172話:合流から探し物が始まりそうです
不気味な人型の蜘蛛へと姿を変えた鷹野。
彼の光線銃型の武器“チートリガー”から放たれた青く巨大なスライムがグミの体を飲みこんだ。
スライムはブヨブヨと動いているが中のグミの様子は伺う事は出来ない。
それでも、鷹野は勝利を確信していた。
「行ける!! この肉体とチートリガーがあれば……
この世界の全ての魔法を消し去れる!!
それで……もう二度と犠牲者は現れない!!」
高揚し叫んでいる間に、スライムの動きは止まりシーンと静まり返る。
「中々の戦績、良いデータが取れそうだが残念。
そんなオモチャで、黒猫君クラスを倒せるなら我々は苦労しないのだよ」
後方から、コツコツという足音と共に、鷹野には馴染みのある声が聞こえた。
振り向くとドクターが大量のパジャマを抱えて、ゆっくりとこちらに向かっていた。
「……ドクター? 何故パジャマ?」
「研究職とはいえ、たまには体を動かさねばと思ってね。
雑用を引き受けたのだが……もう限界だ……」
ドクターは息を荒くしながら、大量のパジャマを床に巻き散らし倒れこんでしまった。
「それは丁度いい……あなたが居なければ人工魔力の製造は不可能。
このチートリガーは、私だけが使えるという事」
鷹野は倒れていたドクターの首を掴み持ち上げた。
「ぐっ……その声は……確か鷹野って言ったかな?
六香穂で銀髪天使を捕らえたが、間抜けにも逃がした3馬鹿の1人だ」
鷹野の首を掴む力は、この言葉で強さを増した。
「元はと言えば……あなたが人工魔力なんか開発しなければ……
虎谷さんも八田さんも、あんな目に合わなかったのに……」
感情的にはなっているが、ドクターに長い苦しみを与えるためか、ギリギリ彼の話せる余裕は持たせているようだ。
「確かに人工魔力は、まだ完全ではない。
だが、この力こそが異世界からの脅威に対抗できる唯一の手段。
君は自分の友達だけ無事ならいいのかい?
これは何十億人単位の人間の命のかかった話だよ?」
「だまれ!!」
今の言葉で鷹野の頭に完全に血が上り、ミシミシと音が鳴るほどドクターの首は強く絞められた。
「優秀な頭脳があろうと、圧倒的な力の前には無意味なんですよ!!」
いよいよドクターにトドメが刺されようとしていた、その時、鷹野の体に異変が起こった。
人型の蜘蛛の姿から、元の人間の姿に戻ってしまったのだ。
すると途端に体に力が入らなり、対にはドクターの首から手を離し、彼を開放してしまった。
「ふぅ……計算通りだが、流石に死ぬかと思ったね」
すぐに立ち上がったドクターはパンパンと白衣に着いたホコリを払い余裕を見せている。
「貴様!! 何をした!!」
「別に何も? 君が持ち出したチートリガー、そいつは未完成でね。
ライトノベルを参考に、色々なチート主人公の能力を再現できるように開発したんだが……
体への負担が大きいのと、消費する人工魔力がハンパじゃなくて、すぐにエネルギー切れを起こしてしまうのさ」
「くっ……」
「それが実戦で使えるなら、とっくに蓮か鈴君に配布しているよ。
しかし、そうか……君くらい肉体が強化されれば、チートリガーの魔力切れまでは動けるのか。
1つのデータとして残しておくか」
どこからともなく取り出したノートパソコンにドクターはデータを打ち込む。
「机に放置されていたものを持ち出した私が迂闊でした……
しかし運動音痴の、あなたを仕留める程度、造作もありません!!」
呼吸を整えた鷹野は、ノートパソコンを持ったままのドクターに襲い掛かる。
その動きに、ドクターは気が付いたが動揺する様子はない。
「よろしくー」
その掛け声が、鷹野の耳に届く前に、彼は頭部に強い衝撃を受けて気絶してしまった。
「サンキュー」
「ニャーの任務に、お前の護衛も入ってたからニャ」
「不満そうだね?」
「機嫌が悪いだけニャ」
「そうかい? 所で、こんな所で何をしていたんだい?」
「それは……」
グミは転生教信者の5人、それに翔矢がいなくなってしまった事をドクターに伝えた。
「そんな事だろうとは思った、信者なら3人は、なんかゴリゴリな男たちに捕まってたよ」
「ゴリゴリって……誰ニャ?」
「さぁ? 知らない人だったけど、強そうだし問題ないだろう」
「そんな無責任ニャ」
「少なくとも魔力は無いようだったからね、普通の人間の強ささ」
ドクターは魔力を観測できる羅針盤を取り出した、
「それで思い出したニャ!! 逃げた奴の中に能力を持った奴もいたニャ!!」
「能力って言っても、そよ風出せるだけだろ? 悪さなんてできないさ。
というか気のせいだと思うんじゃないかな?」
「いいから、その羅針盤で探すニャ!!」
「ほいほい、君は鷹野を持って歩いてくれ、目を覚ましたら厄介。
あとでサンプルも欲しいからね」
「ヘイヘイニャー」
グミが鷹野を担ぐと、ドクターと共に羅針盤を頼りに歩みを進めるのだった。
***
その頃、翔矢はユリアとの待ち合わせ場所である1階の売店に到着した。
「あっ翔矢君!! こっちこっち!!」
ユリアはマスクとサングラスを身に着けていた。
声優なので恐らく変装しているのだろうが、そのスタイルの良さで翔矢は、呼ばれる前にユリアだと気が付いていた。
「ユリアさん!! 元気そうでよかったです」
「あはは、病院で元気そうってのもレアケースね」
「お仕事って言ってましたけど」
「もちろん中止よ、家に帰るのも危ないかなって、避難所に来てたの」
「そうだったんすね、悠奈の事、ありがとうございました」
「良いのよ、私にとっても悠奈ちゃんは友達だからね。
なんか退屈してた子供たちと探検ごっこしてたら、運悪く信者に出くわしたみたいね」
「悠奈らしいな」
改めて悠奈の様子を聞く事ができて、翔矢はホット安心した。
「私なりのネットワークで状況は、だいたい把握しているわ。
転生教のゼロだっけ? 翔矢君とペネムエちゃんに北風エネルギー。
それだけのメンバーでも、捕えきれないのは厄介ね」
「なんか正確には人間じゃないって……アレ?」
このとき、翔矢は頭がボヤケルような感覚に陥った。
(ゼロが人間じゃないって誰が見破った?
リール……は別行動だったし北風エネルギー?
いやドクターのおっさんが、後からゼロの情報は教えてくれたけど、戦った時に誰かが……
誰が一緒にいた?)
「翔矢君?」
「あっ何でも……ないです。
えっと、ぞのゼロの息子が、この病院に入院してて」
「調査済みよ、魂が抜けてる状態みたいね。
可愛そうだけど、この世界の医術じゃ、目は覚ませないわね。」
「みたいですね……
ユリアさんも会ったって言ってた占い師……
サヤって子も言ってました、魂が戻れば目は覚ますんですか?」
「それは……この世界の医学と彼の回復力次第ね」
翔矢は何か言いたそうな表情をしたが、ユリアはすぐに、それを見抜いた。
「翔矢君は、その始って子と初対面よね?
君の性格だから黙って置けないんだろうけど、そんなに気になる?」
「始に頼まれたんです『母さんを止めて』って」
「え?」
「天使のユリアさんでも驚くんですね」
「疑ってる訳じゃないけどね。
話せる状態とは思えなかったから……」
「なんか頭に声が聞こえてきて……
魂って、そういう事できないんですか?」
「人間の魂は、単独じゃ何もできないのよね。
写真に怖く映ったり、ポルターガイスト起こしたりはするけど……」
「そうなんですね……えっ?
あれってマジの心霊現象だったんすか?」
「魔法とか見てるのに今更ね……
で? 翔矢君はどうしたいの?」
「サヤって子とも少し話したんですけど、やっぱり探せるなら魂を探してあげたいです」
「よし、魂の探し方なら私も知ってるから手伝うよ!!
というか翔矢君1人だと、どうしようもないでしょ?」
「ありがとうございます!! 助かります!!」
「デートやった!!」
翔矢の声にユリアは飛び跳ねながら喜んだ。
「いや……こんなときに……」
翔矢は呆れつつも、ユリアを頼もしく思うのだった。
***
そのころスカイタワー展望台で信者たちは、流星雨で命を落とすまでの時間を潰していた。
そんな中、教祖であるゼロは1枚の写真をジッと見つめている。
「始……もう少しよ、あなたの願いが叶うまで……」
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