196話:襲撃から交換が始まりそうです
斎賀鈴の案内で、翔矢達がやって来た北風エネルギー六香穂支部地下の古代遺跡。
その扉を開けると、地下とは思えない大森林が広がっていた。
「ここって……異世界と繋がっているのか?」
ここは地下であって地下とは考えられない。
となるとアニメなどでもある異世界に繋がる扉なのだろうと翔矢は考えた。
「人間の肉体が、異世界に、そのまま渡る事は不可能です。
そして、わたくしは魔法を使えないまま、ここもノーマジカルと結論付けるしかありません」
ペネムエは手をかざしたり詠唱を唱えるなどして魔法を発動させようとしていたが何も起こらない。
「じゃあさぺネちゃん、アレはどう説明するの?」
「はい?」
翔矢が指刺した方向には20体余りのゴブリンがいた。
言わずもがな、こちらに敵意をむき出しにしている。
「下級のゴブリンですね、害はあっても危険性はありません。
最近の戦闘はブリューナクに便りすぎていましたし、久しぶりに弓矢で参りますか」
ペネムエは連続で弓を放ち正確にゴブリンの脳天を打ち抜いた。
仲間が倒された姿を見ると、他のゴブリンは、すぐに引き返して行った。
「今ので逃げ出すとは……ゴブリンにしては知能が高いですね」
「あれ? 前に言葉を話すゴブリン見たけど」
「翔矢様が見たのは天界が管理し教育したゴブリンです。
きちんと手順を踏めば教育可能ですが自主的な学習は、ほとんど出来ないのです」
「へぇ……でもゴブリンがいるって、やっぱり、ここって異世界なんじゃない?」
回答を求めるように、翔矢の目線が鈴に向く。
「ペネムエを……北風エネルギーがさらった時、宮本翔矢もゴブリンと対峙したはず」
「そういえばいたな、色々ありすぎて、いつ見たか曖昧だった」
「お年寄りみたいな記憶力ね……あれはドクターが遠隔操作で、ここから送ったのよ」
「なるほどな、あの時はデカいゴブリンもいたな」
「アークゴブリンですね、単純な筋力なら悪魔族を上回る厄介な魔物です」
「ゴブリンって、序盤の弱い敵ってイメージだけど、アレそんな強かったのか」
「ちょっと!! そんな話して出て来たらどうするの!!」
静かな口調のはずのシックスが恐怖からか大きな声を出す。
彼女は転生教から北風エネルギーに入ったばかりなので、ゴブリンの実物を見たのも、ここ最近の話だろうし無理はない。
「シックス様御心配なく、ここにいる戦力であれば、アークゴブリンの10体や20体は平気でございます」
「ペネムエ……流石に20は厳しい……
でも宮本翔矢は新しい力を手に入れたのよね?
少し見てみたい」
「あれか……」
鈴の向ける期待の眼差しに翔矢は重い表情を見せる。
強い力には代償が付きもの、やはり身体に異変が起きているのかと、ペネムエと医者であるシフィンは不安を感じた。
「服がダサくなるから、ヤバい相手以外には使いたくない!!」
そのの回答に、他の全員が新喜劇のように揃って転んでしまう。
「え? 俺何か変な事言った?」
「いえ……服装は大事なんですけど……」
翔矢の気持ちは理解できなくはないが、何かを間違えている。
その間違いが何なのか、ペネムエは言葉に出来なかった。
助けを求めるように鈴やシフィンに目線を送るが、逸らされてしまう。
そんな中、口を開いたのは以外にもシックスだった。
「宮本翔矢君だったよね?」
「はい」
「君が力を使って、どんな服装になったか私は知らない。
だけど……それは転生教の着ていた白装束よりダサいのかしら?」
「……微妙な所です」
「君、何歳?」
「年齢ですか? 高2ですけど誕生日来てないので16歳です」
「私は28歳です」
「はい?」
「28で、あの服を着ていました」
「でも、仮面で顔隠してましたよね?」
「尚の事ダサいと思いませんか?」
「……」
「あなたのは力を得るという大きな利点がありますが、転生教の白装束は何のメリットもありません。
それどころか、真夏にあの格好は暑かったです。
実は事件を起こす前に、何人か熱中症で欠席しています」
「なんか俺が、凄いワガママ言ってる気分になりました」
「でしょう?」
翔矢が一応の納得をした所で、地響きが発生し、一瞬よろけてしまう。
「おわっ地震か?」
「翔矢様、違います、噂をすればアークゴブリンです。
まだ姿は見えませんが、こちらに向かっているのは間違いありません。
数は……3体ですね」
「ここの森は、木の背が高い。
アークゴブリンくらいの大きさでもスッポリ姿は隠れるわ。
どっちも緑色だし、油断しないでね」
「ちょいちょい!! アークゴブリンとか魔法なしじゃウチ戦えないからね!!」
「私は、そもそも戦えない……」
どんどん近づいてくる地響き以上に、シフィンとシックスは震えていた。
「ではペネムエ殿に2人の護衛を任せるでゴワス」
「構いませんが、そうなると……」
「3体なんで、俺と鈴さん入れて1人1体計算ですね」
「鈴殿は今朝の手合わせで相当な腕とお見受けした。
噂の翔矢殿の腕も見てみたいでゴワス」
「えっと確認だけどゴブリンって動物とは違うんだよね?」
「魂が無く、倒してからの時間経過で死体が消滅し、魔法石がドロップできますので、動物とは呼べないですね」
「ぺネちゃんの説明だと、ゲームの敵キャラみたいだね」
「宮本翔矢、話している間に、アークゴブリンの姿が見えたわ。
あなたの力は戦闘に準備がいるのだから気を引き締めなさい」
話している間に鈴はけん玉型の武器クラッシュダマーを構え、ワルパも大剣を構えている。
「まぁこの前のイカ怪人より強いって事は無いだろう」
【コネクト・ファイター】
赤メリを構えた翔矢は、赤いオーラを纏う。
戦闘の準備こそ遅れたが、一番最初に殴りかかったのは翔矢だった。
大きくジャンプしながらのアッパーが顎を捉え、アークゴブリンは白目を向きながらバランスを崩す。
「出来れば新し力を見て見たかった……
でも、こういう時は基本フォームから使うのが定番よね」
「鈴さん、何の話?」
「こっちの……話し!!」
鈴は一歩も歩くことなく、その場でクラッシュダマーを振るい、けん玉の球を飛ばす。
それが1体のアークゴブリンの顔面に直撃しバランスを崩した。
「鈴さん、やっぱり遠距離攻撃あるのいいなぁ」
「そう? 君と違って肉体は普通の人間と同じだから一撃でも食らったらたぶん終わり。
私からしたら肉体強化が羨ましい」
「じゃあ使ってみる?」
翔矢と鈴は赤メリとクラッシュダマーを交換した。
「えいっ!!」
「くらえ!!」
まだ体勢を立て直していなかったアークゴブリンに向かって、鈴は力いっぱい拳で殴り、翔矢もクラッシュダマーで強烈な一振りをお見舞いした……つもりになっていた。
「え?」
「あれ?」
武器を交換した2人の攻撃をアークゴブリンはダメージを受けず涼しい顔をしている。
困惑している2人に、今度はアークゴブリンの拳が遅いかかる。
「翔矢様!!」
「何遊んでるでゴワスか!!」
間一髪の所でペネムエは翔矢を、ワルパは鈴を抱え後ろへ飛んだ。
「ペッペネちゃん、ゴメン油断した」
「大きいおじさん……ありがとう」
4人はすぐに武器を構え戦闘態勢に戻る。
「どうやら、このマモン・キューブは変化させた本人にしか使えないみたいね」
「鈴さんもゴメン……俺が余計な提案をしたばかりに……」
「ワシも魔法が使えなければ、アークゴブリンの相手は厳しい模様。
一太刀は入れたが、敵はピンピンしているでゴワス」
「やはり、わたくしも参戦しましょうか?」
ペネムエはブリューナクを取り出そうと魔法のポーチに手を入れる。
それを翔矢は静止した。
「ペネちゃん待って!! 試してみたい事がある」
「試したい事、でございますか?」
「来い!! ベルゼブラスター!!」
手を上に掲げた翔矢の声に応えたのか、上空から現れたベルゼブラスターは、そのまま地面に突き刺さった。
「やっぱり呼べば来るタイプの武器だったか。
ベルゼブの部下のポメ座衛門がくれたんだし、自由に使っていいよな?」
そのまま引き抜くと、前に使った時には気が合付かなかったが、ベルゼブラスターには何かをハメ込むような窪みがあった。
見覚えのあるその形から、赤メリをハメ込める事ができると、直感が告げた。
【ファイター・セットアップ】
「あっみんな下がって!! これ必殺技出るパターンだと思う」
翔矢が注意するまでもなく、何かを感じたのか、ペネムエ・ワルパ・シフィン・鈴・シックスは、すでに木の陰に隠れている。
「剣にもライフルにもなるって思ってたんだよな!!」
【ファイター・パワード・シュート】
ベルゼブラスターからファイターと同じ赤いオーラが太いビームのように放出され、前方の様子は見えない。
視界が開けた時には3匹のアークゴブリンの姿は無かった。
「何というエネルギーでゴワスか」
「いや……ウチの破滅の魔眼より破壊力あったような……」
「これが宮本翔矢の……転生教を退けた力……」
「鈴先輩……私帰りたいです……」
驚く4人をよそに、ペネムエは周囲の様子を冷静に観察していた。
「あれほどの規模の攻撃で周辺の木々は無傷。
そして……アークゴブリンは確かに殲滅したようですね」
3つの魔法石を拾い上げ、敵を倒しドロップした物だと確認する。
「俺もビックリしたけど、被害なく倒せたのでヨシッ」
誤魔化すように翔矢はベルゼブラスターを放り投げた。
上空でクルクルと回っている銃口が、自分の方向に向くたびにペネムエを含め慌ただしく逃げ回る。
「あっゴメン……これで帰って行くハズだから……」
その言葉の通り、ベルゼブラスターは上空へ飛び立ち、姿は見えなくなった。
「特定の人間しか使用できないマモン・キューブ、意思のあるように動くベルゼブラスター……
大魔王由来の武器は、分からない事だらけですね。
不思議と力そのものに害は感じないのですが」
周囲の安全を確認すると6人は再び遺跡の中の森を進むのだった。
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