16話:昼休みから友達が始まりそうです
話はペネムエがノーマジカルに来る前にさかのぼる。
ここ、天界学校は白い大理石のような鉱物でできた建物で、天使たちが人間世界で天界の任務に就くために魔法や世界についての勉強をしている。
「現在、多くの世界で使われているのは『レベリング・マジック』とカテゴライズされている魔法である」
年老いた教師が教壇に立って授業を行っている。
「このレベリング・マジックは種類も多く習得も簡単でポンポン覚えれるのである。
他の特徴を……そうだねペネムエ君説明できるであるか?」
教室にいる30人ほどの天使の中からペネムエが指名された。
ペネムエは立ち上がって先生の問いに答える。
「はい。レベリング・マジックは簡単な呪文や術式で構成されているので覚えやすく、下級の魔物や魔法の適性が無い人間でも簡単に使用する事ができます。
しかし覚えただけでは、そこまでの威力や効果は期待できません。
使用すると魔法ごとに経験値というのが貯まってレベルが上がっていき、性能が向上します。
高いレベルになるほど魔力の消費は多くなってしまうので状況によっては、低いレベルで発動させるなどのペース配分が重要になってきます」
レベリング・マジックの説明が終わるとペネムエは再び席に座った。
「そうであるな。しかし強力な魔法はレベルが上がりにくいである。
最上級魔法は人間は一生でレベル1を1個習得するのがやっとである。
我々天使は適性のない魔法であっても1個をレベル50くらいまでは上げることが可能である。
だがあくまで平均なようなもので天使より魔法の才がある人間は各世界に何人かは存在するである。
あとは個人個人には適正魔法と呼ばれるものがある。
適正魔法は1人1人違うがレベルの成長が格段に変わってくるである。
適正魔法が最上級魔法であれば、適正の高さによって他の物では考えられないレベルまで成長できるであろうな。
ただし今のところ適正魔法の判断は、女神のアテナ様とアルマ様。他では十二神官のアイリーン様が、その者の使用したことのある魔法から見つけることができるのみである。
使用したことがない魔法から見つける方法は発見されておらず、適正魔法が見つかるだけで幸運である。」
ゴーーンゴーーーン
ここで授業終了を伝える鐘が鳴る。
「今日は、ここまでである」
先生が教室から出ていくと生徒の天使たちが友達同士で集まって、おしゃべりをはじめたりしている。
ペネムエの斜め右の机では女子生徒2人が会話をしている。
「魔法分類学の授業って退屈だよねーーー」
「分類なんて知らなくても魔法くらい色々使えるもんねーーー」
魔法は世界ごとに色々な系統が存在するが、様々な世界で活動する天使は、どこの世界の魔法かなど気にせず習得するのが普通だった。
それなのにわざわざ世界ごとに使われている魔法を勉強する魔法分類学は生徒に不評だった。
ペネムエは、そんな会話が聞こえてはいたが気にせず一人、本を読んでいた。
しかし、10分もしない内に自分に誰かが声をかけてきた。
「あなたペネムエさんよね?」
「そうですが……」
入学してからほとんど他の天使と話したことがなかったので動揺したが、本から目を離して受け答えをした。
「知ってると思うけど私は学校始まって以来の天才、いえ超天才と言われているリールよ。
お昼まだなら一緒に食べない?」
やたら自信過剰な天使だがリールという名前は聞いたことがある。
確か太古の『極み魔法』を使える上に入学試験の魔力測定では学校最高記録を出したという人物だ。
極み魔法は自分の魔力の容量を減らすことでのみ習得できる魔法だ。にもかかわらず魔力測定が新記録という事は間違いなく天才なのだろう。
「そういえば皆さんお昼の時間だから教室からいないのですね」
さっきまでは、おしゃべりをしていた生徒が教室にいたが本を少し読んでいる内に、ほとんどの生徒はいなくなっていた。
「お誘いいただき光栄ですが、あいにくわたくしは食事は取りません。
そのお金と時間で本を買って読んだ方が将来人間のお役に立てると考えております」
天使は食事をしなくても体に支障はない。多少の空腹は感じることがあるが我慢はできる。
なので特に必要性を感じていなかった。
「あなた正気?」
リールはギョッとした表情で続けた。
「私たちは卒業したら、大抵はどこかの世界に配属されて天界の事を知っている人間のお世話になるのよ?
お近づきの印に、ご飯どうぞ!! って人間はもてなしてくれるのよ?
今から食事と言う文化に慣れておくべきよ」
「そういう状況になれば頂きますし、食文化についても本を読めば理解できますので」
「あんたねぇ……わかったわ!!じゃあ奢ってあげるから一緒に来なさい!!
この前の魔物討伐実習で素材売ったからお金もたくさんあるし」
「あの……でもわたくしは……」
リールは呆れながらも、ペネムエの事がほっておけず誘った。
しかし、ペネムエはなおも食事を拒む。話は平行線だった、後ろから他の女子生徒がやってきた。
「ちょっと……リール。そのペネムエって子……『人形』なのよ?」
その生徒の言葉でペネムエは固まった。
いままでも自分に話しかけてくれた天使は何人かいたが、『人形』の一言でみんな離れていった。
このリールという子も、これでもう絡んでこなくなるだろう。
だがペネムエは、それでいいと思った。人形である自分と一緒にいたらリールも変わり者と思われる。
それだけならいいが、『あれの標的』にされるかもしれない。
しかし、リールの反応はペネムエの思っていた反応とは違った。
「有名だし知ってるわよ?それが?」
リールは、ペネムエの事を知ったうえで話しかけてきたのだ。
今までもペネムエを昼食に誘ってきた天使は何人かいたが、大抵は天界の外れの方の出身の天使で人形の事を知らない者ばかりだった。
そんな天使たちも人形の事を知ると離れていった。
知らないままでいてくれれば良かったのにと最初は思っていたが、わざわざ人形の事を教えて回っている生徒がいたと知って、誰かと仲良くなるのは諦めた。
「リールさん……人形の意味わかってる?
人形っていうのわ……」
「しつこいわよ。超天才の私が知らないわけないでしょ!!」
女子生徒は、尚も食い下がり人形についての説明をしようとしたが、リールはムッとした表情でさえぎった。
驚いた女子生徒は教室を駆け足で出て行った。
「という訳で私は、あなたの気にしてることは、全く気になってないわよ。
むしろ、超天才の私が奢ると言っているのに断られる方が、よほどショックなんだけど……」
「そこまで言うのであれば……ご馳走になります」
人形の事を気にしないと言われたのは初めてだったので少し戸惑ったが、ペネムエは強引に押させるような形でリールと食事に行くことになった。
*****
ペネムエはリールに、天界学校近くのレストランに連れてこられた。
「てっきり学食かと思っていましたがレストランとは……」
注文した料理を待ちながらキョロキョロと店内を見渡す。
レンガ造りの建物でレストランというには小さめな気がするが雰囲気はいい。
「『ポロニカ』っていう世界に派遣されてた天使が天界に帰ってきてから開いた店で、現地から直接食材仕入れてたり拘りがすごいのに、値段がお手頃で気に入っちゃたのよねーーー」
ポロニカは確か人間が多くなく魔法もそこまで発展していないが、動植物が豊富な世界だ。
「こちらラーム肉のステーキでございます」
注文してそこまで時間はたっていないが、ダンディな雰囲気の店主が料理を運んできた。
当然初めて来る店だったのでペネムエは、とりあえずリールと同じものを注文した。
ラーム肉。ラームは確か角が生えていてメェメェと鳴く動物だ。
他にはモコモコした毛が寝具の材料に使われたりしている。
「さぁさぁ、あったかいうちに頂きましょう」
リールは自分が料理を作ったかのように得意げに話す。
「それではいただきます」
ペネムエはフォークを料理に伸ばした。
隠れ家的な店とはいえ昼時なのにほかに客がいない。
いくら天使が食事を必要としないと言っても、ほとんどの者は食文化の研究や娯楽の一環で3食きっちり食べるので正直、味は期待していなかったが……
「……おっおいしいです!!」
思わず大きな声をあげてしまった。
ラーム肉は臭みがあり好き嫌いが分かれるという話を聞いたことがあったが、全く気にならない。
むしろ、いいアクセントになり癖になる味だ。
「でしょ?ペネムエさんもそんなにテンション上がったりするのね」
リールは嬉しそうに食べる姿を見ていた。
ペネムエは恥ずかしくなり顔を下に向けた。
「あっあの……リールさんは何故、わたくしなんかを食事に誘ってくださったのですか?
わたくしの事を知っていたのに……」
恥ずかしさに耐えきれなくなり思わず、気になってはいたが聞く気はなかった質問をしてしまった。
「私ね……夢があるのよ」
「夢?ですか?」
リールは少し真面目な表情になったが嫌ではなさそうな感じで話し始める。
「人間も天使もすべての世界の人が幸せで笑っていられたらいいなって。
あなたの笑ったとこ見たことないから放っておけなかったのよ」
「フッフフフ」
「なっなに人の夢笑ってるのよーーー」
「ごっごめんなさい。だってフフッ」
馬鹿にしているつもりは無いのだが、あまりに突拍子もない夢で笑ってしまった。
「そんなの色々なところで言われる理想論というか綺麗ごとですし、子供でも本当に可能なんて思いませんよフフフッ」
天使の任務は人間を護ったりもするが、どちらかというと幸せにするというよりは不幸を減らすという表現の方が近い。
まして全ての人間を幸せや笑顔にできると考えている者はいないだろう……いやここにいたか。
「理想論ってことは、『みんなの理想』って事でしょ?
実現出来たら素敵じゃない!!」
リールは微笑んでいる。
なんだか、この顔を見たら本当にやってしまうんじゃないかと一瞬思ってしまった。
「不可能だから理想と言われるんですよ」
ペネムエは、ある事情から他の天使から無視されたり他にも色々な事をされていた。
人間でも他の人と違えば無視されたり酷い事をされる場合があると聞く。
他にも辛い事なんていくらでも起こり得るのにみんな笑顔なんてできる訳がない
「でも少なくとも今日はペネムエさんを笑顔にできたじゃない?」
ペネムエはハッとした。
最後に自分がまともに笑顔になったのはいつだろうか?
リールの夢を聞いたからじゃない……初めて食事というものをして、おいしくて嬉しくて笑顔になった。
食事という行為は知識では知っていたが、ここまで嬉しくなるものだとは思わなかった。
「……ペネムエでいいです。同級生ですし……というかわたくしの方が年下ですし」
「じゃあ私の事もリールでいいわよ!! 年上っていっても天使に年齢って関係ないようなもんだし……もう友達だからね!!」
「友達……?」
「嫌かしら?」
「いえ……光栄でございます……」
自分の正体を知ってから、笑顔になったのは初めてだった。
そして嬉しくて涙が溢れたのも初めてだった……
*****
話は現在のノーマジカルの空海山に戻る。
リールはペネムエにサーベルを振り回し襲い掛かっている。
ペネムエは動揺と混乱から除けるのが精いっぱいだ。
「ほらほら!!除けてばかりじゃ解決しないわよ人形さん!!
まぁ超天才の私に、あなたが接近戦で太刀打ちできるとは思えないけど」
「キャッ」
石に足を取られペネムエは転んでしまった。
「私の攻撃をいつまでも除けれるわけもないか」
リールはペネムエにサーベルを振り下ろす。
キーン
しかしその攻撃はペネムエには届かず受け止められる。
「そう……ですよね」
ペネムエはとっさにポーチから取り出した槍でリールの一撃を受け止めていた。
「やる気になったかしら?」
「わたくしは人形……存在してはいけない天使……
友達と言われる方が異常な状況だったんです……
任務に必要なら、あなたと戦います!!」
リールに『友達』と言われた時とは違う涙がペネムエの頬をつたっていた。
(今は……戦わないと……翔矢様が……)
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