいるだろ?」


 「あんなの1000匹倒しても、天使1匹にすら全く及ばないはず。

 能力者も魔力の量はソコソコだし、弱いんでコスパ良いと思ったんだがな」


 「自分の……友達を助けれれば、何だっていいのか?

 ドクターのオッサンはともかく、蓮のオッサンは、こんなの認めてるのかよ……」


 

 翔矢は怒りで拳を強く握り、その右手に爪が食い込み血が滴り落ちる。



 「俺がドクターに頼まれたのは、フュージョントリガーでの実戦。

 それと、ここ“ザ・ホール”の調査だ、って言っても彷徨ってるだけでデータは取れるらしい。

 お喋りはもう良いだろ? 怒り任せに戦いたいのは、お互い様だろうしな」



 鷹野は2つの魔法石をフュージョントリガーにセットした。



 【イーグル×ケルベロス・フュージョン】



 魔法陣が鷹野の体を包み込み、鷹の翼の生えたケルベロスの怪人へと姿を変えた。



 「転生教ファーストの使ってた武器の改良版だもんな。

 変身機能は付いてるって予想済みだ、かかってこいよ?

 今の俺に勝てると思うならな」


 「ちょっと優勢だからってイキッてるんじゃねぇぞ?」



 次の瞬間、鷹野は人間の目では追えない速度で移動しペネムエですら、大まかな居場所を把握するのが精いっぱいだった。

 しかし、翔矢の拳は、鷹野の顔面を正確に捉え、再びその体を吹き飛ばす。



 「ちくしょう!! ちくしょう!! ちくしょう!!」



 鷹野のダメージは重症と言えるようなものではない。

 しかし、彼に勝ち目はないと自覚させるには十分だった。


 

 「魔力を集めるのなら、俺と戦う必要はないはずだ。

 ここには魔物も沢山いるみたいだしな。

 ワルパさんやシックスさんの事は絶対に許さない……

 けど必要な魔力を集めるまでは見逃してやる」


 「見逃してやるだ!? ふざけるな!!

 虎谷も八田も、俺にとっちゃガキの頃からの大事なダチだ。

 普通は大人になれば、疎遠になったりする。

 だが3人そろって、同じ会社に就職できて幸せだった……

 それを!! 魔法って奴は、全部奪いやがったんだ!!」


 

 鷹野は猛スピードで、再び翔矢に攻撃を仕掛ける。

 ケルベロスの鋭い爪が、何度も翔矢の体を捉え始める。

 コネクトリニティの力の前では、傷も付かない攻撃のはずだ。

 だが、その一撃ごとに威力も速度も増している。



 「翔矢様のコネクトリニティが押され始めている?」


 「……妙ね」


 「鈴様、まだ動ける状態では……」


 「平気よ、普通の人間とは鍛え方が違うもの。

 それよりシフィンは?」


 「気は失っていますが、十分なポーションを吸収させる事は出来ました。

 後はシフィン様の回復力に賭ける他ありません」


 「よかった……それより、私と戦った時、鷹野は変身は10秒が限度と言っていたわ」


 「10秒? とっくに過ぎていますよ?」


 「嘘を付いているようには見えなかった……

 ドクターの発明だし、何か特殊な仕掛けがあるのかも」


 「わたくしが行っても、今の翔矢様の力になれるとは……」


 「そんな理屈じゃないわ、行ってあげなさい。

 飛んで来た火の粉を払うくらいの体力は回復してるから。

 シフィンも私に任せて!!」


 「恩に着ます!!」



 ぺネムエは、この場を鈴に任せ、翔矢の方へ駆け寄る。

 こうしている間にも、鷹野の攻撃の激しさが増しているのがわかる。

 ペネムエの目には、何かが高速で動いている事しか分からない。

 しかし、翔矢の目には見えているのか、マントを広げ的確に攻撃を防いでいるようだ。

 それでも反撃するタイミングは見当たらないのか防戦一方だ。



 「来たは良いものの、やはりわたくし程度では、入る隙がない……」



 一歩間違えば、自分も危険に晒されるばかりか、ただの足手まといに成りかねない状況。

 すぐにでも翔矢の元に行きたい気持ちを抑え、ペネムエは周囲を観察する。

 すると、周囲岩盤かと思っていた物が何らかの人工物、建物である事に気が付いた。



 「これは……かなり風化していますが、鉄筋の建物?

 恐竜がいるような空間に何故? ……と考えている場合ではありません。

 翔矢様!! この辺り一帯の岩盤に見える物、説明は省略しますが鉄が含まれております!!」



 ペネムエの方に視線を向ける余裕は無かったが、翔矢はうなずいた。

 それと同時に、この一帯の岩盤が液体金属へと変わり、ドロドロと溶け出す。

 


 「何だ? 何が起こっている?」


 「その姿になれば、目は見えてるのか?

 地の利って奴だ、あんたが、どんなに早く動けても、もう関係ない!!」



 鷹野は翔矢から逃げるように、高速で距離を取る。

 だが、もはや速く動く事に意味は無い。

 逃げた先の岩盤も、液体金属へと変わり、津波のように鷹野を飲みこんだ。



 「ちくしょう!! ちくしょう!!」



 首から下は金属で固められ、いくらもがいた所で、脱出は不可能。



 「勝負あったな」


 「翔矢様、お見事です!!」


 「とりあえず、今は敵じゃなくて良かったと思っているわ」


 「翔矢っち、強すぎ……ウチが魔法使えても手も足も出ないかも……」



 決着を付けた翔矢の元に、ペネムエだけでなく、鈴とシフィンも駆けつけて来た。

 


 「2人とも、もう動いて大丈夫なの?」


 「私は、元々ダメージを受けて倒れてた訳じゃないし」


 「ウチも何とか復活、ペネっちのポーションのお陰?」


 「転生教との戦いは、激しかったので、今後の為にと最高級品を用意しておきました。

 A級天使に昇格してから、支給金も上がりましたので」


 

 2人が無事を確認すると、翔矢の表情は少しだけ緩んだ。

 しかし、すぐにワルパとシックスの事を思い、複雑な気持ちになる。



 「おい、本当にワルパさんとシックスさんは……」


 「この俺が、あんな雑魚を仕留め損ねる訳ないだろ?」


 

 その返答に、翔矢は獣のような剣幕で鷹野にせまり、拘束されたままの彼の胸ぐらを掴んだ。

 エネルギーが切れたのか、鷹野は人間の姿に戻ってしまっている。



 「雑魚に雑魚って言って何が悪いんだ?

 能力者ってのは当たりハズレがあるだろうし、まぁ仕方ない。

 だけどよぉ、天使の方はデカいだけで、殺しても魔力はちっとも溜まらなかった。

 やっぱり、そこの銀髪みたいなのを殺さないと、魔力は集まらないのかねぇ?」



 翔矢は、自身の感情を抑えきれなくなっていた。

 すでに相当なダメージを受け、人の姿に戻ってしまった鷹野。

 拘束までさえている彼が今の翔矢から一撃を受ければ命の保証はできない。


 

 「翔矢様!!」



 ペネムエは、翔矢の背中を後ろから必死に抱きしめるように彼を止める。



 「ペネちゃん?」


 「わたくしも、コイツの事は許せません!!

 しかし……翔矢様に“それ以上の事”をして欲しくありません」



 ペネムエの涙が、翔矢の背に伝わってくる。

 鷹野の事は絶対に許せない、しかし、それ以上にこの涙を裏切れば、自分の事も許せなくなる。

 翔矢は深呼吸し気持ちを落ち着かせると、ペネムエの頭をポンと撫でるのだった。

 ここまで読んで下さりありがとうございます。


 ストーリは一生懸命練って執筆しております。


 少しでも続きが気になったらブクマ登録して頂けると励みになります。


 下の星から評価も、面白いと感じたら、入れてくださると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ