183話:一撃から撃退が始まりそうです
ペネムエとグミがファーストと戦っている頃、翔矢はドクターに借りた羅針盤を頼りに能力者を探していた。
「こういう道具ってアニメとかで便利に使われてるけど、実際使うと距離とか分からないし、真っすぐ進める道ばかりじゃないから不便だな……」
翔矢は羅針盤の刺す方向に歩いてきたが、大き目な建物に塞がれてしまい不満を漏らしていた。
都立病院は、日本でも最大級の設備を持っている。
それゆえ、敷地内で建物が何棟もあるという、田舎暮らしの翔矢にとって考えられない事態に直面していた。
「東京の建物は高いしデカいし、真っすぐ進むとか無理だろ。
スマホの地図アプリみたいにできないのかよ!!
まぁ地図アプリも都立病院ってしか書いて無くて、まだ敷地内って事しか分からないけど」
建物の外側をグルっと回って進もうとするが、一向に前の方に出れない。
正確に言うと、翔矢が同じ所をグルグルと回っているだけなのだが、方向音痴の翔矢は、それに気が付かない。
「あれ? ってか矢印の方向おかしくね?」
同じ建物の外周を3周ほどした所で、羅針盤の動き方に違和感を覚えた。
足を止めて、羅針盤の針をよく見ると、自分が動いていない間も羅針盤の針が左右にブレるように震えていた。
「そりゃあ相手も動くよな……
ってか狙いは始だって分かってるんだから、病室の近くで待機の方が良かったんじゃね!?」
根本から間違っていた事に気が付いた翔矢は、あわてて始の病室の方に引き返そうと、振り返った。
その動きに合わせるように翔矢の目の前にトランプ程のサイズのカードが手裏剣のように飛び壁に刺さった。
もう少し早く動いていたら、翔矢の頭に刺さっていただろう。
壁のカードの見た目は何度見ても紙、明らかに能力者の仕業だ。
「いてっ!! 指切ってしまった……」
無意識にカードを取ろうとした翔矢の指は、触れた瞬間にザックリと切れポタポタと血が流れる。
「ぷっ!! 外したと思ったら自爆しやがった!!
ゼロを追い詰めた1人と聞いたから警戒したが、俺だけでも大丈夫そうだな?」
「あぁん!?」
笑われた事に腹を立てながら声の方を向くと、白い装束に赤いラインが入った男。
ほぼ間違いなくカードを投げた能力者だろう、今までの信者と違い仮面は付けておらず素顔が見える。
顔立ちや背丈から判断するに自分と同じくらいの世代だろう。
「俺は、転生教幹部のフォース。
って教祖様があれじゃ、もう名乗りたくないけどな」
「それで仮面を取ったのか?」
「いや、東京の夏が暑すぎてしんどかった、服も着替えたい。
私服くらい持って来ればよかったぜ」
「分かる!! 店は、お前らのせいで全部閉まってるもんな。
どうせテロリストなんだし、服盗むか、全裸で歩いても良いんじゃね?」
「ないわ……こっちだって信念で動いてるんだ。
窃盗罪、わいせつ罪はないわ」
翔矢の意見にフォースは引いたような表情を見せる。
「わいせつ罪は、未遂の奴なら沢山いたけどな」
「まぁ異世界行きたい奴の集まりだし、色々なのがいるのさ。
テロリストは何かカッコいいが、わいせつとかはカッコ悪くて救えない」
「言いたい事は何となく分かるけどな」
お喋りは終わりだと言うように、フォースはカードを7枚ほど連続で手裏剣のように飛ばしてきた。
「あぶねぇな!! 1回見たから避けるけどさ!!」
「見たってだけで避けられるのはショックだがな。
これ結構練習したんだぜ」
フォースは追加で、次々にカードを飛ばしてくるが、翔矢はアクロバティックに空中回転を決めて全て回避する。
「すげぇな」
「あは、テレビの見すぎだな俺も」
フォースは思わず拍手を送ってしまったが、そんな場合でないと首をブンブン横に振り気合を入れた。
再びカードを投げようとポケットに手を入れるが、中は既にカラだった。
「調子に乗りすぎたか……」
「隙ありだ!!」
【コネクト・アクセル】
翔矢の声に気が付き、前を向こうとした時には、フォースの体は地面を転がっていた。
意識が飛びそうになったが、何とか堪えて、ヨロめきながらも立ち上がる。
「ガハッ……てめぇ卑怯だぞ!! それでも正義の味方か!?」
「いや、正義の味方って言った覚えはないんだが。
それに不意打ちで攻撃して来た奴には言われたくない」
「確かに正義の味方って面じゃないもんな。
悪くない判断だったが、一撃で仕留めれなかったのは失敗だぜ」
「そうかもな……」
ここに来る前に、ドクターから鳩尾を狙って一瞬でも心臓を止めれば、能力者からカプセルが排出され、能力は失われると聞いていた。
その通りに狙ったつもりだったが、フォースからカプセルは排出されていない。
「まぁ競争じゃないんだ、何度だって挑んでやるぜ!!」
翔矢は再びアクセルの速度で殴りかかろうと、拳を構え狙いを定める。
「粘り強いのは良いことだが、俺相手に何度も殴るのはオススメしないぜ?」
「なっ……」
攻撃を仕掛けるタイミングを伺っていた翔矢は右手に暖かさを感じて、視線を落とすと、右手はザックリと切れポタポタと血が落ちていた。
よく見ると肉がえぐれ、骨らしき白い物まで視界に入ってきた。
状況が目に見えると、今まで何も感じていなかったのに、急に耐えがたい痛みに襲われる。
「あの速度で殴って来たんだから、相当痛いよなぁ?」
「いっいいや? 血を見てビックリしただけだし?
肉体強化のお蔭で、全然痛くないし?」
「へぇ……肉体強化ってのは厄介だなぁ!!」
フォースは落ちていた小石を拾うと、思いっきり投げつけてきた。
その動きに翔矢は気が付いていたが、手の痛みに加えアクセルの活動限界時間を超えてしまった負担から、体を右に揺らして直撃を避けるのが精いっぱいだった。
小石は翔矢の右頬を掠り、スーッと切ったように血が流れ落ちる。
「これ小石当たったら、タンコブできないで、頭ザックリ切れるのかね?」
「さぁ? 俺の能力は触れた物を刃物に変えるが、重さとかは変わらないし、細かい性質は同じだと思うが……
そんなに気になるんなら、当たってみたらどうだ!?」
「断る!!」
【コネクト・ファイター】
次々と投げられる小石を翔矢は回避しながら、フォースに接近する。
(落ち着け……相手の体は普通の人間だ。
強力なのを一発入れれば俺の勝ち。
小石避けるだけなら、アクセル程のスピードは必要ない)
「当たらないもんだなぁ、部活はハンドボールやってるから自信あるんだけどなぁ」
「ハンドボールか、知ってるけど、俺の高校じゃ、部活すらないな」
何故か余裕のあるフォースを疑問に思うことなく、翔矢は接近し、拳の射程範囲に入った。
ここだとばかりに、右手にファイターの赤いオーラを集中させ、威力を高める。
「ちょっと手が切れるからってビビらねぇぞ!!」
「くはっ!!」
その拳は、フォースの鳩尾に直撃。
フォースは悶絶するも、体制は崩さず、カプセルも吐き出されない。
「ちくしょう、心臓って中々止められないもんだな」
「お前サイコパスかよ!! やっぱり能力者への対処法を知ってやがったか」
「え? お前らも知ってたの?」
「ゼロが解明してやがったぜ、当然対策済みだ!!」
フォースの白装束が、ハラリと捲れると、下に黒い何かを着ているのが見えた。
「それ……防弾チョッキって奴か?」
「特別性のなぁ、ちなみに電気も逃がしてくれるぜ!!」
「ゼウが能力者相手に苦戦する訳だ」
「まぁ俺の場合は防御以外にも使えるけどな」
「あっ……」
フォースの言葉の意味を察した翔矢は、後ろに大きく飛んで距離を取った。
「あぶねぇ……赤メリ付けている方の手じゃなかったら、片手無くなってたぜ」
すぐに右手を確認したが、赤メリを装着していたお陰で、怪我の悪化は見られない。
「やっぱ肉弾戦主体の俺じゃ相性が悪いか」
「おとなしくゼロのガキの所に行かせてくれたら、戦わなくてもいいぜ?」
「それが一番の問題なんだけどな……」
睨みあう翔矢とフォース、その沈黙を破ったのは、2人の戦いの音ではなかった。
「グミちゃーん!! どこ行ったのぉ!?
病院は危ないから、みんな逃げるってぇ」
100メートルほど離れた場所から、翔矢に聞き覚えのある少女の声。
何かを探すのに夢中で、こちらに人がいる事には気が付いてないようだ。
「悠菜!? 何でここに!? いや、いるのは知ってたけど」
気が動転した翔矢の姿を見ると、フォースはニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「何だ!? あの可愛い子と知り合いなのか? 羨ましいねぇ」
フォースは、細長い木材を手に取り、槍投げの構えで、悠菜の方を向く。
「やめろぉぉぉぉぉ!!」
「やらねぇよ? あの子にはな」
「えっ……?」
気が付くと、刃物と化した木材が翔矢の腹を貫いていた。
翔矢の意識は、徐々に薄れていく。
「言ったろ? 俺は女に手を出す程、落ちてねぇんだよ。
……って、もう聞こえないか?」
木材の刺さった腹部から大量に血を流し倒れる翔矢。
勝利を確信したフォースは、始の元へと向かうのだった。
ここまで読んで下さりありがとうございます。
ストーリは一生懸命練って執筆しております。
少しでも続きが気になったらブクマ登録して頂けると励みになります。
下の星から評価も、面白いと感じたら、入れてくださると嬉しいです。




