177話:裏切りから銃声が始まりそうです
ゼロはペネムエとの戦いを中断し、ファーストと睨みあっていた。
ペネムエもゼウも、誰の味方をするべきか分からず、一旦後ろへと引いる。
「で? 裏切られました、怒ってます。
あなた達の気持ちは理解しているつもりです。
これでも宗教団体のトップとして信者の気持ちに寄り添うフリはしていましたから。
まぁ真の目的をバラしたからと言って止まる気はありませんけど」
「止まる気は無い? 流星雨は特効薬さえ打てば打ち消せる。
我々の犠牲が無ければ、貴様の息子は、異世界転生できないのだろう?」
「えぇ、息子は“特定の条件下で命を落とせば異世界転生できる”
という所までは理解したのだけれど、必要なエネルギーを見誤っていたのよ」
「貴様のガキの為に命をくれてやるつもりはない!!」
「馬鹿ね、流星雨は苦しませずに命を奪うというタダの慈悲。
後は必要なエネルギーさえ集めれば、死因は問わないのよ?
“能力を強化する能力”と無能力の信者に何が出来るのかしら?」
ゼロはファーストの服に触れ、彼を爆破しようとした。
ペネムエはその間に入り、ブリューナクでゼロの手を止める。
「あら? 醜い彼らの味方をする事にしたの?」
「……まだ決めかねています」
「優柔不断ね、大好きな人に嫌われるかもよ?」
ゼロの腕力はペネムエを上回っており、ズイズイと押され始める。
「1つ……聞かせてください。
息子様は……始様は生きているのですよね?」
「えぇ」
「異世界転生に必要なエネルギーを集めたとして……
その後、始様を、どうなさるつもりですか!?」
「肉体に、トドメを刺す事になるでしょうね」
ゼロの言葉は冷淡にも、悲しんでるようにも聞こえた。
「自分の家族に手を掛けるというのですか?」
「えぇ、今のままでは始は幸せになれない。
目を覚ましたとしても、中学時代から7年間も動かしていない体で、普通の生活には戻れないわ」
「だからって……させません!!」
ブリューナクからの猛烈な冷気がゼロを襲う。
「なぜ? 信者たちの命を奪う事になるから?」
「いいえ……あなたが始様を……家族を大切に思っているから!!
大切な家族の命を、自らの手で奪うような事は……絶対にさせません!!」
「家族ねぇ、それなら問題は無いわ。
私は、もう始と家族じゃないもの」
「……さっきと話が違うのでは?」
「あなたは私が人間じゃないと気が付いたでしょう?
“水瀬玲奈”が既に、この世にいない事も知ってるんじゃない?」
「えぇ……ここに来るまで、かなり時間がありましたので。
調べてる方がおりました」
「今の私はゼロ、水瀬玲奈の記憶と姿を持った、ただのスライムよ。
本物の私は、始が亡くなった翌年に、無茶な実験で死んだわ。
本当は、こんな存在になる予定は無かったの」
ゼロの頬に痛みが走ると同時にパチンッと乾いた音がした。
我に返り前を向くと、ペネムエが涙を堪えるように振るえていた。
「……攻撃のつもり?」
「刺しても、あなたは体の形を失うだけですからね」
「そう、この肉体こそが私の長年の研究成果。
って偉そうに言っても、本物の水瀬玲奈は死んでいる。
彼女に成り代わった偽物がいるだけ」
「……違います」
「私が人間ではないと、あなたも分かってるでしょ?」
「あなたが人間じゃなくても……
それが始様の家族でないという証明にはなりません。
あなたの、やり方、行動、何もかも間違いだと思います。
でも……どれだけ間違いを犯しても……
それこそが、あなたと始様が家族と言う証明では無いでしょうか?」
「私は、ただ水瀬玲奈の記憶や思いを映しただけの“人形”」
「人形は……家族の為に悲しんだり怒ったりしません。
悪人を醜いと排除しようともしません。
あなたは人と変わらぬ心があります。
だからこそ、罪や間違いを犯すのです」
「偉そうに……私をどうしたいの?」
「わたくしにも分かりませんが……
あなたに始様の命まで奪ってほしくありません。
後は……始様に会って頂けませんか?」
「始に?」
「えぇ……恐らく、その体になってから、会われていませんよね?
一目会えば……自分の心が本物だと……
始様と本当の家族だと気が付けるはずです」
「気が付けなかったら?」
「そのときは、わたくしも心置きなく、あなたを倒す事ができます」
ペネムエの表情は、涙を堪えていた。
その表情はゼロの目から見ても穏やかに見えた。
「確かに、私は始の望みを叶えることばかりだったわ。
この体になってから、会おうなんて思いもしなかった。
こんな私に母親名乗る資格が……心があるのか……
会って確かめるのも悪くないわね」
「それで、始様は何処に?」
「都立病院よ」
「翔矢様たちの待機している場所です!!
すぐに向かいましょう!!」
ペネムエはピーッと指笛を鳴らし、マジックラウドを呼んだ。
「後ろに乗って……」
ゼロに言葉を掛けようとした時、巨大な何かが彼女を殴りつけた。
だが、ゼロの肉体は、すぐに再生する。
「サード、何のつもりかしら?」
ゼロを殴りつけたのは、大男で力の増す能力を持つサード。
翔矢に金的を、思いっきり攻撃され、気を失っていたままだが、今は鋭い眼光でゼロを睨んでいる。
しかし、獣のような唸り声を上げており、知性は感じられない。
「もしかして、ファーストの仕業かしら?
能力を強化する能力、対象を暴走させる事も出来たのね」
「勝手に、良い話のようにまとめられても困るからな。
我々信者を騙しておいて、ガキに会えると思うか?」
「文句なら、後でいくらでも聞くわ。
自分で攻撃する勇気すら無いのだから、黙っていなさい」
「うっかり服にでも触られたら、貴様の能力で爆破されてしまうからな。
装束の袖が、やたら長いのは、いざとなったら触れて爆破する為か?」
「正解!! 触れても10分以内に爆発させないと、効果なくなるから、結構不便な能力なのよ。
この制限が無ければ、予め触れておけば、いつでも爆破できるチート能力なのだけどね」
「それ以上、チートになられたら、かなわんな」
「自分が直接戦わないというのは、賢い選択だけど、相手が悪いわ!!」
ゼロは指をパチンと鳴らすと、サードは爆発する……はずだった。
しかし爆発はしない、サードはペネムエがブリューナクの冷気で凍らせたのだ。
「ふぅ……何とか防げました」
「あら、お見事!!」
ゼロは、この結果を分かっていたかのようにパチパチと手を叩いた。
「これで戦闘向きの能力者は、いないはずです!!
急ぎますよ!!」
ペネムエはゼロの手を引き、マジックラウドに乗せた。
割れたガラスから飛び立とうとした、その時だった。
パーンと銃声が鳴り響く。
「えっ?」
ペネムエが振り向くと、不死身のはずのゼロが、左胸から血を流していた。
意識は辛うじてあるようだが、明らかに呼吸が荒い。
「科学者は貴様だけとは限らない!!
魔法の能力だけが、戦う力ではない!!」
能力を強化するだけが能力のファースト。
彼の右手には拳銃が握られていた。
続けて容赦なく2回の銃声がなったが、同時にビリビリ放電の音が聞こえ、銃弾は防がれた。
「早くいけ!!」
「ゼウ様!?」
「俺は、まだB級の天使だ。
この場は、A級の、お前の判断に従う!!」
「しかし、この銃弾……恐らく天使でも当たれば……」
「だからだ!! 雷の速度で動ける俺の方が、当たる可能性は低い!!
それに能力の無い人間など敵ではないしな」
「任せましたよ!!」
ペネムエは、血を流し続けるゼロの傷を抑えながら、都立病院へと飛び立つのだった。
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