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151話:演説からタイムリミットが始まりそうです()

 翔矢とペネムエは北風エネルギーの蓮・鈴と一時的に手を結んだ。

 今は、展望台へ上るため、エレベーターホールへと向かっている。


 

 「先ほどの黄色い雨は止んだようですね」



 速足で歩きながら、ペネムエは大きな窓から外の様子を確認して伝えた。



 「あれ、マジで何だったんだろうな」


 「ドクターがいれば分析できたんだけど……」


 「先に会社に戻ってしまったからな。

 東京全域に振ったなら、黙っていても分析しそうだが……」



 翔矢とペネムエは、ドクターがどんな人物なのか、まだ詳しくは把握していない。

 だが、彼がハイテンションで分析する姿は何となく想像が出来た。



 「東京全域って、その辺の店の中とかでも振ったのかな?」



 窓の外から、たまたま見えた商業ビルを指さし翔矢はフと疑問を口にした。



 「たぶん室内で振ったのは、スカイタワーだけ。

 こんな怪現象が、全部で起こってたら、ネットは大騒ぎよ」


 「えっと、鈴さんだっけ?

 よくスマホを注視しながら走れるね」


 「私、結構な依存症だから……

 あと何で“さん”付け?」


 「えっと、さっきは敵だったけど今は味方だからなぁ。

 ほぼ初対面なのに呼び捨てはアレかなって……」


 「元ヤンだと、そういうの気にするのね。

 まぁ好きに呼んでくれていいけど」


 「……何で俺が元ヤンって知ってるの?」


 「聞いたから」


 「誰に?」



 ここまで話したところで、館内放送の『ピンポンパンポーン』というチャイムが鳴った。



 『館内は只今、原因不明の水漏れが発生しております。

 お客様には、大変なごめい……』



 なんだか放送の音質が悪く、この後は、ほとんど聞き取れなかった。



 「機材の故障でしょうか?」



 ペネムエが足を止めたのに釣られて、全員が何となく上を見上げて立ち止まった。



 「精密機器に雨がかかったからね」


 「客の避難が必要になったらマズいな」



 今、館内に残っている客は、濡れた服を絞って乾かそうとしたり、タオルで体を拭いたりしている。

 恐らく、酷い水漏れに巻き込まれた程度にしか考えていないのだろう。

 しかし、上にいる集団の目的も、この黄色い雨の正体も不明のままだ。

 相手の出方次第で、客の避難が必要になる事を漣は懸念していた。

 その嫌な予感は的中することになる。

 

 館内のモニターが急に切り替わり、30代後半くらいの美しい女性が映った。



 『皆さん初めまして、私はゼロ。

 あっ、もちろん偽名ですよ。

 転生教という宗教の教祖をさせてもらっているわ』



 そんな挨拶で始まった演説を、翔矢達を含めた、スカイタワーにいる全員が聞き入ってしまった。

 彼女の声には、引き寄せられる何かがあった。



 『ちょっと聞いてもらいたい話があったから、スカイタワーは占拠させてもらったわ。

 いま展望台には、転生教の信者しかいないの。

 宗教の信者って言うと、神様とかを信仰してるイメージたと思うわ。

 でも私たちが信仰してるのは神様ではなく“異世界転生の存在”』



 そこまで聞いたところでペネムエは嫌な予感がした。

 この場の誰よりも顔が青ざめる。



 『ライトノベルとか好きな人なら、すぐ理解したわよね?

 知らない人は……まぁファンタジーの世界が実在して、そこに超最強の状態で行けると思って頂だい。

 そんなの、作り話って思った? いいえ異世界は実在します!!』



 ゼロは、1冊の論文を取り出し、掲げた。



 『これは今から40年前“大道龍一”という学者の書いた論文です。

 魔法と異世界の存在がハッキリと証明されています。

 不運な事に、この年はファンタジー世界が舞台のゲームが大ヒットした年。

 大道龍一は、ゲームと現実の見分けが付かなくなった頭の狂った人という扱いを受けました。

 なので、この論文の存在は広まらなかったようですね』



 「そんな昔に、異世界の存在を証明した人間がいたなんて……」


 「ドクターの父親だ、我々が異世界の存在を知るキッカケになった1つだ。

 あの論文は、あまりに詳細で、危険と判断して全て破棄したはずだったが……」


 「まぁ、難しくてドクター以外は理解できなかったけど……」



 小声で、そんな話をしている間も、ゼロの演説は続く。



 『異世界に行けば、我々は強大な魔力を得る事ができます。

 1人1人が、この東京を支えるレベルのエネルギーは持てる計算です。

 それなのに、なぜ我々は、苦労して、こんな世界で生きているのでしょうか?

 答えは簡単、地球は人間のいるべき世界では無いからです!!

 我々と共に、あるべき世界、異世界へと旅立とうではありませんか!?』


 

 ここで一旦、ゼロの演説は終わった。



 「翔矢様!! どうしましょう!!

 異世界の存在が、世間に知られてしまいました!!」



 ペネムエは、アワアワとパニック状態になり、意味もなくその辺をウロウロしている。



 「いや……たぶん大丈夫じゃない?」


 「え?」


 「正直、俺ですら、まだ異世界が存在するってピンと来てないもん」


 「そっそうだったんですか?」


 「もちろん、頭の中では分かってるけど、実感みたいなのはないかなぁ」


 

 翔矢の言葉を信じたペネムエはホッとして肩の力が抜けた。

 そこに、蓮も付け加える。 



 「論文の表紙だけ見せられて信じるほど、人間は馬鹿じゃない。

 仮に存在を証明した所で、行く手段は無いだろう」


 「確かに、魔法をもってしても異世界転生の手段は限られます」


 「まぁ、上にいる奴らを倒して解決なのは間違いない」



 4人は再び、展望台に向かおうとした。

 だが、そのタイミングを見計らったようにゼロの演説が再開された。



 『あぁ、言い忘れてたけど、さっき黄色い雨が降ったじゃない?

 あれは“流星雨”っていう某国の科学兵器よ。

 拝借して使わせてもらったわ。

 少しでも濡れると、体に黄色い斑点が浮かんで72時間ピッタリで死に至るわ。

 その死を持って、異世界転生が始まる、恐れる事はありません。

 その斑点こそ、選ばれし者の証です!!

 異世界の存在を信じない人の為に、その間のパフォーマンスも用意してあるから楽しんでね。

 それでは、次に会う時は異世界かな?』



 ここでモニターは、いつもの観光案内に切り替わった。



 「翔矢様!!」


 「うわ!!」



 再びパニックになったペネムエは目にも止まらぬ早業で翔矢を上半身裸にした。

 確かに翔矢の体の、あちこちには黄色い斑点が浮かんでいた。



 「蓮……」


 「俺たちもか……」



 鈴と漣は自分のスーツの袖をめくっていた。

 そこには、同じく黄色い斑点が浮かんでいる、



 「人間にしか効かないのでしょうか?

 わたくしには浮かんでないようです」



 ペネムエは自分の足などをサラッと確認したが、斑点は見られなかった。



 「いや、絶対に俺を脱がす必要なかったよね?」


 「すいません本能で……

 じゃなくてパニックで……

 あの、流星雨って本当ですか?」

 

 「なんか去年あたりニュースで聞いたような気がするけど分かります?」



 何となく言葉に聞き覚えがあったが、翔矢はそれ以上は思い出せなかった。

 ペネムエも、この世界にやってくる前のニュースだ。

 しかし、ここには社会人が2人もいるので、頼りにしてみた。



 「初めて聞いた」


 「私も」


 「え? 割とデッカく取り上げられてた気がしたんすけど……」


 「俺はニュースは見ない!!

 偏向報道にあふれてるからな」


 「私も、仕事以外は寝てるから……」


 「極端だな……」


 「でっでも、実在する化学兵器という事は……」



 ペネムエの表情は、この場にいる誰よりも焦りが見え今にも泣き崩れそうだ。


 「まだ本物か分かんないよ。

 72時間とかはニュースでも言ってた気がするし、時間もある。

 今は、やっぱり転生教ってのを捕まえるか、倒すしかないよ。」



 翔矢は、ペネムエを少しでも安心させようと、ポンと肩を叩いた。



 「翔矢様……ご自分が危ないかもしれないのに冷静ですね」


 「俺だけじゃなくて、みんな色々起こり過ぎて実感が無いんだよ。

 斑点は出てても体調は変わりないし」


 「転生教も、この辺には見当たらないし、他に危害も無いしな。

 だが、パニックや混乱は時間の問題だ、急ぐぞ!!」


 「なんか、仕切られるのだけ納得行かないんだよな……」



 翔矢と漣は展望台に向かうエレベーターに乗り込んだ。



 『ドアが閉まります』



 2人を乗せた、エレベーターはドアが閉まり上へと向かった。



 「え?」


 「は?」



 エレベーター内で翔矢と漣が目を合わせる。



 「ペネちゃんは?」

 「鈴は?」



 「「なんで乗らなかったんだーーー!?」」



 2人の叫びはピッタリと息が合っていたが、これは他の誰にも聞こえない。



 “流星雨のリミットまで残り71時間58分”

 ここまで読んで下さりありがとうございます。


 ストーリは一生懸命練って執筆しております。


 少しでも続きが気になったらブクマ登録して頂けると励みになります。


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