182話:一撃必殺から人型が始まりそうです
イカ墨まみれのペネムエは、グミに化け物と間違えられ強烈な一撃を喰らってしまった。
すぐに誤解は解けたのだがペネムエの機嫌は悪いままだ。
「ペネムエ……悪かったニャ……
機嫌直してくれニャ……」
グミは魔法のシャボン玉をペネムエに浴びせ、イカ墨を落としながら、ひたすら謝り続けている。
「誰にでも勘違いはありますし、この汚れも、わたくしの油断が招いた事です。
怒ってません、有事で気が立っているだけです」
(嘘ニャ……絶対怒ってるニャ……
後でカキ氷にされるニャ……)
グミは恐怖で体を震わせながら、ペネムエの体にシャボン玉を掛けてはゴシゴシ洗うという作業を繰り返している。
ペネムエは棒立ちで全く動かず、自分からは体を洗おうとしないのがグミには不気味で仕方なかった。
(あーこれは翔矢が何やかんやしないと機嫌直らない奴ニャ。
翔矢……早く記憶戻ってくれニャ……)
翔矢の記憶が戻るのは、もちろん最初から願っていたが、グミのその気持ちは不純な理由で一層強くなってしまった。
そのまま何分かが経過し、ようやくペネムエに付いたイカ墨が綺麗に落ちたかと言う所で、ペネムエがサッと振り向いた。
「ギャー!! まことにゴメンニャさい!!
傷を負ってるの忘れてたニャ!! やっぱ染みたかニャ?」
グミは神速でペネムエから離れ、すごい勢いで土下座をした。
「グミ様……怯えすぎですよ。
謝罪が土下座って日本の文化に馴染みすぎです。
確かに怒ってないと言えば嘘ですが、この場で重要な戦力を削ろうとは思いません」
「この場じゃニャかったら!?」
「そんな事より、ガラスの割れたような音が聞こえませんでしたか?」
「考え事してて、そこまで気を張ってなかった……ニャ」
ペネムエに言われ、グミは耳を澄ましてみる。
動物の能力も持っている悪魔族の五感は、天使の数十倍は優れているのだ。
「あーこれはガラスの音じゃなくて氷の割れてる音ニャ」
「氷?」
「あーあのクラーケンの氷細工からだニャ。
さすがノーマジカル、氷なんてすぐに溶けてしまうのに芸術作品にしてしまうとは!!」
「グミ様……あれは芸術作品でも置物でもありません。
わたくしが凍らせた敵でございます……」
「本当だニャ、確かに魔力を感じるニャ」
グミは目を丸くしながら氷漬けのクラーケンをペシペシと叩いている。
状況を飲みこめていないというよりは、軽視しているという感じだ。
こうしている間にも、氷のヒビは大きくなり、今にも砕けてしまいそうだ。
「まさかブリューナクの冷気に耐えるとは。
やはり氷タイプは水タイプに効果は今ひとつなのでしょうか?
グミ様、もう持ちません、離れて戦闘態勢に入って下さい!!」
「ニャニャ!!」
グミは指示通りにファーストから距離を取り、ペネムエの隣に飛んできた。
ペネムエも、敵が動きそうな事に、そこまでの危機感は持っていなかった。
そして間もなく氷は完全に溶け、ファーストは自由の身となった。
「やってくれましたね!! 敵が増えていますが、まぁ良いでしょう」
「さっきまで凍ってた癖に余裕こいてるニャー」
「動きは封じられてましたが、痛くも痒くも寒くもありませんでしたからね。
真夏の東京では、丁度良い加減でした。
それに余裕をこきすぎなのは……あなた方の方ですよ!!」
ファーストの足の内の1本が目にも止まらぬ速さでグミを吹き飛ばした。
「グミ様!! 大丈夫ですか!?」
「ニャニャニャ……ちょっと痛くて寒いだけニャ」
グミはすぐに立ち上がったのでペネムエはホッとした。
とは言っても、悪魔族の肉体は天使の自分の数倍は頑丈なので、平気だろうとは思っていた。
「熊程度なら倒せる威力が出たと思ったのですが。
ゼロと戦っていたガキのような肉体強化を持っているのですか?」
「いやいや、これは自前と言いますか、種族差ニャ!!」
「グミ様……腕が……」
「ニャ?」
青ざめた顔でグミの右腕を指さすペネムエ。
グミがゆっくりと首を傾けると、その腕は丸ごと凍ってしまっていた。
腕には、冷たいという感覚すらなかった。
「どういう事です? こんな力は無かったと思うのですが……」
ペネムエが考える間も無く、自分にも、ファーストのニュルニュルした足が襲い掛かる。
10本もある足を全て回避する事は叶わず、3足ほどが体に触れてしまった。
「これは……」
自分の体も足が当たった部分からグミと同じく凍結され始める。
寒さに耐性のあるペネムエでも、少し震えてしまう寒さだった。
恐る恐る凍ってない方の手で、氷を払うと、バラバラと崩れ、ペネムエの手は元通りになった。
「何だビックリしたニャ、簡単に取れるんだニャ!!」
「待ってくださいグミ様!! 不用意に触れてはいけません!!」
「どういう事ニャ?」
「この氷は、相当な冷たさでしたが、わたくしには、それ以上のダメージになりませんでした」
「寒さに強いの羨ましいニャ。
ニャーは生態ネコだから、寒いの苦手ニャ」
「いいえ、耐性があるだけでダメージは受けますよ?
でも本当に冷たいだけ……わたくしがダメージを受けない寒さ。
これは恐らく“ブリューナク”と同じ冷気です」
「ニャッ!? じゃあニャーが、この手に触ったら……」
「右手丸ごと砕けてしまうでしょうね……」
「どどどどどどうすればいいニャ?」
「ブリューナクの冷気であれば、今のわたくしは完璧にコントロールできます!!」
ペネムエがグミに向かってブリューナクを振ると、その手の氷は消え、元の肌が見えた。
「助かったニャー」
「氷を消したにすぎません、血流や体温は戻せないので、無茶は禁物ですよ?」
「戦いにくくて敵わんニャ、ちょっと下がってるニャ」
「そうして下さい、敵の力は分かりませんが、ブリューナクの冷気なら、わたくしは平気ですので」
ペネムエは再び戦闘態勢に入り、ファーストを睨んだ。
「いつの間に、このような力を?」
「俺も詳しい事は分かりません。
北風エネルギーから奪った設計図には、異世界の魔物と現実世界の生物の遺伝子をダウンロードするとしか書いてなかったので」
「まぁ良いです、この氷はわたくしには寒い以上のダメージにはなりませんので……」
【超高速】
ペネムエは人知を超えた速度でファーストとの間合いを詰め、そのままカラスの羽のような部位に突き刺した。
「ぐぁぁぁぁぁ!!」
「人間に手荒な真似は、したくないのですが、何分その姿。
配慮はするつもりですが、どこが攻撃して大丈夫な部分なのか分かりませんので」
「確かに痛いし寒い……だが捕えたぞ!!」
「なっ……」
ペネムエは突き刺したブリューナクがファーストの体に絞められ抜けなくなっている事に気が付く。
「確かに貴様は、そこそこ強い。
セブンスが目を付けるだけの事はありますが……武器の性能がチートなだけでは?」
「言ってくれますね……
しかし、あなたの姿も武器の様なもの。
その技術も北風エネルギーが開発したという事を、お忘れなく!!」
「人間なんて、どんな天才も先人の技術に頼って生きてるんですよ!!」
ファーストは体をブンブンと振って、ブリューナクを掴むペネムエを振り落とそうとする。
それに必死に食らいついているが、手を離してしまうのは時間の問題だった。
(ペネムエ!! さっきニャーの氷を溶かしたの一瞬で出来るように準備するニャ)
(グミ様? そうか通信用の魔法石でございますね)
(で、出来るのかニャ?)
(位置が近くで、わたくしがブリューナクを持っている間であれば……)
(じゃあ0.5秒後に、真上で頼むニャ!!)
「0てん!?」
あまりに時間に余裕がなくペネムエが声を漏らしたと同時だった。
頭上に黒猫が通過したのが気配で分かった。
その黒猫は一瞬で人型へと変わる。
【師子王一閃】
「キャッ」
拳による凄まじい一撃がファーストを襲った。
そのファーストに刺さっているブリューナクを必死で掴んでいたペネムエも一緒にゴロゴロと転がってしまう。
「ナイスペネムエ!! お蔭で冷たいのは一瞬だったニャ!!」
「グミ様の方がナイスではないですよ!!
死んでしまうかと思いました。」
今の衝撃で抜けたブリューナクと一緒に、ペネムエはファーストの下からニュルリと出てきた。
「いくらペネムエが冷気を無効化できても、そう何回も攻撃できないからニャ。
一撃で最強の技をお見舞いさせてもらったニャ」
「魔法無しで、この威力は確かに規格外で頼もしいです。
わたくしは他の悪魔族の方と、お会いする機会が無かったのですが、皆様こんなに強いのですか?」
「いやー魔法無し縛りで戦う機会なんて、そうそうニャイからなー。
他の悪魔族が、ノーマジカルでどれだけ戦えるかは予想できないニャ。
ってか、これどうするニャ?」
グミは動かなくなったファーストを指さしている。
「北風エネルギーの発明品で、この姿になってしまった様です。
命はあると思いますので、とりあえず人間の姿に戻せないか見て見ましょう。
ドクター様と連絡が取れたら、即解決だと思うのですが」
「あっドクターなら、この病院にいるニャ!!
始って子の病室にいると思うから、聞いて来るか連れて来るニャ」
「それは助かります」
「というか翔矢もドクターと一緒だったニャ。
翔矢に聞いてもらえばいいニャ」
グミは通信用の魔法石を手に取り、翔矢に連絡をした。
「あれ? 繋がらニャイ」
「翔矢様……」
「大丈夫ニャ、翔矢はあれで頼りになる奴ニャ!!」
「そう……ですよね!!」
今の翔矢はペネムエの記憶を失ってしまっている。
だからと言って、翔矢は翔矢で何も変わらない。
ペネムエは翔矢を信じると決めている。
「仲間の心配より自分の心配をしたらどうですか?」
「なっ!?」
「ニャッ!?」
倒したと思われたファーストが、いつの間にか起き上がっていた。
だが2人が驚いたのは、そこではない。
ファーストはカラスのような漆黒の羽を生やしたクラーケンの体を持つ怪物。
その特徴を持ったまま、人型の姿へと変わっていたのだ。
「いろいろと珍妙な機能が付いておりますね」
「クラーケンが人みたいに……いや元々人間だったニャ。
ややこしいニャー」
「悪魔族も似たり寄ったりだと思いますけどね」
2人は冷静に話しながらもファーストから目を離さず何があっても対応できる距離を取っていた。
だが、それでも気が付いた時には遅かったのだ。
ファーストの足の何本かが伸びたのが見えた時には、2人の体は地面を転がり、瓦礫の下敷きとなってしまった。
ここまで読んで下さりありがとうございます。
ストーリは一生懸命練って執筆しております。
少しでも続きが気になったらブクマ登録して頂けると励みになります。
下の星から評価も、面白いと感じたら、入れてくださると嬉しいです。




