152話:心配から共闘が始まりそうです
「あぁ……エレベーターホールが見えたので嫌な予感はしていましたが」
「やっぱり乗っちゃったわね……」
ペネムエと鈴は、翔矢と蓮が乗ったエレベーターの前で、立ち尽くしていた。
すると、鈴のスマホから着信音が鳴った。
「蓮からだ」
鈴が通話を押した瞬間に、ペネムエにも聞こえる大きな音で蓮の声が聞こえた。
『おい!! 鈴!! 何でエレベーターに乗らなかった!?』
「なんでって、もう転生教はスカイタワーを占拠したって宣言したのよ?
止められたら、どうしようもないエレベーターは、普通は使わないわ」
『なるほど……そういう考え方もあるのか。
おい、宮本翔矢、どうする?』
『別に、次の階で止まれば良くないですか?
あれ? なんで2階とか3階が無くて展望台に直行なの?』
スピーカーがオンになっているのか、翔矢の声もハッキリと聞こえてきた。
「君、こういう建物は初めてなの?
展望台に行くようなエレベーターは、普通は途中で止まらないわ」
『そんな急行の列車みたいなシステムなのか!? さすが東京!!』
焦る訳でも反省する訳でもない翔矢に、ペネムエと鈴は呆れてしまった。
『乗ってしまったものは、仕方がない。
俺達はこのまま展望台に向かう。
止められてしまった場合は……すまない』
「了解、私は銀髪と非常階段で向かうわ。
結構、時間かかるけど、閉じ込められる心配はないわ」
『なんか、そっちで決められるの納得いか……』
最後の翔矢の声は無視して鈴は電話を切った。
「別行動で大丈夫でしょうか?」
「今の通り、蓮は抜けているところはある。
だけど戦闘の腕は確かよ、任せて問題はないわ」
ペネムエは蓮の戦闘を思い出した。
性格的な部分が圧倒的に足を引っ張っていたが、それでも彼はデタラメに強い。
転生教にどんな能力を持った相手がいるか分からないが、大抵の相手には対応できそうだ。
「宮本翔矢が、どれだけ足を引っ張っても、それがちょうどいいハンデになるくらい漣は強い」
「はっ!? それは聞き捨てなりません!!
確かに翔矢様は優しさが災いして不利な状況を招いてしまう事が多いです。
しかし、それを差し引いても、絶対に強いです!!
足を引っ張るなどあり得ません!! 今の言葉を取り消してください!!」
翔矢の事を悪く言われるのは、ペネムエは何よりも許せない。
戦闘の時以上の剣幕で鈴に詰め寄る。
だが鈴は動じていなかった。
「だったら2人に任せて大丈夫じゃない?」
「……そういう意味でしたか。
取り乱して申し訳ありません」
「でもエレベーターが止められたら積み。
私たちも急ぎましょう、これから634mも上らないといけない」
「階段だと、戦う前にクタクタになりそうですね……」
「……止められるリスク込みでもエレベーターが正解だった?」
「良い物があります、が、人がいない所まで行かなくては目立ちます」
「この状況なら上に行くほど人は少ないはずよ。
とりあえず非常階段でで登れるところまでは上りましょう」
「了解しました!!」
ペネムエと鈴は、非常階段のある方へと急いで向かった。
***
蓮が電話を切った後、エレベーターの中では2人が揉めていた。
展望台が占拠されているせいか、他には誰も乗っていない。
「おい、おっさん!!
何で2人が乗るの確認しないでドアを閉めちゃったんだよ!!」
「鈴にはさん付けで、俺はおっさん呼びか……
迂闊な行動は反省しているが、二手に分かれたのは悪い状況ではない。
たしかにエレベーターは止められたら終わり。
だが非常階段は時間がかかりすぎる、到着する前に転生教が事を起こすかもしれん」
「なるほどな、スカイタワーを占拠した目的って、電波ジャックで、さっきの放送を流す事じゃなかったのか?」
「さぁな、今の所、奴らも展望台から動いてないらしい。
また電波ジャックで何か流すのか、他に目的があるのか……
聞いてみないと分からん」
「教えてくれるかな? ってかエレベーター全然到着しないな……
もう止められたりしてる?」
「窓の外を見ろ」
正面を向いたまま後ろを指差す蓮。
言われるままに翔矢は振り向くと、辺りのビルが低くい見えるほどの高さに来ていた。
「おぉ!! すでに絶景!!」
「3階までしかないような田舎のショッピングモールと一緒にするな。
634mも上るんだから、それなりの時間は必要だ」
「田舎のショッピングモール馬鹿にするな!!」
そう訴えながらも、翔矢はスマホで何枚も写真を撮っていた。
「あとでリールに送ってやるか。
そういえば、あいつもこの騒ぎ教えた方が良いのかな?
いや、さすがに気が付いてるか?」
「リール? 赤い髪の奴だったか。
あいつも東京に来ているのか?」
「おう、写真送るついでに連絡しておくか……」
「いや……もう少しで展望台だ、準備しておけ」
「仕方ねぇか」
あと少しの操作で、リールに写真だけは送れたが中断して、赤メリを右手に構えた。
「戦う気が満々のようだが、転生教のリーダーは女だったろ?
鈴にまともに攻撃が出来なかったお前が戦えるのか?」
「気は進まないけど、相手のやってることはテロと同じだろ?
俺だって状況くらいはわきまえるよ」
ここでエレベーターは止まり、ドアが開く。
そこには、白い装束に不気味な仮面の信者が多数。
そして、つい数分前まで演説していたゼロの姿があった。
ゼロの年齢は30代後半か40代前半にも見える。
しかし間近で見る彼女は、まだ高校生の翔矢が一瞬だけ見惚れてしまうほど美しかった。
「いらっしゃい、私たちが目的を果たそうと動けば、この世界で唯一魔力を研究している組織。
あなたたち北風エネルギーが動くことは予想していたわ。
……と思ったけど、明らかに学生さんがいるわね?
あなたも北風エネルギーの社員さん?」
社会人には見えない翔矢に興味を持ったゼロは、おっとりとした口調で翔矢に質問した。
「違う!! 初めての東京観光でウキウキだったのに邪魔されて文句言いに来た高校生だ!!」
その答えを聞いたゼロは、我が子の悪ふざけを笑う母親のようにクスクスと笑った。
だが、すぐに真顔に戻る。
「失礼、それは悪い事をしたわね。
ですが見たところ、あなたも選ばれたようですね」
ゼロは翔矢の手に浮かぶ黄色い斑点に注目していた。
「妙な雨を室内にまで振らせといて何が選ばれただ!!」
「どうやら大人しく異世界に行く気はないようですね」
「異世界行きの切符は、とっくに断ってるんだよ」
翔矢は鋭い目つきでゼロを睨む。
「転生の儀が完了するまで時間があるから暇を持てあますと思ったけれど……
いらない心配だったようですね」
ゼロも翔矢から何かを感じたのか、険しい表情へと変わった。
「宮本翔矢、油断するな、羅針盤の反応が大きい。
恐らく相当強力な能力を持っている。
そして能力者が、この中に何人いるかまでは絞り込めない」
「なんか強そうなのは、最初から分かってるよ!!
おっさんこそ、足引っ張るなよ!?」
「頼もしいじゃないか」
会話をしながら2人は臨戦態勢に入っていた。
【コネクト・ファイター】
【リアライズ】
翔矢の体を赤いオーラが包み込み、蓮はネクタイピンを日本刀型の武器ソルへと変化させた。
数時間前まで戦い合った2人が、巨大な野望を前に共闘する。
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