164話:雷撃から逃走が始まりそうです
翔矢にトドメを刺そうとするセブンスの前に、間一髪のタイミングで割り込んだペネムエ。
大切な人を護るため両手を広げセブンスの攻撃を受け止めようとする。
「そんな死に急ぐなよ。
強い奴と戦うのは俺の望みだが、転生教の幹部って事に変わりは無い。
邪魔するなら2人とも仲よく、あの世に送ってやる!!」
ペネムエは両目を瞑り、死を覚悟した。
ブリューナクの魔力は、ほとんど残っておらず、他の強力な魔法の道具も、今日の連戦で魔力は回復していない。
(でもよかった……
わたくしの事を忘れてしまった翔矢様なら、悲しみも少ないはず。
リールだってもう……
今、わたくしが命を落としても悲しむ人はいないんだ……
翔矢様、アクセルの力は残っているはずです。
傷口は大きいですが何と逃げて……)
そう願った所でゴロゴロと雷鳴が鳴り響いた。
「仮にも俺を倒してA級天使に昇格したんだ。
この程度の相手に諦めてる訳じゃないだろうな?」
「え?」
ペネムエがゆっくりと目を開けると、そこには六香穂にいるはずのゼウがいた。
すでに得意の雷撃をお見舞いしたのか、セブンスは体から煙を出し膝を着いている。
「どうしてゼウ様がここに!?」
「うんぬんかんぬんだ」
「いえ……分かりませんし」
この世界において雷はトップクラスの攻撃手段。
その使い手であるゼウが来たことで、翔矢もペネムエも少し安心していた。
「ふぅ……なかなか強いのが来たな!!
ってか雷は反則だろ!?」
「そう思うなら、さっさと逃げろ。
こっちは怪我人も出ている、できれば治療を優先したい」
「いくら強くても、頭は良くないようだな?
いや、強力な能力に過信してるって所か?」
「なに?」
ゼウは臨戦態勢に入り右手の雷鬼の腕からバチバチと放電している。
一触即発の状況だがペネムエは状況の悪さに気が付いていた。
「ゼウ様!! 戦ってはいけません!!
この場を脱出します!!
無茶は承知ですが雷の速度で、全員を逃がしてください!!」
「はっ?」
ゼウがペネムエの言葉に反応する間もなく、辺りは眩い閃光に包まれた。
「ちっ……全員逃げやがったか。
あれだけの怪我人がいたんだ、遠くには行けないはずだが……」
セブンスが目を開けれるようになるまでの数十秒で博物館には彼一人になっていた。
「力を使いすぎたし体もあちこちイテェ……
ゆっくり探すとしますか」
それでも慌てる様子は無く、ゆっくりと次の強者を探しに向かうのだった。
***
ペネムエとゼウ、ドクターに怪我を負った翔矢の4人は、何とか博物館敷地内にある公園のようなスペースに逃げ込んだ。
セブンスの読み通り、大した距離は離れてないので、目のいい彼に見つかるのは時間の問題だろう。
「はぁ……はぁ……」
「ゼウ様、無茶をさせてしまい申し訳ありません」
木に手を付いて息を切らしているゼウにペネムエはペコリと頭を下げている。
「気にするな、はぁ……はぁ……
天使は人間の命を守る事が最優先、翔矢は俺の友達でもあるしな」
そう言いながらも、ゼウの呼吸は乱れたままだった。
聞かなければならないことが山ほどあるが、ペネムエはためらってしまった。
それでも、どうしても気になっていた事が、ポソッと声に出てしまう。
「助けて頂いて何ですが、さすがに体力を消耗しすぎでは?」
「六香穂でニュースを見てな……
ただ事でないと思って文字通り飛んで来たんだ……」
あくまで漏れてしまった疑問なので返事が返って来るとは思っていなかったペネムエ。
そもそも聞かれるとも思って無かったので、さらに申し訳ない気持ちになる。
しかし、その申し訳なさを、驚きが勝ってしまった。
「えっ? 六香穂から東京まで徒歩で?
新幹線や飛行機でも、かなり時間はかかりますよ?」
「俺は雷だが」
「はっはい」
雷だろうが光だろうが、自分の力で移動していることに変わりはない。
時間の意味では早く到着できるが、到着した後のことを考えれば決して効率的な手段ではないのだ。
「この世界で、まともに魔法は使えないはずだが、なるほど!!
この腕が、魔法の道具と同じ役割を果たしているのか!!」
ドクターはゼウと初対面にも関わらず彼の手をガシッと掴んだ。
それにゼウは慌ててしまう。
「わっ、なんだ……この男は!!」
「うぎぇぇぇぇぇ」
いつセブンスに見つかってしまうかも分からない状況だったので、反射的に放電をしてしまった。
ドクターは口から黒い煙を出してバタリと倒れる。
「彼は……本名なんでしたっけ?
ドクターと呼ばれている、北風エネルギーの研究員です」
「こいつが……
以前ペネムエが捕まったという話は聞いていたが、そんなやつと一緒に行動していたのか」
「緊急事態ですからね。
この状況で戦闘能力の無い人間を見捨てるのは天使の掟に反します」
「よく割り切れるな……」
過去の事を特に気にしている様子のないペネムエにゼウは関心を超えて呆れてしまっていた。
「状況が慌ただしすぎで私怨を気にしている暇もないです」
「この俺が来たんだ、戦闘の心配はするな」
「それは頼もしいのですが翔矢様が……」
ペネムエは腹に穴が開き出血している翔矢の方に視線を送る。
「すまない、俺も状況を飲み込み切れてなかった。
ここまでの怪我だったとは!!」
「わたくしの手持ちのポーションは使い切ってしまって」
ペネムエが涙を必死にこらえているのがゼウには分かった。
「ポーションくらい俺が持っている。
お前にとって初めてできた大事な家族だろう?
簡単に諦めるな!!」
ゼウはペネムエのお礼も聞かずに翔矢の治療に入った。
その間にペネムエの涙はこぼれ落ちてしまっていた。
「大事な……家族……
うわーーーん」
「おい!! 泣くな!! 必ず助ける!!」
芯の強いイメージを持っていたペネムエが泣いてしまった事に動揺するゼウ。
だが治療の手を止める訳にはいかず、翔矢の傷口に少しずつポーションを垂らしている。
「ってないんです」
「なんって言ってるか分からん」
「翔矢様は、戦いのショックで、わたくしの事を覚えてないんです!!
忘れてしまったんです!!」
「はっ?」
ほんの一瞬だけ手を止めてしまったが、すぐに治療に戻った。
ペネムエはそのままずっと泣いてしまい、とても会話が出来る状態ではなかった。
「おーい!! あんまり泣くとセブンスに見つかっちゃうよー!!」
気絶してしまったはずのドクターが、いつの間にか起き上がりペネムエを煽っている。
「……これ以上、ペネムエを侮辱すれば、また電撃だぞ?」
雷鬼の手でゼウはドクターの頭を強く握った。
「ソーリーソーリー!!
僕の天才的な頭を握らないでくれえ!!
宮本翔矢の治療はいいのかい?」
「何故だか妙に怪我の治りが早くてな。
もう命の心配は無い、目を覚ますのを待つだけだ」
ドクターから反省の色は、全く見られない。
だが今ここで彼を痛めつけてもメリットは無いのでゼウは渋々手を離した。
「さっき君は、戦闘力の低い僕に電撃を食らわせた。
そして、セブンスとの戦闘でも電撃を使った。
恐らく僕に使った方が手加減はしてくれただろう?」
「確かにそうだが……急にどうした?」
「いや気になってはいたんだがね。
僕は気絶してしまったが、セブンスはダメージを受けただけ。
雷への耐久なんて、人間が鍛えた所で大差は無いはずだ。
どうしてセブンスは平気だったんだい?」
「わたくしも……それを疑問に思い撤退の提案をしました」
まだ泣いているが落ち着きを取り戻してきたペネムエは何とか口を開いた。
「雷は攻撃手段としては最強の攻撃手段だ。
しかし避雷針やらの対策が取れれば、結構平気なんだよ。
そういう意味では銀髪天使君の方が優秀かな?
寒さなんて我慢しか対策が無いし、この季節はみんな薄着だぁ!!」
ドクターは自分の白衣が夏用で薄手になっている事をアピールしてヒラヒラさせている。
「セブンスは雷対策もしていると?
俺はニュースを見て慌てて出てきたんだぞ?」
「それで良くここに来ましたね?」
「向かっている途中で女神アルマ様から連絡があったんだ。
翔矢がヤバいとな、事情も少しは聞いた。
だが俺の到着が早くて話は途中で終わりそれっきりだ」
「なるほど」
「敵は何故か雷対策までバッチリなんだ。
強いうえにあれでは今は逃げるのが得策じゃないかい?」
ドクターの態度は基本的にふざけているが間違ったことを言っている訳ではない。
ペネムエとゼウは、この場を離れるという意見に賛成した。
「翔矢は俺が背負っていく。
体力は、そこそこ回復したしな」
「申し訳ありません」
「2人とも俺に捕まれ、安全なところまでは雷の速度で移動する」
「また、あれやるのかい?」
ドクターが怯えたが、ゼウは有無を言わさず彼の手をつかんだ。
それと同時にペネムエもゼウの肩に手を置いた。
ビリッという音と共に4人は、この場を後にしたのだった。
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