198話:連れ去りから分断が始まりそうです
砂漠地帯に、突如として現れた恐竜たち。
ティラノの放った予想外のレーザーに襲われ、一行の周りには砂が嵐のように激しく舞い上がっていた。
「ゲホゲホ……皆様、ご無事ですか?」
「ウチは何とか」
「ワシも無傷でゴワス」
「鈴先輩、砂が目に入って痛いですぅ」
「シックスさんも、この程度、全員大丈夫みたいね」
「ふぅ……何とか間に合った」
視界が少し開けると、辺りは鉄の壁で守られていた。
翔矢の“コネクト・メタル”の力だ。
「あの規模で全員無傷は奇跡かと思いましたが翔矢様でした!!
申し訳ありません、砂漠地帯の暑さでブリューナクの氷の形成が遅れてしまい」
「いいよ、鉄が周りにないから不安だったけど、何とかなった」
鉄の壁は突貫工事のように作られたせいか、所々液体金属のままになっている。
それをシフィンは指ですくいペロリと舐めてしまった。
「コレ半分は、砂の中に混じってた砂鉄を変化させてるね。
見た目は液体だけど、舐めるとザラザラしてる」
「抵抗なく舐めれて、ワイルドっすね。
ちなみに残りの半分は何で出来てるか分かりますか?」
「翔矢っちの血液の中の鉄分が魔力で増幅した奴っぽい」
「え? これ俺の血だったの?
そう言えば体から溢れて止まらないんですけど、放っておいて大丈夫なんですか?」
「血を使う魔法は、いっぱいあるし、体がフラフラしなければ平気だよ!!」
「信じますよ? 信じますからね!?」
言葉の通り信じてはいるのだが、今も体からあふれ出る液体金属が全て血液だと考えると、気持ちが参ってしまう。
「まぁシフィンさんが、舐めて分析してくれるのはビックリしたけど理解はしました。
……でもぺネちゃんは、何でコップで飲んでるの?」
「砂漠の暑さで喉が渇いてしまいまして……
それと、ちょっとした習性で興奮してしまい我慢できませんでした」
「ぺネちゃんは吸血鬼かな?」
「天使です」
「いや知ってるけど、砂と血だから体壊すよ?」
「人間の胃と一緒にされては困ります!!」
「その表現の地点で、体に悪いって認めてるからね!?」
緊張感のない話しが続いていたが、恐竜が撤退した訳ではない。
鋭い角を持つトリケラが鉄の壁を目がけて突進してきた。
鉄の壁は大きく凹むが、これは翔矢のメタルの力で造られた壁。
攻撃を受けても、一瞬液体金属に戻るだけで、即座に元の形に復元される。
だがトリケラは諦める事無く、何度も突進を続ける。
「翔矢君!! この壁、本当に大丈夫なんですか?」
シックスは不安の余り翔矢の肩を掴み大きく揺らしてきた。
「たぶん……きっと……この能力使ってると、俺動けないんで、タイミング見て壁の隙間から逃げて下さい」
「翔矢様を置いては……と言いたい所ですが、今の翔矢様の実力であれば問題なさそうですね、頼みました!!」
複数枚ある壁と壁の間を縫うようにして外に出るペネムエ。
その後ろをシフィンが続いた。
「キャッ」
「マジ!?」
だが外に出た瞬間、2人の大きな声が響いた。
中に残っている4人が、一斉に振り向くが、鉄の壁のせいで状況が見えず、かと言って今は解除する訳には行かない。
「ぺネちゃん!! シフィンさん!! 無事なら返事して!!」
「無事でございます」
「ちょい!! これ無事って言う?」
2人の声は上から聞こえてきた。
見上げると、彼女たちは宙を舞うプテラの脚に頭を掴まれていた。
「ちょい!! 翔矢っち見るな!!」
「わたくしは、翔矢様であれば構いませんよー!!」
「高くて見えないし、そんな余裕ないよ!!」
2人はスカートをはいている、本当はソレが見えていたので、翔矢は目を反らした。
こうしている間もトリケラの攻撃は止む事はない。
この状況でワルパは下を向き伏せている。
「ワルパさん、どうしたんです?」
「声が聞こえた地点で、2人の無事は明白でゴワス。
それが上からであれば、後はお叱りを受けぬよう、姿を見ぬようにしていたでゴワス」
「凄い渋くてカッコいい風に言ってるけど、なんか締まりませんね」
「宮本翔矢!! 壁の再生速度が落ちているわ!!」
「この歳で死にたくないです!!
まぁ転生教の誘いを受けた時は、死のうとしたんですけどね!!」
鈴とシックスの声で、鉄の壁の再生に集中する翔矢。
だが再生速度は変わらず鈍いままだ。
「なんで? まだ力は余裕あるのに……」
『へへへ、お兄ちゃん!! みんなを助けたければ私を表に出せ!!
そして光の牢屋から出せ!!』
「その声はメタルか? お前が邪魔してたのか!!
え? まだあの光の檻残ってるの?」
『そうだよ!! あの勇者の力しぶとい!』
「その勇者の事は、知らないし俺じゃ光の檻は、どうにもならん」
『でも、お前が怒り任せになるか俺を受け入れれば、表には出れるはず!!
さっさと出せ!! あんな恐竜ごとき、私の敵じゃない!!』
「東京で戦った時の、ロストとかいうのになるつもりか?」
『あれは強いよ!? コネクトリニティにだって負けない!!』
「あんな暴走みたいな危ないの使う訳ないだろ」
『じゃあ、みんな仲良く死ぬんだね』
その言葉を最後にメタルの声は聞こえなくなった。
しかし向こうから、こちらの状況は丸分かりなのが感覚的に分かる。
「鈴さん、ワルパさん、悪いけど鉄の壁は、もう長い時間使えないっぽい」
「なら今すぐ解除して!! いつまで持つか分からないよりタイミングは合わせやすい」
「トリケラの攻撃は単調、後はワシと鈴殿に任せるでゴワス」
「了解!! 後は頼みました!!」
翔矢がメタルの能力ごと解除すると、身を守っていた鉄の壁は溶けるように消滅した。
すぐ目の前にはトリケラの鋭い角が迫っている。
シックスは腰が抜けてしまい、倒れてしまっているが、誰も彼女を構う余裕はない。
「えいっ!!」
「ふんっ」
鈴のハンマーのフルスイング、そしてワルパの大きく振りかぶった大剣がトリケラを襲う。
片方の角は割れ、皮膚には大きな切り傷。
勝てないと察したのか痛みに耐えきれなかったのか、トリケラは背を向けて一目散に逃げ出した。
「大きいオジサン……結構やるのね」
「お褒めに預かり光栄でゴワス」
逃げる相手を未開の土地で追うメリットも無く、トリケラとの戦闘は、ここで打ち切りとなる。
「うぬ? ワシの大剣にトリケラの血が……」
「大きいオジサン、体の割に細かい事を気にするのね。
あれだけ派手に切ったんだもん、それくらい仕方ない」
「そうではない、魔物であれば返り血に見えるのは魔力の籠っただけの液体。
しかし大剣に付着したこれは紛れもない血液……に見えるでゴワス」
「その程度の自信で“紛れもない”って言えるの?」
「ワシに医療知識はないでの、似ていれば見分けは付かぬでゴワス。
ただ、この液体に少なくとも魔力は籠っておらぬ」
「まぁ医療のことなら、ギャルの天使に見てもらえば……」
ワルパと鈴は、シフィンを咥えていたプテラを探した。
しかし上空は澄み切った空しか見えない。
「少し目を離したスキに、あのプテラは見失っちゃって……」
そう口にしてはいる翔矢だが、表情は“やっちまった”程度の印象で大きな反省や焦りは見られなかった。
「宮本翔矢、随分と余裕ね」
「まぁペネちゃんいれば、シフィンさんも大丈夫でしょ。
落ち着いたら、通信用の魔法石で連絡してみるよ」
「落ち着いたら……でゴワスか」
「確かに、まだ危機は去っていないものね」
「鈴先輩!! 私、生きて帰れますか?」
シックスは腰が抜けたままで、死を覚悟したような表情をしている。
それも無理はない、今4人の前では、恐竜界最強という印象の強いティラノがいるのだ。
「3対1だし……負ける気はないわ」
「レーザーを吐く口の正面にさえ立たなければ問題ないでゴワス」
「俺が小学生だったら、今からでも自由研究のテーマ恐竜に変えてたな」
冷や汗を流しながら、自分たちを落ち着かせるための会話。
だがティラノが、それを待ってくれる訳もなく口を大きく開き息を吸っている。
間もなく強力なレーザーが放たれたが、3人は散り散りに飛び、これを回避した。
腰が抜け動けないシックスは、力のあるワルパが肩で担いでいる。
「最初はビックリしたけど、攻撃手段さえ分かれば……」
回避のさい、アクセルへと切り替えていた翔矢は、跳躍力を生かし真上に飛び上空に逃げていた。
そんな翔矢をティラノは、獲物に狙いを定めるように睨み付ける。
「あっ……」
感覚的にレーザーは連射出来ないだろうと油断していた。
その予想は恐らく当たっている、だがレーザーのインパクトから、ティラノの長い尻尾を失念していた。
翔矢の体がティラノの背丈くらいまで落下した所で、太く強靭な尻尾に叩きつけられる。
「がはっ……」
「大丈夫でゴワスか!?」
「レーザーに気を取られ過ぎたわね」
すぐには起き上がれない翔矢の元に、ワルパと鈴が駆け寄る。
尻尾は直撃していたものの、何とか自力で起き上がる事は出来た。
「すいません……今日はアクセルだけ使ってなかったので……」
「せっかく3つも、使える力があるんだから、状況で使い分けなさいよ!!
早く動けるのに、身動きが取れなくなる上に逃げてどうするの!!」
「その意見、鈴さんって、やっぱり戦いなれてますよね」
「日本人とは思えないでゴワス」
「朝も少し話したけど、子供の頃は紛争地域で育って……」
鈴が話し終える前に、ティラノの尻尾が再び三人に襲い掛かる。
だが攻撃を視界にとらえていた3人は油断することなく回避する。
翔矢も、今回はアクセルの速度を生かし、地を駆け距離を取った。
「同じ失敗は2度しないぜ!!」
「宮本翔矢、さっきのは普通なら1回もしない失敗よ?」
「手厳しいな」
翔矢と鈴は、同じ方向に逃げ、今は小声で話ても聞こえる程近くにいる。
ワルパは、安全な所で待機させていたシックスの方に向かっており、今は離れた位置にいる。
「とりあえず全員無事みたいだな」
「宮本翔矢、出し惜しみしてないで、コネクトリニティってのを使いなさいよ。
あのティラノ、相当強いしペネムエもいない、シックスさんを守りながら長期戦は厳しい」
「だよな」
そう言いながらも翔矢の頭には、ワルパの言葉が残っていた。
ここの恐竜は魔物と違い、血液が流れている可能性が高いと。
それは、つまり恐竜はゴブリンと違い、生き物という事になる。
(街中に出たクマだと思って、可愛そうだが退治するか……
さっきのトリケラみたいに追い払うか……)
「君、結構グズグズよね、考えてばっかいるからほら」
鈴の指差す方向を見ると、ペネムエ達をさらったのとは別個体と思われるプテラが、ワルパとシックスを掴み飛び去ってしまった。
「いや鈴さん、気が付いてたなら教えてよ!!」
「ゴメン……コネクトリニティなら大丈夫なのかなって」
「飛行能力は無いよ!!」
目の前には、今もティラノが睨みを聞かせている。
プテラを追うべきか、先にティラノを倒すか、翔矢は今回も悩んでしまうのだった。
ここまで読んで下さりありがとうございます。
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