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155話:隙から声が始まりそうです

 翔矢と蓮に100人近い信者が向かって来る。

 彼らは能力こそ持たないが、手には瓦礫を持っている。

 肉体が鋼鉄化している翔矢はともかく、蓮は一撃でも受ければ意識は飛んでしまうだろう。

 そうでなくとも、彼は今にも倒れそうなくらいボロボロだ。


 

 「能力を持たない奴らなど、俺の敵ではない!!」



 それでも蓮はソルの鞘で、信者たちの鳩尾や脇腹を狙い気絶させていく。


 

 「特撮ヒーローかよ……」


 

 翔矢は感心して戦闘に見入ってしまったが、安心したのもつかの間。

 信者の一人が背後から蓮の頭を瓦礫で殴ろうとするのが見えた。



 「させるか!!」



 金属の玉を操り、瓦礫を砕き、さらにその信者の脇腹に一撃を入れて気絶させた。



 「助かった」


 「礼はいい、でも、どう考えても、この人数相手は厳しいよなぁ……

 でも、今の俺は煉瓦で殴られても平気だし、なんとか全員を気絶させるまで……」



 ここまで話した所で、翔矢は背中に熱を感じた。

 振り向くと、後ろでは適当な紙などを燃やして火が炊かれていた。

 その様子を見て、ゼロはクスクスと笑う。



 「あなたの体は鉄と同じ、体に硬さはあっても熱はどうかしら?

 痛みを感じるのなら、神経は正常でしょう?」


 「くっ……」


 「その魔法を解除すれば、助かりますよ?」


 「いや……自由になったあんたを相手にして助かる自信はないな……」



 感じたことの無い暑さに耐えながら、翔矢は、この状態を維持する。



 「がはっ」



 しかし、暑さで朦朧として、鉄の玉での攻撃は精度を失っていた。

 その間に、蓮が、袋叩きにあってしまう。



 「こうなったら一瞬だけアクセルになって……」



 赤メリの青い魔法石に手をやろうとした翔矢。

 その時、頭の中に幼い女の子のような声響いた。



 『そんな奴……助ける必要ないよ。

 だって銀髪の天使様に酷い事した奴の仲間でしょ?』


 「でも今は!!」


 

 突然頭に響いた声を不思議に思う事は無く返事をした。

 するとペネムエに北風エネルギーで行われた実験が脳内で鮮明に再生された。

 何度も高圧の電流を流され、体も斬られた。

 傷は残らなかったし、本人にもう気にしている様子はない。

 それでも……



 「許せない!!」



 自分の中で負の感情が膨れ上がるのを感じた。

 ドス黒い何かが翔矢の心を支配していく。


 

 『それでいいよ、お兄ちゃん。

 こんなに厳しい戦いなんだもん。

 誰もお兄ちゃんを疑わないよ?

 こいつを殺しちゃおうよ!!』



 声はどんどんハッキリと聞こえるようになる。

 周りの反応を見ると、自分にしか聞こえていないのだと翔矢は察した。

 

 蓮は確かに強いが、今ならトドメを刺せる。

 そう思うと行動せずにはいられなかった。


 鉄の玉を細い針に変化させ、ゆっくりと蓮の心臓を狙う。

 遠隔操作なうえに、この細さと騒ぎの中ならば、気が付かずにヤレる。

 

 少し……あと少し、慎重に接近させ、あと数ミリまで接近させた時だった。



 「翔矢様!! ご無事ですか!?」

 

 「ちょっと!! 死ぬ!! 死ぬ!!

 流星雨とか関係なく、今、この場で死ぬ!!」



 空を飛ぶ雲“マジックラウド”に乗ったペネムエがとてつもない速度で非常階段から出てきた。

 その風圧で、翔矢に炊かれていた火は消えてしまった。

 鈴も一緒に乗せてきたようだが、マジックラウドの最高速度は車と同じくらい。

 身を守る物が無く、ただ雲の上に乗っている状態で、グルグルと回る非常階段のルートを通って来たのだから普通の人間である鈴には流石に恐怖だったようだ。


 この迫力に蓮を袋叩きにしていた信者は、一斉に下がってしまう。



 「ペネ……ちゃん!?」



 少し騒がしい彼女の声を聞くと翔矢の中から黒い物がなくなり正気に戻る。

 先ほどの子供の声も聞こえなくなり、誰かと話していた事すら翔矢は忘れてしまっていた。



 「これは……どういう状況ですか!?」



 翔矢の無事な姿を見て安心したペネムエが、頭を冷やして状況を確認すると、敵のボスは首から下が鉄で固められ、信者の何人かは気絶。

 特に大柄な男は股間を押さえたまま気絶している。

 どういう戦いで、こんな状況なのかペネムエは推測すらできなかった。



 「えっと、能力一個で爆弾なのに、再生で攻撃ヒョイヒョイ。

 カプセルないない。」



 ゼロとの戦いを説明しようとした翔矢だが、この数十分で色々ありすぎて、上手く説明できないでいた。



 「はぁ……はぁ……落ち着いて話しなさいよ。

 ただでさえ意味不明な状況なのに、余計混乱してきたわ」


 「なるほど、ゼロという者は爆破系の能力者。

 しかし、それ以外に不可解な点が多いと」


 「え? 今ので分かったの?」


 

 ここで、ようやくマジックラウドによる高速移動の恐怖から解放された鈴が口を開いた。

 だが、ペネムエは彼女を気にしている様子は無く、それどころか翔矢の話を完璧に理解したようだった。

 呆れてしまった鈴だったが、ここで彼女にとって信じられない光景が目に入った。



 「蓮!! 蓮!! どうしたの!?

 蓮がこんな怪我するなんて……あいつら、どんな卑怯な手を……」



 強さにおいては圧倒的に信頼していた蓮が、火傷を負い倒れこんでいた。

 特に胸部の火傷は、彼に意識がある事を疑ってしまうレベルだった。



 「この傷は……これを火傷にかけて下さい。

 今までに感じたことの無い程、染みると思いますが、そのまま命を落とす訳にはいかないでしょう?」



 ペネムエは鈴に青い小瓶を投げた。

 鈴は両手でキャッチする。



 「これは?」


 「いわゆるポーションです。

 魔法によるダメージであれば、数時間で回復させる事が出来ます。

 臓器に欠損があった場合は、この世界の医術に頼るほかないですが」


 「……私たちは、あなたの命を狙ってるの忘れてる?」


 「彼の命が、どうなっても良いのなら、そのまま放置してください」


 「お礼は、言わないから」


 「構いません、わたくしが勝手に渡したので」



 鈴が蓮の上半身にポーションをかけると、蓮は大声を上げた。

 しかし数秒で気を失い、その声は止まった。



 「蓮!!」


 「そのまま休ませてあげてください。

 あの状況で、意識を保つ精神力、人間とは思えません。

 そのせいで、苦しみが長かったようですが……」



 蓮の悲鳴が消えた所で、この様子を静観していたゼロが口を開いた。

 未だに翔矢のメタルで拘束されたままだが、その表情には余裕が見える。



 「そこの銀髪の子、人間じゃないわね?」


 「それは、お互い様ではないでしょうか?」



 ペネムエとゼロは、ジッと目を合わせた。



 「人間じゃない? って悪い天使? 悪魔?

 それともスライム的な奴?」


 「それは、わたくしにも分かりません。

 この世界以外の生物には、全て魔力が感じられます。

 しかし、この者から感じられる魔力は、見るに爆発の能力のみです」



 「だったら、この世界の人間って事にならない?」


 「いえ……天使は人間を守る種族です。

 ゆえに、その対象である人間は本能的に分かるのです。

 ですが……彼女から人間の気配は感じられません」


 「それって、どういう事?」


 「彼女は、異世界人や魔物ではない。

 しかし、この世界の人間でもないという事になります。

 わたくしにも、正体は見当も付きません」


 「ぺネちゃん……どうするの?」


 「人間でないのなら、わたくしは全力で戦います!!

 翔矢様、彼女の拘束を解いて休んでいてください。

 その能力は体が重くて大変なのでしょう?」


 「分かった、じゃあメタルは解除する。

 あいつ、かなり強いよ? 気を付けて」


 「お任せください!!」



 翔矢は蓮と鈴の方で待機する事にした。



 「おっさん!! 大丈夫か!?」


 「寝てるんだから、静かにしてよ」


 「わっ悪い」



 鈴に怒られ、シュンとしてしまった翔矢、しかし蓮の傷は目に見えて直り始めていたので少し安心した。



 「蓮を見てて、私も戦わないと」


 「ちょっと待って!! 鈴さんの武器って、すごい勢いで破壊するけん玉でしょ?」


 「そうだけど」


 「だったら、あいつとは相性が悪いよ。

 おっさんが、すごい勢いで斬っても再生したんだ」


 「蓮はそれでやられたのね……」


 

 鈴は、悔しさから拳を強く握っていた。



 「敵を討ちたいかもだけど、ここはペネちゃんに任せよう?」


 「……分かった」



 この場で待機する事を決めた鈴。

 その後ろには何人かの信者が迫っていた。

 話に集中していた翔矢も気が付く様子は無い。



 「あの銀髪の子は、可愛くても、異様な雰囲気で手は出せないが」


 「こっちの、お嬢ちゃんはどうかな?」



 仮面を付けていても、いやらしい事を考えているのが分かる声。

 それは鈴の耳にも入りすぐに振り向いた。



 ドゴーーーン



 とてつもない音が、スカイタワー中に響き渡る。

 子供であれば、スカイタワーが折れないかと不安で泣いてしまうかもしれないレベルだ。



 「元気なのに待機なのも気が引けるから、これでも戦いたい人がいたら、かかってきなさい?」



 鈴の手には巨大化させたけん玉型の武器“クラッシュ・ダマー”が握られている。

 さらに、その横には、巨大なクレーターが発生した。



 「穴空いたらどうすんだよ……

 落ちたら死ぬよ?」


 「スカイタワーは、丈夫だから平気。

 ……たぶん」



 翔矢ですら血の気の引く光景に、能力を持たない信者が、彼女に手を出す事は無かった。



 「さて……静かになったので、始めましょうか?」


 「異世界の存在……そのお手並み拝見させて頂くわ」



 この場の全員がペネムエとゼロの戦闘を見守る事となった。

 ここまで読んで下さりありがとうございます。


 ストーリは一生懸命練って執筆しております。


 少しでも続きが気になったらブクマ登録して頂けると励みになります。


 下の星から評価も、面白いと感じたら、入れてくださると嬉しいです。

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