190話:終わりから別れが始まりそうです
ファーストを撃退し勝利の余韻に浸る翔矢とペネムエ。
今の2人は、周りが見えていないだろう。
「これで……終わったのかな?」
「病院に侵入した無能力の信者は特殊部隊の方々に、お任せして問題ないでしょう。
あとは……スカイタワーでセブンスと交戦しているはずのゼウ様が気になります」
「心配だけど、今ここを離れるのも怖いな。
スカイタワーなら、ドクターのおっさんが監視カメラをハッキングできるはずだ」
「現状を確認してからでも遅くはないでしょう。
えぇっとドクター様は……」
ペネムエは少し記憶を辿り、ドクターの現在地を思い出す。
「あっ始様の病室におられます」
「そっか、そっちも気になってたんだけど問題が……」
「なんでしょうか?」
「コネクトリニティが解除できないせいで、服装がダサいままだ」
「病院の方々は、ほぼ地下室に向かっていると聞いております。
誰も見てませんよ? わたくし以外は」
ペネムエは満面の笑みを浮かべた。
「ぺネちゃん、何でそんなに嬉しそうなんだよ……」
「だって……もう“ぺネちゃん”って呼んでもらえないかもって覚悟しておりましたので」
「寂しい思いも、怪我もさせたんだよね……
あの時、ぺネちゃんが止めてくれなかったら俺……」
この一言でペネムエは、いままでの人生でトップクラスの激しい動揺を見せる。
あの時、ペネムエはありったけの思いを込めて“銀世界のオロチ”を放った。
激しい戦いだったので詳細は覚えていないが、気持ちが声となった部分もあるはずだ。
「あっあっあっあのののの翔矢様。
そのっ……暴走している間の事は覚えているのですか?」
「ボンヤリとだけどね。
俺が沢山暴れたってのと、ぺネちゃんが必死に止めてくれたのは分かるよ。
それなのに……俺ぺネちゃんの事、忘れちゃってさ」
暴走はメタルに体を乗っ取られたから、ペネムエとの記憶はそのメタルを止めるエネルギーのように使われた。
白い世界での話から察すると、間違いないのだろう。
これを話せばペネムエは「翔矢様は悪くありません」と言ってくれるかもしれない。
しかし、それを口にする気にはならなかった。
「一時は、どうなるかと思いましたけど……
思い出して頂けましたので!!」
翔矢の浮かない顔をしていたのを見てか、ペネムエは満面の笑みを見せながら、翔矢の両手を握った。
「ぺネちゃん……」
前に「ぺネちゃんは家族」と口にしたのを思い出した。
もちろん本心だが、家族というモノが存在しないペネムエにとって、これは大きな支えだった。
自分に忘れられて、どんな思いをしたのか、どれだけ必死になって戦ってくれたのか。
想像するだけで、苦しくなる、それでも今はこの笑顔に答えようと思った。
「お詫び……じゃなくて、お礼にさ。
戦いが落ち着いたら、また何処かに遊びに行こうか?
って今回も本当は遊びに来ただけなんだけどね……」
「そうですね、海水浴は楽しかったです」
「だね!! パッと思い付いたのは……
次は皆で流しそうめんとかしてみる?」
「出来るのですか!? 流しそうめん!?」
「昔、親戚で集まって1回だけ使ったセットが残ってるはず」
「それは楽しみです!! あとは……」
「あとは? 何? やりたい事があるなら遠慮なく言ってよ」
「ええっと」
これは口にする予定は無かった、しかしペネムエには逃げ場が無くなっていた。
「翔矢様とデートしたいです!!」
ペネムエが必死に伝えた言葉、しかし、これを遮るように後ろから爆発音が聞こえる。
「何だ?」
「誰ですか!!」
同時に振り向く2人、見たところ、音の割には小規模な爆発で、巻き込まれた人もいないようだ。
しかし、ペネムエの胸の底からは、とてつもない怒りが湧きあがっていた。
「どうやら、時限式の爆弾は、まだ有効なようですね」
壁に寄りかかるように必死に立ち上がるファースト。
戦による外傷は、そこまで深くないが、体力はかなり消耗しているようだ。
「やはり、あなたでしたか」
「もう勝負はついた、諦めて病院にでも行ってろ」
「翔矢様、病院はココです」
「そうだった」
まだ2人は、事の重大さに気が付いていなかった。
なので戦う力を失った敵を前には、ふざけた話をする余裕もあった。
「そこの銀髪、お前は始の病室にいたな。
あの爆発は俺が起こした!!」
「でしょうね、ゼロ様からコピーした能力。
今なら話しても、問題ないでしょう。
始様は無傷です、目的だけでも果たせたと思いましたか?」
「その口ぶり、ゼロは無事じゃなかったようですね!!」
「まだ……命はあります!!」
「命? 人格をコピーしただけの、ただの化け物だろ!?」
この言葉を発した瞬間、鈍い音と共に、ファーストの頬に衝撃が走り、ギリギリで立っていた体は地を転がる。
「コピーとか人間じゃないとか関係ない!!
確かにゼロがやった事は、大間違いだ!!
だけどな!! 始を思う気持ちは、どっちのゼロも本物だったはずだ!!
だから始だって……」
「翔矢様……」
「はははは!!」
「なにが可笑しい!?」
翔矢は思わず、もう一度手を出しそうになるが、何かを感じ取りグッっと堪える。
「お前らは、私が目的を果たせないと思っているようですね。
その余裕が、いつまで続くのか……3分後が楽しみです」
「3分?」
何の事だか見当もつかない翔矢。
しかし、ペネムエは何かに気が付き顔が青ざめていた。
「待って下さいよ……1度目の始様の病室の爆発。
そして今の小規模な爆発……まさか」
「気が付きましたか、3分とはいえ、待つのは退屈、話して差し上げますよ。
戦闘中の爆発、あれは私がゼロからコピーした能力。
しかし、あれが使えるようになったのは今さっきの話なんですよ?
となるとぉ? 始の病室の爆発は何だったんでしょうかねぇ」
「ゼロ様の能力で生み出された爆弾を、持ち出したのですね」
「えっ? ゼロって、すぐ爆発させないと、爆弾に変えた効果が無くなるって言ってた気が……」
「彼の能力は“能力を強化する能力”そう聞いて、爆弾なら爆発を強力にするだけと思いましたが……」
「そう、時限爆弾にして効果の時間を伸ばす事も可能だったのです。
さっきの爆発は、スカイタワーから持ち出したものの、小さくて使い道が思い付かなかったので捨てたモノです」
「いや、でもゼロが信者を裏切ったのが分かったの、1時間くらい前の話だし……
始の病室に、爆弾仕掛ける時間なんてあったのか?」
「確かに……そもそも病室に行けたのなら、その時に手にかける方が確実でしょう」
ここで、ファーストは再び笑いが堪えきれなくなる。
「“その時”まだゼロが裏切っているという確証が、ありませんでしたからね」
「それって……」
「まさか……」
「えぇ、いざと言うときの為に、1週間程前から仕掛けておきました。
ゼロに怪しい所はありましたし、違ったら違ったで、どうせ動かない人間ですからね」
「てめぇ……どこまで腐ってるんだ」
翔矢は、怒りに身を任せにファーストの方に向かっていく。
「翔矢様!! 今はコイツに構ってる場合ではありません!!
恐らく病院に爆弾が……それも強力なモノが仕掛けられています」
「え!?」
ペネムエの言葉で、翔矢は我に返り、ファーストが“3分後が楽しみ”と言っていたのを思い出す。
「てめぇ!! どこに仕掛けた!!」
「もう2分切りましたからね、何をやっても無駄ですよ」
ファーストは翔矢に胸ぐらを捕まれながら、ゆっくりと右手を上げ上を指差した。
そこにはヨーロッパにありそうな、オシャレな時計塔が立っていた。
「彼の言葉に嘘はないようです。
あれだけの魔力に気が付かなかったとは、一生の不覚。
これは半径数キロは確実に……」
「そんな爆発、コネクトリニティでも……
どうすれば止められるの?」
「爆発そのものを止めるのは、能力者本人に解除させるしか……
わたくしが魔法を使えれば、いくつか手段はあったのですが」
「能力者本人……!! おい今すぐ止めやがれ!!
お前も、タダじゃすまないぞ?」
再び胸ぐらを掴みながら、ファーストを高く持ち上げる。
しかし、彼は動じなかった
「誰かさんに、能力を消されなければ、それも可能でしたがね」
「イカに変身だけじゃなくて、そっちも消しちまってたのか……」
翔矢やペネムエだけなら命は助かるだろう。
しかし爆発の規模の予想は数キロ単位。
残り時間約1分で、その範囲の人間を護るのは不可能だ。
2人は打つ手無く絶望していた。
そこに、誰かの近づく足音が聞こえてきた。
「能力の解除なら、私にやらせて」
「ゼロ様!!」
「助かるぜ!!」
現れたゼロの姿に安堵する翔矢とペネムエ。
昼間は、命を落としてもおかしくない戦いをした相手を、これほど頼もしく思うとは予想出来なかった。
それとは逆に、ファーストは顔をしかめていた。
今は、2人は油断し、自分の胸ぐらからも手は離れている。
やるなら今しかないと思った。
ゼロの細胞を崩壊させる事の出来る弾丸の入った拳銃。
気が付かれないよう、ゆっくりと狙いを定めながら、引き金に指を掛ける。
(くたばれ!!)
心の中で、そう叫んだが、弾丸は発射されない。
手元を確認すると、銃口がドロドロに溶けてしまっていた。
「なっ……」
「こっちは、まだコネクトリニティのままなんだよ。
暴発とかしなくて良かったな、おとなしくしてろ」
「チクショー!!」
ファーストは、悔しさから崩れ去ってしまった。
しかし、まだ問題が解決した訳ではない。
「しかし、もう時間が……」
「流石に、この距離から能力解除は……」
言葉の途中で、ゼロは崩れ落ちてしまった。
「おい!! その怪我……」
「心配しないで、近くまで連れて行ってくれたら、何とかしてみせるわ」
「マジックラウドは、破壊されてしまって……
再生させている時間はありません」
「それなら……任せろ!!」
翔矢は、ゼロを抱きかかえ、そのまま時計塔へと大ジャンプをしてみせた。
「ぺネちゃん!! 念のためファースト見張っといて!!」
「かしこまりました」
と言っている間に、翔矢とゼロは時計塔へと到着した。
「ふぅ……怪我人を乱暴に扱ってくれるわ」
「悪い……あと数十秒とかだと思うし……間に合いそうか?」
「約束は守るわ、ファーストにだいぶイジられている。
なるほど、時計の中に爆弾化した瓦礫を仕込んだのね。
この爆弾は“何とかしてみせる”」
ゼロは体をスライム状に変化させ、爆弾が設置されている時計部分を包み込んだ。
「おい、何やって……」
「ここに来る前ね、始と話せたのよ。
まだ目は覚まさないんだけど……頭の中に声が聞こえてね。
あなたも話せたんでしょう?」
「何やってるかって聞いてるんだよ!!」
翔矢はゼロが何をしようとしているか分かっていた。
それでも、こう聞かずには居られなかった。
ゼロはそれに構わず話を続ける。
「始ね、あなたと友達になれそうって喜んでたわ。
目が覚めたら、仲良くしてあげてね」
スライムの中に浮かぶゼロの笑顔は母親そのものだった。
「目が覚めたとき、あんたが……母親が近くにいなくてどうすんだよ!!」
ゼロは無言で首を横に振り、翔矢を時計塔から突き落とした。
次の瞬間、大爆発と共に時計塔は崩れ落ちた。
半径数キロにも及ぶはずの爆発。
ゼロはそれをスライムの体で包み込み被害を押さえたのだ。
崩れた時計塔から舞う土埃、それが晴れたとき、ゼロの姿はなかった。
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