17話:恐怖から土下座が始まりそうです
ペネムエが敵側の天使であるリールと対治しているとはつゆしらず、翔矢は登山を続けていた。
モヒカンが瑠々を、おぶっったおかげでペースが上がり、後少しで昼食のポイントまでたどり着きそうだ。
「モヒカン先輩、瑠々ちゃんおぶってもペース落ちないなんてすごいですねーー」
悠菜が目を丸くして感心している。
翔矢も感心している。正直ポンコツだと思っていたが少なくとも体力は飛びぬけた物がありそうだ。
「こう見えても俺は野球部で体力には自信あるんだぜ!!」
(本当に『こう見えても』だな)
野球部がモヒカンヘアー大丈夫とは翔矢は知らなかった。
「モヒカン先輩のお陰で邪神本郷先生の脅威は去った。感謝するぞ!!」
瑠々は自分で歩けと言いたくなるくらい元気そうな声で話す。
「これくらいは朝飯前……いや今の時間は昼飯前よ!!ぶははははははーーー」
実際にこんな笑い方をする人間を翔矢は初めて見た。
「だが運動神経という点では翔矢先輩も負けてないであろう」
「ん?こんなヒョロイのがそんな運動神経いいように見えないがなぁーーー
俺様が殴ったりしたら一発KOできそうだがぶはははははーーー」
と、また変な笑い方をしながら翔矢を小バカにしたが、モヒカンの視線が翔矢の体操着に刺しゅうされたフルネーム『宮本翔矢』に目が行くと一気に顔が青ざめた。
「宮本翔矢って……お前宮本翔矢か?」
語彙力のかけらもない質問が翔矢に投げかけられた。
「そうですけど……」
「あっあっあっあの中学生にして当時高校2年生の西高の鬼塚さんと激闘を繰り広げ、返り血に染まった拳から『紅の鉄拳』と呼ばれた宮本翔矢さん?????
そうとは知らずにご無礼をーーーお許しくださいお許しください血祭だけはご勘弁をーーー」
急に後輩である翔矢にさん付けをしだして瑠々をほっっぽりだし地面に頭を擦り付けだしたモヒカン。
地面は砂利なので、かなり痛いはずだ。
「いや……俺の方が年下ですし高校入ってから……そういうの辞めたので気にしないでください……お願いですから顔を上げてください」
中学時代の翔矢はかなり荒れていた。噂を聞いた高校生が生意気だと因縁をつけてきて喧嘩をしたことが何度かあったが高校に入ってから喧嘩などは辞めて真面目に過ごしていた。
中学時代の事に触れられるのは好きでないが、自分の過ちなので過去の話をされたり怖がられたりするのは多少は仕方がないと思っている。
さすがに何もしてないのに土下座をされるのは、これが初めてだが……
「モヒカン先輩、落ち着くのだ。確かにかつて翔矢先輩は大魔王……いや紅の鉄拳として君臨していたが、我らとの出会いをきっかけに改心したのだ!!」
「いや、お前と会った時には、もう喧嘩とか辞めてたけどな」
しかしモヒカンは、まだ怯えた様子だった。
それを見て悠菜も口を開く。
「噂に尾ひれは付き物ですよ!!
翔矢君は激闘なんか繰り広げていません!!」
「だっだよな? 鬼塚さんは、取り巻きも多かったし一人でどうこうできる相手じゃないもんな?」
(サンキュー悠菜!!)
ナイスフォローだと翔矢は感心した。
モヒカンも悠菜の言葉に少し落ち着きを取り戻したようだ。
「激闘なんかじゃありません!! 翔矢君が一方的に鬼塚って人達を倒しました!!」
「ぶぇぁぁぁぁぁ」
(前言撤回)
モヒカン先輩はとんでもない顔で泣き出した。
「だからもう辞めたんですってばーーー」
荒れていたのは全部自分の責任。そう思っているが何もしていないのに、こんなに怖がられると虚しくなり泣きたいのは自分だと思う翔矢であった……
*****
「リール……わたくしは戦いたくありません。いえ……戦えません」
山の中の原っぱに近いエリアでペネムエとリールは戦っていた。
戦いと言ってもペネムエは槍でリールのサーベルによる連撃を防ぐのみで攻撃はしていない。
1度は戦いを決意したが、やはり以前自分を友達と言ってくれたリールにこうげきは出来なかったのだ。
「それは楽でいいわね。あなたを動けなくして邪魔者がいないところで、宮本翔矢を異世界送りにしてやるわ!!」
「本当にそれでいいんですか? あなたの夢はすべての世界に住む人間も天使も笑顔にすることだって……そう言ってたじゃないですか」
「笑顔になるわよ? ベルゼブを倒せば英雄になって可愛い女の子とかも選び放題。
こっちの世界で彼が生活を続けて成し遂げる功績の何百倍もの成果をあげれるのよ?
それでマキシムも救われる」
話しながらでもリールの素早い連撃はやむ事が無い。
防ぎきれない攻撃が当たり始め徐々にペネムエの体に薄い切り傷ができ始める。
「翔矢様と出会いまだ2週間ほどですが……一緒に暮らして行動して……分かったんです。
翔矢様がいなくなれば悲しむ人がたくさんいるんです!!
転生といっても、残された人からすれば大切な人を亡くすってことなんですよ?」
「じゃあベルゼブのせいで、どれだけの人が大切な人を亡くしたと思っているの?」
リールは強い口調とともにサーベルを振り下ろした。
ペネムエは防ぎきれず、右肩からヘソのあたりまで少し深く斬られてしまい、白い衣服が血に染まる。
「うっっ……ベルゼブはしばらく行動を起こしていません。今のうちにほかの方法を探せば必ず見つかります……
どんな理由があろうと、天使が……人間の悲しみを生むことなどあってはならないのです……」
出血を手で押さえながら弱々しい声で訴えかける。
血は流れているが意識を失ったりする量ではない。立っている余裕もある。
「人形の分際でよくもまぁ『天使が』なんて言えたものね……」
「リール……どうしてそんな事……あなたは天界でずっと独りぼっちだったわたくしを、人形ということを気にせず友達と言ってくださいました……
それなのに急に……何か理由があるんですよね?
話して頂けませんか?」
ペネムエは動揺と傷の痛みで声を震わせながらリールに問いかけた。
しかし、リールは問に答えずサーベルを再び振り下ろした。
だが、その攻撃がペネムエには当たらず、サーベルは風を切った。
「……時間を止める時計……やっぱり厄介ね」
リールが後ろを振り返るとペネムエは20メートルほど離れた場所で、ペネムエはポーションを飲んで、傷を回復していた。
「何をされても、何を言われても、リールとは戦いたくありません……
天使同士では心の声は聞こえませんし事情を把握することもできません……
しかし、あなたをここに留めておけば翔矢様を異世界に送ることはできないはず……
時間稼ぎくらいはしてみせます」
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