167話:辱めから後戻りが始まりそうです
ペネムエとゼウは、病院の方向へと向かってくる白装束の集団を見張っていた。
「やはり病院が目的地で間違いなさそうだな」
「ボスのゼロさえ倒せば事件が終わるといういのが、お決まりなので、できればスカイタワーに急ぎたかったのですが」
「怪我人や体の弱い人間のいる病院で悪さをさせる訳にはいかない、行くぞ!!」
「はい!!」
2人は、物陰から飛び出し、転生教の集団の前へと立ちはだかった。
「待て!!」
「これ以上、先に進ませる訳にはいきません!!」
突然現れた2人に、転生教の集団はザワザワと慌て出した。
「ファッファイブ様、この銀髪はゼロ様と戦ったという氷使いでは?」
「あっ慌てる事はありません、この私がいるのですから」
ファイブと呼ばれた男の白装束には赤いラインが入っている。
呼び名からしても、この男は転生教の幹部だろうとペネムエは判断した。
だがファイブからは今まで戦った幹部のような、異様な雰囲気や覇気は感じられなかった。
声のトーンからも普通の中年男性という印象だ。
それでも魔力は確かに感じられるし、何らかの能力は持っているはず。
ペネムエとゼウは、何があっても対応できるように身構えた。
「あなたが、この中の代表ですね? 病院に何御用でしょうか?」
「あっあなたのような小娘が知る必要は無い!!
色々と可愛がった後で、こっこ殺しますから!!」
ファイブは口では、そう言っているが、明らかに怯えているように見える。
ペネムエは、とても攻撃する気にはなれなかった。
「おいペネムエ、あまり時間は無いぞ?
俺が、一瞬で終わらせてやる!!」
ゼウが臨戦態勢に入ると右手からバチバチと電流が流れる。
「ひえっ!!」
その姿にファイブを含め転生教は全員身構えて後ろに下がり、体を伏せた。
「ひえっ!? って言ったか?」
その、あまりにも情けない姿に、ゼウの動きは止まってしまった。
「ごっごほん、それ以上は動かない方が身のためですよ。
なんたって私は恐ろしい力を持っている!!」
「そうか」
「そうです!! 見逃すなら手荒な真似はしませんよ」
「恐ろしい力を持ってるなら……早めに倒しておかないとな!!」
「え……?」
ファイブは何が起こったか理解する間もなく、頭から雷撃を食らってしまった。
「ファイブ様!!」
倒れ込んだファイブに信者たちが一斉に駆け寄り声を掛けるが、体が痙攣して返事はない。
「ゼウ様……戦闘の意志の無い人間に、よくそんな殺意の高い攻撃が出来ますね」
「万が一、本当に恐ろしい力を持っていたら危険だからな。
現にセブンスは恐ろしい能力を持っていた。
それに威力は調整してある、大丈夫だ。
……たぶん」
「たぶんって……」
ペネムエは、慌ててファイブの元に駆け寄った。
「あの……大丈夫でしょうか?
こちらとしては、病院で悪さをしないのであれば、目を瞑っても構わないのですが……」
「そっそうですね、できれば病院に避難している若い女性。
できれば女子高生を脅して楽しい事をするつもりでしたが……
こんな恐ろしいのを相手にするなら降参する他ありません」
ファイブは声と体を震わせながら、ゆっくりと立ち上がり両手を挙げた。
「おい、こいつらはテロ組織みたいなものだろう?
口約束を守ってくれるとは思えんぞ?」
「グミ様に監視をお願いしましょう、戻るのもそこまで手間ではありませんし」
「なるほどな」
ペネムエが転生教の信者たちをグミの元へ案内しようとした、そのときだった
「えっ?」
微弱な魔力を感じ、振り返ると同時に強めな風がペネムエのスカートをフワリと捲りあげた。
「なななな」
「何を動揺している?」
「おおお多くの男性にしっし下着を見られてしまいました」
「たまたまだし、事故なら仕方ないだろう?
ちなみに俺は見てないからな、痴漢とか言うなよ?」
ゼウはペネムエから恐ろしい何か感じ取り、横歩きで彼女から離れた。
「事故? 今のは事故などではありません!!
そして痴漢は……こいつです!!」
ペネムエは一瞬でブリューナクを取り出し、そのままファイブの頭にフルスイングで、改心の一撃をお見舞いした。
「おっおい……たった今、戦闘の意志の無い人間に攻撃しないと言ったばかりだろう?」
今度はゼウがファイブの元に駆け寄る。
他の転生教の信者たちは恐怖からか固まってしまっていた。
「風の能力でスカートをコッソリ捲る。
これは立派な戦闘の意志と判断しました」
「言うほど、そうか?」
「だって……だって……
こんなに大勢の男性の前ですスカートを捲られてしまって……
これでは翔矢様にお嫁に貰って頂けませぇぇぇん」
ゼウは首を横に傾げるが、ペネムエはワンワンと泣き出してしまった。
「泣くな!! 泣くな!! 翔矢の記憶が無くなった話の時以上に泣くな!!」
まさか、ここまで大泣きするとは思っておらず、ゼウも転生教の信者と同様に固まってしまう。
「だってぇ!! 記憶なら戻る可能性は高いですし、思い出もこれから造ればいいですけどぉ。
お嫁に行けなくなったのは、これからの未来を奪われたって事じゃないですかぁぁぁ!!」
ペネムエが泣き叫びながらブリューナクをブンブン振り回すので、ゼウは必死に彼女を抑えつけた。
しかし自棄になっているペネムエのパワーはすさまじく、長く止める事はできそうになかった。
「落ち着け!! 落ち着け!!
翔矢は、そんな事を気にする男じゃないだろ!?
翔矢と同じ年齢の俺の意見としても、このケースは問題ない!!」
「……本当ですか?」
ここまで聞いて、ペネムエはようやく落ち着きを取り戻した。
「本当だ、まぁむしろ翔矢なら慰めてくれるだろ」
「ななな慰め……翔矢様から慰め!!」
「なぜ顔を赤くする?」
「コホン、ゼウ様失礼しました。
先ほどの案の通り、彼らをグミ様の所に引き渡しましょう」
「お前ら、ついてこい」
転生教の信者たちはペネムエとゼウに従う他なく、全員おとなしく後ろを付いて歩いて来る。
気を失ってしまったままのファイブは2人の信者に担がれている。
***
来た道を3分ほどかけて引き返し、ペネムエとゼウはグミに転生教の信者隊を引き渡した。
「という訳ですのでグミ様、彼らの監視をお願いいたします」
「いや……こいつらの服装ってテロリストとして広まってるから一般人から見たら恐怖の対象でしかないニャ」
「なるほど、それを利用して悪さをしようとしていたのですね。
そこまでは考え至りませんでした」
「見つかったらパニックだけどこの人数を……って待つニャ!!」
グミの話を最後まで聞かず、逃げるようにペネムエとゼウは走り去ってしまった。
「いや……マジでどうするニャ?」
異様な格好の転生教の信者たちに、この場の犬や猫も警戒し騒ぎ始めた。
「やれやれ、動物たちのストレスは放っておけないね!!
入院用のパジャマくらい、どこかにあるだろう、僕が探してくるよ」
パソコン仕事に熱中していたドクターは、重そうな腰を上げた。
「お前、ここから出て大丈夫ニャ?」
「翔矢や銀髪が病院をウロウロ出来ないのは、君の飼い主と知り合いだからだろ?
東京住みの僕には関係ないからね、白衣も着てるし目立たないだろう?」
「いや……病院で白衣は逆にマズい気がするニャ……」
だがグミの警告も聞かずにドクターは既に、この場から姿を消してしまっていた。
「一応、ニャーの仕事はあいつの護衛だったはずなのにニャ……
誰も話聞いてくれずに去っていくニャ……もう知らニャイ!!」
ペネムエ、ゼウに続きドクターも自分の話を聞かなかった。
この状況に気を悪くしたグミは黒猫の姿に戻り丸くなるのだった。
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