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200話:刺客からフュージョンが始まりそうです

 岩盤に囲まれた土地に迷い込んだと思われたワルパとシックス。

 だがこの場所は、人が消え何百年かが経過したかのような東京だった。


 

 「これは一体どういう事でゴワスか?」


 「このビルの文字……読みにくくなってるけど間違いありません。

 私が良く行くショップの入ったビルです」


 「つまり……知らぬ間に東京と言う土地が崩壊っしてしまったと」


 「そんな訳ありません、世界的大事件ですよ。

 ここって……アニメとかで良く見るパラレルワールドなんじゃ?」


 「パラレルワールド?」



 その言葉にワルパは大きく首を傾げた。

 天界から来た彼が、その概念すら知らないような反応はシックスにとって意外だった。

 彼女は、創作におけるパラレルワールドを知っている限り説明した。



 「なるほど、もしもの数だけ世界は存在すると」


 「まぁザックリ言うと、私もアニメとか詳しくはないんだけど」


 「ワシらでいう“確定予知”みたいなものでゴワスな」


 「そっちの方が知らないんですけど」


 「女神アルマ様は、特定の条件下で100%の制度の未来予知が可能でゴワス」


 「100%? やっぱり異世界って凄いのね」


 「だが、これには矛盾とジレンマがあってな。

 例えば『今日あなたの夕食はラーメンです』という予言があったとする。

 この予言、教えさえしなければ、夕飯はラーメンになっていたであろう。

 しかし予言をひねくれ者が聞いてしまったら?」


 「ラーメン以外を食べればいいだけですね」


 「その通り、100%起こるはずだった未来。

 未来ではあるが、確定しているのならば、存在したと同じという考え方もある」


 「まぁ分かるような分からないような」


 「確実に存在したのに消えてしまったラーメンを食べていた世界。

 それが、このパラレルワールドやもしれん」


 「なんか話が分からないのと、ラーメンがいっぱい出て来たので、お腹が空いてきました」


 「ワシもじゃ」



 2人のお腹がグーと同時に鳴り、シックスの方は顔を赤く染める。


 

 「食料は持ってきておらんでの、しばしの信望じゃ」


 「大人だし、これくらい我慢できるわ!!」



 そんな話をしているとワルパの笑い声にまぎれ、誰かの足音が聞こえてくる。

 獣などではなく、人間の足音であると、2人は何となく思った。



 「鈴先輩!?」


 「シックス殿、待たれよ!! 先ほどのプテラへの攻撃を忘れたか!?」



 足音の方へと向かおうとしたシックスの服を引っ張り、その動きを止めた。

 だが足音の主は、先ほどの声を聴いていたのか、すでにこちらに気が付いていた。

 風化しきったビルとビルの隙間から、ボロボロに汚れきった1人の男が現れる。

 ボサボサの頭に髭、服装はスーツだと思われるが、破けた上に汚れており原型はない。



 「誰かいるのか?……2人だな。

 くせぇ……魔力の匂いがプンプンするぜ」


 「何を言っているの?」


 「静かに、この男は恐らく目が見えておらぬ。

 音や魔力を頼りに動いている、しかし只ならぬ殺気。

 シックス殿は、静かに出来るだけ遠くに逃げられよ。

 魔力を頼りにしているならば、ワシが引き付けられるはずでゴワス」


 

 シックスは大きく頷き、焦りながらも静かに後ろに下がっていく。



 「逃がさねぇ、雑魚みたいな魔力でもな」


 「なっ……」



 ボロボロの男の手元から何かが放たれた。

 そのスピードにワルパの目では、それ以上の事は分からなかった。



 「シックス殿!!」


 

 ワルパが振り向くと、そこにあったのは首が無くなったシックスの体だった。

 噴き出す血で風化したビルは赤く染まってしまった。



 「そんな……しかしシックス殿に魔力は……」



 そこまで口にした所で、彼女は転生教の元幹部であり能力者だった事を思い出した。

 ドクターにより、能力は封じられていたという話だが、能力そのものは残っており、微弱な魔力は持っていたのだ。



 「血の匂いはいい……臭くてたまらない魔力の匂いを掻き消してくれる」


 「ぐっ……」


 

 シックスの死を後悔も悲しむ間もなく、ワルパは大剣を構える。



 (何なのだこの男……魔力を感じない……

 ノーマジカルの人間なのか? であれば先ほどの術は……)


 「あぁ……やっちまった、血の匂いで魔力の匂いがわかんねぇ。

 魔力が臭いからって、すぐ血で洗おうとするのは悪い癖だなぁ」

 

 (周囲の様子を音で判断しているのかと思ったが匂いか……

 小声とはいえシックス殿と話して無反応はおかしいと思ったでゴワス……

 この男と……まともに戦っても命はない)



 ワルパはポケットから小さな玉を取り出した。

 それを地面に叩きつけると、周囲は一瞬で白い煙幕に包まれる。



 「ゲホッゲホッなんだこれ……くせぇ」


 「魔物の体液の魔力を凝縮した煙幕でゴワス。

 人間でも鼻を少しはやられる異臭、鼻の良い貴様には辛かろう。」



 ワルパは全速力で、この場を立ち去ろうとした。

 視界が煙で悪い中、気配でシックスの亡骸とすれ違ったのが分かる。


 

 「すまぬ……すまぬ……」



 自分の不甲斐なさを責める事しか出来ず、振り向かぬよう、無意識にその歩みはいっそのこと早くなる。



 「悔いる必要はねぇよ、お前もすぐにそっちに行く」

 【イーグル×ケルベロス・フュージョン】


 「なっ……」



 機械的な音声と共に、目の前に現れたのは鷹の翼を持ちながらケルベロスを連想するような怪人。

 その姿に気が付いた時にはワルパの左胸に、その腕が貫通していた。

 怪人は、そのままワルパの心臓を抜き取った。


 

 「貴様……一体何なのだ……!!」


 「おいおい、このおっさん心臓取っても生きてるぜ……」


 

 怪人はワルパの心臓を下品にムシャムシャと音を立てながら喰い千切る。

 その間に、元のボロボロの男の姿に戻っていた。



 「10秒くらいしか変身出来てないぞ?

 この姿を保つの魔力の燃費悪すぎだろ……

 ドクターの野郎……最高傑作とか言ってたが、もっとこうバランスよく作れないのかよ」



 人の姿に戻ってなお、ボロボロの男は心臓を喰っている。



 「はぁ……はぁ……ドクター?

 北風エネルギーの科学者の事か?」


 「あぁ俺は鷹野、こんなナリしてるが北風エネルギーの社員だ」


 

 ワルパは、まだ命はあるものの、すでに限界を超えており声は出ない。

 しかし思考する頭は残っていた。


 鷹野と言えば、北風エネルギーで最初にペネムエに接触した3人の内の1人。

 転生教との戦いでは、都立病院で悪魔族のグミと交戦したと聞いている。

 その時もドクターの試作品である“チートリガー”という武器を使っていたはずだ。


 だが今、目の前にいる鷹野は聞いていた容姿とは、かけ離れている。

 使用している武器も、恐らく転生教のファーストの使っていた“フュージョンブレス”というモノ。


 武器はともかく、容姿がや性格が、かけ離れている事を説明するのは、あの言葉しかない。



 「やはり……ここはパラレルワールドなのか?」


 「悪い、苦しいよな? トドメ刺すの忘れてたわ」



 その疑問を解くことはないまま、ワルパの頭部は無残に握り潰されてしまうのだった。




 ***




 ワルパが鷹野にトドメを刺される少し前、翔矢と鈴は氷原を歩いていた。



 「寒い!! 寒い!! 日本の夏でこんな寒いを連呼する事になるなんて!!」


 「ここを日本と言っていいかは諸説だけどね」



 翔矢はブルブルと体を震わせながら歩いているが、鈴は平然としている。

 その手には羅針盤を持っており、これでワルパの魔力を追っている所だ。



 「鈴さん、よく平気だねドクターのおっさんから、温かいアイテムでももらったの?」


 「そんなモノはないわ、あったとしても夏は持ち歩かない。

 こんな寒い地帯があるのも知らなかったし」


 「寒さに強いんだね」


 「ペネムエを対策しようと思ってた時に我慢強くなった」


 「鈴さん意外と脳筋ですね」


 「なに笑ってるの、黙って!!」



 鈴は不機嫌になったが、翔矢は彼女の“対策しようと思って”という言葉が少し嬉しかったのだ。

 無意識に出たであろう言葉、彼女はペネムエを、もう敵だとは思っていない。



 「結構歩きましたけど、まだ着かないんですかね?」


 「天使の魔力は強いから、方向は間違いないわ。

 会った人の魔力を登録できるし、別人を追っている可能性も低い。

 ただし天使の魔力が強力な分、距離は測りにくいのよ」


 「プテラってそんなに速くは飛べないと思うんですけどね。

 方向がこっちって事は追い越したって事も無いでしょうし……」


 

 ふと翔矢は鈴の羅針盤を手に取ろうとした。

 拒否する理由も無いので、鈴もそのまま羅針盤を手渡した。


 

 「方位磁石みたいに、向きを刺してるだけですもんね。

 距離分からないの、この状況だと厳しいですね」



 体をグルグル回しながら、あちこちに羅針盤を動かしても、針は同じ方向を向く。

 翔矢の動きは、初めてのおもちゃを手にした子供のように荒っぽくなる。

 


 「ちょっと、はしゃぎすぎよ!!」


 「あっ……」



 鈴の警告は時すでに遅く、羅針盤は翔矢の手をすっぽ抜け、氷原の上に叩きつけられてしまった。



 「他に手がかりは無いんだから荒っぽくしないでよ」


 「ごめんなさい」



 鈴が羅針盤を手にすると、今までとは他の方向を向いていた。



 「あれ? もしかして俺、壊しちゃった!?」


 「いいえ……これは……大きいオジサンの魔力が消えたわ」



 この状況に2人の頭には最悪の可能性が過っていたのだった。

 ここまで読んで下さりありがとうございます。


 ストーリは一生懸命練って執筆しております。


 少しでも続きが気になったらブクマ登録して頂けると励みになります。


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