163話:仇討ちから土埃が始まりそうです()
「はぁ!!」
ペネムエは親友の仇であるセブンスにブリューナクによる高速の突きを何度も繰り出していた。
「おぉ!! いいねぇ!!
だが怒り任せだと当たるもんも当たらないぜ?
よく狙えよぉ」
しかしセブンスは、余裕の表情でヒョイヒョイと交わしている。
「当たらない……こいつもゼロと同じ“何か”なのか?」
攻撃の手は休めないが、ペネムエの頭は冷静だった。
それでも、確実に仇を取るような策は見つからない。
「お? あのオバハンの正体に気が付いてるのか?
だが俺は違う、能力を得ただけの、ただの人間だ」
「それは……残念です」
「あん? どういう意味だよ?」
「あなたが普通の人間なら、どんなに憎くても命は奪えませんので!!」
ペネムエは、ブリューナクで生み出した氷塊をセブンスの頭上に落としたが、それも後ろにジャンプされ交わされてしまう。
「いや……今の当たってたら死ぬわ。
命は奪えないんじゃなかったのか?」
「命を奪うつもりで挑まなければ勝ち目も薄そうですので。
仮にもリールを倒した実力者ですからね」
「まぁ俺の目的は強い奴と戦いたいだけだから、本気を出してもらわないと困るけどな」
ペネムエとセブンスが交戦する中、翔矢は赤メリを右手に装着したまま、体を震わせ硬直していた。
「君は戦わないのかい?」
「戦わなきゃ……あいつはリールを……
なのに……体が動かない……」
(力で暴走した恐怖が、無意識に戦闘を止めているのか?
興味深いが、銀髪が、あのセブンスとかいう男に敗北した場合はヤバイかな?)
ドクターは、頭では考えているが、特に行動を起こさずペネムエの戦闘を見守っていた。
「さて、いつまでも攻撃を避けてるのは退屈だし疲れる。
そろそろ、こっちから行かせてもらうぜ?」
セブンスが右手を振ると、目の前のショーケースに真円の穴が開いた。
これはペネムエを狙った攻撃だったが、彼女はこれをしゃがんで回避していた。
「ほう? 目じゃ見えない攻撃のはずだが避けやがったか?
それとも、たまたまか?」
「それを教える必要がありますか?」
「ねぇな!!」
今度は、凄まじい速度でピンポン玉サイズの真円が、そこらじゅうに開いていく。
ペネムエは、館内をアクロバティックに移動して回避した。
「これは、たまたまじゃないな、俺攻撃の位置が分かってやがる」
「ここは、歴史的に貴重な物を展示しているようなので、闇雲に破壊しないで頂きたいですね」
「お前が闇雲に避けなければ、展示物に被害は無いんだぜ?」
「では……決着を急ぐとしましょう!!」
「なに?」
その言葉と共に、ペネムエはセブンスの視界から消えていた。
あわてて周囲を確認すると、自分の真後ろに気配を感じて、振り向こうとしたが、すでに何をしても間に合う状況ではなかった。
「本当は、おもいっきり痛い目にあって頂きたいのですが、天使が必要以上に人間に傷を負わせる訳には行きませんので」
ペネムエがセブンスに向かって何かを投げると、彼の体を光のリングがグルグルとスパイラル上に拘束をした。
「ちっ厄介な」
「異世界の罪人をとらえるための拘束具です。
あなたの能力も、使用は出来なくなってるはずです」
「時間を止めて拘束とは戦術が陰湿だねぇ」
「何とでも言いなさい……えっ?
何故、時間を止めた事に気が付いて……」
ここまで話した所で、天井から土埃のようなものがポロポロと落ちてきた。
だが2人は気にする様子はなく話を続けた。
「俺は、あんたと近い事が出来るのさ。
生まれつき、動体視力に自信があってね、微妙に物が動いたりする変化に気が付ける。
あんたは、俺の能力で穴が開く場所が“見えていた”
それと同じで、相手の動きを見れば何をするのか大体の予想はできる。
だが今のは完全に動きが飛んでいた。
魔法が実在するなら時を止められた可能性が一番最初に思いついたってだけだ」
「なかなか頭が切れるようですが、拘束されては、何もできないでしょう?」
「あぁ“今は”何もできないなが……
拘束する前の動きまでは無効にできないよな?」
上を見上げたセブンスに釣られるようにペネムエも上を向くと天井には無数の穴が開いていた。
「こんなの……いつの間に!?」
「あんたが俺の攻撃を避けている間にだ。
目で見て避けている以上は、視野に入ってない場所には気が付かないだろう?」
「少し驚きましたが、こんな事をしても意味はありません。
あなたの処遇をどうするかは迷いますが……
天界に決めてもらうか、北風エネルギーに任せるか……」
ペネムエは拘束したセブンスを、さらに氷で閉じ込めようとブリューナクを向けた。
「ヘイ!! シェリー!! 電気をつけて!!」
「どこかに仲間が? いえ人の気配も能力者の魔力も感じません。
その程度のブラフは、わたくしには通用しませんよ?」
セブンスは冷気を感じた途端に、そう叫んだ。
その意味がペネムエには全く分からなかった。
震えながら戦いの様子を見守る翔矢もピンとは来なかった。
だがドクターは、それをすぐに理解した。
「いかん!! それはブラフじゃない!!
スマホのAIを利用した起爆装置だ!!」
らしくもなく大声を上げたドクターは、力ずくで翔矢をひっぱり、部屋の外へと急いだ。
その直後、ドカンと爆発音が鳴り、穴が開いていた天井は、そのままペネムエとセブンスに向かって落下してくる。
【超高速】
翔矢の部屋よりも明らかに大きな天井。
これが直撃しては、自分の命が助からないと判断したペネムエは高速で部屋の外に出た。
セブンスも連れ出そうと、手を伸ばしたが、彼が後ろにジャンプしたので、それは叶わなかった。
「くっ……」
なんとか翔矢とドクターの元へと移動はできた。
しかし天井が落ちた土埃で、セブンスの様子は確認することができない。
「ペネムエちゃん……あいつは?」
「少なくとも命はあるかと、能力者特有の魔力は、まだ感じられます」
「うむ!! しっかりと立っているし元気そうだ!!」
ドクターは、サーモグラフィーの機能の付いたスコープを装着し、ただ一人セブンスの様子がシルエットで確認できていた。
「ペネムエちゃん……あいつのせいでリールは……」
「リールは、絶対に生きています……
でも少なくとも、あいつのせいで痛い目に合ったのは間違いないかと」
「俺……今までこんな事無かったなの、戦うのがすごい怖い」
「それは……」
“恐らく暴走を体が覚えているから”そう言いそうになったが、慌てて言葉を引っ込めた。
「なんで、こんなに怖いのかは分からない……
でも今は、あいつをぶっ倒したいって気持ちが勝ってきた。
たぶん……俺、リールのこと“好き”なのかも」
「えっ? はおっ? ほえっ?」
色々ありすぎた今日の状況と重なり、ペネムエの頭の処理できる容量を超えてしまった。
「だから!! リールは無事だろうけど一発は殴らないと気が済まない」
翔矢は赤メリを構えた。
その動きに今度はペネムエがゾッとした。
ギリギリの戦いで、何とか翔矢を今の状態にすることができた。
だが次に暴走されては、どうなるか分からない。
何より奥義を一度使ってしまったせいでブリューナクに十分な魔力は残ってないのだ。
【コネクト・ファイター】
だがペネムエが止める間もなく、翔矢は赤いオーラを身にまといセブンスの元に突っ込んでいってしまった。
とはいっても巨大な天井が落下した土埃はすさまじく、未だに視界は回復していない。
翔矢も闇雲に突っ込むしかないはずなので、ひとまず暴走していないことにペネムエは安心した。
「セブンスという者の言うように、わたくしは、あくまで見えているだけ。
そもそもの視界が悪ければ、役には立ちません……
これ、お借りします!!」
「ちょいちょい!!」
ペネムエはサーモグラフィー付きのスコープをドクターから奪い、土埃の中へと入っていく。
***
「お前、さっきの銀髪の女じゃないな?」
「あぁ!! リールの仇を取らせてもらう!!」
翔矢はセブンスに殴りかかった、だが、その拳は空振りに終わる。
「お前……この視界で見えてるのか?」
「あんたこそ、あの状況で、怪我すらなかったみたいだな」
「天井に穴をあけたのも、トドメの爆破も仕込みは俺だぜ?
それに、この動体視力が合わされば足さえ動けば怪我なんてしねぇよ!!」
「なるほどな!!」
話ならも翔矢の攻撃は止まらない、しかしセブンスには当たらなかった。
「なるほど、土埃の変化で俺の拳を避けてるな」
「ほう、頭に血が上ってる割には冷静だな?」
「相手のスペックさえ分かれば、どうやって何をしてるかは検討が付く!!」
「やっかいだが、分かって対処できるか!?」
「できる!!」
【コネクト・アクセル】
青いオーラが翔矢の身を包むが土埃でセブンスに、それは見えない。
「たとえ見えてもこの速度なら!!」
翔矢の高速の拳がセブンスをとらえようとした、その時だった。
「かは……」
翔矢は腹から血を流しバタリと倒れてしまった。
「どんなに早く動けても居場所が分かれば俺の能力で穴を明けれる。
急所は外してしまったが……」
「くっそ……ペネムエちゃんのやった拘束も解けてたのかよ……」
「そこまでは気が付けなかったみたいだな?
元々足は動かせたのが幸いだったぜ。
ってか、まだ話せるのか? すぐに楽にしてやる!!」
セブンスは翔矢に止めを刺そうと手をかざした。
「やめろ!!」
その時、視界はある程度回復していた。
ペネムエは翔矢を護るように両手を広げ、セブンスの前に仁王立ちをし、鋭くにらみ合うのだった。
ここまで読んで下さりありがとうございます。
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