192話:巨大化から一件落着が始まりそうです
ファーストが時計塔へ仕掛けた爆弾。
それを何とか無効化した翔矢は一安心して、肩の力が抜けてしまっていた。
その隣では、ペネムエが目を瞑りながら魔力を探っている。
「爆弾は、この近辺には仕掛けられていないようです」
「良かった、見ためただの瓦礫だし、持ち歩くの怖すぎるもんな。
爆弾だと思って仕掛けたら、ただの瓦礫でした、とかも格好悪いし」
「なるほど、気配や魔力を探れない人間では、扱いにくいですもんね。
さすが翔矢様!! 聡明であられます!!」
「あはは、でも東京の何処かに1個でも落ちてたら危ないな……」
「それは、もう天界に任せしましょう、流石に今回は疲れました」
「……俺も」
翔矢も気が緩みきってしまい、ペネムエと背中合わせで一緒に座り込んでしまった。
コネクトリニティも、タイミングを合わせるように解除され、服装も元のTシャツへ変化する。
「あっダサい服戻った」
「他の世界では割と見る服装でしたけどね」
「ここ日本の東京だし、田舎者は石投げられるかも」
「そんな怖い所とは思いませんけど……
空気はゴミゴミしてますし、六香穂が恋しいです」
「俺も……しばらく東京はいいかな。
オラが町が一番って奴だね」
翔矢とペネムエはアスファルトの地面に背中を付けて、寝っ転がってしまった。
その、のほほんとした状況を、ゼロは神妙な顔をして見つめている。
「いつまで浮かない顔してるんだ?」
「どうして……私を助けたの?
いっそ、あのまま死ねていたら……」
「始は、いつか絶対に目を覚ます。
俺は信じてるけど、あんたは信じてないのか?」
「そんな訳無いじゃない!!」
「だったら、その時に側にいてやれよ。
今回の事件に罪の意識があるってんなら……
それが俺からの判決的なアレだ」
ゼロは、ただ頷いた。
「俺さ、中学上がる前に母さん病気で死んじゃってさ。
仕方ないっていうか、母さんも頑張ったの知ってるけど……
やっぱり、出来るなら、もっと長く生きて欲しかったなって……
苦しんでる姿とか、たくさん見たけど、それでも生きてて欲しかったな」
「素敵なお母さまだったのね」
「あんたもだよ? 始にとってはな」
「私に、そんな資格……」
「まぁ、それを決めて良いのは始だけだけどな。
だから、とにかく目が覚めた時、側にいてやれ」
ゼロは地面に膝をつきながら、泣き崩れてしまった。
「このまま、終わらせはしないぞ!!」
誰もが、今度こそ決着が付いたと確信していた。
だが、ここまで来てファーストは、まだ立ち上がり恨みの炎を燃やしていた。
何が彼をここまで突き動かすのか、3人は自分達が勝てるはずの相手に、感じる必要が無いはずの恐怖を感じてしまう。
「いや、いい加減に諦めろよ?」
「これ以上は、あなた様の体が持ちませんよ?」
翔矢とペネムエは武器を構え、何が起こっても対応出来るようにファーストの動きに集中する。
「私の仮説が正しければ、こいつの力は、こんなモノではない!!」
ファーストは、再び両腕に填めたブレスレットをクロスさせる。
するとドス黒い霧が発生し、彼の体に吸い込まれていった。
「まだ使えるのかよ……」
「しかし最初の時とは様子が違います……
とてつもない闇の魔力を感じます」
「やめなさい!! もう終わったのよ!!」
ファーストの方に向かい、止めようとするゼロ。
その服をペネムエは必死に引っ張り向かわせまいとする。
「離して!! これ以上私のせいで被害は出させないわ!!」
「ゼロ様に何かあっても、それは多大な被害だと……
まだ分からないのですか!! それに、あれを力ずくで解決できるとは思えません」
「って言っても、今は力ずくで止めるしかないよな?
いや、あれはちょっとデカすぎないか?」
翔矢も赤メリを構え、再びコネクトリニティの力を使い応戦しようとした。
こうしている間にもファーストの体は、邪悪で巨大なクラーケンへと変わっていたのだ。
時間の経過と共に、巨大化していくファーストに翔矢は足がすくんでしまう。
それでも覚悟を決め、赤メリに左手の平を合わせ、力を発動させようとすると、目の前に1本の巨大なクラーケンの脚が落ちてきた。
「え? 誰か攻撃したのか?」
「いいえ、勝手に崩れ落ちているように見えます……」
2本目3本目と次々にクラーケンの脚は老朽化した建物のように崩れ落ちる。
そして10本目が落ちると同時に、ファーストは元の人間の姿に戻り気を失っていた。
「今度という今度という今度は終わったか?」
「ええっと、脈はあるようです。
あのレベルの巨大化は、相当な術者でなければ不可能なのです」
ペネムエはファーストの傷口などを見て、彼の容態を確認している。
とくに険しい表情はしていないので、命に別状は無いのだろうと翔矢は何も聞かなかった。
「ヘイヘイヘイ!! 何とか間に合ったようだね!!」
そこに状況を見計らったように現れたドクター。
相変わらずの無駄に高いテンションに加え意味不明なダンスを踊っている。
しかし、そこにいちいち突っ込んでいる余裕は誰にもなかった。
「これ!! ドクターのおっさんの発明品だろ!?
能力者だけならギリギリ解決できたのに、状況悪化させやがって!!
異世界ってか怪獣映画みたいなの出て来る所だったぞ!!」
「いやいや、解決できたんだからヨシッで良いじゃないかぁ!?
君もこれ以上、争う気はないんだろう?」
ドクターはゼロを両手の人差し指で指さした。
それに彼女は無言で頷く。
「って事で今回の事件はめでたしめでたし!!
特殊部隊の無線や、各地の監視カメラをハッキングしたが、もう争いは終わっているようだしね。
いや……まだ重要な事を、やり残していたかぁ……」
「「重要な事?」」
らしくもなくドクターが真面目な顔をするので翔矢とペネムエは最悪の状況を想定し身構える。
「特殊部隊が能力者と鉢合わせしないように、ユリア様に誘導をお願いしていたのさ!!
ナース姿なら誤魔化せるって私が案を出したのでね、今ならユリア様のナース姿が拝めるはずさ!!」
「なんだ……」
「そんな事ですか……」
拍子抜けしてしまった翔矢とペネムエは全身の力が抜けてしまう。
その姿を見てもドクターは、お構いなしといった感じだ。
「はっはっはー!! そんな顔をしないでくれたまえ!!
今の最優先事項がユリア様のナース姿!!
そのレベルで事態は収拾したという事なのだよ!!
それに……見たまえ!! これ以上のハッピーエンドがあるかい?」
ドクターの指さす先には、堪え切れずに笑いだしてしまったゼロの姿があった。
彼女のしたことは決して許されない。
それでも素直に笑い、家族を想う、それくらいの権利はあって良いのだろう。
「うまい事、まとめられてしまったが……」
「救われた人間はいた、それでこの場は良しとしますか」
リールやゼウの安否は、未だに不明、把握していない被害もあるかもしれない。
それでも2人も釣られるように思わず笑みがこぼれるのだった。
***
時は少し遡り、ファーストが巨大なクラーケンへと姿を変化させていた頃。
北風エネルギー本社にあるドクターの研究室。
その地下深くには“ザ・ホール”と名付けられた空間が存在する。
地下にあるにもかかわらず、そこには広大な森が広がっていた。
「ここは……地球なの?」
「答えは……出せない? イエスかノーじゃ答えられないの?」
ザ・ホールに初めて連れてこられた、転生教の幹部シックスとセカンドは、ただ茫然と辺りを見渡していた。
「おい、ボーっとするな!!」
「私たちから離れたら、命の保証は無いわ」
森の奥から、湯水のように湧いてくるゴブリンの軍勢。
連は日本刀型の武器ソルを、鈴はけん玉型の武器クラッシュ・ダマーを振り回し応戦する。
「これが……ゼロの言っていた異世界?」
「答えは……ダメ、私の能力じゃ導き出せない」
現実のものとは思えない光景に、シックスもセカンドも、命の危機という実感すらなかった。
「あれ? 健吾がいないわ?」
「あいつ……武器を無くしたと言っていたが何処に……」
「まぁいつも何やかんや生き延びてるけど……
それより、ゴブリンが多すぎる……
ドクターの言っていたフュージョンブレスの制御装置は近いはずだけど……
これじゃ全然進めないわ」
「今は無事を祈り、ただ進むしかないか……
しかしドクターは、何故こんな場所に制御装置を置いたんだ」
「セキュリティって言ってた、確かに突破は難しいわね」
必死にゴブリンを倒しながら、少しずつ前へ進む連と鈴。
ようやく数が減り、視界が開けてくると、そこには壊れた機械を持つ健吾がいた。
「健吾!?」
「それ、ドクターの言ってた制御装置?
武器も持たずに、どうやってたどり着いたの?」
「たまたま道が開いてたんだ、運が良かったぜ。
ドクターからも、フュージョンブレス使ってた奴の動きが止まったって連絡があった。
他もまぁ一件落着というか戦いは収まったっぽいな、帰ろうぜ!!」
ひょうひょうと、ザ・ゲートの出口に向かう健吾。
連に鈴、状況を飲み込み切れないシックスとセカンドも、今はこの場を立ち去るしかないのだった。
ここまで読んで下さりありがとうございます。
ストーリは一生懸命練って執筆しております。
少しでも続きが気になったらブクマ登録して頂けると励みになります。
下の星から評価も、面白いと感じたら、入れてくださると嬉しいです。




