20話:凍結からワナが始まりそうです
時間は翔矢が、凍った木々を見つける少し前にさかのぼる。
ペネムエはリールの足を凍らせ、動きを封じたことに安心してこの場から離れようとしていた。
「翔矢様も、転生の事を気にしておられるかもしれません。
結界の外に出て、連絡して差し上げなければ……」
ペネムエが結界の外に向かって歩くと、後少しで、出れるという所で異変に気が付いた。
周りに木などはほとんどないのに、自分の周りに影が出来ていて、自分自身の影が見当たらない。
雲一つない天気なので、普通なら自分の影が足元に見えるはずだが。
ペネムエは上を向くと、真上に絨毯が飛んでいるのが見えた。
いわゆる魔法の絨毯で、ペネムエのマジックラウドと同じく、空を飛ぶ魔法の道具だ。
この絨毯をリールが使っているのは天界でもよく見かけた。
無人でも持ち主の、命令や意思である程度動いてくれる使い勝手のいい絨毯で生地が高く値が張るが広く出回っている代物だ。
「なぜ、わたくしの真上に……?」
ペネムエが少し疑問を持ってそのままかんさつしていると、魔法の絨毯から紙でできた人型の式神が顔を出した。
式神は魔法の巾着袋からスライム状の球体を取り出し、地面に向かって投げてきた。
その球体の正体に気が付いた時には、すでに対処するには遅すぎた。
リールが式神を使って投げてきたのは『ネイチャースライム』の免疫を加工して作られる『拡散玉』
魔法によって生み出された物質を増幅させ拡散させる効果がある。
拡散玉そのものは、たいした力はないが触れた魔法が強力であるほど効果は大きくなる。
ブリューナクにより生み出された氷に当たり瞬間氷が一気に拡散した。
広がった氷はペネムエの足先から腰、さらに飛散した氷が手などにも当たり、そのまま凍り付き身動きが封じられてしまった。
「わたくしを凍らせても、寒さには耐性があるので、拡散した氷程度では大したダメージにはなりませんよ?」
「いくら寒さに強くても、そこまで凍ったら動けないことに変わりないでしょ?」
「わたくしの動きを封じた所で、動けないのはお互い様。意味はないでしょう?」
「私の任務は、あくまで宮本翔矢を、この世界で抹殺してマキシムに転生させる事よ?
それなのになんで、わざわざ、あんたと戦っていたと思う?」
「それは、任務の邪魔をされないように、わたくしの事を倒そうとしたのでは?」
「まぁ倒せたら倒せたで、それで良かったんだけどねぇ。
誰が相手か分からなかったし、道具でしか任務を進めれないここでは正面から行くのは成功率低いかなと思って好みじゃないけどズルさせてもらったわ」
ペネムエにはリールの言葉の意図が分からなかった。が万が一、リールに奥の手が残っているなら対処することはできない。
さっきの拡散玉の氷によってポーチが凍ってしまって、道具を取り出せない。
もっともポーチが無事だったところで、手も凍っているのでまともに道具は使えないのだが。
「アテナ様曰く、マキシムに転生させる人間には色々条件があったらしいわ。
・一定以上の確率でベルゼブを倒せる見込みがあること
・強大な魔力を悪用しないこと
・異世界に関する知識が一定以上あること
まぁ全部は覚えてないけど、その中に『情に厚い事』ってのがあったわ。
いま、この辺りは不自然に凍っている。
これだけ目立てば宮本翔矢は異変に気づいて、あんたを心配して駆けつけるはずよ。
人払いの結界も、強い意志で近づいてくる人間には効果ないからね」
「……あり得ません。
ご自分の命が狙われていると知っていますし、怪しい場所に不用意に近づいたりしないでしょう。
翔矢様は異世界転生を望んでいる訳ではないのです。」
ペネムエは冷静だった。リールが何をたくらんでいるか分からないが、狙いが自分と知ってて危険に飛び込む人間がいるわけがない。そう思っているからだ。
「本当に、アルマ側の天使があんたで助かったわ……
人形のあんたは、他の天使達から忌み嫌われていた。
だから自分が誰かから心配されるっていう概念がない。
いくら頭が良くても心を利用した作戦には気が付けないのよ。
人間って言うのは、感情で動いて時には非効率な行動をとる生き物よ。
宮本翔矢は、異変に気付けば必ず駆け付ける……
でも登山コースからここに来るには少し地盤が弱い崖を通らなきゃならない。
そこに予め人物認識の術式のかかった地雷石をセットしておいたわ。
宮本翔矢が、そのポイントに来たら崖から転落して異世界転生完了よ!!」
リールは勝ちを確信して笑みを浮かべている。
結界の中では通信用魔法石は使えない。ペネムエは翔矢に連絡する手段もなく、身動きも封じられ打つ手がなかった。
(まさかリールがここまで作戦を立てていたとは……
翔矢様……どうか、わたくしの事は心配なさらず……
いえ……できれば、こちらに気が付かないでくださいまし……)
ペネムエには、祈ることしかできなかった。
*****
ペネムエの祈りを知るはずもなく、翔矢は木々などが凍っている方に向かって走り続けていた。
しかし足場の悪い山道を走ってきたので疲労から少し息を切らし立ち止まった。
「はぁはぁ……やっぱり……あれって戦ってるのか?
そうだ!!通信用魔法石……」
翔矢は通信用魔法石の事を思い出し、ペネムエに呼びかけてみたが反応がない。
嫌な予感がした。
今まで敵の仕掛けた事故をぺネムエが防ぐ形で転生は阻止されていた。
なのでゲートが開くたびに、仕組まれた事故をぺネムエが防ぐというのが繰り返されるだけだと思っていて、戦闘になっているなんて考えもしなかった。
天使の身体能力などは分からないが、魔法は使えないと言っていた。生身で氷漬けになっていたりしたら大丈夫なんだろうか?
異世界がこちらの世界でイメージするようなファンタジー世界なら、剣など武器も用いている可能性もある。
ここまで来るだけで体力を消耗している自分が行っても、ぺネムエの邪魔にしかならないのではないかと思い一瞬引き返そうと思った翔矢だったがすぐに思い直す。
(……いや……でも……普通の女の子と変わらない……よな……)
まだぺネムエの事は知らないことだらけだが、おいしそうにご飯を食べてくれたり、果実がたっぷり入ったゼリーを食べたときは、自分の好みを必死に熱弁していた……
少なくとも心は人間と何も変わらない……見た目もか弱い女の子だ。
自分のために危険な戦いをさせる事などできない……
再び歩き出した翔矢は作戦を考えることにした。
まだ戦っているのか終わっているのか、ぺネムエが勝っているのか負けているのか情報は何もない。
だが敵の狙いはあくまで、翔矢を転生させる事。
ぺネムエを倒したなら、すぐに自分のの命を狙いに来るはず。まだ何も起きてないということは、少なくとも負けてはいないと翔矢は考えた。
しかしぺネムエが勝っていたとしても連絡が取れないのはおかしい。
通信用魔法石が壊れたとかの可能性も思い付いたが、まだ戦ってると考えるのが自然と思った。
「どんな戦いかも分からないのに突っ込むのはやっぱり無茶苦茶か……」
かつて紅の鉄拳として恐れられた翔矢は喧嘩なら負けた事はなかった。
武器ならナイフなどは向けられたこともあったが、高校に入ってから喧嘩はしてないし、そもそも今回は相手が違う。
「あんな氷漬けの魔法の道具とか俺が喰らったらさすがに命ないよなぁ……
待てよ? 喰らったら命は無い? ……もしかしたら何とかなるかもしれない!!」
翔矢は、あることに気が付き歩くペースを上げた。
しかしその歩みは確実にリールが地雷石を仕掛けたエリアに確実に近づいているのだった。
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