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159話:記憶から捜査が始まりそうです

 空中戦を制し翔矢を取り戻したペネムエ。

 人気のない街路字で、気を失ったままの翔矢を壁に寄りかからせて休ませている。

 転生教によるテロ事件が報道されたのか、東京と思えない程に人の数は少なかった。



 「血は落ちましたが、傷口は……

 ポーションを使いましたが傷が癒えるまで1週間は必要でしょうか?」



 翔矢の治療を先に終わらせ、今は自分自身の服を魔法の石鹸で洗ったり、ポーションで傷口の応急処置をしていた。

 背中の傷は服で隠せるが、左肩の噛まれた傷はどうしても目立ってしまう。



 「これは……翔矢様に心配をかけちゃいますね。

 記憶が残らないタイプの暴走だったら、敵にやられたと誤魔化せるのですが……」



 クルクル回り自分の体の状態を確認し終わると、翔矢の横に体育座りをした。

 そして、壁に寄りかからせていた翔矢を、自分の右肩に寄りかからせた。

 こうすると、自分の大切な人を、取り戻せたのだと実感が強まる。

 魂は弱っているが、メタルによる防御強化のお蔭か、肉体的なダメージは想像よりもずっと少なかったのだ。



 「これから、どうしましょう……

 スカイタワーに戻るにも、奥義を使用したせいで疲労が……

 これでは鈴様の足手まといに……

 やはり、リールを探しに行くのが得策ですか。

 おおよその場所も分かってますから」



 今後の方針を決めたところで、翔矢を見ると、まだ眠っていた。



 「すぐにでも出発したいですが、翔矢様は眠ったままですし……

 何より……わたくしも……限界です……」

 


 リールは絶対に無事なはず。

 そう自分に言い聞かせ、少し休憩をすることにした。



 ***



 それから何時間経ったかは分からない。

 だが、ペネムエが目を覚ますと、すでに日は落ちかけていた。


 

 「しまった!! 寝すぎました!!

 何とか、状況を確認しないと……」



 大通りに出て様子を確認したが、テロ事件があったせいか、やはり人通りは全くと言っていいほど無かった。

 道の陰で眠ってしまっても、誰にも見られなかったのも、これでは無理はない。



 「翔矢様!! 起きて下さい!!」



 起こすのを少しためらったが、見たところ、弱っていた翔矢の魂は、かなり回復している。

 体の傷は、もともと軽傷だったので、起こしても問題ないと判断した。



 「んっ……」



 2、3回体を揺らした所で、翔矢は目を覚ましたので、ペネムエは安心した。



 「あの……翔矢様。

 色々と、お伝えしたいことと、確認したいことがあるのですが……

 体の調子は、いかがでしょうか?」



 ペネムエの質問に、翔矢は答える事無く、ポカンとして首を横に傾げた。



 「翔矢……様?」


 「君……誰?」

 

 「えっ……」



 翔矢の返答にペネムエは言葉を失った。

 だが、この状況に心当たりはあった。

 自分が翔矢に打った“銀世界ノオロチ”は極めれば、あらゆる事象や概念を凍結させる大技。

 恐らく翔矢の記憶を凍結させてしまったのだ。



 (今は絶対に泣いてはダメ……とりあえず、どこまで憶えてるのか確認しなければ……)

 「あの今“東京”では転生教という教団がテロを起こしました。

 異世界に行くなどという、理解不能な動機ですが、危険な組織です。

 こんな所にいたら危険ですよ? 逃げて下さい」


 

 これなら翔矢が、現在の状況をどこまで憶えているか聞き出せるとペネムエは判断した。

 だが翔矢は、ペネムエの顔を、ただただジッと見つめるばかりだ。



 (反応がない? まさか自分の事まで忘れてしまうレベルの……)



 ペネムエは、不安で固まってしまい、翔矢の手が自分に伸びている事に気が付かなかった。

 それを把握したのは、自分の左肩に彼の手が触れてからだった。



 「ひゃ!! 何をなさるんですか!!」


 「あっ……ごめん、ひどい怪我してるなって。

 何かに噛まれたみたいな傷が……」


 「これは……」


 「わかった!! 君、リールと同じ天使でしょ!?

 それで、転生教の能力者にやられたんだ!!」


 「そっその通りです、何とか倒す事はできましたが……

 えっ!? リールを覚えて……知っているんですか!?」


 「うん俺は、六香穂っていうド田舎に住んでるんだ。

 今日はユリアさんっていう天使……と人間のハーフだったかな?

 まぁ友達にワープ出来る鍵をもらったから、試しに東京にリールと2人で遊びに来た所だったんだけど……

 見事に事件に巻き込まれてしまった……」



 翔矢はガックリと肩を落とした。

 心なしか、その割には口調や表情は明るいようにペネムエは感じた。



 「あはは……

 実はリールは、わたくしの親友でもありまして。

 あなたの……事は……よく知っています。

 宮本翔矢様ですね……わたくしはペネムエと申します」


 「へぇ!! そうだったんだ!!

 よろしくね、ぺネちゃん!!」


 「ペネ……」


 「あれ? ごめん、俺何で初対面の女の子に変なあだ名で呼んじゃったんだろ?」


 「いえ……可愛らしいので、そのままで……お願いします!!」


 「流石に、それは厳しいかなぁ……

 それより、何か頭がボンヤリしててさ。

 リールと一緒だったはずなのに、いつ逸れたか分からないんだよね。

 ペネムエちゃん、心当たりない?」


 「えっと……都立博物館で、転生教の幹部と交戦したという連絡はありました。

 しかし、その結果までは……」



 自分が信じたくなかったのか、今の翔矢に話すべきではないと判断したのかペネムエにも分からない。

 だが、とてもリールは心臓に穴を開くほどの攻撃を受けたとは言えなかった。



 「そっか、ってか何で俺に連絡よこさないでペネムエちゃんに連絡を……?」



 翔矢のイジけたような表情にペネムエは違和感を覚えた。

 だが今は、一刻も早くリールの状況を確認しなければならない。

 すでに、何時間も経過してしまっているし、今の翔矢を、何とかする事はペネムエには出来そうになかった。



 「きっと、人間の翔矢様を戦いに巻き込みたくなかったのでしょう」


 「相手だって人間だし、俺だって戦ったら、そこそこ強いんだよ?」



 翔矢は、ポケットから赤メリを取り出し得意気な顔をした。



 「何か、大魔王マモンって奴の遺産らしんだけど、俺に力をくれるんだ。

 ファイターってのとアクセルってのがあって……」


 「それは……リールから聞いております。

 とにかく博物館の方に急ぎましょう!!」


 「まぁ、リールが負けるとも思えないし、道に迷ってスマホの電池も切れたとかだろ」


 「そう……ですね」



 翔矢はスマホで地図を確認して歩き出した。

 ペネムエは、その後ろを歩く形で進む。

 数分、歩いたところで翔矢は振り向いて、ペネムエに話しかけて来た。



 「あのさぁ……」


 「ななな何でしょうか?」


 「どうして、俺の横じゃなくて後ろを歩いてるの?

 悪いけど、ちょっと話しにくいかな……」


 「もっ申し訳ありません。

 わたくし、人見知りでして……」


 「そうなんだ、じゃあ仕方ないか、ごめんね」



 特に気にした様子もなく、翔矢は再び歩き出した。



 (無理です……今は、とても翔矢様の目を見て話せません。

 このまま記憶が戻らなかったら……

 また、仲よくなれるでしょうか?

 また……家族と言ってくれるでしょうか?)



 そこまで考えたところで、ペネムエは首をフルフルと横に振った。



 (ネガティブに考えるのは止めましょう……

 話していると、分かります。

 わたくしの事を覚えてないだけで……翔矢様は翔矢様じゃないですか)



 前を歩く翔矢の背中を見ながら、ペネムエは正気を保つのがやっとだった。



 

 ***




 それから、人見知りと言ったペネムエに翔矢が気を使ったのか、妙な空気がそうさせたのか。

 ほとんど会話の無いまま歩き続け、15分ほどで東京都立博物館に到着した。


 

 「この辺まで来ても、やはり人通りは、まばらですね」


 「六香穂の方が、まだ人がいるよね?

 ってペネムエちゃんは知らないか」


 「いえ、わたくしも六香穂から来ましたので……」


 「えっ? そうだったの!?

 リールの奴、紹介してくれても良かったのになぁ」



 少しだけ、会話をしながら、博物館の外を2人でグルリと探索した。

 


 「おーい!! リール、いたら返事しろぉ!!」



 ペネムエは無言で手がかりを探しているが、翔矢は時々呼びかけるようにしている。



 「結構時間経っちゃったし、やっぱり他の場所に行ったのかなぁ?」


 「その可能性もありますが、ここは土地勘のない東京です。

 連絡がない以上は探すのは困難。

 ここで何かあったなら痕跡が残ってるはずです。

 もう少し、探してみましょう」


 「そうだね、あとは博物館の中だけど……

 誰もいないのに入って大丈夫かな?」


 「この非常事態ですからね。

 誰もいないからこそ、入っても大丈夫かと」


 

 ペネムエは何の躊躇もなく、博物館の入り口に小走りで向かった。

 翔矢も慌てて、その後を追った。

 だが、数歩歩いた所で、足元からビチャっという音がして足を止めた。



 「水たまり? いや今日は1日快晴だったはず」



 辺りは、すでに少し暗くなっている。

 翔矢は足を上げて、目を凝らし足の裏を確認した。



 「うゎっ!!」


 「どうかなさいましたか?」



 男らしからぬ悲鳴を聞き、ペネムエは慌てた様子で戻って来た。



 「これ……血?」


 

 恐る恐る、自分の踏んだ地べたと靴をペネムエに見せる。

 その血痕に彼女は息を飲んだ……



 「この……血……魔力が……感じられます。

 この魔力は……リールのです……」



 暗い中で、翔矢にペネムエの表情は、良く見えなかった。

 だが声は震えている、明らかに動揺しているのが分かった。

 


 「ふぇっ?」



 気が付くと翔矢はペネムエを抱きしめていた。

 ペネムエ、混乱して固まるだけで何もできない。



 「リールなら絶対に大丈夫だよ……

 あいつが……そう簡単に、死ぬもんか!!

 きっと怪我してどこかで……休んでいるだけだ!!」



 翔矢の言葉はペネムエを励ましてくれているのだろうが、自分自身に言い聞かせているようにも聞こえた。



 「そう……ですね……」



 だがペネムエは知っている。

 天使は実態のある魂だと。

 天使の死は消滅であり死体などは残らない。

 この出血量で自力で逃げれたとも考えにくい。

 無事をいくら信じても状況が、どんどん悪い方に向かっている。

 ペネムエは、声を殺して翔矢の胸の中で泣いていた。



 「あっ!! ごめん!! 俺……初対面の女の子に何やってるんだろう!!

 でも……なんか今のペネムエちゃんを見てたら体が勝手にって言うか……」



 言い訳のように早口で話しながら、翔矢はペネムエを離そうとした。

 だが、ペネムエは翔矢に抱き付くような形で離れようとしなかった。


 

 「迷惑でなければ……もう少しだけ……お願いします」


 「……うん」



 2人は、しばらくの間、抱きしめあった。

 ここまで読んで下さりありがとうございます。


 ストーリは一生懸命練って執筆しております。


 少しでも続きが気になったらブクマ登録して頂けると励みになります。


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