186話:連絡から祈りが始まりそうです
転生教幹部のファーストは、ペネムエとグミを退けた後、ターゲットである始の元に向かうつもりだった。
しかし、今までクラーケンとカラスの怪人だった姿は、元の人間に戻ってしまったので、物陰に身をひそめていた。
「どういう事だ? 時間制限でもあったのか?」
科学の知識のあるファーストは、両腕に填めたブレスを少し分解し、構造を確認する。
「エネルギーは十分に残っているようです……
ん? プログラムが書き換えられている。
なるほど、遠隔操作ですか。
ですが30分程度の足止めが精いっぱいのようです。
気長に待たせて頂きますか」
周囲を警戒しながら、ファーストは、この場で時が過ぎるのを静かに待つのだった。
***
その頃、ゼロは血が流れ続け崩壊を続ける体を引き釣りながら、始の元にゆっくりと向かっていた。
「はぁ……はぁ……」
息子に会って何をしたいのか、何ができるのか分からない。
そもそも水瀬玲奈の記憶と感情が複製されただけの自分が親を名乗れるのかも分からない。
そうでなくとも、今の自分は極悪人だ。
「会いたい……早く……始に」
息子の命が自分のせいで信者に狙われているという危機的状況。
それが一般にも広まってしまった事で、病院内に人は、ほとんどおらず、ゼロは堂々と進むことが出来ていた。
しかし、ここは重症患者の入院しているエリア。
医者や看護師が、自力で動けない患者を何とか安全な場所まで運ぼうと、必死に動いていた。
「先生!! やはり、全員を運び出すというのは……」
「諦めるな!! 地下の隔離施設。
あそこならエレベーターで直通。
シェルターも兼ねていて簡単には入って来れないはずだ」
「その……始君は、どうしますか?」
「狙われているのは彼だと分かっている……
移動はさせず特殊部隊に護衛を頼んだ」
「そんな……オトリみたいな事……」
「一般の患者を優先するだけだ」
そんな会話を、ゼロは、柱に隠れ息を殺しながら聞いていた。
(特殊部隊……厄介ね……)
今後の動きを考えながら、医者たちに達が去り出ていくタイミングを伺う。
そんな時、ゼロのスマホから着信音が鳴り響いた。
誰かに気が付かれないかとドキッとしたが、この慌ただしさで、その心配は無用だった。
慌てて、電気の付いていない病室に逃げ込み、非通知からの電話に出た。
「誰?」
『ヘイヘイヘイ!! 本当に出るとは思わなかった!!
ゼロ、病院に来たようだが息子に会いたいのかい?』
聞き覚えの無い声からの質問にゼロは警戒し無言になる。
『おっと失礼、私は北風エネルギーの大東……竜一の息子と言えば分かるかな?
縁があって君の息子の病室にいるのだが、何人かの信者は病院に侵入しているようだ。
というか、今目の前にいるのだよ!! こちらの戦力は全員出払ってしまていて丸腰なのさ!!
息子の命が惜しかったら、早く助けに来てくれ!! 助けてくれ!!』
「……交渉の余地は無さそうね、
目の前に信者がいるのに、電話している余裕はあるのね」
『敵は能力の持たない信者。
金属バットなどを持って暴れているが……
私の開発した“ウルトラ結界君4号”で時間を稼いでいる。
15分以上は持つと思うが、血走った男が目の前に何人もいると怖いね』
「まだ医者や看護師は避難に右往左往していたようだけど?」
『テロリストの親玉が、避難の心配かい?
こちらには、素晴らしい助っ人がいるのでね!!
この階には誰も近づけさせないさ!!』
「……分かったわ、今でも十分急いでいっるのだけど至急向かうわ」
特殊部隊が始の警護に向かったという情報を得ていたゼロは、信者が到着しているという情報に疑問を持った。
しかし、それを今電話で確認したところ、タイムロスにしかならない。
このフロアに誰もいなくなった事を確認したゼロは、上の階を必死に目指した。
***
天道ユリアはドクターと行動を別にし、更衣室で看護師の服に着替え変装していた。
「胸の名札に顔写真入ってるタイプか。
まぁ働いてる人が大勢いる病院だし、この混乱なら何とかなるでしょ!!
看護師の役もアニメで演じたことあるし!!」
ドクターから言いつけられた任務を達成するため、ユリアは看護師姿で通路に出た。
そのタイミングで、始の病室に向かう特殊部隊と遭遇してしまった。
「君、我々は水瀬始という患者の病室に向かう。
この階より上のフロアは危険だ、早く地下に避難しなさい」
「えっと、その始さんなんですけど、誰かが間違えて地下に避難させちゃったみたいで……」
「何!?」
「ここより上の階には誰もいないことは確認済みなので、テロリストが来ても無駄足になるので引き返すだけだと思うんですけどね」
看護師に成りすましているユリアを疑う事なく特殊部隊は、今後の作戦の話し合いを始めた。
「隊長、どうしましょうか?」
「地下のシェルターは簡単に侵入できないだろうが、全員は入れる訳はない。
誰もいない上のフロアは放置し、市民を護る事を優先する!!」
「「「「「了解!!」」」」」
力強く頼もしい声と共に特殊部隊は、下の階へと急行した。
「ふぅ、誤魔化せるものね、今度はドラマのオーディションとかも受けてみようかしら?」
気が抜けてしまったユリアだったが、すぐに気を引き締めスマホを 手に取りドクターにメッセージを送った。
「えっと“特殊部隊は下に誘導しましたよ”
あっ癖でハートの絵文字送ってしまったわ……」
送った人物の顔と性格を思い浮かべながら頭を抱える。
その数秒の間で返信が来た事を伝える通知音が鳴った。
“ありがとうございます。
ゼロなら特殊部隊との遭遇を避け、ここまで来れると思います。
まだ、信者が潜んでいる可能性もありますので、ユリア様は、どこかに身を隠してください”
「あれ? 思ったよりまともな文章ね」
対面とのギャップにユリアは拍子抜けしてしまった。
実は、真面目なのかと見直したがキャラを作っていたのならば残念な気もした。
「まともというか、社会人なら平均、というか中央値よね」
1人でポツポツと感想を漏らしながら、メッセージに書かれた支持通り、誰も来なそうな物置に身を隠すことにした。
ひと段落した安心から、溜息を吐く彼女の頭に、声が響く。
『ユリア、もう休憩かい?』
「大魔王デモン様……
あなたは人間に能力を使わせ心の闇を回収し復活したい。
私は、あなたを復活させ、天界を滅ぼして欲しい。
ノーマジカルは、その目的の為に利用しているだけ。
この世界への被害を出す事に執着は無いはず。
むしろ騒ぎが大きくなって、天使に勘付かれる方が厄介かと」
『これだけの事件が起こってるんだ、女神は気が付いてるだろうね』
「能力を配っている二葉サヤは大魔王デモンの手先とバレてるでしょうね。
でも、私はどうかしら?」
『ふふふ、君はズルい子だ。
今回は大きな戦いだったからね。
この俺の復活も秒読み……
協力してくれたノーマジカルに手を出す気はないさ。』
その言葉にユリアは安堵した表情を見せる。
『やっぱり、君は、この世界が好きなんだね?』
「天界への復讐に関係ない世界を巻き込みたくないだけよ。
異世界や魔法が実在する事が広まるのは良くないし……
これ以上の、被害は出て欲しくはないと思ってるけど……」
『ツンデレって奴だねぇ!!
今でも人気ジャンルだと俺は思ってるよ』
「大魔王デモン様も、この世界の文化に染まってますよね?」
『長く同じ世界にいれば愛着も沸くさ。
特に恨みもないからね』
「それなら、後は、翔矢君たちが戦いを収める事を祈りましょう?」
『そうだねぇ』
2人は、身を潜めながら、戦いの決着を祈るのだった。
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