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157話:暴走から落下が始まりそうです

 リールがセブンスという幹部にやられたという報告を聞き衝撃を受けた翔矢とペネムエ。

 だがペネムエは親友の無事を信じる間も悲しむ間も怒る間もないほどに、翔矢から黒い何かを感じていた。


 これはペネムエが天使だから感じているのではない。

 翔矢の人柄を知らない信者たちですら、異様な空気に怯えていた。


 

 「これは……流石に余裕かましてられないわね」



 誰も状況を理解できずに、固まっている中、最初に動いたのはゼロだった。

 大き目の瓦礫を2つ持ち、翔矢に投げつけた。

 瓦礫は人が投げたとは思えない速度で、翔矢に向かっていく。



 「あなたは、この計画の邪魔よ!!」



 瓦礫はゼロの能力で爆発する前に、液体金属に飲みこまれてしまった。

 この液体金属は、周りの金属を変化させているのではない。

 翔矢の体から、血が流れるように、液体金属が染みだしている。



 「これは……ちょっと手におえないかもしれないわ」



 ゼロは、自分の攻撃が通用しないと判断し、信者たちを一カ所の隅に集めた。

 先ほどの戦いで気絶してしまっている信者も、他に信者たちに運ばれ、狭い範囲でギュウギュウ状態だ。



 「いま、ここで、信者たちの命を失わせる訳にはいかないわ。

 この範囲で動かなければ、私が守ってあげます」



 信者たちの最前線にゼロは立ち、翔矢を睨んだ。



 「翔矢様……じゃないですね? あなたは誰ですか?」


 「私はメタル、メタルの世界そのもの。

 天使様が、なんでこの世界の味方をしてるの?」



 メタルの世界を名乗る少女のような声が翔矢の体を借りて話している。



 「メタルの世界……

 いえ、それよりも、この世界の味方とは?

 あなたの目的は?」


 「分からない……分からないけど……

 この世界を壊さなきゃいけないのは、分かるんだ!!」



 翔矢の体から、洪水のように液体金属が溢れる。

 それと同時に、彼の体のまわりに金属が次々と集まって来た。

 同時にスカイタワーがグラリと大きく揺れる。



 「まさか……スカイタワーの金属も集めて……」


 「あらあら、どっちがテロリストだか。

 ペネムエって言ったかしら? 早くしないと建物が崩れるわよ?」



 ゼロは、信者たちを守れる体制になりながらも、他人事のように話している。



 「分かってますよ!! 翔矢様の体を返してください!!」


 「ダメだよ、この世界を壊すまでは」



 翔矢の周りに集まった液体金属は、彼の体を覆って、ドラゴンのような形に変化した。



 「グルルルル」



 先ほどまでの少女のような雰囲気も消えて、今度は獣としか思えない声でうなり始めた。



 「翔矢様……戦うしか……」



 ペネムエはブリューナクを握りしめ、戦う決意をした。

 だが、ペネムエが悩んでいる間に鈴は、すでに動いていた。



 「形はともかく、所詮は鉄!!

 私の攻撃に耐えられる!?」



 けん玉型の武器、クラッシュダマーをハンマーのように振るい、ドラゴンの腹に当てる。

 その部分はガラスが割れたように砕け散り、翔矢の姿が見えた。



 「ありがとうございます!!」



 ペネムエは、急いで翔矢をドラゴンの腹から引っ張り出した。



 「翔矢様!! 大丈夫ですか?」



 気絶してるように見えた翔矢の頬を何度か叩くと、彼は目を覚ました。



 「ウーーー!!」


 「キャ!!」



 だが、ドラゴンの装甲から引きはがしても、翔矢の人格は凶暴な獣のままだった。

 鉄のように鋭くなっている牙で、ペネムエの右手に思いっきり噛みついてきたのだ。

 腕が引きちぎられるような痛みに襲われたが、何とか距離を取った。



 「迂闊でした……ドラゴンの装甲を纏う前から人格は乗っ取られていた……

 物理的に引き離しても意味は無いですよね……」


 「なら直接、こいつを叩く!!」



 装甲を失った翔矢に、鈴は再びハンマーの一撃を食らわせようとする。



 「やめて!!」



 ペネムエは翔矢の体を、力いっぱい押した。

 彼の体は、今も鉄のように重たかったが、火事場の馬鹿力という奴なのか、翔矢はゴロゴロと転がって行った。


 その代わりに鈴のハンマーはペネムエの腹部を直撃。

 鉄をも砕くクラッシュの魔法を、ノーガードで受けたので、バキッという鈍い音と共にペネムエは血を吐きだした。

 それでも、何とか体制は崩さず保った。



 「邪魔をしないで!!」


 「翔矢様を……傷付けないでください……

 お願い……します……」


 

 出血を手で押さえながらペネムエは必死に訴える。



 「そいつは、ただ暴れまわるだけの獣。

 正直言って、転生教よりもタチが悪いわ」


 「あなたたちは……人間は救うのではなかったのですか?」


 「それが人間の姿?」



 鈴は翔矢の方を指差す。

 体が重いせいか、起き上がるのに、時間がかかっている。

 だが呻き声を上げ、野生の目で睨む姿は、確かに人の姿には思えない。


 

 「翔矢様は……優しい方です」


 「だったら尚更よ? このまま外に出て、人を襲い町を破壊する。

 その後で、正気に戻ったら? 優しい彼は、その罪に耐えられるの?」


 「それは……」


 「罪を犯す前に、彼を化け物として倒す。

 それが、私にしてあげられる事!!

 起き上がるまで、もう時間がない!!」



 鈴は、クラッシュダマーの玉を翔矢に目がけて飛ばした。



 「ダメ!!」



 ペネムエは、間に入り、玉を体で受け止める。

 体からは、また鈍い音が鳴ってしまった。


 

 「なんで邪魔するの!?

 また、ドラゴンの装甲を纏われたら、次はない!!

 今やらないと、一番辛い思いをするのは、宮本翔矢だって分からないの!?」



 鈴は、玉を操り続け、翔矢を狙う。

 彼女の声も、また震えていた。

 きっと、彼女も辛いのだとペネムエに伝わってきた。

 そんな鈴の攻撃を、全てペネムエはボロボロになりながら受け止めた。



 「はぁ……はぁ……

 ありがとう……ございます……

 あなたも……鈴様も翔矢様と同じくらい、優しい方です……」


 「何言って……」



 必死のペネムエの姿に、鈴は攻撃の手を止めてしまった。



 「人を守る優しさを持っている方は沢山います。

 いいえ……誰だって誰かを守りたいんです。

 だけど、守る為に……

 傷つけたくないのに、傷をつけられる方は、そういません。

 だからこそ、そんな鈴様に翔矢様を攻撃してほしくないです」


 「それ以上、言わないで……

 このままだと本当に後戻りできなくなる……」



 違う……今のはペネムエの本音。

 だが本当の言葉ではない。

 ペネムエの中で何かが砕けてしまった。



 「やめろって言ってるだろうが!!

 親友が……リールが、こんな奴らに、やられたんだよ!!

 絶対生きてる!! 生きてるって信じてる……

 だけど……」



 不安を口に出しながら、無理やり自分の気持ちを静めるペネムエ。

 しかし落ち着ける訳は無かった。

 それでも言葉使いだけは、必死にいつも通りに戻していく



 「お願いします、大切な人まで奪わないで下さい。

 家族まで奪わないで下さい。

 わたくしを……1人にしないで下さい……」



 気が付くと体は鈴に頭を下げていた。

 床は、堪えていたはずの涙で、濡れていた。


 この言葉が鈴に届いたか分からない。

 頭を上げる事も出来ず、聞こえるのは翔矢の呻き声だけ。

 少なくとも、今は攻撃していないようだ。


 

 「……それって、大切な人の為じゃなくて、自分の為の頼みになってない?」


 「だって……だって……

 どんな状態でも、どんな姿でも……

 生きていて欲しいんです!!

 確かに、これは我がままかもしれません。

 その代わり……わたくしは何があっても翔矢様の傍にいます!!」



 ペネムエは頭を下げたまま、ただ気持ちを伝え続けた。

 鈴が、こちらに向かって来る足音が聞こえる。



 「話してる間に、宮本翔矢は、またドラゴンの装甲着ちゃったじゃない」


 「え?」



 ようやく頭を上げて確認すると、鉄のドラゴンが唸りながら、こちらを睨んでいる。



 「さっきのは隙を付いただけだし、もう通じないだろうなぁ。

 この場に“都合よく”氷使いとかいれば、動き止めるくらいできるのかなぁ。

 強そうだし、あんなのと真っ向勝負は私じゃムリだなぁ」



 あまりにもワザとらしく、胡散臭い言い回し、あまりに鈴らしくない。

 だからこそ、ペネムエは、この状況でも嬉しくなった。



 「ありがとうございます!!」


 「お礼は、キチンと彼を助けてからでいい。

 ひとりぼっちが辛いのも、大切な人がいる気持ちも……

 私だってわかるから」



 鉄のドラゴンは、動きこそ鈍いが、重量感のある足音と共に、確実に近づいてきている。

 だが、まだ数メートルあるという所で、立ち止まり、大きく息を吸うような動きをした。



 「まさか……鈴様!! わたくしの後ろに!!」



 鈴は言われた通りに、ペネムエの後ろに身を隠した。

 次の瞬間、鉄のブレスが、2人を襲う。

 何とかブリューナクで氷の壁を生み出したが、硬度の差かバリアは砕け散り、鉄粉がペネムエの体に突き刺さる。



 「うっ……」


 「無茶しないで、恩を売りたかった訳じゃないわ……」



 鈴はペネムエに駆け寄ったが、すぐに2発目のブレスが発射されようとしていた。

 ここで動いたのは、ゼロだった。



 「やっぱり、どう考えても転生の儀の邪魔ね……

 仕切り直しにしようかしら?」



 ゼロは床に右手を触れた。

 すると自分や信者の周り以外がピカッと光りだした。



 「まさか……一カ所に集まってたのは」


 「展望台全部を爆弾に……」



 ペネムエも鈴もすぐにゼロの狙いに気が付いた。

 しかし、間に合う訳もなく、爆破により床は崩壊。

 鉄のドラゴンはバランスを崩しブレスは不発。

 気絶したままの蓮もろとも、4人はスカイタワーから落下してしまうのだった。


 ここまで読んで下さりありがとうございます。


 ストーリは一生懸命練って執筆しております。


 少しでも続きが気になったらブクマ登録して頂けると励みになります。


 下の星から評価も、面白いと感じたら、入れてくださると嬉しいです。

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