188話:初対面からお礼が始まりそうです
翔矢は気が付くと、真っ白で何もない空間に立っていた。
感覚的に、ここが現実でない事は分かる。
自分の状況も全く理解できないが、不安や焦りは無かった。
「俺……フォースとかいう幹部と戦って……どうなったんだっけ?」
必死に思い出そうとするも、戦を始めた事しか思い出せず、頭を抱える。
そのまま数秒が経過すると、何も無いと思っていたこの空間から、何かが聞こえてきた。
「これって人の……子供の声?」
白いだけの何もない空間を、声を頼りに、ひたすら進む。
どれくらい歩いたのか、この空間に距離の概念があるのかも定かではない。
それでも、確実に声は近くなっていた。
しばらく歩き、たどり着いた相変わらず白い空間。
そこには光の檻がポツンと置かれ、中には服、髪、肌、すべてが白い6歳くらいに見える幼女が体育座りをしていた。
「君は……?」
無意識に出た翔矢の問いに、白い幼女は分からないと言っているように、俯いたまま首を横に振った。
「ここから……出たいよぉ」
「待ってろ!! 壊せるか分からないけど……やってみる!!」
翔矢は、とりあえず光の檻に手を触れようとした。
白い幼女を、檻から出したいという気持ちに嘘は無い。
しかし、この光の檻に素手で触れて大丈夫なのかと考えると、動きは亀のように遅くなってしまう。
「待て!! 宮本翔矢!! そいつを檻から出しては行かん!!」
翔矢の名前を呼ぶのは、渋いオジサマのような声。
そこにいたのは、見慣れない、赤く逞しい体つきの大男だった。
「うわっ!!」
赤いい大男の迫力に翔矢は思わず尻餅をつき倒れてしまった。
「おいおい!! 普段から力を貸してやってるのに、そりゃあねぇぜ!!」
「えっ?」
「オレだよ!! オレオレ!!」
「オレオレ……」
「詐欺じゃねぇからな?」
翔矢は、赤い大男が誰なのか、全く心当たりがなかった。
そういう意味ではオレオレ詐欺と言いかけたのもデタラメという訳ではない。
「ファイターのオジサン!! 待って下さいよぉ!!
って何か話が拗れてませんか?」
白い空間から、走っているような動きでゆっくりと歩いて来たのは、青い女性だった。
ユリアと同じくらいの20代前半に見える。
「アクセルの嬢ちゃんが遅いからだぜ!!
名前と能力と合致してなさすぎだろ!!
その胸が邪魔で、速度が出ないのか?」
「うぅ……ごめんなさい……
でも、セクハラは止めて下さい……」
この2人の会話で、翔矢は、何となく2人が何者なのかを察する。
「ファイター……アクセル……
えっもしかして、2つの世界に住んでる人?」
「30点だな、まぁ話すとややこしいからファイターって呼んでくれ」
「ファイターのオジサン厳しすぎですよ。
翔矢君、初めまして!! 私もアクセルでいいよ。
えっと……ゴメンね!!
私の力なんて、いっつも体の負担が大きくて、お役に立てず」
アクセルは泣き崩れながら、しゃがみ込んでしまった。
「えっと、話しが良く分からなくてアレなんだけど……
アクセルは強力な能力だと思ういますよ?
最近は体が慣れて来たからか、前よりも使える時間伸びてますし……
能力が、どうこうってより俺の問題な気が……」
「本当に、そう思ってます!?
私、役に立ってます!?」
「本当っすよ、弱いって思ってたら、そもそも使いません」
「ハハハ宮本翔矢は意外とドライな所があるなぁ!!」
ファイターは、他人事のように大笑いし、自分の足をバンバンと叩いている。
「ってか、あなた達は、本当に何なんですか?」
「そうだった、質問に答えてなかったな
つっても何て言ったらいいか……
さっきも言ったが説明すると、ややこしいんだ」
「私たちは世界を見守る役目を持つ存在。
自分でも、それしか分からないの」
この話に変わった頃には、アクセルは泣き止んでいた。
「世界を見守るって“ぺネちゃん”みたいな天使?」
「いや全然違うな、天使ってのは天界に住んでる種族みたいなもんだ。
見守ってるのも、人間への災いがメインだしな。
俺らは1つの世界を、人類……いや生き物が誕生する前から見続けている。
1つの世界と同時に生まれた、世界そのものの、あるいはその一部とも言えるかもな」
「世界そのもの……
人間と変わらないように見えますけど何億年も生きてるって事ですよね?」
「私たちが生き物って自覚もないんだけどね。
何の干渉も出来ずに、ただ世界を見ているだけ。
まるで休日の人間が、ダラダラとネット動画を見ているようにね」
「確かに、そういう日もありますけど
……例え、それでいいんすか?」
「今まで何の干渉も出来ずに1つの世界を見てるだけだった。
戦争とか厄災が起こっても、ただ見てるだけ。
君の世界で言う推しを作って1人の人間の人生を観察するとか……
色々工夫はしたけど、もどかしくてね……
そんな時、突然だったんだ、全く知らない世界の1人の人間の記憶が流れ混んできた。
それでね……私が見て来た世界アクセルをイメージしたような力を使って戦ってくれた。
初めて誰かの力になれた……うんうん誰かと繋がれたみたいな感覚で嬉しかった。
ファイターのオジサンもそうでしょ?」
「照れくさい嬢ちゃんだな。
まぁ翔矢のコネクトの力は、俺らと繋がり、その世界をイメージした力を使えるようになるってこった、俺の予想だけどな」
「世界をイメージ……」
「日本人のキャラを外国人に考えさせると侍や忍者になるみたいなもんだ」
「なるほど……
えっと、いつもお世話になっております」
何となく2人の存在は理解できた翔矢は深々と頭を下げる。
「そう改まるなって!!
俺らも嬉しかったんだ、自分みたいな存在が各世界にいるってのも分かった。
それだけでも気が楽になるってもんだ」
「2人は、元々知り合いじゃなかったんすか?」
「今日と言うか、さっき初めて会ったのよ。
翔矢君を通じて、ファイターの世界も、私と同じ状況ってのは察してたけどね。
まさか、こんなオジサンだとは思わなかったけど」
「何を!!」
ファイターとアクセルはバチバチと火花を散らしている。
すっかり話し込んでしまっていた翔矢は、白い幼女の事を思い出した。
さきほどの光の檻は、何故か少し離れた位置に移動していた。
「あのぉバチバチの所、悪いんですけど、2人の話から察すると、あの子って……」
「あぁメタルの世界だな」
「なんか君の世界を相当恨んでるみたいね。
私たちは、他の世界でも誰かの力になれるってだけで嬉しかったからビックリしたよ」
そんな話を聞きながら、翔矢は恐る恐る光の檻に近づいた。
後を追うようにファイターとアクセルも翔矢に続く。
「えっと……君、メタルの世界?」
「子供のフリしてれば、この光の檻を壊してくれるって思ったのに!!
なんで私の邪魔をするの!!」
メタルの怒りはファイターとアクセルに向いていた。
見た目は、どう見ても幼女なのだが、恐怖を与えるような何かがあった。
アクセルは完全に怯えてしまっていたが、ファイターは毅然とした態度を取る。
「お前さんも、我らと同じ、世界を眺めていただけの存在のはず。
こうして他者と交流を持てることに、幸せを感じんのか?」
「こんな恐ろしい世界じゃなかったらね!!
その世界に力を貸す2人も同罪さ!!
世界を護るはずの天使には凍らされるし!!
やっと溶けたと思ったら、勇者に封印される!!
正しいは私のハズなのに!!」
メタルは怒り任せに金属のブレスを吐き出すが、光の檻は微動だにしない。
「自分が正しいと思ってるなら、その根拠を述べんかい!!」
「ちょっと考えれば分かるだろ!!」
「分かったとしてもだ!! 自分の口で言わんかい!!」
「嫌だよーだ」
メタルは、今度は年相応にアッカンベーをしてみせた。
「ならば、その光の檻で反省せんかい!!」
その言葉にメタルは頬を膨らませながら黙り込んでしまった。
この隙にアクセルは切羽詰まった様子で翔矢に話しかけてきた。
「翔矢君!! ここの時間は君の世界よりゆっくりなんだ。
でも、あまり時間がないの!! ペネムエちゃんが……
ファーストっていうのにヤラれかけてる!!
ペネムエちゃんの事、思い出せてるよね?」
「ペネちゃん……そうだ俺、ここに来るまで忘れてて」
「思い出せたのは良い事なんだけど……
君がメタルに体を乗っ取られた時にペネムエちゃんが」
「俺を止めてくれたんだ……
それで記憶が凍ったみたいになって」
「記憶が戻ったって事は凍ってた記憶が溶けたって事。
それはつまり……」
「凍らせた本人……ペネちゃんがピンチって訳だな。
俺が行っても、ファーストってのを止めれるのか分からないけど……
行かなきゃ!!」
翔矢は頬をパチンと叩いて気合を入れた。
「うむ、我ら3人が、同じ空間にいる今なら、新たな力を授けれるかもしれん」
「ちょっと!! 私を数に入れるな!!」
メタルは納得がいってないようだが、彼女を無視して話は進められる。
「私の加速の力を応用すれば、ペネムエちゃんの所に送ってあげれるかも!!
目が覚めたら、すぐ戦闘だよ!!」
「お願いします!!」
翔矢の目に迷いは無かった。
ファイターとアクセルは同時に頷き、その覚悟に答えるのだった。
***
グミは ペネムエに言われた通り翔矢を探し回っていた。
気絶している彼を見つけるのに、そう時間は掛からなかった。
「翔矢!! 生きてるかニャ!!」
黒猫から人の姿に変わり、慌てて駆け寄るグミ。
その途中で翔矢が起き上がったので、グミはひとまず安心した。
「大変なのニャ!! ペネムエが!!」
翔矢は、無言でグミの顔の前にスッと手を向けた。
何を言いたいかは、もう分かってると言っているようだった。
「大丈夫、ペネちゃんは俺に任せて!!」
自信満々に、一言だけ言い放った翔矢は、光を放ちグミの前から姿を消した。
「“ペネちゃん”か、こりゃニャーが参戦するのは野暮みたいだニャー」
何かを察したグミは、翔矢にすべてを任せる事に決めるのだった。
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