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176話:過去から怒りが始まりそうです

 信者達からの罵声や失望の声がゼロに向けられ続けている。

 もはやペネムエとの戦闘を続行という雰囲気では無くなっていた。


 

 「何か言えよババァ!!」


 「詐欺師!!」


 「ペテン師!!」



 目を閉じながら、その言葉に耳を傾け続けるゼロ。

 いくら聞いても信者たちの声は、止むことは無かった。

 ゼロは、ドンと大きく床を足で叩いた。

 その迫力で、ようやく信者たちは静まった。



 「そういう所ですよ!! 世界を浄化して異世界へと旅立つ。

 それが転生教の祈願である事に変わりはありません。

 ただし浄化されるべきは、あなた達のような存在です!!」



 ゼロは信者たちに向けて指を刺す。



 「我々が……浄化されるべき存在?」


 「それはそうでしょう? 異世界行きの切符を見せれば死を選択。

 ……それは多めに見ましょう、事情は人それぞれですし。

 しかし、自分たちが3日で死ぬまで自由にしてと言えば悪事三昧。

 これが醜く浄化されるべき存在と言わず何なのですか?」


 「そっそれは、流星雨の時間まで自由にしろと……」


 「悪事を働けとは言っていません。

 転生教の白装束は、もはや恐怖の対象。

 それを利用して楽しんだ信者は数知れず。

 今ここにいる、あなた達も町から人が消えて、暇になって戻っただけ!!」


 

 ゼロの指摘に、信者たちは返す言葉が無いようだった。

 シーンと静まり返った広い展望台で口を開いたのはペネムエだった。



 「あなたは、力を持てば暴動を起こすような人間の命を奪う為に転生教を立ち上げたと?」


 「こいつらの始末は、私の願いのついでよ。

 転生教は、あくまで異世界転生を目的とした宗教。

 そこに嘘は無いわ、ただし異世界転生するのは私の息子」


 「あなたの……息子様?」


 「えぇ……」



 ゼロはポケットから取り出した写真を寂しそうに見つめた。




 ***




 今から7年前、ゼロこと水瀬玲奈は研究に没頭していた。

 とは言っても、自宅に研究室を持っており、1日の大半は、ここで過ごしていた。



 「母さん、学校に行ってきます」



 研究室のドアを少しだけ開けて、玲奈の息子、当時中学生の始が顔を出した。



 「あら? もう朝!?」


 「母さんらしいね」


 「朝ごはん……」


 「ちゃんと食べたよ、母さんの分もリビングのい置いてあるから冷めないうちに食べてね」


 「ありがとう」


 「いつもの事じゃん、行ってきます!!」


 「行ってらっしゃい」



 玲奈は申し訳なさそうに、始を送り出した。

 夫を早くに亡くしているので、玲奈と始は長い事、こんな生活だった。



 「母親失格も良い所ね……」



 始が用意してくれた簡単な朝食を食べ終え、片づけをしながら物思いにふける。


 

 「でも、この研究がうまく行けば……

 この細胞が完成すれば、夫の命を奪った病気で苦しむ人はいなくなる……

 あと一歩なの!! あと一歩なのよ!!」


 

 玲奈の作り出そうとしていた細胞。

 その理論は完璧なはずだった。

 しかし、何かが足りないのか完成はしない。

 あと一歩が果てしなく遠い。

 そんな状態が何年も続いていた。



 そんなある日、差出人不明のメールアドレスから玲奈の元に文章ファイルが届いた。



 「これって……論文? 40年も前に作成されてるわね」



 自分の研究とは程遠い分野の論文。

 しかし玲奈は、何かに憑りつかれたように、この論文を読み漁った。



 (異世界? たまに夜中にテレビ付けるとやってるアニメみたいな世界?)



 最近、よくアニメ化されているファンタジーの世界は実在する。

 さらに人類は異世界では、とてつもないエネルギーを持つことができる。

 ここだけ見ると最近のアニメの流行りを、堅苦しい言葉でまとめただけの物。

 しかし、この論文は40年も前のもの。

 今ほどファンタジー作品は広まっていないはずだ。



 「大道竜一……この論文は本物ね」



 研究職である玲奈は、この論文は本物だと判断した。

 誰が何の目的で自分に送って来たのか、そんな事はどうでもよかった。



 「大道って苗字の科学者……確か北風エネルギーにいた気が……」



 微かな記憶を頼りに、調べを進めると大道竜一の息子は北風エネルギーお抱えの科学者だと分かった。

 それから自分の研究を中断して、最近の北風エネルギーの記事を確認する日々が始まった。



 「北風エネルギーの発掘した遺跡から、地球に存在しない鉱石が発見。

 それから少しして、電力に変わる新エネルギーの開発……

 考え過ぎかもしれないけど、魔力を開発してる?」



 北風エネルギーの発掘している遺跡は、世界中に何カ所かある。

 驚くことに遺跡は日本にもある事が発覚したので、玲奈は、そこに向かった。



 「まぁ遺跡の中には、関係者しか入れないわよね」


 

 100メートルほど先に、砂のようなレンガのような素材で出来た遺跡は見える。

 しかし、自由に観光できる訳でなく、規制線が張られていた。

 実物を見るのは諦め、立ち去ろうと足を1歩前に出すとベチャっと何かを踏んでしまった。



 「何これ?」



 犬の糞でも踏んだかと思い足元を確認すると、そこには見慣れない青い液体。

 恐る恐る指で突いてみると、青い液体は、玲奈から逃げるように動き出した。

 しかし、そのスピードは亀の歩み寄りも遅い。

 正体不明の液体に興味を惹かれた玲奈は、持っていたペットボトルに、これを採取した。


 家に帰り分析すると、これは生き物のようで生き物で無い。

 この世界にないエネルギーで動いている。

 無理矢理この世界の言葉で表すのなら“魔物のスライム”としか言いようが無かった。

 

 不気味ではあるが、大した危険は無い、触れても肌は何ともない。

 スライムと言えば、ゲームでは雑魚キャラの定番。

 このスライムは雑魚どころか戦闘能力を持っているかも怪しかった。


 それから元々行っていた新細胞の研究は、ドンドン進んでいった。

 スライムの細胞の構造が、玲奈の目指す細胞に極めて近かったのだ。



 「これで……完成!!」



 そして、ついに今までの世界の常識を覆す細胞が完成した。

 明日からは、この研究の発表準備で忙しくなる。

 今日くらいは息子に手料理を食べさせようと思い買い物に出かけようとした時だった。

 スマホの着信音が鳴り響いた、息子の通う学校からの着信。

 始が学校に通って初めての事だったからか、玲奈は嫌な予感がした。



 「もしもし?」


 「始君のお母さんですね?」


 「はい」


 「落ち着いて聞いてください……

 息子さんが……始君が学校の屋上から飛び降りました」



 

 ***


  

 ゼロの過去を聞き、展望台は静まり返った。

 信者たちの中には、同情したように泣く者もいた。

 ペネムエの心も、一瞬揺らぐものがあった。

 


 「それで……息子様は?」


 「生きてるわよ……目は覚まさないままだけど」



 この一言で、仮面を外し涙を拭う信者もいた。

 裏切られたとはいえ、信仰心や尊敬はすぐに消えるモノではないのだ。

 ゼロの事を、これ以上は攻めれないような雰囲気になっていた。

 しかし、蓮との戦いで気絶していたファーストが立ち上がり空気は一変する。



 「騙されるな!! 今の話が本当だとして、俺たちを皆殺しにする事と何の関係がある?」


 「始が飛び降りた理由はイジメ。

 それだけなら気が付いてあげれなかった私がバカだったって思えた。

 イジメッ子を恨みはしても、それ以上は何もするつもりはなかった」


 「イジメ……だけが理由で無かったのですか?」


 「始は……私の机の上にあった大道龍一の論文を読んでいたの。

 そして異世界と異世界転生の存在を確信していたのよ」


 「えっ? しかし、その論文は……」


 「えぇ、中学生が理解できる訳はない……

 けれど息子は理解してしまったの」



 天使でありながらイジメを受けた経験のあるペネムエの心に何かが突き刺さる。

 だがファーストの怒りは収まっていなかった。



 「だか!? なぜ我々を皆殺しに繋がる!?」


 「異世界転生に必要なのよ。

 異世界に憧れ、その存在を信じる、醜い人間の魂がね」


 「貴様ぁ!! 醜い世界を浄化するとは……

 醜いとは我々信者のことだったのか!!」


 「母親らしいことは何もできなかったけど……

 息子が目を覚まさないのなら、せめて最後の願い叶えたい!!

 私は始を母親として願った世界に連れて行く!!」



 ゼロの過去に同情していた信者たちも、その気持ちは怒りに変わり始めた。

 ここまで読んで下さりありがとうございます。


 ストーリは一生懸命練って執筆しております。


 少しでも続きが気になったらブクマ登録して頂けると励みになります。


 下の星から評価も、面白いと感じたら、入れてくださると嬉しいです。

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