158話:奥義からぬくもりが始まりそうです
「キャーーー」
「うわぁぁぁ」
ゼロによるスカイタワー展望台の爆破。
ペネムエと鈴は悲鳴を上げながら落下していた。
運が悪かったのか、そのタイミングを狙われたのか、ガラス張りの床にいるところをやられたので634メートルを真っ逆さまだ。
「マジックラウド!!」
ペネムエの呼び声に反応し、どこからともなくマジックラウドが猛スピードでやってきた。
何とか乗り込み、鈴と蓮も乗せようとするが、その落下速度に追いつけない。
「私は大丈夫!! それより宮本翔矢が!!」
鈴の指さす方を一瞬だけ確認すると、鉄のドラゴンはスカイタワーの外を飛行してしまっていた。
「なっ……あの重さで飛べるんですか!?」
「切り札だけど……緊急事態だし仕方ないか」
【インジェクション】
鈴は、自身の体に注射器を打った。
そして落下する瓦礫から瓦礫へと飛び移り、気絶したままに蓮を見事にキャッチ。
その後も続けて瓦礫をピョンピョン飛び移り、途中の鉄柱に着地してみせた。
「人工魔力……あれは人体に注入して良いのですか?」
ペネムエは小さな声で話したつもりだったが、人工魔力で、あらゆる器官が強化されたせいか、鈴に聞こえていた。
「容量を守れば、使用後の過労だけで済むわ。
こっちは、私が何とかしてみせる!!
あなたは、宮本翔矢を追って!!」
「でも……」
「行って!! 大切な人が戻って来なくてもいいの!?」
「……ここは任せました!!」
ペネムエは、マジックラウドで、鉄のドラゴンとなった翔矢を追う事にしたのだった。
***
鉄のドラゴンの飛行速度は、原付ほどの速さ。
ペネムエは、追いかけ始めてから3分程度で追い付くことができた。
幸いまだ街に被害は出ていなかった。
「空中戦であれば、人間に見つかる事も、被害も出ないでしょうか?」
だが、今は高いビルくらいの高さで飛んでいる。
田舎であれば人目を避けられる高さだが、東京では、見つかる可能性が高い。
「えいっ!!」
ペネムエはブリューナクから氷柱を生み出し、鉄のドラゴンの背中に当てた。
「えっと、えっと……
この重量級鈍足ドラゴン!!
お尻ペンペン!!」
鉄のドラゴンが言葉を理解しているのか、そもそも耳は聞こえているのか定かでない。
しかし、ペネムエは思いついた限り最上級の挑発をした。
そのまま、精いっぱい上空へ飛ぶ。
狙い通り鉄のドラゴンは、ペネムエを追ってきた。
「よし!! そのままついてきなさい!!」
後ろを確認しながら、夢中になり空高く飛ぶと、いつの間にか雲を突き破っていた。
「ふぅ、ここなら人に見つからないでしょう!!
翔矢様を……返してください!!」
ブリューナクから、先ほどよりも大きく多く氷柱を生み出し鉄のドラゴンに直撃させる。
しかし、その鉄の体に弾かれてしまった。
「防御力が厄介です……ならば直接!!」
今度は胸の真ん中を直接ブリューナクで突こうとする。
「なっ!!」
しかしペネムエは、あと数ミリで届くかという所で、攻撃の手を止めた。
鉄のドラゴンは胸の装甲だけを液体金属に変え、翔矢の顔を剥き出しにしたのだ。
「翔矢様を……返して!!」
ペネムエは右手を伸ばし翔矢を引っ張ろうとした。
だが鉄のドラゴンは自分の体から翔矢を引きずりだし、空中に投げ捨ててしまった。
「なっ……」
マジックラウドの全速力で落下中の翔矢に追いつき何とかキャッチする。
だが、その重さに耐えきれず、高度が徐々に下がっていく。
さらに、まだメタルの支配下にある翔矢は暴れまわっている。
ペネムエは、絶対に落とすまいと必死に取り押さえていた。
(この感じ……翔矢様の魂が弱り切っている……
このままでは本当に……)
自分の腕の中で暴れる翔矢に気を取られていると、視界に鉄のドラゴンが入った。
落下してしまっているのが幸いで、十分な距離を取れているが、すでにブレスを打つ体勢に入っている。
「メタルの本質は鉄の遠隔操作……
翔矢様を取り込んでいなくても、攻撃可能という訳ですか……」
ペネムエは翔矢が暴れるのも無視して、彼を覆い隠すように抱きしめ、更に氷のバリアを張り、ブレスに備える。
その数秒後、鉄粉のブレスがペネムエを襲った。
氷のバリアは、すぐに破壊されてしまい、背中には大量の鉄粉が刺さる。
ペネムエの背中からは血が流れ、白い服は真っ赤に染まってしまった。
「翔矢様……無事でよかった……」
そんな自分の怪我など気にする事無く、翔矢が無傷である事に安心をするペネムエ。
しかし、すぐそこには、自身の比重で急降下してきた鉄のドラゴンが迫っていた。
鉄のドラゴンは液体金属の触手を伸ばし、再び翔矢を取り込もうとする。
「やめろ!! やめろ!!」
ペネムエの必死の抵抗もむなしく、翔矢は再び鉄のドラゴンの体内へと引き戻されてしまった。
「くっ……
ここで怒り任せに行動してはダメ。
たった一つだけ……翔矢様を取り戻せる可能性がある……」
***
ペネムエは、A級天使昇格試験のさいの、十二神官オーディンとの修行を思い出していた。
「よいか、神器には、それぞれ“奥義”という技が存在する。
その名の通り、その武器を用いた、究極の技だ」
「それは……わたくしに扱えるのでしょうか!?」
「無理!!」
厳格なイメージの強かったオーディンの、お茶目な返事に、ペネムエは思わずズッコケてしまった。
「最終試験は、明日だからな。
コツや原理は伝授するが、根本的に魔力が足りん」
「ちなみに、どれくらいの魔力が必要になるのですか?」
「リールという天使を知っているか?」
「はい!! わたくしの親友です」
「完全な奥義となれば、その者と同等の魔力は必要だ」
「ちょっと待ってください。
魔力の量という意味なら、リール以上の魔力を持つ天使は存在しないはずです」
「うむ、よく気が付いた。
本来なら天使の魔力では“完全な奥義”は不可能。
なのでな……相手の魔力を倍にして跳ね返す裏ワザが存在するのだ」
***
「あの時のオーディン様の教えで、アイリーン……様との戦いで“奥義”は発動できた。
ですがブリューナクの神髄は、あらゆる事象の凍結。
翔矢様を蝕んでいる邪悪なモノを凍結する事も可能なはず。
失敗すれば翔矢様の肉体……いえ……もしかしたら人格ごと……
いや魔力は足りないので、恐らく大きな後遺症は無い。
今は完全な奥義にならないのが正解なはず……」
ペネムエが思考を巡らせている間に、鉄のドラゴンはブレスの体勢に入った。
「……ダメですね、考えてはいけない。
今のわたくしに出来るのは、これしかないのですから」
自分に向かってくるブレスにペネムエは集中しタイミングを伺う。
ほんの一瞬、自分とブリューナク、そして相手の魔力が重なる瞬間があるのだ。
「捕えた!! あとは……全力を出すだけです!!」
だが、魔力の交差点からはバチバチとエネルギーが放出されるだけで奥義は発動しない。
「くっ……ここがノーマジカルだから?
やっぱり……わたくしには……」
本の少しだけ不安な気持ちになった。
だが、魔力の中に翔矢のぬくもりを感じた。
まだ出会って数か月だが、沢山の思い出が頭にあふれて来る。
「そうです!! 人1人を……
一番大切な人を救えなくて……
何が天界最強の神器!!
何がA級天使!!
しっかり……しろーーー!!」
自分の思いを目いっぱい乗せたとき、それは発動した。
【奥義・銀世界ノオロチ】
白銀の八又のオロチが鉄のドラゴンへと襲い掛かる。
鉄の体は凍結されながら砕け散り、その装甲は剥がれ落ち、翔矢の姿が見えた。
「いっけーーー!!」
ペネムエの声に反応するように、勢いを増し、八又のオロチは翔矢の中へと入って行った。
だが、翔矢の体を凍結させる事はなかった。
やがて翔矢は、気を失い、ゆっくりと落下する。
ペネムエは優しく抱きしめるようにキャッチした。
「よかった……」
翔矢の体にメタルを使用したときの異様な重さは感じない。
それに彼のぬくもりも感じた。
自分の胸の中にいる翔矢は、確かに自分の大切な人だと確信できる。
ペネムエは、このまま、ゆっくりと地上に降りるのだった。
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