201話:ジャンプから襲来が始まりそうです
魔力の持ち主の方向が分かる羅針盤で、ワルパを追っていた翔矢と鈴。
しかし氷原進んでいる途中、その針は方向を見失ってしまった。
「俺が壊しちゃった……って方が申し訳ないけど安心は出来るんですけど」
「ドクター曰くゾウが踏んでも壊れないらしいわ。
ちょっと落としたくらいじゃ壊れないわ、残念だけど」
「……どっち道、追跡は厳しい訳だしペネちゃんに連絡してみるよ」
翔矢は再び通信用の魔法石でペネムエに連絡をする。
『翔矢様、どうかなさいました?』
「実はウンヌンカンヌンで」
『ワルパ様の魔力が追えなくなった?
機器の故障でないとなると……最悪の事態を覚悟しなければいけません』
「ワルパのオッサンは、もちろん心配だけど、俺と鈴さんじゃ、これ以上追跡出来ないのが一番問題で、辺り一面氷原で、方向も全く分からない」
『なるほど、鈴様、その羅針盤とやら、わたくしの魔力も追えますか?』
「うん、登録はしてあるわ」
『であれば予定を変更し合流しましょう、翔矢様には、それまでファイターの発動と維持をお願いしたいです。
わたくしも、その魔力を感じ、お互いに向かえば、そこまで長い時間をかけずに合流できるかと』
「了解、ぺネちゃんとシフィンさんも、何あるか分からない空間だから気を付けて」
『分かりました、翔矢様もお気を付けて』
『ペネっち!! 置いていかないで!!』
魔法石から聞こえる2人の元気そうな声にひとまず安心する。
最悪の場合も覚悟しなければならないという事は、最悪の場合以外の可能性も十分に有り得るという事だ。
「という話でして、ペネちゃんの魔力を追って下さい」
「もうやってるわ……反対方向……
プテラに攫われたから同じ方向だと思ったのに、来た道を戻るのね」
鈴はガックリと肩を落とす。
「また、おぶさります?」
「それは勘弁願いたいわ」
「アクセルと違ってファイターなら極端な速度は出ないですよ?」
「何かに襲われた時、2人とも身動きが取れない状況はマズイわ」
「なるほど」
翔矢が納得した所で、2人はペネムエの魔力を追って歩き出す。
アクセルで、相当な距離を進んでしまったのか、10分程度歩いても、ペネムエの方へ近づいているという実感は得られなかった。
「はぁ……はぁ……」
「鈴さん、急いでも仕方ないですし休みますか?」
「余計な心配しないで、宮本翔矢こそ、ファイターを長い時間使って平気なの?」
「今の所は何ともないです、戦ったりしなければ体への負担少ないんですかね?」
「私に聞かれても……」
口ではそう言ったものの、鈴は翔矢は強くなりすぎていると感じた。
それも魔力と関係ない別の何かが強くなっているような印象だ。
大した会話が他にないまま、さらに数十分歩くと、氷原地帯から岩盤の多い地帯に辿りついた。
「やった!! 寒くて凍え死ぬかと思ったけど、ここまで来れば安心」
「ヘックシュン、いや、エリアが変わった瞬間、元気になり過ぎじゃない?
私は今になって、我慢してた反動が来たわ」
「実はファイター使ってる間は、そんなに寒くなかったんですよね。
もっと早く発動しておけば良かったな」
後ろを振り返ると、やはり氷原は全く見えない。
「寒い風とかも来ないわね」
「そうだ、この状態で俺だけ氷原に戻ったらどうなるんだろ?」
「なるほど、今回はエリアの境目は把握してるものね」
「ヨイショ」
翔矢は立ち幅跳びのような動作で氷原の方角にジャンプした。
ファイターは発動したままなので、オリンピック選手の記録を軽く超えるような大ジャンプだ。
「予想はしてたけど、やっぱり姿は見えなくなるのね」
目で追えないような速度で飛んで行った訳でも、見えなくなるような距離を飛んだ訳でも無い。
それでも、ある瞬間から鈴の視界から翔矢の姿は消えた。
とはいえ今までいた氷原に戻っただけである事は明白。
さらに言えば自分よりも強いであろう翔矢の心配はしない。
だが、翔矢が戻って来ないまま、1分ほど時間が過ぎた。
ジャンプでの移動距離を考えれば、とっくに戻って来ても良いはずだ。
「まさか……迷った?」
そんな不安を感じた鈴の後方から、誰かの近寄る足音が聞こえ振り返る。
「鈴様、どうなさいました?」
「ペネっち待って!!」
足音の主はペネムエと少し遅れてシフィンだった。
2人の姿に鈴はホッと一安心する。
「ペネムエ、シフィン、思ったより早く合流できて良かったわ。
実はウンヌンカンヌン」
「なるほど、翔矢様なら心配ないでしょうが、ただ待っているくらいでしたら、わたくしが行って見て来ます、迷ってしまった可能性が一番高いですし」
「そう? なら一緒に行動した方がいいわね」
「待って!! ウチもう歩きたくない!! 恐竜やらいる場所で1人にもなりたくない!!」
「ワガママギャル……」
シフィンは抗議の意味でか、地面に寝転がり手足をバタバタしている。
彼女のスカートは短いので、派手目の下着が見えてしまっているが、男性陣がいないのもあってか、お構いなしだ。
「シフィン様、少しは状況を考えて頂きたいのですが……
仕方ありません、鈴様はシフィン様をお願いします。
この先が氷原ならば、寒さに耐性のある、わたくし1人で問題ないかと」
「分かったわ」
「ペネっち気を付けてー」
シフィンの態度に、流石のペネムエもイラッとしてしまったが、言葉を飲みこみ翔矢が飛んで行ったという氷原の方向に向かう。
鈴から聞いた通り、特定の場所を超えると、ゲームのステージが切り替わるように、今までいた岩盤地帯から氷原へと変わった。
「これは……特殊な魔力も感じないのに、どういう原理でしょう?
すぐ後ろにいるはずの、シフィン様の魔力が遠くに感じられる。
そして向こうの声なども聞こえないようですね。
っと翔矢様を探しませんと、こんな見通しの良い場所で、時間も経ってないのに、いったいドコへ?」
所々、氷の柱や低い氷山はあるが、どれもペネムエの背丈にも満たない。
ここで人を探すのは、そう難しくないだろうと思っていた。
「ダメです……パッと見では見つけられません。
そうでした!! 翔矢様は、ファイターを使用したままのはず。
その魔力をたどれば」
目を瞑り神経を集中させると、翔矢の位置は、すぐそこに感じられた。
「え? この距離で見つからないって事あります?」
「その声!! ぺネちゃん!?」
「翔矢様!? 申し訳ありません、声は聞こえているですが……」
改めて目視で周囲を確認すると、今まで低い氷山だと思っていたモノが不自然に動き出した。
「え? まさか?」
氷山を手で少し削ると、紛れもない翔矢のジーパンが目に見えた。
「翔矢様、いったい何が!?」
「ファイターでジャンプしたら頭から氷山に刺さった。
その後、ゲリラ吹雪が……」
「ゲリラ吹雪ってあまり聞かないですね」
「いいから抜いて……ファイターでも出れない」
「そんな事あります? では失礼して……」
ペネムエは翔矢の脚を両脇に挟んで引っ張り上げる。
しかしファイターで抜けないというだけあってビクともしない。
「翔矢様、どうやって頭入ったんですか?」
「あはは……面目ない」
余りにも見事なハマりっぷりに、2人は途方に暮れるのだった。
***
「翔矢っちも、ペネっちも来ないね」
「この空間が、どうなっているのか私にも分からない。
もしかしたらジャンプの拍子に別の空間に飛んだか。
それか……」
「それか?」
「何かとんでもないバカをやったかどっちかでしょうね」
「この状況で、そんな訳……」
「そんな訳?」
「無いとは言い切れないわね」
今は実力のある翔矢とペネムエよりも、ワルパとシックスの行方の方が深刻だろう。
まさか本当にバカな事をやっているのかと疑いはしているが、氷原に向かう気にはなれなかった。
「あと5分、いえ10分待って来なかったら動くことにするわ」
「ウチ寒いの苦手だから、この辺でワルパのおっさん探す方がいい」
「じゃあ、そうしましょう」
そのまま待つこと約7分、少し痺れを切らしてきた所で、後ろから足音が聞こえる。
方向からして翔矢とペネムエではない。
「ワルパのおっさ……」
「シックスさ……」
2人が無事だったという希望は、揺らいでしまう事になる。
目の前に現れたのは、ボロボロのスーツに口元が血だらけの男。
シフィンは、その男が視界に入った瞬間、鈴の後ろに隠れる。
「くせぇ魔力の匂い……
1匹は……さっきのデカブツと同じウィザリアンだな……
もう1人は……魔法の道具ってのを持ってるなぁ?」
「こっこの人……目が見えてなっぽい?」
「医者だけあって、そういう所には目が行くのね。
でも、問題はソコじゃないわ」
「え?」
「この男は血まみれ、そして大きいオジサンの事を知っているような口ぶり」
「ちょ……まさか……」
すでに鈴は臨戦態勢、シフィンは後ろの岩盤の陰に隠れた。
「あぁ……ウィザリアンのデカいのと能力者の女の知り合いか?
あの2匹なら、少し前に殺しちまったぞ?」
「……大きいオジサンとも、シックスさんとも、そこまで長い付き合いじゃない。
目の前で見てないから実感も湧かないけど……怒りに燃えるってこういう事なのね」
鈴は、一瞬でボロボロの男の間合いに入り、ハンマーの一撃をお見舞いした。
「おぉ!! やるじゃねぇか!! この攻撃……
北風エネルギー本社の雑賀鈴か?」
「私を知ってるの?」
ボロボロの男はすぐに殴り掛かろうとしたが、鈴は後ろに飛び回避し、そのまま話を続ける。
「自分の会社の本社の有名人くらいわな?
オンラインで会議なら、一緒にしたことあるぜ?」
ボロボロの男が、ポケットから腕章のようなものを取り出し投げつける。
地面に落ちた、それは、男のようにボロボロで字は擦れていたが“鷹野”という名字だけは読めた。
「ずいぶん今と違うけど……あなた本人?」
「あぁ、って言っても転生教の事件の後、ずっとここにいたからなぁ。
視力は、ここに来る前に色々あって失ったが、それ差し引いても見た目も性格も変わっちまう」
「とりあえず……拘束して後で事情を聞かせてもらうわ」
「出来るかな? 本社だからって勝てるとは限らないぜ!?」
鈴と鷹野は再び睨みあうのだった。
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