168話:声から徘徊が始まりそうです
「あれ? ここは?」
翔矢は目を覚ますと見慣れない部屋にいた。
中には沢山の動物達が休んでいて、部屋の一角には雑にロープで縛られた転生教の信者たちの姿もあった。
「赤いライン? こいつ幹部か?」
まだ翔矢の会っていなかった転生教幹部らしき姿もあったが、縛られた上に伸びてしまっているので脅威は感じなかった。
よく見ると、能力が無いであろう信者も、頭に大きなタンコブを作り気絶している。
「誰がこんな事を? ってか、ここマジで何処だ?」
近寄って来た1匹の白いポメラニアンの頭を撫でながら、必死に状況を思い出す。
「そうだ!! 俺、セブンスとかいう幹部にやられて……
ペネムエちゃんは!?」
辺りを見渡しても動物ばかりでペネムエどころか、人の姿すら見えない。
その動物の中に、黒猫のグミも丸くなり眠って混ざっていたのだが、翔矢は気が付かなかった。
「どうなってんだ?」
周辺を確認するついでにセブンスに穴を開けられたはずの自分の腹も確認してみたが、少し赤く腫れているだけで怪我と言えるものではなかった。
それでも服に血が染みていたので、戦った記憶に間違いはないだろう。
「ペネムエちゃんがポーションとか使ってくれたのかな?
でも、こんなに早く回復するんだっけ?」
あれこれ考えながら、部屋の中をグルグル回っていると、眠っていた動物たちまで起きてきて翔矢の後ろをグルグルと付いて歩いて来た。
ゲージに入っている動物もいるが、半分くらいは、ほぼ自由に歩ける状態だったのだ。
「おっとっと、起こしちゃってゴメンな、外を見てくるから、みんな大人しくしてな」
今の状況は全く理解できないが、ここの動物たちは、どう見ても人に飼われているペット。
勝手に連れ出すのがマズイ事くらいは分かった。
動物たちは犬も猫も関係なく、翔矢の言葉を理解したように、元の場所に戻っていった。
「転生教の奴らいるけど……縛られてるし気絶してるし、ちょっとくらい離れても大丈夫だよな?」
可愛い動物だけを、この空間に残してしまう事に不安を感じたので、できるだけ早く戻る事を心に決め部屋の外に出た。
***
「あれ? 小屋みたいな所の中だったのか」
てっきり大きな建物の中の一室だと思っていたが、ドアを開けるとすぐに外。
目の前には大きな白い建物があり、外観で何となくだが病院だと分かった。
「病院……の倉庫に何でペットが?
まぁいいか、少し様子を見に行こう」
建物の中に入ると、思った通り大きな病院だった。
「悠菜の家の病院よりデカい病院に初めて入ったな……」
転生教によるテロ事件のせいか、医者も看護師もバタバタしている。
怪我人や泣いている子供もいる騒がしさで、翔矢に声を掛ける者はいなかった。
「ペネムエちゃん見当たらない、いやこの広さと人だかりだと当たり前か」
自分が、何故ここにいるかも分からない翔矢は立ち尽くし頭を抱えてしまった。
『母さんを……止めて下さい』
そんな翔矢の頭に声が響いて来た。
自分と同じ年か少し下くらいの歳の男子の声だった。
「誰?」
ふと後ろを向いたが、自分に話かけて来たような人は見当たらなかった。
「いや……違うな、今のは脳内に直接語り掛けるって奴だな」
この声に返事ができるのかは分からないが、とにかく心の声で語り掛けてみる事にした。
『俺に話してるのか? 君は誰?』
『こっちに……来て下さい』
質問には答えてくれなかったが、自分がどの場所に向かえばいいのかは直感的に分かった。
この病院の中の、上の方の病室に呼ばれているのだ。
「この病院の中にいるの? 天使かな?
でも俺が通信用の魔法石もらったのは、リールとグミとゼウと……」
脳内に響く声が通信用の魔法石で話す感覚に近かったので、ふいにポケットから出してみた。
その中に、今の翔矢には覚えのない白い魔法石もあった。
「あれ? これ誰のだ?
ワルパのおっさん? シフィン? グラビさん?」
知り合った天使を思い出してみるが、この中の誰の物でもない。
「ペネムエちゃん……会ったばっかでもらう暇なかったし違うよな?」
とりあえず、通信用の魔法石はポケットにしまい、病院の上階へとエレベーターで向かった。
「この階で合ってると思うんだけど……」
何かに導かれるように翔矢は病院をウロウロと歩く。
その姿は、徘徊してしまう老人のように見えなくはないが、今は医者も看護師も下で忙しくしているので、誰にも見られる事は無かった。
『こっち、こっちです、もうすぐ』
不思議な事には慣れてしまったからか、それとも、この声がそうさせるのか、怖さや驚きは無くなっていた。
「ここだな」
『どうぞ』
必要があるのかは分からないが、翔矢は無意識に病室のドアを2回ノックしていた。
「おまた……せ」
病室に入った翔矢は声を失ってしまう。
そこにいたのは、呼吸器や大量の管を繋がれた、昏睡状態と思われる中学生くらいの男子だった。
直感的に、この子が自分を呼んだのだと分かったが、このような容態の者が自分を呼んだとは思ってもいなかった。
「ええっと、俺を呼んだのは君だよね?
……話せるのかな?」
『こういう話し方なら少しね。
誰でも聞き取れる訳じゃないよ。
というか、こんなハッキリは話せるのは僕も初めてなんだ。
君、霊能力者か何か?』
「いや、そんな不思議パワーは無い……と思う」
赤メリの力が頭を過ったが、あれはあくまでも道具の力。
自分自身に不思議な力は無いと、翔矢は解釈していた。
『自己紹介が、まだだったね、僕は水瀬始。
こう見えて21歳なんだ』
「あ、ごめんなさい、てっきり年下だと思ってました」
『まぁ体も心も14歳のままだからね。
年下だと思ってくれていいよ』
「じゃあ、なんで年齢を言った?
まぁいいや……さっき母さんを止めてって言ったよね?
それに君の水瀬って苗字……」
『うん、僕の母さんは水瀬玲奈。
転生教の教祖、ゼロって言った方が分かりやすいかな?』
「えっと、何を聞けばいいか分からないけど……
俺たちは、そのゼロって倒す為に動いてるんだけど……」
母さんを止めてというのが始の願いのようだが、本人の前で親を倒すというのは、さすがに少し気が引けた。
『母さんは僕の為に今回のテロ事件を起こしたんだ』
「えっ?」
『ごめん……本当は僕の口から全部説明したいんだけど、やっぱり言いにくいな。
それに看護師さんが見回りに来るみたい、早く隠れて!!』
「はっ? 隠れるってどこに!?」
翔矢の耳にも誰かが、ここに近づいてくる足音が聞こえていた。
しかし少し広めではあるが、あくまでも病室の1人部屋。
初めて訪れた翔矢に、パッと隠れる場所は思い付かない。
『先に母さんを探りに来た美人なお姉さんが、まだココにいるから助けてくれる……かも』
始が話し終わるかどうかのタイミングで、翔矢の口が誰かに塞がれ、そのままカーテンの裏へと引きずり込まれた。
それと同時に、看護師が病室に入って来た。
「あれこれヨシッ!! とにかくヨシッ!!」
看護師は、始に繋がれている医療機器を、一通り確認して、すぐに部屋を後にした。
「フガフガ」
看護師が部屋を出た後も翔矢は少しの間、口をふさがれていた。
後ろにいるのが誰なのかも分からず、少し不気味に感じて思わず抵抗してしまう。
少しジタバタすると、手が何か柔らかいモノに当たった。
「あっ!! ごめんなさい!!」
それが女性のタワワな部分だと分かった翔矢はすぐに離れて謝罪をした。
「もう!! ダーリン、助けたのにそんなに暴れなくてもいいじゃないですか!!」
「えっ?」
そこにいたのは、転生教に能力を配ったであろう張本人、占い師の“双葉サヤ”だった。
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