179話:強者から決着が始まりそうです
次々と下の階へと降りていく信者たちの動きをチラチラと確認しながら、ゼウはクラーケンとなったファーストに雷を当て続けていた。
表情が、ほとんど分からない姿ではあるが、ダメージは通っていないとゼウは感じていた。
「驚いた……水タイプには電気タイプの攻撃が抜群なのが定番なんだがな」
「私も、これを使うのは初めてなので、何が有効なのかは分かりませんが、相性は悪くないようです!!」
ファーストはニュルリと足を伸ばし、ゼウを拘束した。
「しまった!!」
脱出しようと体外に放電をするが、やはりクラーケンとなったファーストには通用しない。
「こちらも魔法攻撃が出来ればよかったのですが、力を入れても何も出て来ません。
この体では銃も使えないので、少々残酷ですが絞殺させて頂きます」
「ぐっ……」
恐らく人間であれば、とっくに命を落としているであろう怪力。
ゼウの意識もどんどん遠のいていく。
その時、ゼウを拘束していた足が、何者かにより切断され、そのまま地面に落下した。
ギリギリの所で意識を保っていたゼウは、何とか受け身を取り着地した。
「何のつもりです? セブンス!!」
「その声はファーストか? 化け物だと思って斬っちまったぜ」
この場に現れたのは、セブンス。
翔矢・ペネムエ、そしてゼウ自身も撤退を余儀なくされた程の男だ。
「化物と勘違いするのは分かるが、なぜ俺を開放した?
お前の能力なら、直接こいつの胴体も狙えただろう?」
「俺の目的は、異世界転生じゃなくて強敵との戦いだからな。
お前との決着を付けたくなった」
「あのクラーケンは、俺では勝ち目はなかった。
強い奴が良いなら、あっちと戦ってみたらどうだ?」
「俺は異世界転生に興味は無かったが、仲間を騙すのは非推奨だ。
一応俺は、こいつらの幹部だしな、ゼロが騙してたってんなら、力を貸すさ」
「やるしかないか……」
ゼウは2人の相手をする事を覚悟した。
だが冷静に考えて、強敵との戦いを望むセブンスが、それを許すハズがなかった。
「ファーストはゼロを追え!! その翼は飾りじゃないだろ?」
「ここは任せました!!」
クラーケンとなっているファーストは、頭に付いているカラスのような翼を広げ、窓から外に飛び立った。
「待て!!」
ゼウは雷を放ったが、ファーストには届かずにに取り逃がしてしまう。
「慌てるなって、お前の仲間だって動いてない訳じゃないだろ?
少しは相手になってくれよ」
「確かに、お前のような厄介なのに向かわれても状況は良くならんしな!!」
ゼウは今度はセブンスに向かって雷を落とす。
セブンスは膝を落とし倒れ込んだが、意識はハッキリしており、すぐに立ち上がった。
「博物館でも、お前は俺の雷に耐えた……
手加減をしているつもりは無いんだが、どういうトリックだ?」
「さぁな!! 自分で考えな!!」
セブンスの能力は、あらゆる物体に穴を開け、視覚で捕らえる事の不可能。
ゼウは何とか魔力を感じて、右に飛ぶが肩に掠り、血がポタポタと流れ落ちてしまった。
「ぐっ……」
「やっぱりな!! お前は銀髪と違って俺の技が見える訳じゃねぇ!!」
ゼウの体に次々と小さな穴が開き血が噴水のように噴き出す。
「ここまでか……」
見えない攻撃の前に成す術の無いゼウ。
感覚で可能な限りは回避しても、ほとんど勘のようなもの。
セブンスの攻撃は、時間と共に収まったが、ゼウはそのまま大量の出血と共に倒れ込むのだった。
「はぁ………つまらねぇ」
倒れ込むゼウの横で体育座りをして肩を落とすセブンス。
彼の戦意は喪失しているようにも見える。
「何故トドメを刺さない?」
「信者はもう展望台に残ってないしな、最低限の仕事はした。
それに生かしておけば、また戦えるからな」
「生かしておけば……か」
ゼウの意識は朦朧とし、視界もボヤけてきた。
だが今のセブンスの言葉が、ゼウを現実に引き戻す。
「リールの……命は奪っただろ!?」
「うぉっ!!」
とてつもない殺気を本能で感じたセブンスは、慌てて立ち上がりゼウから離れる。
その瞬間、今まで自分が座っていた場所に、雷でクレーターが発生した。
あのまま座っていたら、セブンスの命は無かっただろう。
しかし、この光景はセブンスの心を高揚させた。
「おぉ!! いいねぇ!! やれば出来るじゃねぇか!!
怒りで覚醒!! 定番展開は嫌いじゃねぇぜ!!」
「転生教の中で、お前だけは異世界転生に興味無いんだったか?」
「まぁな、住めば都って言葉もあるが、俺は住み慣れた場所が一番派だ」
「そうか、異世界に行きたい奴が出払ったからな。
お前にだけ良い事を教えてやる……
異世界に行く一番の近道は……
俺達、天使に殺される事だ!!」
気が付いた時には、セブンスは痛みを感じる間もなく、体が壁に激突していた。
「ガハッ……」
体は壁にめり込み身動きは取れないまま、口から血があふれ出る。
「まだ意識があるのか、強さに拘るだけはあるな」
ゼウは冷酷な目でセブンスを見つめる。
この瞳にセブンスは戦いで初めて恐怖を感じた。
「おい!! 待て!!」
「どういうトリックか、雷には多少の体勢があるようだな。
だが、雷により加速された打撃は別だろう?」
ゼウは雷鬼の右手を大きく振りかぶった。
「仲間の無念……晴らさせてもらう!!」
雷鳴と共に、セブンスのめり込んでいた壁は崩壊し瓦礫の山となった。
砂埃が舞い、視界は無いに等しい。
「やりすぎたか? これでリールが少しでも報われれば良いんだが……」
気持ちが楽になると、途端に体に力が入らなくなる。
「感情任せの戦闘は、やはり合理的じゃないか……
俺はペネムエのような覚醒イベントとは縁が無いらしい」
A級天使昇格試験で、戦いの最中にペネムエが急激に強くなった事を思い出した。
あの時の彼女の成長に比べたら、今の自分は、ただ怒り任せに戦っただけだ。
「ほぉ、あの銀髪は、そんなに強かったのか?
武器の性能が高いだけだと思ってたぜ」
「なっ!!」
疲労とダメージで力の抜けているゼウの前にセブンスが平然と立っている。
確実にダメージは蓄積しているはずだが、彼はそれを感じさせない。
「さっきのは確かにヤバかった。
当たったら確実に死んでたわ、戦いが好きでも死ぬのは怖いもんだぜ。
異世界転生する為に死ぬって奴の気がしれねぇな」
セブンスはスーツに付着した砂埃を叩き落とす余裕も見せている。
「人間があの攻撃に耐えただと? お前もゼロのような特殊な肉体なのか?」
「んな訳あるかよ、ちょっと動体視力と運が良いだけの普通の人間だぜ俺は」
セブンスは天井の方を指差した。
ゼウが見上げると、そこには天井の崩れた痕があった。
「あんな穴、さっきまで……まさか!!」
「お前がさっき殴ったのは、俺じゃなくて落ちてきた瓦礫だ。
早く動きすぎて何を殴ったかも分からなかったか?
お前は確かに強いが、センスは無いな」
「自分の戦いの欠点が分かった。
これは成長の一歩、感謝する」
「礼にはおよばねぇよ、相手の成長イコール強い奴と戦う事に繋がるしな」
ゼウとセブンスは、友達同士のような雰囲気で話しながらも体勢を整える。
はたから見れば2人とも余裕があるように見えるだろうが、すでに互いの体力は限界を超えていた。
「お互いに最後の一撃になりそうだな」
「寂しい事いうなって、と言いたいが、まぁ余裕はないな!!」
天井から小石のような小さな瓦礫が落ちると同時に、お互いの力を振り絞った技をぶつける。
2人の技は大きなエネルギーとなり押し合っている。
「くっ……」
「おいおい、まだくたばるなよ!!
限界まで楽しもうぜ!!」
徐々にではあるが、ゼウの雷は確実に押され始めていた。
必死に力を振り絞っても、その差は変わらない所か押され続ける一方だ。
「ぐぁぁぁぁ!!」
それから数秒もしない内にゼウは吹き飛ばされ、地面を転がり倒れてしまう。
「もう少し楽しみたかったが人外でもこんなもんか。
つっても俺も、もう能力を出せそうにないから五分か……
だがテンションが上がり過ぎて体力のリミッター外れたか?
割と動けるな……」
セブンスは戦闘後の自分のコンディションを確かめるようにピョンピョンと飛び跳ねる。
「そうか能力は、もう使えないのか、それは助かる」
「なっまだ意識が……」
気絶したかに思われていたゼウは、起き上がりながらセブンスの間合いに入り、雷鬼の右腕でスーツを切り裂いた。
「即座に後ろに下がって直撃は避けたか。
動体視力への自信は伊達じゃないな」
「お褒めに預かり光栄だ、このスーツ結構お高い奴なんだぜぇ」
「悪かったな、というか戦いに来てるのに、そんな服を着るな」
「自分の金で買った好きな服が妹にダサいと言われて心が折れた。」
「思ったよりもメンタルが豆腐だな」
「うるせぇ、可愛いんだから仕方ないだろ!!」
破れたスーツの中から銀色の鉄の板のような物が、ゼウの視界に入ってくる。
「そんな物を体に仕込んでいたのか、確かに避雷針にはなるな」
「あぁバレっちまったか、今回の計画は結構前から練ってたからな。
セカンドちゃんの能力を応用して、どんな奴が邪魔してくるか調べたのさ」
「セカンド……イエスかノー、もしくは数字で答えられる問題の答えを出せる娘か」
「おぉ、ログインのパスワードとか忘れた時、便利そうだよな」
「それはローマ字も必要じゃなかったか?」
「そうだった……な!!」
「まだ向かって来る気力が……」
話の中で油断してしまったゼウに再びセブンスは襲い掛かってきた。
だが彼が能力を使えなくなっているのは嘘ではない。
能力のない人間は、ゼウの相手にはならない、そのはずだった。
しかしゼウの腹部には何か鋭い物が刺さっていた。
「ぐ……それは……」
「北風エネルギーの協力者とかいうガキから奪った武器だ。
そいつと戦ったのは俺じゃなくてフォースって奴だがな。
あいつには意味のない武器だったから、俺がもらった」
赤いビームサーベルがゼウの腹をえぐる。
「強さに拘る割に……不意打ちとはな……」
「負けて死んだら、他の強い奴と会う機会もなくなっちまうだろ?」
「生きてれば良いことがある……とは言うが、お前のような解釈をされると厄介だ……な」
この言葉を最後にゼウは完全に意識を失ってしまった。
「まぁ正々堂々戦って勝つのが一番熱いんだろうがな」
ビームサーベルをゼウの腹から引き抜き、セブンスはこの場を去ろうとした。
「なに?」
しかし2、3歩歩いたところでセブンスの足場は崩壊し崩れ落ちた。
この世界では考えられない戦闘が、何度も行われた展望台は、その耐久の限界を超えていたのだ。
「ちっちくしょぉぉぉぉ!!」
そこは運悪く、地上までの吹き抜け。
セブンスは大量の瓦礫と共に、634m下まで、真っ逆さまに落ちていくのだった。
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