19話:弁当から樹氷発見が始まりそうです
ペネムエが空海山の探索をしている頃、翔矢たちのグループは、頂上手前のチェックポイントで昼食を取ろうとしていた。
ブルーシートを広げたりして準備を進めている。
「いやぁ一時はどうなるかと思ったが、他のギルドよりも早く封印の地にたどり着くことができたのぉ」
「誰かさんが開始早々限界が来たとか言い出さなきゃもう少し早く着いたかもなー」
瑠々の独特の言い回しには、もはや突っ込まずに翔矢は黙々と準備を続けた。
「えっ? ここって何か封印されてるんですかい?」
しかしモヒカンが瑠々の話に食いついてしまった。
「モヒカン先輩……瑠々は、ある病気にかかっているんです。
だから独特の言い回しをすることが多いんですが気にしないでやってください」
『病気』というのは完全な嘘ではないし、こう説明するのが思いつく限りでは一番早いと翔矢は思った。
「そうなんすか……そうとは知らずに失礼なことを……
それで、すぐに疲れて動けなくなったんすね」
そういう種類の病気ではないんだが、納得してくれたなら良しと思い、そういう事にしておいた。
雑談を、しながらではあるが順長に作業が進み昼食を取る準備ができた。
4人いっぺんに弁当箱を開ける。
「わーーー翔矢君、相変わらず料理上手!!」
悠菜がキラキラした目で翔矢の弁当を覗き見する。
「だが少々作りすぎではないのか?」
瑠々も弁当を覗いてきたが悠菜と違いギョッとしている。
「ちょっと作りすぎちまって……良かったら少し食ってもいいぞ」
ちなみに弁当は重箱3段。
ペネムエが何でも美味しいと食べてくれるのが嬉しくなり、今回は作りすぎてしまった。
「じゃ……じゃあ、く……食ってみてもいいっすか?」
「どうぞどうぞ」
モヒカンが恐る恐るエビフライを取った。
翔矢の料理の腕を疑ってるとかではなく単純に翔矢を怖がっているのだ。
(俺の事がそんなに怖いなら、食おうとしなくてもいいだろう……)
「では我もいただこう!!」
「エビフライだけでもすごい数だね……いたきまーーーす」
続いて瑠々と悠菜もエビフライに箸を伸ばした
「「「うまーーーーい」」」
三人一斉に歓声を挙げてくれた。
かなりオーバーな反応だが、そう言ってく食べてくれるのは素直にうれしかった。
「翔矢くーーーん。うちにお嫁に来ない?」
「お嫁って……遠慮しとく」
悠菜がまたおかしなことを言いだしたので適当に流した。
「お嫁なんてもらわなくても、悠菜先輩の弁当も、おいしそうじゃないですか!!」
瑠々が今度は悠菜の弁当に目をやった。
確かにおいしそうだが、これは恐らく……
「あははーーー、これは上の段はお母さんが作ってくれたんだー。
私が作ったのは下の段の炊き込みご飯だけー」
そういうと悠菜は弁当箱の上の段を持ち上げて下の段を見せた。
「こ……これは伝説のダークネススライム???」
瑠々の目はギョッとしている。だが無理もない。
悠菜作の炊き込みご飯?は、真っ黒のブヨブヨした塊のようになっていて、炊き込みご飯には見えない。
というか食べ物に見えなかった。
「炊き込みご飯だよぉ」
「……なにを炊き込んだんだよ」
悠菜の料理の腕は、翔矢は昔から知っていたが相変わらずとんでもないと思った。
「たけのことか鶏肉とか舞茸とかだよーーー
やっぱり6月に秋の食材を使ったのがよくなかったかな?」
「そうそうやっぱり食べ物は旬の食材を使った方が……いや……普通こうはならないから」
普通の食材で、炊き込みご飯を作ってこうなるのは常人には理解できない。
「でもきっと、食材が普通なら見た目ほど、あれな味にはならないんじゃないっすか?
悠菜の姉さん、食ってみてもいいっすか?」
「えっいいですけど……」
モヒカンの提案に悠菜は少し驚きながらも承諾し弁当を差し出す。
「ぼぉfふdfhぐfhdghf」
だが一口食べた瞬間モヒカンは、奇声を上げて泡を吹いて倒れてしまった。
「翔矢先輩……やはり悠菜先輩のお嫁に行った方がよくないですか?
悠菜先輩なら頭がよくて家は病院ですから、専業主夫になってもお金には困らな……」
「生々しい話を具体的にしないでーーー!!」
瑠々の珍しく真面目な口調での話に対して、これまた悠菜が珍しく悲しい声をあげている。
「嫁をもらう前提じゃなくて……せめて食べれる物を作れるくらいにはなってほしいがな……」
「ところで瑠々ちゃんはどんな弁当なんすか?」
復活したモヒカンが今度は瑠々にたずねる。
(……復活が早いな)
翔矢は前に悠菜の料理を食べたときに2時間ほど意識が錯乱したのを思い出した。
「我も自分で作ったが、いたって普通だぞ。
悠菜先輩のような個性も出せぬ」
「あんな個性は出さなくていいけどな」
「いじめないでーーー」
泣きじゃくる悠菜の事は無視して瑠々の弁当が開封されたが、おにぎりにおかずが3品ほどのシンプルというより質素なものだった。
瑠々の性格を考えると、もっと派手な弁当を作りそうなイメージだったが思ったより普通だった。
「瑠々ちゃん小食だねーーーやっぱ可愛いいーーー」
「確かに我は、あっあまり食べる方ではないが、デザートを作るのに熱中しすぎて弁当に、あまり気が回らなかったのだ」
瑠々の旧日本軍製のリュックから、小さめの透明な箱が取り出された。
中には黒いドラゴンのフィギュアのような物が透けて見える。
「登山に、そんなもの持ってくるなよ……」
瑠々は登山開始すぐにバテていたが、こんなバカでかいフィギュアがリュックに入っていれば運動神経や体力に関係なく消耗しそうだ。
もっとも、瑠々の運動神経が壊滅的なのは同じ部活のしょう矢は知っているが。
「そんなものとは失礼な!!」
瑠々は少しムッとした表情で続けた。
「デザートだと言ったであろう。
これは我が最上級魔法、『アメザーイク』により召喚したのだ」
「あーーーーはいはい。『飴細工』の事ね。
すごいすご……はぁぁぁぁ???
これが自作の飴細工だと???」
一瞬、瑠々のいつもの厨二病の症状が出たと思い、受け流しそうになったが、これは受け流す事が出来なかった。
ドラゴンの羽の模様や角、さらに鱗の一つ一つまで細かく作りこまれている。
とうてい素人の作品には見えない。というか人間業とは思えない。
「いやいや、我が料理の味など翔矢先輩の料理の足元にも及ばぬ」
「味の話をしてるんじゃねーよ!!
そもそも飴細工って、料理ってカテゴリーでいいのか!?」
『我』とか『勇者の魂を持つ』とか普段、訳が分からないながらも自信に溢れている瑠々が、こういう場面では意味もなく謙遜する。
そんな事で騒ぎながら、翔矢たちの班は食事を済ませた。
「まだまだ出発時刻まで時間がありますぜ。翔矢のアニキィィィーーー」
「だから誰が兄貴ですか。モヒカン先輩の方が先輩じゃないですか」
と言ったもののモヒカン先輩の言う通り班の出発時間にはまだ2時間近くある。
この登山は全校生徒が参加している。
田舎の学校とはいえ200人近くが参加しているので、一斉に下山してしまうと狭い山道では、混雑が起きてしまうという事で、班ごとに下山時間が割り当てられている。
モヒカンが瑠々をおぶった効果で、予定時刻より早く着いたので、出発まで時間が空きすぎてしまったようだ。
「こんな事もあろうかと、ボールなら持ってきてるよ!!」
悠菜がリュックからテニスボールを取り出した。
「ボールだけで時間潰せって言われてもなぁ」
「だよねぇーーーー」
ボールが1個あった所で、高校生4人が暇を潰すのはかなり厳しい。
「いや、我の手にかかればボール1個あれば十分なのだ。
悠菜先輩、我にボールを貸してくれ」
「どうぞどうぞ!! 何して遊ぶの???」
悠菜は快く瑠々にボールを渡す。
「こうするのだ……
モヒカンせんぱーーーい!! 取ってこーーーい!!」
瑠々は叫びながらボールを思いっきり投げた。
彼女の運動神経は壊滅的なはずだが、何故かすごい遠くまで飛んで行った。
と感心している場合ではない事に翔矢は気がついた。
「お前、仮にも先輩になんてことを……」
「ワオーーーン」
しかし翔矢の心配とは裏腹にモヒカン先輩は嬉しそうな声を上げて、ボールを取りに向かった。
(まぁ本人が満足なら別にいいか)
モヒカン先輩が走っていった方を見た悠菜が何かを見つけて指をさした。
「あっちの方の木とか凍ってない?」
「本当だーーー、樹氷って奴ですかね? 初めて見ましたが絶景ですね……」
悠菜の言う通り、数百メートル先の木々が、凍っているように見える。
瑠々は、樹氷と言っているが、この山で樹氷が見れるなんて聞いたことがない。
翔矢は自然現象には詳しくないが、いずれにせよ今日くらいの気温で見れる現象ではないだろう。
嫌な予感がした。
「まだ時間あるし……俺、ちょっと近くで見てこようかなーーー」
「そう?気を付けていってらっしゃーーーい」
「達者でなーーーーー。我々はモヒカン先輩で遊んでおるゆえ」
樹氷は、かなり珍しい現象なので、2人も一緒に行くとか言い出しそうだったが、不自然なほど興味を示さず翔矢は1人で向かう事ができた。
よくわからないが、好都合なので気にしない事にした。
(ペネちゃん……大丈夫だよな……?)
翔矢は木々が凍っている方へ急いで向かった。
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