156話:報告から闇が始まりそうです
翔矢と鈴、それに大勢の信者が見守る中、ペネムエとゼロの戦いは始まった。
最初に仕掛けたのはペネムエだった。
「まずは、小手調べです」
【超高速】
10メートルほどの間合いを一瞬で移動したペネムエ、その速度のままブリューナクで連続突きを行う。
「……かすりもしないとは、アクセルの力を持つ翔矢様が捕えられないわけです」
「ふふふ、それにしては余裕ね?」
「あくまで、小手調べでしたからね。
しかし翔矢様の話では、あなたはやられても再生できるのでは?」
「そうだけど、痛いモノは痛いのよね。
それに、その魔法の武器が、どんな性能かわからないから、可能な限り回避するは」
「なるほど、手ごわいです」
ペネムエは、ブリューナクの冷気を最大まで放出した。
真夏でもエアコンで快適な温度だった展望台は、急激に冷え込みだす。
信者たちの中には、体を震わせるものもいた。
「驚いたわ……濡れてもないのに凍結させるほどの冷気なんて」
ゼロの体は、所々が凍り始めていた。
「相手が人間でなく、わたくしの大事な人に怪我を負わせた。
さらに、不特定多数の罪のない人々を巻き込んだテロ行為。
手心を加えない理由としては十分過ぎますからね。
不死身だとしても無事でいられるとは思わないでください!!」
床にドンと立てたブリューナクを軸にして、ペネムエは強烈な回し蹴りをゼロにお見舞いした。
凍結していたゼロの体は、ガラス細工を落としたように砕け散ってしまった。
「……マジか」
容赦しないと宣言はしていたが、基本的に穏やかなペネムエが、ここまで攻撃的なスタイルで戦っている事に驚いた翔矢。
だが、それ以上の驚きが起こる。
「これは……骨が折れそうですね」
凍結していたゼロの肉片は、そのまま再生し、凍結前のゼロの姿に戻った。
「流石に再生しても寒いわね」
「今のが再生能力……服はどうなっているのですか?」
「内緒よ、次は私の番!!」
ゼロはペネムエの服に軽く触れた。
「私の攻撃は、あなた達みたいに頑張って武器を振り回したり無駄に力を入れる必要は無いの。
これで、あなたの服は爆弾よ!?」
ゼロは指をパチンと鳴らした。
それと同時に、ブリューナクがゼロの頭を貫いた。
しかしペネムエの身には何も起こっていない。
この状況を、翔矢だけは理解する事が出来た。
「そうか……ぺネちゃんの服は魔力を纏ってる。
ぺネちゃんの、どこを触っても爆発させる事はできないんだ!!
あとは、再生の謎が解ければ勝てる!!」
その言葉の通り、ゼロはすでに再生を終えていた。
「え? 翔矢様!! わたくしのドコを触りたいのですか!?」
油断したのか欲望が勝ったのか、ペネムエはゼロに背を向け翔矢の方を目をキラキラさせて見ている。
「何に反応したの!? ぺネちゃん後ろ!!」
ゼロは、この間に服の袖から砂のような物をばら撒いた。
その一粒一粒が爆発を起こし、辺りは煙に包まれた。
「ぺネちゃん!!」
「あんたが、刺激するようなこと言うから!!」
戦闘中にペネムエの心を乱す発言をした翔矢に鈴はチョップをした。
「俺のせいか? 確かにぺネちゃんは変なとこに引っかかる事あるけど」
「誰だって好きな……え? まさか、君……マジか」
何かを察した鈴は呆れているが、翔矢はペネムエの無事が気になり、それどころではない。
「ふぅ……間一髪でした」
煙が晴れると、ペネムエが氷のバリアで爆発から身を守ったのが見えた。
バリアにはヒビが入っているが、ペネムエの方は無傷に見える。
「これは、戦いにくいわねぇ。
まぁ爆弾はいくらでも作れますけど!!」
ゼロは続けて砂や瓦礫を爆弾に変え、休む間もなく爆破攻撃を仕掛けてくる。
しかしペネムエも、負けじと氷の壁を展開し、それらを全て防いで見せた。
「戦いにくいのは、お互い様です。
わたくしも、ブリューナクがあれば、この程度の氷は無限に生み出せます。
何時間でも、お相手しますよ!!」
ペネムエの目つきは、翔矢には見せることの無い険しい物に変わっていた。
「そんなに長く相手をするつもりはないわ。
だけど、あなたも時間は無限ではないはずよ?」
ゼロは翔矢の方を指差した。
その動作だけで、ペネムエは思い出した。
翔矢……いや蓮と鈴、それに東京にいる多くの人々の命が後70時間ほどしかないと宣言されている事を。
「流星雨……と言いましたか?
あれは本物ですか?」
「えぇ、本物です。
私たちの目的は、醜い世界を浄化し、本来あるべき世界に転生する事。
転生というからには死ななければいけない。
でも、それって勇気がいるじゃない?
苦しむことなく、世界を浄化する猶予も得られる流星雨が最適だったのよ」
「異世界が、本来いるべき世界だと?」
「あなたは、本来魔法を使える種族。
今は武器の力で戦ってるだけよね?
それって、おかしくない?
体内に魔力はあるのに使えないなんて変でしょう?」
「あなた、どこまで知って……」
「そして、この世界の人間は、魔力を入れる大きな器を持っている。
だけど中身は空っぽ、異世界に行くだけで満タンになるのにねぇ?」
「なにが言いたいのですか?」
「これは推測だけど、この地球は“世界ではない”
人類は科学の発展で、無理やりここに住んでいるだけよ」
「……馬鹿げた仮説です」
「そうかしら? すべての世界にある魔力が、この世界にだけ無い。
これは、十分不可解な世界よ」
「……話はここまでです!!」
ペネムエは、攻撃を再開しブリューナクで連続の突きを行う。
ゼロは、そのすべてを紙一重で交わしている。
「分からないことが増えると考えるのを放棄。
あなた意外と頭が悪い?」
「黙ってください!!」
この世界で出来た思い出、大切な人。
全てペネムエにとっての宝物。
それをくれた、この世界が世界ですらないとは認めたくなかった。
ただ怒り任せ、しかし強烈な一撃がゼロをとらえた。
ブリューナクは腹を貫通し、ゼロとみるみる凍らせていく。
「ぐっ……抜けない」
「倒すことが不可能なら、全部凍らせて……
北風エネルギーの冷凍庫にでも置いておきます!!」
「可愛い見た目で怖い事言うのね。
好きな人に怖がられるわよ?」
「それは困るので……さっさと凍りなさい!!」
ブリューナクの出力を上げていき、展望台の窓などは凍り始めている。
それでもゼロは中々凍らない。
「あらゆる環境を想定して作ってなかったら、もう負けてたわね……」
ゼロの余裕は少しづつ、しかし確実になくなっていた。
ペネムエの勝利が時間の問題に思えたそのとき、エレベーターの扉が開いた。
翔矢と鈴は、何があってもいいように、それぞれ武器を構える。
「ゼロ様、遅くなって、真にごめんなさい」
入って来るなり、挨拶をしたのは、赤いラインの入った白い装束を着た人物。
声は女性で、体系は小柄に見えた。
他にも、定員いっぱいまでエレベーターに白い装束の集団が乗っていた。
先ほどのファーストとサードも赤いラインが入っていたので、恐らく、この少女が能力者であると翔矢は察した。
それを、鈴にもコッソリ耳打ちをして伝えた。
「あら、セカンド、到着した幹部は、あなただけ?」
「答えはノーです、シックスも一緒です」
エレベーターから、信者たちはゾロゾロと降りてくる。
その中で、細身だが背の高い人物を、セカンドは摘まみながら引っ張ってきた。
細身ではあるが、何となく男性だろうと翔矢は思った。
「ゼロ様、仕事の範囲が広く、時間がかかってしまいました」
「いいのよ、転生の儀には、まだ時間はあるから。
例の占い師から、能力はもらえたかしら?」
「それもノーです、フォースが追い詰めましたが、邪魔が入ったので……」
「信者に能力者が増えれば心強かったけど、仕方ないわね。
あと来てないのは……
フォース、ファイブ、セブンスの3人ね」
「フォースは、北風エネルギーの手伝いっぽいのと戦闘。
もう終わってると思うけど、到着は遅くなりそう。
ファイブは、見てないけど、たぶん能力でエッチな事してる。
でもスカート捲りしかできないハズレ能力なので……
セブンスは、まだ強いのがいるかもって、ウロウロ散策」
ゼロの質問にセカンドは淡々と答えた。
(健吾……召集したのに来ないと思ったら、もう戦ってたのね。
その相手が、こっちに向かってると思うってまさか……)
セカンドの話を聞いていた鈴は、フォースという人物が戦ったのは健吾だと分かった。
いつもはセクハラまがいの事をされて、腹立っているが、流石に安否が心配になる。
「セブンスは、やっぱり来る気はないのね……
まぁ異世界転生に興味ないって、彼は最初から言ってたし、仕方ないけど……
戦力としては、セカンドとシックスでは……この子たちの相手は厳しいかしら」
ゼロは戦闘を中断しながらも、自分を睨んでいるペネムエ、そして翔矢と鈴の順に目をやった。
「やっぱり、向こうにも強者はいたんですね。
ゼロ様1人おられれば、対抗できる者など、いないと思ってましたが……」
「この銀色の子が、相性悪くて戦いにくいのよ。
セブンスなら、戦闘の相性は悪くなかったと思ったけど……
外にも彼と戦える程の奴がいたの?」
「なんか、良くわからない赤い髪の女が、博物館にいました。
それで、そいつみたいな存在が、他にもいると思うって探しに出た」
セカンドの話に出てきた赤い髪の女がリールだと、翔矢とペネムエは分かった。
「ちょっと待って!! リール!! リールがその、セブンスという幹部と戦ったのですか!?」
ペネムエは、動揺しながら大きな声で尋ねた。
「リールって名前だとは知らなかったけど、答えはイエスね。
私はイエスかノー、もしくは数字で答えれる質問には正確に答えが出せる。
そういう能力よ」
「リールは……どうなりましたか?」
「セブンスが、胸に心臓ごと穴を開けたわ」
「……そんな、あのリールが……ウソ……」
ペネムエは怒りよりも涙が溢れそうになった。
目の前にいるゼロが、かすれて見えてきた。
今は戦闘中なのでこれ以上、視界が悪くなるのは危険だ。
ペネムエは必死に涙を堪える。
無理やり気持ちを落ち着かせようとしていると、何か邪悪なモノを感じた。
「何? 新手ですか?」
邪悪な気配に目をやると、そこにいたのは翔矢だった。
「え?」
翔矢で間違いはない、間違いはないはずだ。
しかしペネムエは、今まで感じていた悲しみが吹き飛ぶほどの恐怖を感じた。
「お前ら……許さねぇ」
【コネクト・メタル・ロスト】
翔矢の頭上には、魔法陣とともに鋼の鎧を身にまとう騎士たちのいる世界が浮かび上がる。
だが、騎士たちは得体の知らない何かと戦い次々と倒れていく。
その魔法陣はガラスのように砕け散り、翔矢の中に吸収されていく。
その姿を見たペネムエは、彼が自分の愛している人とは別の何であり、戦わなければならないと肌で感じたのだった。
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