187話:爆発から再戦が始まりそうです
傷だらけの体を引きづりながら、始の病室のある階まで、何とかたどり着いたゼロ。
肉体の崩壊は止まる事は無く、ギリギリの所で人の形を保っているのが自分で分かる。
だからこそ、最後に一目だけでも息子の顔が見たかった。
その思いで、病室の前までたどり着いたが、その再開を歓迎しない者も多数いる。
「しょうこりもなく来やがったなゼロ!!」
目の前には金属バットや刃物を持った、かつての自分の信者。
10人ほどいるが、能力を持った信幹部の姿は無い。
東京の至る所で行われた戦いで、戦闘不能になった事は容易に想像ができる。
「息子は無事なんでしょうね?」
「変なおっさんが、妙なバリアを張りやがってな。
だが、あと少しで破壊出来るぜ!!
目の前で息子を殺してやれると思えば、タイミングは悪くなかったぜ!」
信者達が、わざとゼロに見えるように道を開ける。
するとピンクの幕のようなバリアが見えた。
それにはヒビが大きく入っており、確かに今にも割れてしまいそうだった。
「ヘイヘイヘイ!! 間一髪だったよ!!
トラックが激突しても耐えきれる計算だったが、人工魔力の消耗が激しくてね。
長時間の維持はむりだったようだ!!」
結界内部から顔を見せる白衣姿の、ハイテンションな男。
ゼロは自分に電話をかけてきた男だと嫌でも分かった。
「大道竜一博士の息子さんね」
「いかにも!! 親子仲は、あまり良好ではなかったのでね。
両親が付けた名前も気に入らないレベルなので、ドクターと呼んでくれ」
「ドクター、息子は無事かしら?」
「“信者に危害は加えられていない”という意味ならね。
君も異世界の研究をしたなら、魂の概念は知っているかな?
それが肉体から抜けている状態だ!!
魂は近くにあるんだろうが……この世界の医学では治せないだろうね」
「始が異世界転生をしようとして……飛び降りた地点で予想はしていたわ。
まさか、魂と肉体の分離に成功しているとは思わなかったけど」
「その結果、肉体の老化は止まっているようだ」
ドクターが始の体に触れようとしているのがゼロの視界に入る。
その瞬間、何だか強烈な不快感がゼロの心を染めた。
「始に触るな!!」
「おっとっと」
その覇気にドクターは思わず手を止める。
わざとらしく両手を挙げるが、その額から流れる冷や汗までは隠しきれなかった。
「ごめんなさいね」
「気にする事は無いさ、君の肉体は、法律的には死んでいるんだろうが……
親心は残っていたという訳だね!!
……少し羨ましいねぇ」
ドクターは俯いてしまい、その表情はゼロからは見えなかった。
「さて、お話タイムは、ここまでだぜ!!」
信者たちは、武器を構え、一斉にゼロを睨んだ。
「セブンスやフォースがいるならともかく、あなた達だけで私に勝てるとでも?」
体の崩壊している部分を隠しながら、ゼロは瓦礫を手に取り信者たちに見せつけた。
「お得意の触れた物を、爆弾に変える能力か?」
「こんな場所で使っていいのか?」
信者たちは嫌らしく笑みを浮かべながら、バリアに入っているヒビを指差した。
「私としたことが……能力なしで戦うしかなさそうね」
能力を使えなくても、ここにいる信者が相手ならば、ゼロの敵ではない。
すぐに、この場を殲滅し、始に会いたい。
その油断と思いのせいで、他の事にまで気が回らなかった。
何発もの銃声が鳴り響き、その凶弾は次々にゼロの体を崩壊させる。
「こっこれは……」
「化物用の、細胞崩壊弾だ。
ファーストしか持っていないとでも思ったか?」
生物の出血とは思えない量の血液が、そこら中に飛び散りゼロは膝を着く。
「ちっ……頑丈な化物だ」
これだけの出血と惨事を目の当りにしても、信者は後悔の様子はない。
彼らはゼロの事を人間とは思っていないのだ。
「チョイチョイチョイまずいねぇ」
「うるせぇ!! おっさん!!」
後ろから横やりを入れたドクターに、1人の信者がバリア越しに金属バットを振ると、バリッと嫌な音が鳴る。
するとガラスにボールが当たったように、バリアは粉々に砕け散ってしまった。
「あっ……」
「なんだ、後一発で破壊できそうだとは思ったが、文字通り本当に一発だったなぁ!!」
「死にぞこないの化物は無視だ!! さっさとゼロのガキを始末するぞ」
「待ちなさい!!」
ゼロは当然、、信者を止めようとするが、体がまるで言う事を聞かず、立ち上がる事すら出来ない。
「ここは通さな……ギャーーー」
ドクターも両手を広げ、通せん坊のように出入り口を塞ぐが、引きこもり同然の生活の彼は、秒で跳ね飛ばされ床に転がる。
「目の前でガキがくたばるのを、良く見ておくんだな!!」
信者の中でもガタイの良い男が、始を無理やり抱きかかえ、もう一人の信者が首元にナイフを突き立てた。
「やめて!! やめて!! 誰か……」
情けなく助けを求めるゼロの姿に、信者は満足したような表情を見せた。
しかし、その手は、もはや止まる事は無い。
「心配しなくても、こいつの次は当然お前だ」
始の首元からツーっと血が流れる。
ナイフを持つ信者の手に、どんどん力が入る。
「お願いよ!! 始が……何したって言うのよ……」
ゼロの心は折れ、その光景に目を背けた。
そこにコツンコツンと誰かの足音が響き渡る。
「その通り、抵抗できない病人に刃物を向けるなど、どちらが化け物でしょうか?
それとも無抵抗な人間や、弱った相手にしか強く出れないのですか?」
静かな怒りを秘めながら現れたペネムエ。
その姿に、敵意を向けられた者は、誰もが背筋を凍らせた。
「あなた……」
「勘違いしないで下さい、ゼロ様の言うとおり、始様に罪は無い。
だから助けるだけです、あなたの為ではありませんので」
「……ありがとう」
ペネムエに恐怖を感じる信者だが、もはや後戻りはできない。
しかし何かしなければと思う程に、その体は重くなってしまう。
「畜生!! ファーストの奴は負けっちまったのか!?」
「セブンスは!? フォースは!?
あれだけの能力を持ってた癖に……使えない奴らだ!!」
「この期に及んで人任せな上に、頼る相手を侮辱。
そんな口は、もう開かなくていいです」
その冷たい視線と共に、10人の信者は文字通り凍りついてしまった。
「はっ始!!」
信者が動かなくなった事で、気が楽になったのか、体が楽になったゼロは、すぐに立ち上がり息子の元に駆け寄った。
彼を押さえナイフを突き立てていた信者は氷像のように凍ってしまっているが、始の体は冷気を浴びたとは思えない程、暖かかった。
安心したゼロは、すぐに体に力が入らなくなり、床に倒れこんでしまった。
「ごめんね……ごめんね……」
これが何に対する謝罪なのか、自分にも分からない。
それでも、その言葉は、まるで自分の意思では止められないかのように繰り返された。
ペネムエは、ゼロの姿に、彼女がテロリストという事を一瞬忘れ、微笑ましく思った。
その表情を誰かに見られたなら、さきほどの冷たい目をしたペネムエと、同一人物だとは思わないだろう。
しかし、その時間は一瞬にして終わってしまう。
ペネムエは、邪悪な魔力と冷気を感じた。
それが誰の仕業なのかは、すぐに分かった。
「ゼロ様!! 危ない!! 伏せて!!」
ペネムエの叫びで、ゼロも何かに気が付いたのだろう。
始を抱えた信者ごと、その体で抱きしめ、床に伏せた。
その瞬間、爆風が発生し、病室の中は悲惨な状態になった。
「大丈夫ですか!?」
砂埃が舞う中、病室に駆けこむペネムエ。
自分が凍らせた信者は、咄嗟に氷を解いたので、気を失っているだけのようだった。
もし間に合っていなかったら、氷と共に砕け散っていただろう。
ひとまず安心すると、徐々に視界が開け、ゼロの姿が確認できた。
必死に始を抱えて、ゼロの血が、彼にもベッタリと付着してしまっているが、2人とも命は無事なのは分かった。
しかし、病室の中を見ても、犯人と思われる、あの男はいない。
「ヘイヘイヘイ!!」
耳に入った無駄にテンションの高い声。
ペネムエは思わず身構えてしまうが、彼は人間性はともかく犯人ではない。
「ドクター様も、いらっしゃったのですね」
「うむ、親子の時間を邪魔しないように、隙を見てロッカーの中に入ってたんだ。
そのお蔭で無傷だよ!!」
「何よりでございます」
「で? ゼロと子供は?」
「始様は、今の爆発による怪我はないようです。
ゼロ様は……元々酷くダメージを受けておりました。
今は気を失っているだけですが恐らく長くは……」
ペネムエは2人の様態を確認しながら、何か無いかとポーチを漁るが、何度見ても回復アイテムは使い果たしてしまっていた。
「細胞の結合を崩壊させる弾丸かぁ。
単純な構造だが強力だぁ!! ゼロの細胞を分析する時間があれば助けれたかもしれないが、間に合わないねぇ!!」
ドクターはピンセットでゼロから弾丸を抜き取ると、それを摘まみながら、相変わらずハイテンションで分析を続ける。
その不謹慎な態度に、ペネムエは軽蔑の眼差しを無言で向ける。
「怖い顔だねぇ、テロリストに情でも移ったかい?」
その問いにペネムエは無言だった。
「君がどう思おうが勝手だけどね、僕に怒りを向けてる暇は無いはずだよ?
今の爆発は魔力によるものだぁ!!
何がキッカケで爆発したかは分からないが設置式。
もしかしたら、一般患者や避難民のいる所にも設置されているかもねぇ!?」
“ゴォン”ペネムエが思わず蹴飛ばしてしまった丸椅子は、ドクターの足元まで勢いよく転がり、彼の弁慶の泣き所に直撃した。
ドクターは無言でピョンピョンと飛びながら足を押さえる。
「この部屋から他に魔力は感じられません。
外の様子を見て来ます」
病室の窓の前まで飛んできていたマジックラウドに乗り、ペネムエは飛び立っていった。
「おい!! 戦闘能力が無い僕を1人にするつもりかい!?
ゼロだって、目を覚ませば何をしでかすか分からないよ!!
フゴッ!!」
ペネムエを引き止めようとしたドクターだったが、床に倒れていた信者につまずき、机の角に頭を激突、そのまま気を失い動かなくなってしまった。
***
マジックラウドに乗り、飛び立ったペネムエは、少し怒りが静まり冷静になっていた。
「やはり今の爆発音は他の方にも聞こえましたか……
下にいる、お医者様や患者様が、少々パニックになっておられます」
魔力を探りながら、耳を澄ますと、下にいる看護師は爆発したのが始の病室と理解しているようだった。
特殊部隊は、危険なので上に行かないようにと呼びかけている。
「上に人が来る心配はなさそうですね……
わたくしは、犯人探しに専念しませんと」
病院敷地の中心辺りの屋根に降りて、改めて魔力を探る。
すると、覚えのある魔力が、猛スピードでこちらに向かってきていた。
「この魔力は……グミ様!?」
「ペネムエ、爆発が聞こえて驚いたニャ!!
文字通り飛んできたけど無事でよかったニャ!!」
「えぇ、お気遣いありがとうございます。
その様子だと、悠奈様もご無事だったようですね」
「気は失ったままだけど、特に外傷はないから安心ニャ。
大柄な男軍団……マッスル大学ラグビー部? ってのが悠ニャを護ってくれたみたいニャ。
例の回復魔法のお蔭か、そっちも全員無事らしいニャ」
「直接は拝見してませんが、病院内では、能力を持たぬ信者相手に大活躍の様です。
彼らも立派な功労者ですね、事件が解決したら天界に報告しておきましょう」
「それで気になる事があったのニャ」
「気になる事と言いますと?」
「悠ニャが倒れてた辺りにドロドロに溶けた金属みたいなのがあったニャ」
「それって……」
「翔矢が何かに体を乗っ取られたって時の能力だよニャ?」
ペネムエの表情は青ざめ、黙りこんでしまう。
「だっだ大丈夫ニャ!! 騒ぎが起こってないって事は、何やかんや今は収まってるはずニャ!!」
「今は……ほとんどの方は地下に避難していますし爆発騒ぎもあったので……」
「ニャニャニャ……」
「申し訳ございませんグミ様、翔矢様を探して頂けますか?」
「えっ?」
「わたくしでは、冷静に探すことはできません。
それに……コレの相手はわたくしの方が適任かと」
ペネムエとグミが同時に振り向くと、そこには人型のクラーケンにカラスの翼の生えた怪人、ファーストが待ち構えていた。
「あのブリューナクモドキの寒さは、ニャーはどうしてもニャ……
翔矢は任せるニャ!! ってかそっちは頼みたいニャ!!」
グミは黒猫の姿になり、屋上から飛び降りていった。
「いいんですか? 貴様1人で俺の相手になるとでも?」
「わたくしは、ほぼ全快の状態ですので……」
ペネムエはブリューナクを構え、ファーストとにらみ合うのだった。
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